贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

文字の大きさ
上 下
112 / 327
第6話「文化祭(準備)」

壱:オカルト研へ強制連行

しおりを挟む
「……というわけで、うちのクラスの出し物は作品展示に決定しました。具体的な作品のテーマは次回に投票で決めます。絵でも工作でもなんでもいいので、どんな作品を製作したいか、各々考えてきて下さい」
 黒板の前に立った学級委員長がそう指示すると、陽斗のクラスメイト達は皆「はーい」と素直に返事をした。
 長い夏休みが終わり、節木高校は後期に突入した。と同時に、1ヶ月後に控えた文化祭の準備が始まった。
 節木高校では10月に文化祭が行われる。クラスや部活ごとに模擬店を出店したり、研究成果の発表を行なったりと、一般参加者も交えた2日間のお祭り騒ぎになるのだが、多くの生徒は自由な時間を求め、当日忙しくない作品の展示や休憩スペースを希望する。実際、模擬店を運営しているのは部活が大半で、毎年部費を稼ぐために必死に売り捌いている。
 陽斗のクラスも同様で、陽斗を含めた過半数の生徒が「個人で作品を作って展示する展覧会」に賛成し、これに決定した。他のクラスメイト達が「遊べる」と喜ぶ中、陽斗の心境は複雑だった。
(……ホントはもっと大掛かりな出し物がやりたかったけど、放課後も休みの日もバイトで忙しいし、準備が楽な出し物の方がいいよね)
   中学まで文化祭自体がなかった陽斗にとって、文化祭は憧れの存在だった。具体的にどんなことをするのかまでは知らなかったが、「色んな屋台の食べ物を学校で食べられるなんて、楽しみ!」と期待を寄せていた。
 なお、成田と一部の男子はメイド喫茶を希望したが、女子達の大ブーイングにより却下された。
「いいじゃん、メイド喫茶! 絶対繁盛するって!」
   成田はメイド喫茶を諦めきれず、投票ギリギリまで主張し続けたが、
「男子もメイド服を着るならいいけど」
「あ、それなら私も賛成」
「私も」
「いっそ、女装喫茶にする?」
と、だんだん雲行きが怪しくなったため、最後には自ら案を取り下げた。

                           ・

   ホームルームが終わると同時にチャイムが鳴り、昼休みになった。
   その直後、「バンッ!」と勢いよく教室のドアが外から開かれた。文化祭の出し物で盛り上がっていたクラスメイト達は一斉に静まり返り、振り返る。
   そこに立っていたのは、オカルト研究部部長の岡本だった。背後に同じオカ研の部員である遠井と神服部を従え、教室を見回している。最初に陽斗、次に成田を見つけると、両手で指差し、叫んだ。
「確保ーッ!」
   すると後ろにいた遠井と神服部が教室へ駆け込み、遠井が成田の首根っこを、神服部が陽斗の腕を両手でつかみ、そのまま岡本の元へ連行していった。
「え、なに? なんなの??」
「グェッ?! ちょ、遠井! 首締まりそうなんだけど!」
   陽斗と成田は訳が分からず、困惑する。
   他のクラスメイト達も2人が連れ去られていく様子を呆然と眺めていた。
「待って! 2人共、何処行くの?!」
「おい、勝手に陽斗を連れて行くな」
   2人の関係者である蒼劔と飯沼だけは焦った様子で彼らを追いかけ、共に教室を出て行く。
   嵐のように去って行ったオカ研を見て、誰かがボソッと「贄原って、オカ研だったっけ?」と呟いた。

                             ・

   オカ研の部室は顧問の不知火が理科教師である関係か、真逆の分野である理科室があてがわれている。
   陽斗と成田は岡本の先導のもと、理科室へ連れて来られ、椅子に座らせられた。2人をここまで引っ張ってきた遠井と神服部、成り行きでついて来てしまった飯沼と蒼劔も近くの席に座る。不知火は他に用事があるのか、不在だった。
「……では、これよりオカ研緊急会議を行う」
   岡本は教壇に立ち、教卓に両肘をついて両手を口の前で組んだ。眼鏡が蛍光灯の明かりで反射し、意味もなくラスボス感を漂わせていた。
「か、会議って、何するんすか? 俺、何も連絡もらってないんすけど」
   成田は恐る恐る挙手し、質問する。
   岡本は眼鏡の向こうで、つり目がちの目を細め、フッと笑みを浮かべた。
「連絡……してないからね」
「……はぁ」
   なんだかすごいことを言っている風を装っているが、実際はただ連絡し忘れただけである。
   岡本は自らのうっかりを一切恥じることなく、堂々と続けた。
「夏休みに行なった節木高校七不思議調査は、オカ研始まって以来の素晴らしい結果となった。君達にメールで提出してもらったレポートも、臨場感が出ていてとても良かったよ」
   陽斗とオカ研メンバーは稲葉の相談所での一件の翌日、『そういえば、チミ達レポート出してなくない?   メールでいいからすぐに出してくれたまえ』と岡本からレポート催促のメールを受け取っていた。
   陽斗は蒼劔の指示通り、呪いの姿見を見つけたことや猫のお面の女子生徒に襲われたことなどは伏せ、七不思議のレポートを提出した。他のメンバーのレポートは見ていないが、岡本の反応から察するに、満足のいく内容だったらしい。
 岡本は興奮した様子を教卓に拳を叩きつけ、熱く語った。
「そこで、私は考えた! こんな素晴らしい調査結果を、たった1枚のペラ~い紙切れだけで済ませていいものかと?! 否! 断じて否だ! これはもっとデカいスケールで発表せねばならん! そう! 物理的に! てなわけで、はいドーン!」
 掛け声と共に、岡本は教卓の下から大きな紙を取り出し、目の前で広げた。
 そこに書かれていたのは、廊下を挟んで向かい合っている2つの教室の図面だった。実際の図面を基に、室内に壁や小道具が書き加えられている。
 また、2つの教室の一方の出入り口は本来は存在しない通路で繋がっていて、行き来できるような造りになっていた。
「我々オカ研は、文化祭でこの学校の七不思議を擬似体験できる施設を作ることにした!いわゆるお化け屋敷とは違う! あの時味わった興奮を! 感動を! より多くの人々に届けようではないか!」
「イェーイッ!」
 真っ先に賛同したのは、オカルト好きの成田と神服部だった。岡本が拳を突き上げたのに合わせて、2人も揃ってガッツポーズをする。
 一方、元々オカルトを疑っている遠井は「下らない」と溜め息をつき、席を立った。
「俺はそもそも文化祭に参加するつもりがないんで、パスします。文化祭の参加は強制じゃないし、家で勉強してた方がタメになるんで」
 そのまま部屋を出ようと、踵を返す。すると成田がニヤニヤしながら「嘘つけ」と挑発した。
「ホントはお化け屋敷が怖いんだろ? しかも、運営側だからな。うっかり、お化け役に選ばれたらずっとお化け屋敷にいなきゃなんねぇもんなー。ま、俺はお化け屋敷平気人間だけど」
「……誰がお化け屋敷が怖いだと?」
 途端に遠井の足が止まった。振り向きざまに成田を睨み、チッと舌を打つ。
 そして大股で席に戻ってくると、殺意のこもった眼差しで成田に指を突きつけた。
「お前の方こそ、本当はお化け屋敷が怖いんじゃないのか? だからわざわざ俺を挑発しているんだろう?」
「ハァ?! んなわけねーし!」
 成田と遠井が口論を始める中、岡本は彼らを無視し、「君達も参加してくれるだろう?」と陽斗と飯沼に尋ねた。
「この設備を作るには人手が足りないんだ。都合のいい日だけでもいいから、我々を手伝ってはくれないかね?」
「バイト優先でいいなら、いいですよ」
「私も。贄原君も成田君も頑張ってるのに、1人だけ何もしないなんて、嫌ですから」
 都合のいい日だけでも、と言われ、陽斗は即答した。共に話を聞いていた飯沼も岡本の熱意に押されたらしく、快諾する。
 岡本は「おぉ……!」と感動し、教壇から下りて2人の手を握った。
「君達はなんと素晴らしい人間なんだ! 感動した! 君達には名誉オカルト研究部員の称号を与えよう!」
「わーい! 僕もオカ研だー!」
「あ、ありがとうございます?」
 岡本に名誉オカルト研究部員に認められ、陽斗は無邪気に喜び、飯沼は苦笑いした。
 ふと、「そういえば」と岡本は飯沼を見て言った。
「君はどなた?」
「……今更ですか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...