贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第6話「文化祭(準備)」

肆:オカ研会議

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 放課後、陽斗と飯沼、オカルト研究部のメンバーは理科室に再び集まった。いつもは来ないという遠井も成田への対抗心か、陽斗達が来るより先に理科室に来ていた。
「遅いぞ」
「まだ時間じゃないだろ? お前が早過ぎるんだよ。普段来ないから、時間が分かんなかったのか?」
「あ゛?」
「まぁまぁ、2人とも落ち着いて……」
 陽斗は慌てて成田と遠井の間に割って入り、なだめる。
 それを不知火が横目で見ながら「元気だねぇ」と通り過ぎていった。そのまま眠そうに椅子に腰かけ、大きくあくびをする。
 飯沼は不知火が理科室に入ってくるなり顔をしかめ、鋭い眼光で睨んでいた。
 結局最後に来たのは岡本で、理科室に入ってくるなり、持っていたプリントを陽斗達に配った。
「それでは、"節木高校七不思議体験"で実際に制作する仕掛けについて話し合いたいと思う! とはいえ、基本的な仕掛けの案は既に私が考案した。プリントを配るので、何か意見があれば、発言して欲しい!」
 プリントは3枚組で、角をホッチキスで止めてあった。表紙には手書きの赤字で大きく「オカルト研究部極秘資料 関係者以外は見たら呪われる」と脅し文句が書いてある。
 ページをめくると、2枚目に廊下を挟んだ2つの教室の地図、3枚目にそれぞれの教室に設置する仕掛けの概要が書かれていた。右手の教室を教室棟、左手の教室を実習棟に見立て、教室と教室の間を渡り廊下に模した通路で繋ぎ、一周するというものだった。
「結構本格的だね」
「あぁ。突っ込みどころも多いがな」
 感心する陽斗の横から蒼劔もプリントを覗き、眉根を寄せる。
 他のメンバーも感心する一方で、各々引っかかるものがあったらしく、陽斗のように手放しで感心する者はいなかった。
「部長、いくつか確認したいのですが、よろしいでしょうか?」
 中でも遠井は真っ先に手を挙げ、教壇に立っている岡本へ問いかけた。
「ほい、遠井君。どうぞ」
「まず、首吊り桜ですが……"セットの桜の木に近づいてきた客の首をロープで絞める(担当:女子)"って正気ですか?」
 遠井が指摘した通り、プリントの概要にはそう書かれていた。
 「首吊り桜」は節木高校七不思議の1つで、桜に近づいた者は首を吊ってしまうという噂だった。実際はその桜の木に取り憑いていた女子生徒の霊の仕業で、うっかり首吊り桜に近づいた遠井は彼女に首を絞められ、殺されそうになったのである。
 遠井の指摘は最もだったが、岡本はあっけらかんと返した。
「だって君、実際に見知らぬ美少女に首絞められたんだろう?」
「だからって、再現しようとしないで下さい。これじゃ、殺人事件じゃないですか。確実に警察沙汰になります。しかもこの役、女子の誰かがやるんでしょう? もし客に逆上でもされたらどうするんです? もっと安全な仕掛けにしないと」
「えー、でも首に縄はかけたくなーい?」
「ダメだ、この部長。サイコパス過ぎる」
 遠井は呆れて、重く溜め息を吐く。
 すると陽斗が「あのー」と、手を挙げた。
「輪投げにしたらどうですか? ロープで輪っかを作って、お客さんの首に投げるんです。前もって"ロープを取らないと首が絞まる"って説明しておけば、勝手に取ってくれるでしょうし」
「お、いいじゃん、それ! 部長! そうしましょう!」
 陽斗の平和的な案に、成田は全力で乗っかる。他のメンバーも大きく頷いた。
 実はこの案は警察沙汰をになるのを嫌った蒼劔の入れ知恵だったのだが、誰も陽斗を疑ってはいなかった。
 それでも岡本は納得いかないらしく、不満そうに「えー」と唇を尖らせた。
「輪投げって結構難しいだろう? しかも教室の中は真っ暗なんだぞ?」
「それなら私、やります」
 そう言って手を挙げたのは神服部だった。
 その目は真剣で、職人のような眼差しをしていた。
「輪投げなら得意です。暗くても命中できる自信があります。首絞めよりもずっと得意です」
「うーん……そこまで言うなら仕方ないな。後で実演してもらうけど、とりあえず首吊り桜は輪投げということで」
 岡本は渋りながらも、神服部の熱意に押されて代替案を受け入れた。
「やった!」
「神服部ちゃん、ナイス!」
 成田と神服部は嬉しさから、ハイタッチする。なんとか首絞めは回避できたようだ。
 遠井は2人を見て「呑気な奴らめ」と呆れつつ、他の仕掛けについても尋ねた。
「増える階段は教室内に階段を作り、"13段目に人間を寝そべらせる"とありますね」
「そうだね」
「……で、その人間を客に踏ませるんですか?」
「うん。だって、ホントにいただろう? 不審者が」
 またも岡本は悪びれもなく言う。客に踏まれ続けるお化け役のダメージなど、全く考えていないようだった。
 遠井ははなから岡本の言い分を想定済みだったのか、淡々と返した。
「お化け役への負担が重過ぎます。人形にしましょう。喋らせたいなら人形にスピーカーを内蔵させて、遠隔から喋ればいい」
「人形の位置がズレたら、増える階段から1番近い私が直しに行きますよ」
 首吊り桜担当の神服部も加勢する。
 岡本は「えー、人形ー?」と一旦は不満を露わにしたが、
「……まぁ、君達が怪我でもされたらPTAから苦情が来そうだし、そうしようか」
とすぐに考え直した。流石の岡本もPTAは厄介らしい。
 それなら最初から気をつけておけよ、と蒼劔は思った。
「でも、もう流石にないだろ?」
「「「あります!」」」
 岡本の問いに対し、オカルト研究部の3人は声を揃えて返した。
 あまりの気迫に、岡本も「い゛?!」と気圧される。
「ま、まだあるのかい?!」
「あるに決まってるじゃないすか! "男子トイレの太郎くんに扮し(担当:男子)、3番目のトイレから射出される"とか、"ピアノで月光を弾けるまで先に進めない"とか、"骨格標本(担当:男子。ボディーペイント)に追いつかれたら、硫酸をかけられる"とか、色々無茶がありますって!」
「月光は私達も弾けませんでしたし、ピアノに近づいたらフタが落ちてくるってことにしませんか? 弾けたら弾けたで、何かボーナスを出すってどうでしょう?」
「そもそもこれ、予算足りるんですか? 机やピアノは学校の備品を借りるとしても、全然足りない気がするんですけど」
「え、えっと、予算は大丈夫。材料とか機材とかは安く譲ってもらえるアテがあるんだ。射出っていうのはだね……」
 次々出てくる指摘に、岡本はてんやわんやしながらも答えていった。当初は法的にアウトだった無茶な仕掛けは、最終的に安全性のあるものへと改善されていった。
「あと最後、"紫色の姿見持ってる人って、いる?"って何ですか?」
 遠井は呪いの姿見の概要に書かれていたメッセージについて尋ねた。
 度重なる改善点に岡本は疲弊しきっていたが、メッセージについて尋ねられた途端に「それはね!」と元気を取り戻した。
「我々が見つけられなかった呪いの姿見の代わりさ! いくら我々の体験を再現するとはいえ、"七不思議"と銘打つ以上、呪いの姿見を体験できるブースもちゃんと用意しておこうと思ってね」
「それで、紫色の姿見を?」
 遠井の問いに、岡本は頷いた。
「きっと、呪いの姿見というのは"紫の鏡"という都市伝説のオマージュだと思うんだよ。これは"紫の鏡"という言葉を20歳になるまで覚えていたら不幸になる"という都市伝説でね、実際に"紫の鏡"が存在しているわけじゃないんだが、うちの高校ではそれが"実際にある鏡"として伝わったんじゃないだろうか? そしていつしか名を変え、呪いの姿見になったんじゃないか……と、私は睨んでいるのだよ」
「でも、紫色の鏡なんて存在しないですよね? 姿見に色つきのセロファンでも貼ったらいいんじゃないですか?」
「それが、そもそも私は姿見を持っていないのだよ。誰か使っていない姿見を持ってはいないかね? なるべく材料費を抑えたいので、協力してもらえるとありがたいんだが」
 すると、飯沼が「私、持ってますよ」と手を挙げた。
「家に使ってない姿見があるんです。後でセロファンを剥がしてもらえるなら、是非どうぞ」
「おぉ、本当かい?! では姿見は飯沼君に任せよう! ついでに、姿見の脅かし役もやってはもらえないかい? 客と一緒に姿見に写り込むだけでいいんだが」
 岡本の申し出に、飯沼は「ごめんなさい」と申し訳なさそうに目を伏せた。
「実は私、暗いところが苦手なんです。なので、長時間いるのはちょっと」
 代わりに、と飯沼は陽斗に目を向けた。
「贄原君に脅かし役をやってもらいたいです。彼なら安心して、私の姿見を預けられますから」
「飯沼さん……」
 陽斗も飯沼を見る。飯沼は「お願い」と手を合わせ、上目遣いで陽斗に頼んだ。
「お化け屋敷って、怖くて暴れる人もいるでしょ? 使ってない姿見とはいえ、壊されたら困るの。だから、贄原君に姿見をお願いできないかな?」
「いいよ!」
 陽斗は即座に頷いた。
「飯沼さんの大事な物だもん、僕が絶対守ってみせるよ!」
「贄原君……ありがとう」
 飯沼はホッとした様子で表情を和らげる。
 よほど大事な姿見なのだろう、と陽斗は思った。
「じゃあ、呪いの姿見担当は贄原君に決定だね。この調子で他の役割もちゃっちゃと決めていこうか!」
 その後の話し合いの結果、オカルトに詳しい岡本は入り口の案内役を、「楽をしたい」という遠井はほぼ座っているだけでいい男子トイレの太郎くんの管理を、足が速い成田は理科室で客を追いかける骨格標本の役を、暗い場所が苦手な飯沼は出口で客を迎える役に決まった。
「それじゃ、明日から本格的に"節木高校七不思議体験"制作、頑張って行こーう!」
「おーっ!」
 こうして、オカ研によるプロジェクトは始動した。
 ちなみにこの話し合いの間、顧問であるはずの不知火は机に突っ伏して寝ていた。
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