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第7話「文化祭(1日目)」
伍:節木高校七不思議体験〈黒縄と朱羅の場合〉後半
しおりを挟む「黒縄君、とりあえず蒼劔君と追いかけっこしてくれる?」
「はァ?! 何故そうなる?!」
突然の陽斗の提案に、黒縄は声を荒げた。
「だって成田君、追っかけられないんでしょ? 一応、お客さんが部屋を一周したら鍵を開けることになってるから、やってもらわないと開けられないんだよねー」
「変なとこで律儀だな、お前。いいから開け、」
「仕方ない。やるか」
「……何でお前は乗り気なんだよ、蒼劔」
うんざりしている黒縄に対し、蒼劔は足を屈伸し、体を温めていた。
「朝からずっと部屋にいて、暇だったからな。今は体を動かしたい気分なんだ」
「えぇー……めんどくさ。もう札剥がして、ドアすり抜けるか」
黒縄が腹に貼っていた札を剥がそうと服の下へ手を突っ込んだ直後、青く輝く刀が頬の数ミリ横を飛んでいった。
「……」
刀は壁へ突き刺さり、やがて粒子となって霧散する。
黒縄が顔を上げると、蒼劔が新たに刀を左手から抜いていた。黒縄は「ひっ?!」と短く悲鳴を上げ、蒼劔から距離を取るように走り出した。蒼劔も刀を片手に、その後を追う。
「おまっ……そこまでするかよ、普通?!」
「こうしないと本気にならんだろう? せっかく来たんだから、怖がっていけ」
「別の意味で怖いわ!」
・
その後、黒縄が理科室を1周したタイミングで陽斗はドアの鍵を開けた。
直後、黒縄が部屋へ飛び込み、陽斗を突き飛ばした。
「あいてっ」
「テメェ、開けんの遅いんだよ!」
蒼劔と朱羅もドアをくぐり、陽斗が待つ部屋へと入る。
朱羅は恐怖で精気を失った顔をしていたが、陽斗の顔を見た途端に目に光が戻り「陽斗殿ぉ!」と駆け寄った。
「もう終わりですか?! 終わりですよね?! だって陽斗殿がお化け役なわけないですもんね?! ね?!」
「ううん、お化け役だよ。見つかっちゃったから意味ないけど」
陽斗は困った様子で笑い、姿見を指差した。
「あの姿見の前に立ったら終わりだから。もうちょっと頑張ってね」
「えぇー……あからさまに怪しいじゃないですか。あんな紫色の姿見あります?」
朱羅は姿見を見て、顔をしかめる。嫌な予感を感じているようだった。
「紫のセロファンが貼ってあるだけで、普通の姿見だから大丈夫だよ。ね、蒼劔君」
「あぁ」
陽斗が尋ねると、蒼劔は頷いた。
しかし黒縄は姿見を目にし、「ん?」と眉をひそめた。
「なんか胡散臭ぇな……あれ、本当にただの姿見か?」
「なに?」
黒縄の言葉に、蒼劔も眉をひそめる。
やはり蒼劔では何も感じなかったが、黒縄はなんらかの違和感に気づいたらしい。ツカツカと近づき、姿見を覗き込んだ。直後、
パシャッ
「うわっ?!」
スマホのフラッシュが焚かれたのか、薄暗かった部屋が眩い光に包まれた。
すぐに光は収まったものの、突然視界を奪った光に、黒縄は怒りをぶつけた。
「っぶねぇな! 急にフラッシュなんか焚くんじゃねぇよ! 失明したらどうすンだ?!」
「ご、ごめんね、黒縄君! おかしいな……さっきはフラッシュなんて出なかったのに」
陽斗は黒縄をなだめ、壁に隠されていたスマホを取り出す。確認したが、やはりフラッシュが出る設定にはなっていなかった。
「故障かな? 岡本先輩に言っておかないと」
「ったく、迷惑な仕掛けだぜ。で? 次は?」
「あ、もうこれで終わりだよ」
「終わりかよ?! 中途半端だなシメだな、オイ!」
消化不良な結末に、黒縄はキレる。怖がってはいなかったものの、自ら率先してピアノを弾いたことといい、黒縄は黒縄なりに「節木高校七不思議体験」を楽しんでいたのだろう。
「もっと色々用意しとけよ! 俺でも驚くような仕掛けをよぉ!」
黒縄は文句を言いながらゲートを押し、暗幕をめくって外へ出ていった。
「や、やっと出られる……!」
朱羅は体験自体を楽しめる余裕などなく、憔悴し切った様子で足早に出て行った。
「岡本先輩、ショックだろうなぁ……休憩時間中、ずっとこのスマホの性能を自慢してたもん」
陽斗もスマホのことを岡本に報告するため、外へ出て行こうとした。
しかし蒼劔が床に落ちている札を見つけ、「待て」と陽斗を止めた。札は焼け焦げていて、何の札かは分からなかったが、蒼劔には検討がついていた。
「どうしたの? 蒼劔君」
「これを見ろ。おそらく、先ほどのフラッシュの正体だ。気配がなかったから気づかなかった。明らかに術者の手による札だ」
「術者って……うちの学校に? 何でフラッシュなんか出したの?」
「……さぁな」
蒼劔は答えを濁し、廊下へ出た。
「よく分かんないけど……まぁいっか!」
陽斗も岡本のスマホを手に、外へ出る。フラッシュのことも、札のことも、さほど気にしてはいなかった。
・
出口では黒縄が先ほど撮った写真を手に、騒いでいた。
「なんで五代が写真に写ってンだよ?!」
「プリンターをハッキングなされたのでは? ほら、写真の下に『みんなで写真撮るなんて、ズルいゾ!』と書かれておりますよ」
「別に撮りたくて撮ったンじゃねぇし!」
写真は光で全体的に白くとんではいるものの、陽斗達4人の姿がはっきりと写っていた。
ただ、写真の左上の隅に小さく楕円の枠が追加されており、そこにはこの場にいない五代の顔写真が収まっていた。両手の人さし指で正面を指差し、ぶりっ子のように頬を膨らませている。極めつけには、楕円の枠の下に『みんなで写真撮るなんて、ズルいゾ!』とポップな字体でメッセージが記されていた。
「五代君、羨ましいなら来ればいいのにねぇ」
「まったくだ。今朝も陽斗が誘ったというのに"もうちょいで解析がエンディングを迎える"だの、"今学校に行ったら消される"だのと訳の分からんことを言っていたしな」
陽斗と蒼劔も写真を覗き見し、五代の行動に呆れる。
「でもこれ、初めてみんなで撮った写真じゃない? ねぇ、飯沼さん。この写真もう1枚プリントしてくれない?」
飯沼は無言でコクっと頷くと、プリンターを操作した。やがて黒縄と朱羅に渡されたものと同じ写真がプリントされ、出てくる。
「……」
飯沼はその写真を見て、この世の終わりのような顔をしていた。
彼女の視線の先には、楕円の枠の中でふざけている五代の姿があった。
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