138 / 327
第7話「文化祭(1日目)」
捌:暗躍
しおりを挟む
「ズゾゾ……」
不知火は透明なパックに入った焼きそばを割り箸で持ち上げ、すすった。視線の先には、節木高校七不思議体験の出口で途方に暮れている蒼劔達がいる。
彼は鬼達を眺めながら焼きそばを口へ運び、何やら考え込んでいた。
やがて焼きそばを食べ終わると、考えがまとまったらしく、割り箸とタッパーを近くのゴミ箱へ捨てて、重くため息を吐いた。
「……仕方ないか」
そう呟くと不知火はおもむろに手を正面に伸ばした。ちょうど、理科室のブースがあるあたりの壁に向けていた。
すると、理科室のブースに設置された棚に仕舞ってあった本と本の隙間から、1枚の形代が外へ出てきた。形代はヒラヒラと宙を舞いながら、床へと落下する。
形代は床へ着地すると、人間の姿へと形を変えた。手足が伸び、白い紙が肌色の皮膚へと変じ、髪が生え、目鼻口が出来て顔になる。
やがて形代は学ランを着た陽斗の姿へと変わった。
「……、……。……」
陽斗の姿に変わった形代は自分の姿を確認した後、理科室を出て、音楽室のブースへと走っていった。音楽室には先程まではなかった黒猫の絵が描かれた札が、部屋に入って正面にある壁の左右に1枚ずつ貼られていた。
形代は札へと駆け寄ると手早く剥がした。札は剥がした途端に、一瞬で真っ黒な燃えかすとなり、彼の手から消えた。
同時に、教室に張られていた結界の効果も薄くなる。しかし完全に消えるまでには至らなかった。
「♪」
陽斗の形代は札を処理すると、嬉しそうに目を輝かせ、今度は出口がある部屋へと走っていった。
『あ、札が剥がれたっぽい』
札が剥がれたことは、偵察していた五代にも伝わっていた。
「何?!」
「どういうことだ?!」
「どなたかいらっしゃるのですか?!」
出口で待機していた鬼達は驚き、朱羅のスマホに詰め寄る。
『陽斗氏が札を剥がしてるみたい。今、3枚目の札を剥がしたよ。でも、あれホントに陽斗氏? なんか妙に大人しいけど』
「大人しい?」
「いつもギャーギャーうるせェ、あのクソガキが?」
『うん。さっきから一言も喋ってないんだよねー。何考えてるのかも分かんないし』
「何か変なものでも食べられたのでしょうか?」
その間にも形代は飯沼が姿見へ入る直前に出口近くの壁に貼った最後の札へと歩み寄り、躊躇なく剥がす。
「♪! ♪!」
全ての札が剥がされたことにより、結界は完全に消滅し、陽斗の形代は満足そうに飛び跳ねた。
「陽斗! 無事か?!」
出口の前にいた蒼劔達も結界が消滅したことに気づき、ドアを開いて中へと入ってくる。
飛び跳ねていた陽斗の形代は彼らを見て、不思議そうに首を傾げた。
「?」
「陽斗……?」
蒼劔も陽斗の形代を見て、立ち止まる。
外見は陽斗と瓜二つだったが、その気配は別物だった。黒縄も形代の気配を察し、眉をひそめた。
「お前、クソガキじゃねェな。何モンだ?」
直後、陽斗の形代が背後から姿見に食われた。
「……!」
「陽斗!」
陽斗の形代は驚いて目を見開いたまま、姿見の中へと吸い込まれていく。
蒼劔も陽斗ではないと分かっていながらも、彼を追いかけて姿見の中へと身を投じた。
「蒼劔!」
「蒼劔殿!」
黒縄と朱羅も蒼劔の後を追おうと、駆け寄る。
しかし彼らが中へ入る前に、姿見は床をすり抜け、階下へと落ちていった。
「くそっ、待ちやがれ!」
「あの姿見、妖怪だったのですか?!」
黒縄と朱羅も床をすり抜け、下の教室へ移る。映画研究部が自主製作映画を上映していたが、客はまばらだった。
姿見は紫色の細長い足を生やし、壁へと突進していく。そのまま壁をすり抜け、校舎から逃走するつもりなのだろう。
「逃すかよ!」
黒縄は袖から鎖を放ち、姿見を捕らえようとする。
しかし寸前で朱羅が「お待ち下さい!」と金棒で鎖を防いだ。
「あの中には蒼劔殿がいらっしゃるのですよ?! もし鏡を割ってしまったら、出られなくなってしまいます!」
「あ゛?! このまま逃すよか、マシだろ?!」
「ダーメーでーす!」
朱羅は黒縄が姿見に向かって鎖を放つたびに、鎖を金棒で叩き壊す。
その間に姿見は壁の前まで迫っていたが、壁に触れた瞬間に弾き飛ばされた。
「?!」
姿見は驚いた様子で壁を見つめる。
壁にはいつの間にか黄緑色の光の筋が格子状に張り巡らされており、何度姿見が体当たりしても、すり抜けなくなっていた。
モメていた黒縄と朱羅も壁の様子に気づき、目を見張る。
「アレは……霊力を直接流し込んで、壁を強化してやがるのか?! 一体どこのどいつが、あんな高度な術を……?!」
「それより黒縄様、今のうちに姿見を!」
「チッ、分かってるっつーの!」
黒縄は姿見を囲うように鎖を放ち、繭を形成する。
姿見が異変に気づいた頃には、鎖の繭の中から出られなくなっていた。
「とりあえず、こっから逃げらんねーようにはした。あとは蒼劔任せだな。さっきのクソガキが偽物だとすると、アイツも姿見の中かもな」
「で、では私も加勢を……!」
「アホか。テメェが行ったところで、蒼劔の邪魔にしかなんねェよ」
黒縄は鎖の繭を睨んだまま、朱羅のわき腹を小突く。「ドスッ」と、見た目の軽さからは考えられない音がした。
朱羅はわずかに顔をしかめ、わき腹を押さえた。
「いたた……不甲斐なくて、申し訳ございません」
「気にすンな。それより、五代にこの壁の霊力の持ち主を探させろ」
「承知致しました」
・
その頃、不知火は出口の部屋の壁に札を貼っていた。黒い札で、光の筋と同じ、黄緑色の格子が描かれていた。
黄緑色の光の筋は札を起点に、校舎中の壁へ格子状に張り巡らされ、輝いていた。一般人には見えないらしく、誰も校舎の壁の変化に気づいていなかった。
「ふぁ……眠」
不知火は大きく欠伸をすると、部屋を出て、出口のドアを閉めた。
不知火は透明なパックに入った焼きそばを割り箸で持ち上げ、すすった。視線の先には、節木高校七不思議体験の出口で途方に暮れている蒼劔達がいる。
彼は鬼達を眺めながら焼きそばを口へ運び、何やら考え込んでいた。
やがて焼きそばを食べ終わると、考えがまとまったらしく、割り箸とタッパーを近くのゴミ箱へ捨てて、重くため息を吐いた。
「……仕方ないか」
そう呟くと不知火はおもむろに手を正面に伸ばした。ちょうど、理科室のブースがあるあたりの壁に向けていた。
すると、理科室のブースに設置された棚に仕舞ってあった本と本の隙間から、1枚の形代が外へ出てきた。形代はヒラヒラと宙を舞いながら、床へと落下する。
形代は床へ着地すると、人間の姿へと形を変えた。手足が伸び、白い紙が肌色の皮膚へと変じ、髪が生え、目鼻口が出来て顔になる。
やがて形代は学ランを着た陽斗の姿へと変わった。
「……、……。……」
陽斗の姿に変わった形代は自分の姿を確認した後、理科室を出て、音楽室のブースへと走っていった。音楽室には先程まではなかった黒猫の絵が描かれた札が、部屋に入って正面にある壁の左右に1枚ずつ貼られていた。
形代は札へと駆け寄ると手早く剥がした。札は剥がした途端に、一瞬で真っ黒な燃えかすとなり、彼の手から消えた。
同時に、教室に張られていた結界の効果も薄くなる。しかし完全に消えるまでには至らなかった。
「♪」
陽斗の形代は札を処理すると、嬉しそうに目を輝かせ、今度は出口がある部屋へと走っていった。
『あ、札が剥がれたっぽい』
札が剥がれたことは、偵察していた五代にも伝わっていた。
「何?!」
「どういうことだ?!」
「どなたかいらっしゃるのですか?!」
出口で待機していた鬼達は驚き、朱羅のスマホに詰め寄る。
『陽斗氏が札を剥がしてるみたい。今、3枚目の札を剥がしたよ。でも、あれホントに陽斗氏? なんか妙に大人しいけど』
「大人しい?」
「いつもギャーギャーうるせェ、あのクソガキが?」
『うん。さっきから一言も喋ってないんだよねー。何考えてるのかも分かんないし』
「何か変なものでも食べられたのでしょうか?」
その間にも形代は飯沼が姿見へ入る直前に出口近くの壁に貼った最後の札へと歩み寄り、躊躇なく剥がす。
「♪! ♪!」
全ての札が剥がされたことにより、結界は完全に消滅し、陽斗の形代は満足そうに飛び跳ねた。
「陽斗! 無事か?!」
出口の前にいた蒼劔達も結界が消滅したことに気づき、ドアを開いて中へと入ってくる。
飛び跳ねていた陽斗の形代は彼らを見て、不思議そうに首を傾げた。
「?」
「陽斗……?」
蒼劔も陽斗の形代を見て、立ち止まる。
外見は陽斗と瓜二つだったが、その気配は別物だった。黒縄も形代の気配を察し、眉をひそめた。
「お前、クソガキじゃねェな。何モンだ?」
直後、陽斗の形代が背後から姿見に食われた。
「……!」
「陽斗!」
陽斗の形代は驚いて目を見開いたまま、姿見の中へと吸い込まれていく。
蒼劔も陽斗ではないと分かっていながらも、彼を追いかけて姿見の中へと身を投じた。
「蒼劔!」
「蒼劔殿!」
黒縄と朱羅も蒼劔の後を追おうと、駆け寄る。
しかし彼らが中へ入る前に、姿見は床をすり抜け、階下へと落ちていった。
「くそっ、待ちやがれ!」
「あの姿見、妖怪だったのですか?!」
黒縄と朱羅も床をすり抜け、下の教室へ移る。映画研究部が自主製作映画を上映していたが、客はまばらだった。
姿見は紫色の細長い足を生やし、壁へと突進していく。そのまま壁をすり抜け、校舎から逃走するつもりなのだろう。
「逃すかよ!」
黒縄は袖から鎖を放ち、姿見を捕らえようとする。
しかし寸前で朱羅が「お待ち下さい!」と金棒で鎖を防いだ。
「あの中には蒼劔殿がいらっしゃるのですよ?! もし鏡を割ってしまったら、出られなくなってしまいます!」
「あ゛?! このまま逃すよか、マシだろ?!」
「ダーメーでーす!」
朱羅は黒縄が姿見に向かって鎖を放つたびに、鎖を金棒で叩き壊す。
その間に姿見は壁の前まで迫っていたが、壁に触れた瞬間に弾き飛ばされた。
「?!」
姿見は驚いた様子で壁を見つめる。
壁にはいつの間にか黄緑色の光の筋が格子状に張り巡らされており、何度姿見が体当たりしても、すり抜けなくなっていた。
モメていた黒縄と朱羅も壁の様子に気づき、目を見張る。
「アレは……霊力を直接流し込んで、壁を強化してやがるのか?! 一体どこのどいつが、あんな高度な術を……?!」
「それより黒縄様、今のうちに姿見を!」
「チッ、分かってるっつーの!」
黒縄は姿見を囲うように鎖を放ち、繭を形成する。
姿見が異変に気づいた頃には、鎖の繭の中から出られなくなっていた。
「とりあえず、こっから逃げらんねーようにはした。あとは蒼劔任せだな。さっきのクソガキが偽物だとすると、アイツも姿見の中かもな」
「で、では私も加勢を……!」
「アホか。テメェが行ったところで、蒼劔の邪魔にしかなんねェよ」
黒縄は鎖の繭を睨んだまま、朱羅のわき腹を小突く。「ドスッ」と、見た目の軽さからは考えられない音がした。
朱羅はわずかに顔をしかめ、わき腹を押さえた。
「いたた……不甲斐なくて、申し訳ございません」
「気にすンな。それより、五代にこの壁の霊力の持ち主を探させろ」
「承知致しました」
・
その頃、不知火は出口の部屋の壁に札を貼っていた。黒い札で、光の筋と同じ、黄緑色の格子が描かれていた。
黄緑色の光の筋は札を起点に、校舎中の壁へ格子状に張り巡らされ、輝いていた。一般人には見えないらしく、誰も校舎の壁の変化に気づいていなかった。
「ふぁ……眠」
不知火は大きく欠伸をすると、部屋を出て、出口のドアを閉めた。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる