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第7話「文化祭(1日目)」
参:節木高校七不思議体験〈後半〉続・ある女子中学生の場合
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「キャーッ! 骨格標本が動いたー!」
「怖いぃー!」
「ごめんねぇ。これが僕の仕事だから」
陽斗はドア越しに女子中学生達の悲鳴が聞き、申し訳なさそうに小声で謝った。今日はいつものブレザーではなく、昔の節木高校の制服である黒い学ランを着ている。
先程女子中学生達が開こうとしていたドアの鍵を開け、所定の場所にスタンバイする。
わざと音が鳴るように開けたため、「鍵、開いた!」とドアの向こうから女子中学生達の声がした。
「来るぞ、陽斗」
「うん」
蒼劔がドアをすり抜け、女子中学生達の動きを陽斗に教える。
陽斗は小さく頷き、背筋を伸ばした。
・
「ギャーッ! 来ないで!」
「鍵! 鍵閉めて!」
女子中学生達はドアへ駆け込み、ドアを閉める。
骨格標本になりすました成田はドアをこじ開け、外へ出ようとする。女子中学生の1人に鍵を閉められた後も、しばらく部屋の中からドアを叩いていた。
やがて諦めたのか、叩くのをやめ、部屋の奥へと消えていった。
陽斗と蒼劔がいる部屋の隅で縮こまり、身を寄せ合っていた2人はホッとした様子で息を吐いた。
「ビックリしたぁ……何処に隠れてたんだろう? 全然分かんなかった」
「ここは何の部屋なのかな?」
「さぁ? あと残ってるのは、"呪いの姿見"と"幽霊の学校"の2つだね」
その時、周囲がぼんやりと青白く明るくなった。
2人は部屋の様子を見て、「キャーッ!」と絶叫した。
そこは6畳ほどの縦に長い一室で、壁の前に大勢の青白い顔をした男女のマネキン達が所狭しと並んでいた。制服はバラバラで、学ランを着ているマネキンもいれば、ブレザーを着ているマネキンもいる。
そして、マネキンの中に混じって、陽斗も立っていた。気づかれないよう息を殺し、一点を見つめている。
「は、早く出よう!」
「ダメ! 開かない!」
女子中学生達は陽斗の前を素通りし、入口にもあった校門を模したゲートから外へ脱出しようとしたが、ゲートは鍵がかかっていて、開かなかった。
『コンニチハ』
「ひっ?!」
「誰?!」
そこへ背後から声をかけられた。男とも女とも分からない、合成された音声だった。
2人は反射的に振り向き、声の出どころを探す。
『ココダヨ』
再び声が聞こえた先には、紫のセロファンが貼られた姿見が置かれていた。マネキンとマネキンの間に挟まれ、下から紫の照明で照らされている。
「か、鏡が喋った……これが呪いの姿目ってこと?」
「そもそも鏡って喋るの?」
2人は恐る恐る姿見へ近づき、鏡面を覗き込む。その隙に陽斗はわずかに体勢を変えた。
直後、姿見上部の壁に隠されていたスマホが「パシャッ」とシャッター音を鳴らし、2人の顔を撮影した。フラッシュは焚いていなかったが、岡本の私物である最新式のスマホで、薄暗い教室でも彼女達の驚いている顔がハッキリと写っていた。
「キャッ! 今の音って、カメラ?」
「そ、そうみたい……」
女子中学生達がカメラの音に動揺している隙に、陽斗は元の姿勢に素早く戻る。
壁の中に隠されているスマホは2人の撮影を終えると、今度は調子の外れたチャイムを奏でた。
同時に、出口のゲートの鍵が「ガチャッ」と、音を立てて開く。
「……これで終わり? 出ていいってこと?」
あまりにも呆気ない終わり方に、比較的ビビっていなかった方が拍子抜けした様子で目をパチクリさせる。
「そういうこと。はぁ、やっと出られる……」
終始怯えていた方の女子中学生は彼女の手を引き、ゲートを押して教室から脱出した。
廊下と教室を隔てていた暗幕をくぐると、出口にいた飯沼が笑顔で2人を出迎えた。
「脱出成功、おめでとうございます! ここまで、お疲れ様でした。お時間よろしければ、こちらのアンケートに答えていって下さい」
飯沼は片方の女子から懐中電灯を受け取ると、2人にアンケート用紙とボールペンをそれぞれ渡した。
「うーん、正直消化不良だったんだよねー。ラストで写真を撮られて終わりって、なんか釈然としないというか」
「いやいや、十分怖かったから!
これ以上怖くしたら、誰もクリア出来ないって!」
2人はやいのやいの言いながらも、律儀にアンケートに答える。
数分後、2人はアンケート用紙の項目を全て埋め、ボールペンと一緒に飯沼へ返した。
「ご協力、ありがとうございました。こちら、脱出に成功した方にのみお配りしている記念品です。またの来校、お待ちしております」
そう言って飯沼が渡したのは、2枚の写真だった。どちらも同じ写真で、全体的に薄暗かった。
2人は1枚ずつ手に取り、写真を見た。どうやら姿見の前に立った際に撮られたものらしく、カメラ目線で驚いている2人の姿がハッキリと写っていた。
「ラッキー! これ、さっきのカメラだよね? お化け屋敷の中で写真を撮ってもらえるなんて、最高じゃん!」
「後ろにマネキンが並んでるよ……怖っ」
2人の背後にはマネキンが整然と並び、彼女達と一緒にフレームの中に収まっている。
ふと、怯えている方の女子中学生は眉をひそめ、写真に目を凝らした。次の瞬間、「ひっ!」と写真を手から離し、もう1人に飛びついた。
飯沼は写真が床に落下する前に受け止め、一瞥する。写真を見た一瞬、眉をひそめたが、すぐに笑顔に戻り、落とし主に写真を差し出した。
「落としましたよ」
「い、いりません!」
女子中学生は写真の受け取りを拒否し、激しく首を振る。
代わりにもう1人の女子中学生が受け取り、彼女に倣って写真に目を凝らした。
「急にどうしたの? なんか写ってたとか?」
「そう!」
怯えている女子中学生は写真の中の自身の背後を指差した。
そこには学ランを着た陽斗が写っていた。他のマネキン同様、メイクで顔が青ざめているように見える。写真の陽斗はカメラに向かって人さし指を口元に当て、口を「し」の形に開けてみせていた。
「こんなポーズのマネキン、絶対いなかったって! 私達が気づかない間に、動いたんだよ!」
「うそぉ?! 全然気づかなかったんだけど!」
怯えていない方の女子中学生は写真に写っている陽斗を見て、目を輝かせる。
相方とは違い、得体の知れないものが写っていた恐怖よりも、予想外の展開に歓喜している様子だった。飯沼は喜ぶ彼女を見て「この子、岡本部長と同じタイプの人間だわ。いずれ大物になるわね」と心の中で思った。
「怖いぃー!」
「ごめんねぇ。これが僕の仕事だから」
陽斗はドア越しに女子中学生達の悲鳴が聞き、申し訳なさそうに小声で謝った。今日はいつものブレザーではなく、昔の節木高校の制服である黒い学ランを着ている。
先程女子中学生達が開こうとしていたドアの鍵を開け、所定の場所にスタンバイする。
わざと音が鳴るように開けたため、「鍵、開いた!」とドアの向こうから女子中学生達の声がした。
「来るぞ、陽斗」
「うん」
蒼劔がドアをすり抜け、女子中学生達の動きを陽斗に教える。
陽斗は小さく頷き、背筋を伸ばした。
・
「ギャーッ! 来ないで!」
「鍵! 鍵閉めて!」
女子中学生達はドアへ駆け込み、ドアを閉める。
骨格標本になりすました成田はドアをこじ開け、外へ出ようとする。女子中学生の1人に鍵を閉められた後も、しばらく部屋の中からドアを叩いていた。
やがて諦めたのか、叩くのをやめ、部屋の奥へと消えていった。
陽斗と蒼劔がいる部屋の隅で縮こまり、身を寄せ合っていた2人はホッとした様子で息を吐いた。
「ビックリしたぁ……何処に隠れてたんだろう? 全然分かんなかった」
「ここは何の部屋なのかな?」
「さぁ? あと残ってるのは、"呪いの姿見"と"幽霊の学校"の2つだね」
その時、周囲がぼんやりと青白く明るくなった。
2人は部屋の様子を見て、「キャーッ!」と絶叫した。
そこは6畳ほどの縦に長い一室で、壁の前に大勢の青白い顔をした男女のマネキン達が所狭しと並んでいた。制服はバラバラで、学ランを着ているマネキンもいれば、ブレザーを着ているマネキンもいる。
そして、マネキンの中に混じって、陽斗も立っていた。気づかれないよう息を殺し、一点を見つめている。
「は、早く出よう!」
「ダメ! 開かない!」
女子中学生達は陽斗の前を素通りし、入口にもあった校門を模したゲートから外へ脱出しようとしたが、ゲートは鍵がかかっていて、開かなかった。
『コンニチハ』
「ひっ?!」
「誰?!」
そこへ背後から声をかけられた。男とも女とも分からない、合成された音声だった。
2人は反射的に振り向き、声の出どころを探す。
『ココダヨ』
再び声が聞こえた先には、紫のセロファンが貼られた姿見が置かれていた。マネキンとマネキンの間に挟まれ、下から紫の照明で照らされている。
「か、鏡が喋った……これが呪いの姿目ってこと?」
「そもそも鏡って喋るの?」
2人は恐る恐る姿見へ近づき、鏡面を覗き込む。その隙に陽斗はわずかに体勢を変えた。
直後、姿見上部の壁に隠されていたスマホが「パシャッ」とシャッター音を鳴らし、2人の顔を撮影した。フラッシュは焚いていなかったが、岡本の私物である最新式のスマホで、薄暗い教室でも彼女達の驚いている顔がハッキリと写っていた。
「キャッ! 今の音って、カメラ?」
「そ、そうみたい……」
女子中学生達がカメラの音に動揺している隙に、陽斗は元の姿勢に素早く戻る。
壁の中に隠されているスマホは2人の撮影を終えると、今度は調子の外れたチャイムを奏でた。
同時に、出口のゲートの鍵が「ガチャッ」と、音を立てて開く。
「……これで終わり? 出ていいってこと?」
あまりにも呆気ない終わり方に、比較的ビビっていなかった方が拍子抜けした様子で目をパチクリさせる。
「そういうこと。はぁ、やっと出られる……」
終始怯えていた方の女子中学生は彼女の手を引き、ゲートを押して教室から脱出した。
廊下と教室を隔てていた暗幕をくぐると、出口にいた飯沼が笑顔で2人を出迎えた。
「脱出成功、おめでとうございます! ここまで、お疲れ様でした。お時間よろしければ、こちらのアンケートに答えていって下さい」
飯沼は片方の女子から懐中電灯を受け取ると、2人にアンケート用紙とボールペンをそれぞれ渡した。
「うーん、正直消化不良だったんだよねー。ラストで写真を撮られて終わりって、なんか釈然としないというか」
「いやいや、十分怖かったから!
これ以上怖くしたら、誰もクリア出来ないって!」
2人はやいのやいの言いながらも、律儀にアンケートに答える。
数分後、2人はアンケート用紙の項目を全て埋め、ボールペンと一緒に飯沼へ返した。
「ご協力、ありがとうございました。こちら、脱出に成功した方にのみお配りしている記念品です。またの来校、お待ちしております」
そう言って飯沼が渡したのは、2枚の写真だった。どちらも同じ写真で、全体的に薄暗かった。
2人は1枚ずつ手に取り、写真を見た。どうやら姿見の前に立った際に撮られたものらしく、カメラ目線で驚いている2人の姿がハッキリと写っていた。
「ラッキー! これ、さっきのカメラだよね? お化け屋敷の中で写真を撮ってもらえるなんて、最高じゃん!」
「後ろにマネキンが並んでるよ……怖っ」
2人の背後にはマネキンが整然と並び、彼女達と一緒にフレームの中に収まっている。
ふと、怯えている方の女子中学生は眉をひそめ、写真に目を凝らした。次の瞬間、「ひっ!」と写真を手から離し、もう1人に飛びついた。
飯沼は写真が床に落下する前に受け止め、一瞥する。写真を見た一瞬、眉をひそめたが、すぐに笑顔に戻り、落とし主に写真を差し出した。
「落としましたよ」
「い、いりません!」
女子中学生は写真の受け取りを拒否し、激しく首を振る。
代わりにもう1人の女子中学生が受け取り、彼女に倣って写真に目を凝らした。
「急にどうしたの? なんか写ってたとか?」
「そう!」
怯えている女子中学生は写真の中の自身の背後を指差した。
そこには学ランを着た陽斗が写っていた。他のマネキン同様、メイクで顔が青ざめているように見える。写真の陽斗はカメラに向かって人さし指を口元に当て、口を「し」の形に開けてみせていた。
「こんなポーズのマネキン、絶対いなかったって! 私達が気づかない間に、動いたんだよ!」
「うそぉ?! 全然気づかなかったんだけど!」
怯えていない方の女子中学生は写真に写っている陽斗を見て、目を輝かせる。
相方とは違い、得体の知れないものが写っていた恐怖よりも、予想外の展開に歓喜している様子だった。飯沼は喜ぶ彼女を見て「この子、岡本部長と同じタイプの人間だわ。いずれ大物になるわね」と心の中で思った。
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