134 / 327
第7話「文化祭(1日目)」
肆:節木高校七不思議体験〈黒縄と朱羅の場合〉前半
しおりを挟む
「これって、オカルト研究部の展示ですよね! すっごい面白かったです! 私達、来年節木高校を受験するんですけど、受かったら絶対、オカルト研究部に入部しますね!」
「いいねー! 将来有望な後輩が増えるのは嬉しいよ~!」
アンケートを提出した後、比較的怖がっていなかった方の女子中学生は入口にいた岡本と盛り上がっていた。
岡本も話の合いそうな後輩(になるかもしれない中学生)を見つけ、喜んでいる。
「ねぇ、私も入ることになってない?! 絶対嫌だからね?!」
その横で、終始怖がっていた女子中学生は必死に主張していたが、2人は全く聞く耳を持たず、節木高校の七不思議について語り合っていた。
・
2人の女子中学生が去ってから数分後、教室の中で待機していた陽斗と蒼劔のもとへ、見知った顔が暗幕から顔を出した。
「よぉ、クソガキ。暇そうだな」
「お邪魔しております」
「黒縄君! 朱羅さん!」
陽斗は2人の顔を見て、喜びの声を上げる。
蒼劔は「勝手に暗幕から顔を入れるな」と2人を注意した。
「そこは出口だ。入りたいなら、列に並べ」
「ちっ、かったりぃなァ。分かったよ」
「も、申し訳ございません。せっかく来たのだから、挨拶だけでもと思いまして」
「朱羅、その問題児から目を離すなよ。何をしでかすか分からんからな」
「承知致しました」
「誰が問題児だ、ゴラァ」
2人は暗幕から顔を引っ込めると、列の最後尾ではなく、真っ直ぐ入口の方へと歩いていった。
「あれ? 並ばないのかな?」
「いや、おそらくは……」
不審に思った陽斗と蒼劔が暗幕の隙間から外を覗くと、黒縄は岡本と最前列にいる人間を術で洗脳し、次の番を譲ってもらっていた。後列の客は不満そうに彼らを睨む。
2人はなんらかの術を使っているのか、岡本や他の客のような普通の人間にも姿が見えていた。さすがに朱羅が背中に担いでいる金棒は見えないよう細工をしているのか、誰も金棒の存在には気づかない。
黒縄は後ろから大勢の客達に睨まれても全く気にせず、屋台で買ったと思われる可愛らしい黒ウサギの飴細工を容赦なくバリバリと噛み砕く。その隣で朱羅は後ろの客達にペコペコと頭を下げ、謝っていた。
「……クズだな、アイツ」
「黒縄君、並ぶの苦手そうだもんねー。来てくれたのは嬉しいけど、あとで注意しとかないと」
ふと、陽斗は出口に立っている飯沼が険しい表情で黒縄を睨んでいることに気づいた。彼女も黒縄の行動に苛立っているのだろう。
「ごめんね、飯沼さん。あの子、僕の知り合いの子なんだ」
その途端、飯沼は青ざめた顔でバッと陽斗を振り返った。
「なんですって……?!」
「ほ、ほんとにごめんね! 根はいい子なんだけど、ちょっとワガママなとこがあって……きっと文化祭が楽しくて、はしゃいでるんだよ。あとで謝らせるから、今は見逃してあげて!」
「……ありえないわ」
飯沼は陽斗に背を向け、何やらぶつぶつ呟く。黒縄をどう対処しているのか考えているのかもしれない、と陽斗は焦った。
「どうしよう、蒼劔君。黒縄君、飯沼さんにつまみ出されちゃうかもよ?」
「だとしたら、自業自得だな」
蒼劔はそっけなく返し、飯沼に視線をやる。
彼女が何を考えているのか……蒼劔にはあらかた検討がついていた。
・
「それでは、行ってらっしゃいませ」
岡本に見送られ、黒縄と朱羅は「節木高校七不思議体験」に入っていった。
「ひぃぃ……! 黒縄様! お願いですから、ゆっくり歩いて下さいね!」
朱羅は恐怖のあまり、黒縄の背中に身を隠し、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「おもっ! おい、朱羅! 背中に引っ付くな!」
「だって、怖いんですよぉ……」
「お前だって鬼だろうが!」
黒縄は朱羅を背中に引っ付けたまま、歩きにくそうに進んでいった。
その数分後、
「おいクソガキ! いるのは分かってンだよ! さっさとここを開けやがれ!」
「ひぃぃ……! 黒縄君、バイト先に押しかけてきた派手なシャツのお兄さん達と同じこと言ってるよぉ! 怖いぃぃ…!」
陽斗は理科室から力任せにドアを叩いてくる黒縄に怯えていた。
ドアは黒縄に拳で叩かれ「ダンダンダンッ!」とけたたましく音を響かせ、揺れている。鍵をかけてはいるが、その前にドアが破壊されそうだった。
暗闇でも目が利く黒縄は、神服部が投げた輪っかを叩き落とし、人形をスルーし、太郎くんをノックせず排出し(ドアの後ろにいたので、無傷)、ピアノを完璧に弾いてみせ、一般人では30分ほどかかる道のりをここまで数分で駆け抜けてきた。その間、朱羅は怯えて使い物にならなかった。
そして現在、彼は理科室と陽斗がいる最後の部屋の間にあるドアを無理矢理開け、先に進もうとしていた。
「成田君、何してるの?! 早く黒縄君を追っかけて!」
陽斗はドア越しに成田へ呼びかける。
設定上、ドアは「骨格標本にされた理科教師の怨みによって、閉じられている」ため、簡単に鍵を開けるわけにはいかない。マニュアルでは、客が骨格標本に扮した成田に追われて、ドアから離れたタイミングで鍵を開けることになっており、成田が黒縄を追わない限り、先に進めなかった。
しかし成田は弱々しくうめくばかりで、その場から動こうとはしなかった。
「蒼劔君、見てきて!」
「仕方ないな……」
蒼劔は黒縄に捕まらないよう、ドアから離れた壁をすり抜け、理科室の様子をうかがった。
「ぐぉぉ……あのガキ、強過ぎる……!」
成田はみぞおちを押さえて、床に倒れていた。明らかに黒縄が何かしたとしか考えられなかった。
「……おい、黒縄。貴様、成田に何をやった?」
蒼劔は体を完全にすり抜け、理科室へ移動すると、ドアの前にいた黒縄へ詰め寄った。彼の背中には朱羅が身を縮こませ、ランドセルのようにくっついている朱羅がいた。
黒縄は蒼劔に気づくとドアを叩くのをやめ、「俺のせいじゃねぇよ」と蒼劔を睨んだ。
「後ろからついて来やがったから、反射的に腕が動いちまっただけだ。今の俺の肘打ちを避けられねぇなんざ、軟弱にも程があンぞ?」
「いやどう考えても、お前のせいだろうが」
「うっせェな! たかが人間一人だろ?」
「そいつは陽斗の友人だ。それでも無下に扱うと言うなら、承知せんぞ」
蒼劔は黒縄を睨み、右手を左手に添える。
その殺気だった青い眼は、本気で黒縄の命を狙っていた。
「チッ……わぁったよ。次からは気をつけてやる」
黒縄は忌々しそうに舌打ち、蒼劔から視線をそらした。
「いいねー! 将来有望な後輩が増えるのは嬉しいよ~!」
アンケートを提出した後、比較的怖がっていなかった方の女子中学生は入口にいた岡本と盛り上がっていた。
岡本も話の合いそうな後輩(になるかもしれない中学生)を見つけ、喜んでいる。
「ねぇ、私も入ることになってない?! 絶対嫌だからね?!」
その横で、終始怖がっていた女子中学生は必死に主張していたが、2人は全く聞く耳を持たず、節木高校の七不思議について語り合っていた。
・
2人の女子中学生が去ってから数分後、教室の中で待機していた陽斗と蒼劔のもとへ、見知った顔が暗幕から顔を出した。
「よぉ、クソガキ。暇そうだな」
「お邪魔しております」
「黒縄君! 朱羅さん!」
陽斗は2人の顔を見て、喜びの声を上げる。
蒼劔は「勝手に暗幕から顔を入れるな」と2人を注意した。
「そこは出口だ。入りたいなら、列に並べ」
「ちっ、かったりぃなァ。分かったよ」
「も、申し訳ございません。せっかく来たのだから、挨拶だけでもと思いまして」
「朱羅、その問題児から目を離すなよ。何をしでかすか分からんからな」
「承知致しました」
「誰が問題児だ、ゴラァ」
2人は暗幕から顔を引っ込めると、列の最後尾ではなく、真っ直ぐ入口の方へと歩いていった。
「あれ? 並ばないのかな?」
「いや、おそらくは……」
不審に思った陽斗と蒼劔が暗幕の隙間から外を覗くと、黒縄は岡本と最前列にいる人間を術で洗脳し、次の番を譲ってもらっていた。後列の客は不満そうに彼らを睨む。
2人はなんらかの術を使っているのか、岡本や他の客のような普通の人間にも姿が見えていた。さすがに朱羅が背中に担いでいる金棒は見えないよう細工をしているのか、誰も金棒の存在には気づかない。
黒縄は後ろから大勢の客達に睨まれても全く気にせず、屋台で買ったと思われる可愛らしい黒ウサギの飴細工を容赦なくバリバリと噛み砕く。その隣で朱羅は後ろの客達にペコペコと頭を下げ、謝っていた。
「……クズだな、アイツ」
「黒縄君、並ぶの苦手そうだもんねー。来てくれたのは嬉しいけど、あとで注意しとかないと」
ふと、陽斗は出口に立っている飯沼が険しい表情で黒縄を睨んでいることに気づいた。彼女も黒縄の行動に苛立っているのだろう。
「ごめんね、飯沼さん。あの子、僕の知り合いの子なんだ」
その途端、飯沼は青ざめた顔でバッと陽斗を振り返った。
「なんですって……?!」
「ほ、ほんとにごめんね! 根はいい子なんだけど、ちょっとワガママなとこがあって……きっと文化祭が楽しくて、はしゃいでるんだよ。あとで謝らせるから、今は見逃してあげて!」
「……ありえないわ」
飯沼は陽斗に背を向け、何やらぶつぶつ呟く。黒縄をどう対処しているのか考えているのかもしれない、と陽斗は焦った。
「どうしよう、蒼劔君。黒縄君、飯沼さんにつまみ出されちゃうかもよ?」
「だとしたら、自業自得だな」
蒼劔はそっけなく返し、飯沼に視線をやる。
彼女が何を考えているのか……蒼劔にはあらかた検討がついていた。
・
「それでは、行ってらっしゃいませ」
岡本に見送られ、黒縄と朱羅は「節木高校七不思議体験」に入っていった。
「ひぃぃ……! 黒縄様! お願いですから、ゆっくり歩いて下さいね!」
朱羅は恐怖のあまり、黒縄の背中に身を隠し、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「おもっ! おい、朱羅! 背中に引っ付くな!」
「だって、怖いんですよぉ……」
「お前だって鬼だろうが!」
黒縄は朱羅を背中に引っ付けたまま、歩きにくそうに進んでいった。
その数分後、
「おいクソガキ! いるのは分かってンだよ! さっさとここを開けやがれ!」
「ひぃぃ……! 黒縄君、バイト先に押しかけてきた派手なシャツのお兄さん達と同じこと言ってるよぉ! 怖いぃぃ…!」
陽斗は理科室から力任せにドアを叩いてくる黒縄に怯えていた。
ドアは黒縄に拳で叩かれ「ダンダンダンッ!」とけたたましく音を響かせ、揺れている。鍵をかけてはいるが、その前にドアが破壊されそうだった。
暗闇でも目が利く黒縄は、神服部が投げた輪っかを叩き落とし、人形をスルーし、太郎くんをノックせず排出し(ドアの後ろにいたので、無傷)、ピアノを完璧に弾いてみせ、一般人では30分ほどかかる道のりをここまで数分で駆け抜けてきた。その間、朱羅は怯えて使い物にならなかった。
そして現在、彼は理科室と陽斗がいる最後の部屋の間にあるドアを無理矢理開け、先に進もうとしていた。
「成田君、何してるの?! 早く黒縄君を追っかけて!」
陽斗はドア越しに成田へ呼びかける。
設定上、ドアは「骨格標本にされた理科教師の怨みによって、閉じられている」ため、簡単に鍵を開けるわけにはいかない。マニュアルでは、客が骨格標本に扮した成田に追われて、ドアから離れたタイミングで鍵を開けることになっており、成田が黒縄を追わない限り、先に進めなかった。
しかし成田は弱々しくうめくばかりで、その場から動こうとはしなかった。
「蒼劔君、見てきて!」
「仕方ないな……」
蒼劔は黒縄に捕まらないよう、ドアから離れた壁をすり抜け、理科室の様子をうかがった。
「ぐぉぉ……あのガキ、強過ぎる……!」
成田はみぞおちを押さえて、床に倒れていた。明らかに黒縄が何かしたとしか考えられなかった。
「……おい、黒縄。貴様、成田に何をやった?」
蒼劔は体を完全にすり抜け、理科室へ移動すると、ドアの前にいた黒縄へ詰め寄った。彼の背中には朱羅が身を縮こませ、ランドセルのようにくっついている朱羅がいた。
黒縄は蒼劔に気づくとドアを叩くのをやめ、「俺のせいじゃねぇよ」と蒼劔を睨んだ。
「後ろからついて来やがったから、反射的に腕が動いちまっただけだ。今の俺の肘打ちを避けられねぇなんざ、軟弱にも程があンぞ?」
「いやどう考えても、お前のせいだろうが」
「うっせェな! たかが人間一人だろ?」
「そいつは陽斗の友人だ。それでも無下に扱うと言うなら、承知せんぞ」
蒼劔は黒縄を睨み、右手を左手に添える。
その殺気だった青い眼は、本気で黒縄の命を狙っていた。
「チッ……わぁったよ。次からは気をつけてやる」
黒縄は忌々しそうに舌打ち、蒼劔から視線をそらした。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる