贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第3.5話「成田、塾へ行く」

伍:代返くんの対処法

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 成田と遠井は人気のない裏路地を選んで走り、成田の自宅にたどり着いた。
 成田は息絶え絶えになっている遠井を連れ、階段を上って2階の自室に入った。母親は買い物にでも行っているのか、家にはいなかった。父親に至っては、アメリカに出張中なので、しばらくは帰ってこない。
「疲れただろ? 麦茶でも飲んで、休憩しててくれ」
「ぜぇぜぇ……あぁ、そうさせてもらう」
 成田は途中、台所に寄って拝借してきた冷たい麦茶のボトルを大きなガラスのコップになみなみ注ぎ、遠井に渡した。
 床にへたりこみ、肩で息をしていた遠井はコップを受け取ると、注がれていた麦茶を一気に飲み干した。すぐにおかわりを注ぎ、またも一気飲みする。
「よく飲むなぁ」
「……誰のせいだと思っている?」
「はいはい、メンゴメンゴ」
 成田も麦茶を手に椅子に座り、勉強机の上に置いていたパソコンを立ち上げる。
 そのままブラウザを起動し、ブックマークに登録してある数多くのオカルトサイトから「God Die ちゃんねる」といういかにも怪しげなネーミングのサイトを見つけると、躊躇なくクリックした。IDとパスワードを入れ、サイトを開く。
 すると、黒い背景にミントグリーンのポップな字体で「God Die ちゃんねる」と大きく書かれた、スタイリッシュなサイトが表示された。遠井は後ろから画面を覗き込み、成田に疑いの目を向けた。
「ずいぶん洒落たホームページだな。本当にオカルトサイトか?」
「そのまさかだ。数あるオカルトサイトの中で1番の老舗で、妖怪や霊の対処法なんかも載ってんだよ」
 成田はサイトの「妖怪一覧」から代返くんについて書かれたページを探し当て、掲載されている内容を読み上げた。
「“代返くんとは、代返をした人物に成り代わる妖怪。塾を休みたい塾生の前に現れ、代返を持ちかけてくる。代返を頼むと、自分の存在を代返くんに奪われてしまい、他者から知覚されなくなってしまう。学ランを着た小柄な男子生徒で、一見すると妖怪には見えない。各地の塾を転々とし、近年(20XX年4月頃)は節木県節木市節木町の塾で頻繁に目撃されている。元人間(本名大片努おおかたつとむ。東京都X市出身)。生前は大学受験のために塾へかよっていたが、友人と遊びたいばかりに他の塾生に代返を頼み、それが講師にバレたせいで塾をやめさせられてしまう。その結果、代返くんは受験に失敗。“僕は塾をやめさせられたせいで、志望校に受からなかったんだ”と、自分をやめさせた塾と、その原因になった塾生を逆恨みし、失踪。復讐心から妖怪になった”」
「ずいぶん勝手なやつだな」
「同感。世の中には塾に行ってなくても、大学に受かるやつなんてたくさんいるのにな。結局は、自分が勉強してなかったのが悪いんだよ」
「……お前だって、勉強してないじゃないか」
「俺は他人のせいにしないからいいんだよ。にしても、相変わらず情報が細けぇな。妖怪の本名とか出身地とか、どうやって調べたんだ? さて、代返くんの対処法は、と……」
 成田は代返くんのページをスクロールし、その対処法を探した。
 今まで代返くんが原因と思われる失踪事件、これまでの移動経路、代返くんが生前にかよっていた塾の末路などの情報の中で、1番肝心の代返くんの対処法は、たった数行で終わっていた。
「なになに……“代返くんによる成り代わりは、代返相手が塾を辞める時期になると、自動的に解消される。つまり、受験生なら受験が終わる時期、夏季講習なら夏休みが終われば、元に戻る”……って、それじゃ意味ねぇじゃねぇか!」
 あまりに投げやりな対処法に成田は怒り、思わずテーブルを叩いた。
「あいつらはみんな、勉強をしたくて塾に来てるんだぞ? いくら休みたくて代返を頼んだとはいえ、そんな長期間待てるか!」
「だが、対処法はそれだけしか書いてないんだろ? だったら、もう諦めるしかないんじゃないか?」
「……そういうわけにはいかねぇよ。あいつらに約束してきたんだ。明日までにケリつけてくるって」
 その時、パソコンが「ピロン」と音を立て、メールを受信した。送信者は「God Die ちゃんねる運営者」だった。
「運営からメール……? なんだろ」
「気をつけろよ。なりすましかもしれない」
「……オカルトよりも、そっちの方が怖ぇな」
 成田は恐る恐るメールを開き、文面を読んだ。
「“このメールは「代返くん」のページを一定時間閲覧した方にのみ、送信しています。NARITOMO様、日頃からGod Die ちゃんねるをご利用頂き、誠にありがとうございます。「代返くん」の対処法について、追加情報をお伝えいたします。情報の濫用を防ぐため、第三者にはこの情報を教えないで下さい。なお、このメールは10分後に破棄されます。何卒、ご理解とご協力の程、よろしくお願い致します”……だってよ。つーわけで、後ろ向け」
「ふん。妖怪の対処法なんて、はなから興味ないな」
 遠井は成田に指示された通り、パソコンの画面から視線をそらし、後ろを向いた。
 成田は遠井が後ろを向いたのを確認し、メールの続きを黙読した。
「はぁ?! “代返くんを塾の建物から出せば、すぐに戻る”?! サイトに載ってる方法よりも、遥かに楽じゃねぇか! そんな画期的な情報、出し渋んなよ!」
「おい。思い切り、声に出てるぞ」
「あっ」
 成田は自分の口に手を当て、振り向く。遠井は後ろを向いたままだったが、成田が声に出してしまった以上、無意味だった。
「……遠井、ちょっとUFO呼んで、宇宙人に記憶操作されてきてくんね? もしくは、そのまま宇宙人と一緒に、しばらく宇宙探索に行ってきてくれ」
「お前、俺のこと嫌い過ぎるだろ。そもそも、どうやってUFOを呼べばいい?」
 遠井は険しい顔で振り返り、成田を睨んだ。
 成田は遠井の冷たい眼差しに臆することなく、真顔で言った。
「呼ぶ方法は任せる」
「任せるな。それに記憶を消さなくとも、俺もその代返くんとかいうやつを塾から追い出す手伝いをすれば、このサイトの運営が言う“第三者”には該当しないんじゃないか?」
 成田は遠井の提案に、「そ、そうか!」と手を打った。
「それなら遠井を宇宙人に連れて行ってもらわなくても、済むな! さすが、遠井! 部活の雑用を俺に押しつけている間に、塾で勉強してるだけあって、賢いな!」
「さりげなく嫌味を言うな」
 その後も2人はいがみ合いながらも、代返くんを塾から追い出す算段を立てた。
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