贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第5.5話「スイカ・ロシアンルーレット」

参:生首西瓜

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「それにしても、成田君と神服部さんが無事で良かったよ」
「私は少し不満だがね。この目で除霊する瞬間を見たかった」
「部長……」
 陽斗達は成田と神服部の無事に安堵し、稲葉が持ってきた冷たい麦茶を飲みながら談笑していた。
 一方、稲葉は深刻な面持ちで蒼劔を手招きし、部屋の外へ連れ出した。
「で? 何故、生首西瓜が冷蔵庫に紛れ込んだ?」
「その前に、あの男は何だ?! 霊留マッテマス試験紙があのような状態になったことなど、今まで一度もないぞ?!」
 蒼劔は不知火に怯える稲葉をなだめ、「俺も知りたい」と眉をひそめた。
「硫酸を舐めても平気な奴だからな……術者だったとしても、相当イカれている。だが、おそらく成田と神服部を除霊したのは、不知火だ。どんな方法を行なったのかは知らんが、俺が霊共の相手をしている間に済ませたのだろう」
「馬鹿な……人間に憑依した霊を除霊するには、相応の儀式が必要なのだぞ? それを、お前が気づかぬ間に遂行しただと? あり得ん……」
 稲葉は不知火がどのように除霊したのか考察していたが、一向に答えが見つからないと「まぁ、えぇじゃろ」と諦めた。
「術者であると知られたくないようだし、そっとしておいてやろう。今は生首西瓜のことだ」
 稲葉は部屋のドアを見つめ、経緯を話した。
「1週間前、依頼の礼にと大量にスイカをもらった。部屋を埋め尽くしておったあれら、全てだ。どうも、その内の1箱に生首西瓜が紛れておったようでの。冷蔵庫に仕舞っておいたスイカが1玉増えとると気づいた時には、どれが生首西瓜か分からなくなっておった」
 生首西瓜とは、その昔斬首された罪人が生首の怨霊となってさまよう内に「スイカに化けていれば、人間に気づかれずに近づけるのでは」とスイカそっくりに進化した妖怪である。
 普段は妖力を抑え、本物そっくりに化けているが、人間を襲う際は口をパックリと開き、スイカの種のように真っ黒な鋭い歯で噛みついてくるという。生首西瓜は術者でも見つけるのが困難で、毎年怪我人が後を絶たないらしい。
 困った様子の稲葉に、蒼劔は首を傾げた。
「冷蔵庫の中に入っているスイカを全て処分すればいいではないか」
 しかし稲葉は首を振った。
「そうはいかん! 貴重なお客さんからもらったスイカだぞ?! もし、処分したなんて知られたら、客が来なくなるやもしれん!」
「……客商売とは面倒なものだな。仕方ない。少し待っていろ」
 蒼劔は心の中で五代に呼びかけ、「黒縄に稲葉心霊相談所へ来るよう伝えろ」と伝えた。妖力の気配に敏感な黒縄なら、すぐにどれが生首西瓜か分かると思った。
 学校でピンチになった際も五代を通して黒縄に助けを求めたのだが、直後に稲葉のスマホへ電話をかけてきた五代は『NO!』と断った。
『黒縄氏をもっかい起こすなんて無理ゲーだお! さっきはたまたま“蒼劔がピンチとかまじウケる(笑)”って、黒縄氏のテンションが上がったから行ってくれたけど、今は完全に熟睡してるから無理! オイラのライフがゼロになっても行かないね、絶対!』
「チッ……自分勝手な奴め」
 蒼劔は通話を切るとスマホを稲葉へ返し、重く息を吐いた。
「仕方ない。1つ1つ切って、確認するしかないな。確か奴らは傷を負っても、即時回復する性質を持っていたはずだ。それを逆手にとって、奴がどのスイカか見極めよう」
「わ、分かった。切るのは儂がやろう。だが、本物のスイカだと分かったらどうする? 切ってもある程度は保存が効くが、儂1人では腐らせてしまうぞ」
「知るか、食え。……と、言いたいところだが、貴様には世話になっているからな。切ったスイカはきちんと処理しよう。奴らにも手伝わせる」
「奴ら?」

         ・

 オカルト研究部の面々は稲葉から生首西瓜の話を聞いた途端、目を輝かせた。
「生首西瓜があの冷蔵庫の中に?!」
「マジっすか?!」
「あの夏の風物詩、生首西瓜が?! どうして?!」
 興奮した様子で稲葉へ詰め寄り、矢継ぎ早に質問を投げかけていく。
 1人、生首西瓜が何なのか分からない陽斗は白熱する彼らをぽけーっと眺めていた。
「蒼劔君、生首西瓜って?」
「スイカの姿をした妖怪で、人を襲う危険な奴だ。気配を消すのが得意で、俺にはどれが生首西瓜なのか分からなかった。だから、これから1つ1つ切って確かめる。お前達には、切ってしまった本物のスイカを食べてもらいたい。稲葉が1人では処理しきれんらしいからな」
「へー、スイカの妖怪なんているんだね。僕もスイカいっぱい食べて、協力するよ! じゅるり」
 陽斗はオカルト研究部のメンバーとは別のことで目を輝かせ、口から垂れそうになった唾液を飲み込んだ。
「……お前はただスイカが食べたいだけじゃないのか?」
「うん! スイカ大好き!」

         ・
 こうして、生首西瓜捜索が始まった。
 問題だったのは、100個ものスイカが業務用冷蔵庫の中に入っていたことだった。「術を使って、中を広げている」と稲葉は得意げに言っていたが、完全に裏目に出ていた。
「せっかくだし、遠井君も呼ぼうか! もしかしたら、彼が霊に憑依されているかもしれないし!」
「憑依されているかはともかく、スイカ処理要因が増えるのはいいっすね!」
「1人でも食べてくれる人がいれば、心強いです」
 岡本がスマホで遠井に連絡すると、遠井は思いのほかすぐに来た。制服から黒いTシャツとジーパンに着替えていた。
「遠井君、来るの早いね?!」
「家が近所なんだよ。あと、部長。やっぱモバイルバッテリー今返して下さい。明日塾に持って行こうと思ってたの忘れてました。充電してなくていいんで」
 遠井にも事情を話して協力してもらい、一同はひたすらスイカを食べ続けた。食べては切り、切っては食べ、冷蔵庫の中のスイカを処理していく。
 次第に口数は少なくなっていき、麦茶を飲む回数が増えていった。最初と同じペースでスイカを食べているのは陽斗、蒼劔、不知火の3人だけだった。
「稲葉さん、これで何玉目ですか?」
 陽斗は美味しそうにもぐもぐしながら、ぐったりとうつむいている稲葉に尋ねた。
「10玉だ……あと90玉だな」
「90玉かー。先は長いですね」
「……君、よく食べれるな。スイカが好きなのかい?」
「はい! 今年は食べられないと思ってたので、嬉しいです! もし稲葉さんが1人で食べられないなら、帰りに何玉かもらってもいいですか?」
「あぁ……いくらでも持って帰ってくれ」
「やったー! 朱羅さんに頼んで、フルーツポンチ作ってもらおーっと!」
 陽斗はレシピ本に載っていた、スイカを器にしたフルーツポンチを創造して「むふふ」と笑みをこぼしながらスイカにかぶりついた。
「陽斗、よく食うなぁ……」
「1人で2人分食べているんじゃないか?」
 既にギブアップした成田と遠井は陽斗の皿に乗った異常な量のスイカの皮を見て、恐れおののいていた。
 なお、蒼劔が食べた皮も陽斗の皿に乗っているため、2人は本当に陽斗がその量を食べたと思い込んでいた。
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