135 / 327
第7話「文化祭(1日目)」
伍:節木高校七不思議体験〈黒縄と朱羅の場合〉後半
しおりを挟む「黒縄君、とりあえず蒼劔君と追いかけっこしてくれる?」
「はァ?! 何故そうなる?!」
突然の陽斗の提案に、黒縄は声を荒げた。
「だって成田君、追っかけられないんでしょ? 一応、お客さんが部屋を一周したら鍵を開けることになってるから、やってもらわないと開けられないんだよねー」
「変なとこで律儀だな、お前。いいから開け、」
「仕方ない。やるか」
「……何でお前は乗り気なんだよ、蒼劔」
うんざりしている黒縄に対し、蒼劔は足を屈伸し、体を温めていた。
「朝からずっと部屋にいて、暇だったからな。今は体を動かしたい気分なんだ」
「えぇー……めんどくさ。もう札剥がして、ドアすり抜けるか」
黒縄が腹に貼っていた札を剥がそうと服の下へ手を突っ込んだ直後、青く輝く刀が頬の数ミリ横を飛んでいった。
「……」
刀は壁へ突き刺さり、やがて粒子となって霧散する。
黒縄が顔を上げると、蒼劔が新たに刀を左手から抜いていた。黒縄は「ひっ?!」と短く悲鳴を上げ、蒼劔から距離を取るように走り出した。蒼劔も刀を片手に、その後を追う。
「おまっ……そこまでするかよ、普通?!」
「こうしないと本気にならんだろう? せっかく来たんだから、怖がっていけ」
「別の意味で怖いわ!」
・
その後、黒縄が理科室を1周したタイミングで陽斗はドアの鍵を開けた。
直後、黒縄が部屋へ飛び込み、陽斗を突き飛ばした。
「あいてっ」
「テメェ、開けんの遅いんだよ!」
蒼劔と朱羅もドアをくぐり、陽斗が待つ部屋へと入る。
朱羅は恐怖で精気を失った顔をしていたが、陽斗の顔を見た途端に目に光が戻り「陽斗殿ぉ!」と駆け寄った。
「もう終わりですか?! 終わりですよね?! だって陽斗殿がお化け役なわけないですもんね?! ね?!」
「ううん、お化け役だよ。見つかっちゃったから意味ないけど」
陽斗は困った様子で笑い、姿見を指差した。
「あの姿見の前に立ったら終わりだから。もうちょっと頑張ってね」
「えぇー……あからさまに怪しいじゃないですか。あんな紫色の姿見あります?」
朱羅は姿見を見て、顔をしかめる。嫌な予感を感じているようだった。
「紫のセロファンが貼ってあるだけで、普通の姿見だから大丈夫だよ。ね、蒼劔君」
「あぁ」
陽斗が尋ねると、蒼劔は頷いた。
しかし黒縄は姿見を目にし、「ん?」と眉をひそめた。
「なんか胡散臭ぇな……あれ、本当にただの姿見か?」
「なに?」
黒縄の言葉に、蒼劔も眉をひそめる。
やはり蒼劔では何も感じなかったが、黒縄はなんらかの違和感に気づいたらしい。ツカツカと近づき、姿見を覗き込んだ。直後、
パシャッ
「うわっ?!」
スマホのフラッシュが焚かれたのか、薄暗かった部屋が眩い光に包まれた。
すぐに光は収まったものの、突然視界を奪った光に、黒縄は怒りをぶつけた。
「っぶねぇな! 急にフラッシュなんか焚くんじゃねぇよ! 失明したらどうすンだ?!」
「ご、ごめんね、黒縄君! おかしいな……さっきはフラッシュなんて出なかったのに」
陽斗は黒縄をなだめ、壁に隠されていたスマホを取り出す。確認したが、やはりフラッシュが出る設定にはなっていなかった。
「故障かな? 岡本先輩に言っておかないと」
「ったく、迷惑な仕掛けだぜ。で? 次は?」
「あ、もうこれで終わりだよ」
「終わりかよ?! 中途半端だなシメだな、オイ!」
消化不良な結末に、黒縄はキレる。怖がってはいなかったものの、自ら率先してピアノを弾いたことといい、黒縄は黒縄なりに「節木高校七不思議体験」を楽しんでいたのだろう。
「もっと色々用意しとけよ! 俺でも驚くような仕掛けをよぉ!」
黒縄は文句を言いながらゲートを押し、暗幕をめくって外へ出ていった。
「や、やっと出られる……!」
朱羅は体験自体を楽しめる余裕などなく、憔悴し切った様子で足早に出て行った。
「岡本先輩、ショックだろうなぁ……休憩時間中、ずっとこのスマホの性能を自慢してたもん」
陽斗もスマホのことを岡本に報告するため、外へ出て行こうとした。
しかし蒼劔が床に落ちている札を見つけ、「待て」と陽斗を止めた。札は焼け焦げていて、何の札かは分からなかったが、蒼劔には検討がついていた。
「どうしたの? 蒼劔君」
「これを見ろ。おそらく、先ほどのフラッシュの正体だ。気配がなかったから気づかなかった。明らかに術者の手による札だ」
「術者って……うちの学校に? 何でフラッシュなんか出したの?」
「……さぁな」
蒼劔は答えを濁し、廊下へ出た。
「よく分かんないけど……まぁいっか!」
陽斗も岡本のスマホを手に、外へ出る。フラッシュのことも、札のことも、さほど気にしてはいなかった。
・
出口では黒縄が先ほど撮った写真を手に、騒いでいた。
「なんで五代が写真に写ってンだよ?!」
「プリンターをハッキングなされたのでは? ほら、写真の下に『みんなで写真撮るなんて、ズルいゾ!』と書かれておりますよ」
「別に撮りたくて撮ったンじゃねぇし!」
写真は光で全体的に白くとんではいるものの、陽斗達4人の姿がはっきりと写っていた。
ただ、写真の左上の隅に小さく楕円の枠が追加されており、そこにはこの場にいない五代の顔写真が収まっていた。両手の人さし指で正面を指差し、ぶりっ子のように頬を膨らませている。極めつけには、楕円の枠の下に『みんなで写真撮るなんて、ズルいゾ!』とポップな字体でメッセージが記されていた。
「五代君、羨ましいなら来ればいいのにねぇ」
「まったくだ。今朝も陽斗が誘ったというのに"もうちょいで解析がエンディングを迎える"だの、"今学校に行ったら消される"だのと訳の分からんことを言っていたしな」
陽斗と蒼劔も写真を覗き見し、五代の行動に呆れる。
「でもこれ、初めてみんなで撮った写真じゃない? ねぇ、飯沼さん。この写真もう1枚プリントしてくれない?」
飯沼は無言でコクっと頷くと、プリンターを操作した。やがて黒縄と朱羅に渡されたものと同じ写真がプリントされ、出てくる。
「……」
飯沼はその写真を見て、この世の終わりのような顔をしていた。
彼女の視線の先には、楕円の枠の中でふざけている五代の姿があった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
百合系サキュバス達に一目惚れされた
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~
トベ・イツキ
キャラ文芸
三国志×学園群像劇!
平凡な少年・リュービは高校に入学する。
彼が入学したのは、一万人もの生徒が通うマンモス校・後漢学園。そして、その生徒会長は絶大な権力を持つという。
しかし、平凡な高校生・リュービには生徒会なんて無縁な話。そう思っていたはずが、ひょんなことから黒髪ロングの清楚系な美女とお団子ヘアーのお転婆な美少女の二人に助けられ、さらには二人が自分の妹になったことから運命は大きく動き出す。
妹になった二人の美少女の後押しを受け、リュービは謀略渦巻く生徒会の選挙戦に巻き込まれていくのであった。
学園を舞台に繰り広げられる新三国志物語ここに開幕!
このお話は、三国志を知らない人も楽しめる。三国志を知ってる人はより楽しめる。そんな作品を目指して書いてます。
今後の予定
第一章 黄巾の乱編
第二章 反トータク連合編
第三章 群雄割拠編
第四章 カント決戦編
第五章 赤壁大戦編
第六章 西校舎攻略編←今ココ
第七章 リュービ会長編
第八章 最終章
作者のtwitterアカウント↓
https://twitter.com/tobeitsuki?t=CzwbDeLBG4X83qNO3Zbijg&s=09
※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。
※この作品は小説家になろう・カクヨムにも公開しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ニンジャマスター・ダイヤ
竹井ゴールド
キャラ文芸
沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。
大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。
沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる