104 / 327
第5話「節木高校七不思議」
拾伍:調査終了
しおりを挟む
岡本は遠井が提出したレポートを確認しながら、ムフフと笑った。
「それにしても、今回の調査は過去最大に有意義だったなぁ。『増える階段』が不審者オチだったのと、『呪われた姿身』が見つからなかったのは残念だったが、これも実地調査の醍醐味というものだよ。今年の文化祭の発表は、ちょっとばかし趣向を凝らす必要があるなぁ……ふっふっふ」
岡本の不気味な笑い声に、神服部は何故かゾッとした。
「なんだか嫌な予感がする……部長、また何か良からぬことでも企んでるのかしら」
ふと、神服部は岡本が持っているバインダーを見て「あっ!」と声を上げた。何か重大なことを思い出したらしく、青ざめている。
ポケットを探り、中にハンカチとティッシュとスマホしか入っていないことを確かめ、目当てのものを持っていないと分かると愕然とした。
「贄原君、どうしよう……! 私、バインダーと鉛筆を学校に置いてきちゃった! たぶん、倒れた時に廊下に落ちちゃったんだと思うんだけど……知らない?」
神服部は隣にいた陽斗に小声で耳打ちし、バインダーと鉛筆の行方を尋ねた。不知火に背負われている成田も神服部同様、持っていなかった。
すると陽斗はポカン、とした表情で首を傾げた。
「バインダーと鉛筆って?」
そう答えた陽斗の手にも、バインダーと鉛筆は握られていなかった。そもそも、バインダーと鉛筆の存在を忘れていた。
家庭科室で呪われた姿身が入っていた引き出しを開ける際に棚の上に置いたのだが、その後色々あり過ぎて、気づかなかったのだ。
成田と神服部のバインダーと鉛筆は、2人が憑依された拍子に廊下に転がっていたが、見過ごされていた。
「ほら、最初に部長から渡されたでしょ? 今日の調査結果を書き留めておくようにって」
「そうだったっけ? 後で紙に書いて、部長さんに渡せばいいんじゃない? あの様子じゃ、中には入れないし」
陽斗は2つの校舎を振り返り、中にいる霊達に視線を向けた。正門はちょうど2つの校門の間にあり、双方の霊から見下ろされていた。
霊達は廊下に整列し、窓に向かって立っていた。学ラン、セーラー服、ブレザー、ジャージ、夏服、冬服、とバラバラの制服をまとい、青白い顔で立っている。薄暗い廊下で顔だけがうっすら浮かび上がって見え、不気味だった。
神服部は陽斗に言われて、初めて霊の存在に気づき、絶句した。
「私達……さっきまであの中にいたの?」
「そだよー。結構ピンチだったんだけど、蒼劔君が黒縄君を呼んでくれたおかげで、助かったんだ。黒縄君って、なんだかんだ言って、いい鬼さんだよねー」
陽斗はうっかり蒼劔と黒縄のことを口にしたが、その頃には神服部はショックで気絶し、不知火に支えられていた。
陽斗も言い終わってから神服部が意識を失っていることに気づき「だ、大丈夫?!」と彼女を背負い直した。
「神服部さんって、繊細な子なんだなー。内緒にしとけば良かったかも」
「そう言う君は、ずいぶん霊に慣れているのだね」
不知火は成田を背負い直し、探るように陽斗に言った。
蒼劔は敢えて会話には入らず、遠巻きに不知火の言葉に耳を澄ませる。
「えー?! そんなことないですよぉ! 僕だって、急に脅かされたらびっくりしますし!」
不知火に褒められ、うっかり霊が見えることを肯定する。幸い、岡本は校内で撮った写真を確認していて話を聞いていなかった。
蒼劔もそのことに気づき、「いや、否定しろよ」と眉をひそめた。
「先生は霊、見えないんですか? みんなは何故かハッキリと見えてるみたいですけど」
陽斗の疑問に、蒼劔が答えた。
「あいつらが見えているのは、一時的に高濃度の妖力に触れたせいだ。どういう仕組みかは分からんが、お前の学校は0時のチャイムが鳴った瞬間に異界と同期するらしい。霊共が急に現れたのもそのせいだ。日の出までに出ないと二度と出られないというのも、異界へ迷い込んで霊になってしまうせいだろうな」
「えぇっ?! うちの学校ってそんな危ない学校だったの?! 全然知らなかった……」
「校長が0時までに帰れと言ったのも、そのことに薄々気づいていたからかもしれんな」
不知火は蒼劔が説明し終わるのを待ってから、口を開いた。
「私はみんなのようにハッキリとは見えないんだ。モヤのようにしか見えなくて、そこに何がいるのかすら分からないのだよ」
「てことは、ここにいる蒼劔君のこともモヤにしか見えてないってことですか?」
陽斗は蒼劔を手で指し示し、無意識に不知火を試すような質問を投げかけた。
学校の異界は限定的に効力を発揮するものらしく、蒼劔の姿はオカルト研究部の部員達には見えていなかった。もし、不知火がモヤでも蒼劔の姿が見えていると言えば、それは学校の異界とは関係なく、異形の姿が見えていることになる。
陽斗の意外な質問に蒼劔と不知火は驚き、目を見張った。不知火は「うーん」としばし考えた末、答えた。
「見えていない……ということにしておくよ」
不知火の曖昧な答えに、陽斗と蒼劔は疑いの目を向けた。
「……それって、どっちなんですか?」
「ハッキリ言え、不知火。どうせ見えているのだろう?」
しかし不知火はそれきり質問に答えなくなってしまい、「今夜も星が綺麗だねぇ」と空を見上げていた。
・
陽斗は電話で稲葉を呼び出し、迎えに来てもらうよう頼んでいた。やがて1台のワゴン車が正門に到着すると全員乗り込み、学校を去っていった。
その様子を、猫の面をつけた女子生徒が実習棟の屋上から見下ろしていた。黒縄は早々に追うのを諦めてしまったが、彼女は屋上から3階へ続く階段の裏側に逆さで立ち、潜んでいたのだった。
「忌々しい……まさか、黒縄まで味方にするなんてね。蒼劔を連れてたことも予想外だったけど、あの2人が共闘するとは思わなかったわ」
猫の面の女子生徒は先ほど会った黒縄の姿を思い返し、苛立つ。よほど彼らが手を組むのが気に入らないらしい。
しかしすぐに「でも、」と別の人物の姿を思い浮かべ、眉をひそめた。
「1番厄介なのは不知火ね。私をフライパン1つで退けるなんて、規格外もいいところだわ。異形が見えているということは、少なくともただの一般人ではないんでしょうけど」
わずかに痛む腕をさすり、ワゴン車が去っていった方向を見つめる。彼女にも不知火の正体は分からなかった。
「そういえば……あれ、どうしよう? 持っていても使わないし、こっそり贄原君の机にでも置いておこうかしら」
ふと、猫の面の女子生徒は先ほど家庭科室と1階の廊下で拾った3セットのバインダーと鉛筆の存在を思い出し、困った様子で首を傾げた。
調査に夢中になっていた陽斗の紙はほぼ真っ白で、何も書かれていなかった。
(第5話「節木高校七不思議」終わり)
「それにしても、今回の調査は過去最大に有意義だったなぁ。『増える階段』が不審者オチだったのと、『呪われた姿身』が見つからなかったのは残念だったが、これも実地調査の醍醐味というものだよ。今年の文化祭の発表は、ちょっとばかし趣向を凝らす必要があるなぁ……ふっふっふ」
岡本の不気味な笑い声に、神服部は何故かゾッとした。
「なんだか嫌な予感がする……部長、また何か良からぬことでも企んでるのかしら」
ふと、神服部は岡本が持っているバインダーを見て「あっ!」と声を上げた。何か重大なことを思い出したらしく、青ざめている。
ポケットを探り、中にハンカチとティッシュとスマホしか入っていないことを確かめ、目当てのものを持っていないと分かると愕然とした。
「贄原君、どうしよう……! 私、バインダーと鉛筆を学校に置いてきちゃった! たぶん、倒れた時に廊下に落ちちゃったんだと思うんだけど……知らない?」
神服部は隣にいた陽斗に小声で耳打ちし、バインダーと鉛筆の行方を尋ねた。不知火に背負われている成田も神服部同様、持っていなかった。
すると陽斗はポカン、とした表情で首を傾げた。
「バインダーと鉛筆って?」
そう答えた陽斗の手にも、バインダーと鉛筆は握られていなかった。そもそも、バインダーと鉛筆の存在を忘れていた。
家庭科室で呪われた姿身が入っていた引き出しを開ける際に棚の上に置いたのだが、その後色々あり過ぎて、気づかなかったのだ。
成田と神服部のバインダーと鉛筆は、2人が憑依された拍子に廊下に転がっていたが、見過ごされていた。
「ほら、最初に部長から渡されたでしょ? 今日の調査結果を書き留めておくようにって」
「そうだったっけ? 後で紙に書いて、部長さんに渡せばいいんじゃない? あの様子じゃ、中には入れないし」
陽斗は2つの校舎を振り返り、中にいる霊達に視線を向けた。正門はちょうど2つの校門の間にあり、双方の霊から見下ろされていた。
霊達は廊下に整列し、窓に向かって立っていた。学ラン、セーラー服、ブレザー、ジャージ、夏服、冬服、とバラバラの制服をまとい、青白い顔で立っている。薄暗い廊下で顔だけがうっすら浮かび上がって見え、不気味だった。
神服部は陽斗に言われて、初めて霊の存在に気づき、絶句した。
「私達……さっきまであの中にいたの?」
「そだよー。結構ピンチだったんだけど、蒼劔君が黒縄君を呼んでくれたおかげで、助かったんだ。黒縄君って、なんだかんだ言って、いい鬼さんだよねー」
陽斗はうっかり蒼劔と黒縄のことを口にしたが、その頃には神服部はショックで気絶し、不知火に支えられていた。
陽斗も言い終わってから神服部が意識を失っていることに気づき「だ、大丈夫?!」と彼女を背負い直した。
「神服部さんって、繊細な子なんだなー。内緒にしとけば良かったかも」
「そう言う君は、ずいぶん霊に慣れているのだね」
不知火は成田を背負い直し、探るように陽斗に言った。
蒼劔は敢えて会話には入らず、遠巻きに不知火の言葉に耳を澄ませる。
「えー?! そんなことないですよぉ! 僕だって、急に脅かされたらびっくりしますし!」
不知火に褒められ、うっかり霊が見えることを肯定する。幸い、岡本は校内で撮った写真を確認していて話を聞いていなかった。
蒼劔もそのことに気づき、「いや、否定しろよ」と眉をひそめた。
「先生は霊、見えないんですか? みんなは何故かハッキリと見えてるみたいですけど」
陽斗の疑問に、蒼劔が答えた。
「あいつらが見えているのは、一時的に高濃度の妖力に触れたせいだ。どういう仕組みかは分からんが、お前の学校は0時のチャイムが鳴った瞬間に異界と同期するらしい。霊共が急に現れたのもそのせいだ。日の出までに出ないと二度と出られないというのも、異界へ迷い込んで霊になってしまうせいだろうな」
「えぇっ?! うちの学校ってそんな危ない学校だったの?! 全然知らなかった……」
「校長が0時までに帰れと言ったのも、そのことに薄々気づいていたからかもしれんな」
不知火は蒼劔が説明し終わるのを待ってから、口を開いた。
「私はみんなのようにハッキリとは見えないんだ。モヤのようにしか見えなくて、そこに何がいるのかすら分からないのだよ」
「てことは、ここにいる蒼劔君のこともモヤにしか見えてないってことですか?」
陽斗は蒼劔を手で指し示し、無意識に不知火を試すような質問を投げかけた。
学校の異界は限定的に効力を発揮するものらしく、蒼劔の姿はオカルト研究部の部員達には見えていなかった。もし、不知火がモヤでも蒼劔の姿が見えていると言えば、それは学校の異界とは関係なく、異形の姿が見えていることになる。
陽斗の意外な質問に蒼劔と不知火は驚き、目を見張った。不知火は「うーん」としばし考えた末、答えた。
「見えていない……ということにしておくよ」
不知火の曖昧な答えに、陽斗と蒼劔は疑いの目を向けた。
「……それって、どっちなんですか?」
「ハッキリ言え、不知火。どうせ見えているのだろう?」
しかし不知火はそれきり質問に答えなくなってしまい、「今夜も星が綺麗だねぇ」と空を見上げていた。
・
陽斗は電話で稲葉を呼び出し、迎えに来てもらうよう頼んでいた。やがて1台のワゴン車が正門に到着すると全員乗り込み、学校を去っていった。
その様子を、猫の面をつけた女子生徒が実習棟の屋上から見下ろしていた。黒縄は早々に追うのを諦めてしまったが、彼女は屋上から3階へ続く階段の裏側に逆さで立ち、潜んでいたのだった。
「忌々しい……まさか、黒縄まで味方にするなんてね。蒼劔を連れてたことも予想外だったけど、あの2人が共闘するとは思わなかったわ」
猫の面の女子生徒は先ほど会った黒縄の姿を思い返し、苛立つ。よほど彼らが手を組むのが気に入らないらしい。
しかしすぐに「でも、」と別の人物の姿を思い浮かべ、眉をひそめた。
「1番厄介なのは不知火ね。私をフライパン1つで退けるなんて、規格外もいいところだわ。異形が見えているということは、少なくともただの一般人ではないんでしょうけど」
わずかに痛む腕をさすり、ワゴン車が去っていった方向を見つめる。彼女にも不知火の正体は分からなかった。
「そういえば……あれ、どうしよう? 持っていても使わないし、こっそり贄原君の机にでも置いておこうかしら」
ふと、猫の面の女子生徒は先ほど家庭科室と1階の廊下で拾った3セットのバインダーと鉛筆の存在を思い出し、困った様子で首を傾げた。
調査に夢中になっていた陽斗の紙はほぼ真っ白で、何も書かれていなかった。
(第5話「節木高校七不思議」終わり)
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる