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第5話「節木高校七不思議」
拾壱:猫のお面の女子生徒
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「……仕方ないな」
その直後、陽斗の首を絞めていた女子生徒の腕にフライパンが叩きつけられた。
「キャッ!」
女子生徒は短く悲鳴を上げ、陽斗の首から手を離した。そのまま鏡の中へ沈み、姿を消す。
フライパンの主は女子生徒が鏡の中へ戻ったのを確認すると、引き出しを足で押し込み、開けられないよう四方をガムテープでキッチリ止めた。
「はぁ、はぁ……ありがとうございます、不知火先生。助かりました」
陽斗は息を整え、フライパンを手に立っている不知火に礼を言った。
「私は教師だからね。生徒の危険を見過ごすわけにはいかないよ」
不知火は陽斗に手を差し伸べ、表情のない顔で返す。
陽斗はその手を取って立ち上がると、困ったように引き出しを見た。
「どうします? きっと、これが呪いの姿見なんですよね?」
「……このままにしておこう。場所も、みんなには教えない方がいい。岡本君には“見つからなかった”と報告しよう」
不知火はフライパンがへこんでいないか確認すると、準備室に戻しに行った。
「陽斗、何か見つかったか?」
入れ替わりに、蒼劔が歩み寄ってきた。
「もう! 蒼劔君、何やってたの?! 僕、すっごいピンチだったんだからね?!」
陽斗はプンスコ怒りながら、呪いの姿見を見つけたこと、そこから出てきた猫の面の女子生徒に首を絞められ、鏡の中へ引き込まれそうになったことを話した。
「不知火先生が助けてくれたから良かったけど、あのまま鏡の中に入れられてたら、二度と出て来られないとこだったんだよ!」
珍しく憤慨する陽斗に、蒼劔もたじたじになる。
「す、すまない……全く気づかなかった。おそらく、その女子生徒は気配を遮断させる術を使っていたのだろう。相手は猫の面をかぶっていたと言ったな? 山根のレストランに来ていた女も猫の面をかぶっていたし、2人は同一人物なのかもしれん」
「その人って、僕を助けてくれた女の人のこと? でも、僕がさっき見た子はうちの生徒だったよ?」
「俺達の世界において、姿を変えることは造作もない。ただ、彼女が術者だとすると、話は別だ。気配遮断術と変身術を同時にこなせるとすれば、相当の腕の持ち主だろう」
だが、と蒼劔は目を伏せ、引き出しに視線を向ける。
「奴の行動原理が分からん。前回は陽斗を助け、今回は陽斗を襲った……一体、何が目的だ? 少なくとも、この部屋に霊鍛草を持ち込んだ犯人である可能性は1番高いが」
「きっと、世間ではあのお面が流行ってるんだよ! あの2人が同じ人だなんて、僕には考えられないな」
「……だといいんだが」
そこへ不知火が準備室に鍵をかけ、戻ってきた。
「他の場所も一応探しておこう。呪いの姿見は1つではないかもしれないし」
「えぇーっ?! 僕もう、あんな怖い目に遭いたくないんですけど!」
「大丈夫。今度は手分けしないで、固まって探そう。それなら、何かあっても対処できるだろう?」
不知火は陽斗に向かって話していたが、蒼劔には彼の最後の言葉が、自分への挑発のように聞こえた。
『背後で贄原君が襲われていたのに気づかないとは、情けない。仕方ないから、一緒に行動していたまえ。それなら彼に何があっても、すぐに気づけるだろう? フハハハ』
という具合で、不知火が心の中で嘲笑っているような気がした。
蒼劔は妄想の中の不知火に殺意を抱き、現実の不知火を鋭く睨んだ。
「……効率は悪いが、致し方あるまい。だが、貴様も教師の端くれならば、生徒を守るのが仕事だろう? 戦えるのなら、少しは手を貸せ」
「……?」
不知火はポカンとした顔で首を傾げる。
慌てて陽斗は「すみません」と不知火に謝り、小声で蒼劔に注意した。
「ダメだよ、蒼劔君。見えないからって、不知火先生を睨んじゃ」
「いや……あいつは俺の姿が見えている。他の異形の姿もな。その上で、成田達を見殺しにしようとしたんだ。遠井が首を吊られそうになった時も、男子トイレから霊が飛び出してきた時も、理科室で骨格標本に追われていた時も……。猫の面の女子生徒からお前を助けた理由は、よく分からんがな。もしかしたら、奴が霊鍛草をここへ持ち込み、それを猫の面の女子生徒に奪われたのかもしれん」
「えぇっ?! で、でもなんのために?」
「そりゃ、学校で使うためだろう。生徒か教師か……学校関係者の誰かに霊鍛草を与え、霊力を増幅させる気なのかもしれん。術者の中には未だに人間を生贄として使い、異形を使役する連中もいると聞くしな」
「そんな……!」
陽斗は愕然とした。頼りにしていた教師が、そんな卑劣なことをするはずがない、と。
咄嗟に不知火を振り返り、疑いの目を向ける。
「ふぁっ」
すると不知火はちょうど、あくびをしていた。眠そうに目をこすり、立っているのもままならないほどフラフラしている。
「せ、先生、大丈夫ですか?」
陽斗は不知火への懐疑心を忘れ、心配そうに声をかけた。
不知火はふるふると首を振り、「むちゃくちゃ眠い」と断言した。
「そろそろ帰らないと、途中で寝てしまうかもしれない」
「普段は何時くらいに寝てるんですか?」
「……10時」
「早っ! じゃあ早く終わらせて、帰りましょう! 七不思議はあと1つなんですよね? どんな噂かは知らないけど、見つけたらすぐに蒼劔君に斬ってもらいますから、もうちょっとだけ我慢してて下さいね」
「早めに頼んだよ」
眠気をこらえる不知火に、陽斗はすっかり危機感を忘れ、同情した。
しかし蒼劔は尚も不信感を抱き、不知火を睨み続けていた。
・
その後、陽斗達は3階の他の教室を探し、呪いの姿見がないのを確認すると、成田達が戻ってくるのを廊下で待った。
陽斗がスマホで時刻を確認すると、残り数秒で日付が変わろうとしていた。
「そろそろ日付が変わっちゃいますね。成田君達、遅いなー」
「いっそ、迎えに行ったらどうだ? こうして待っていても、埒が明かんだろう?」
「でも、入れ違いになったら困るでしょ? 気長に待ってようよ」
その時、校内にチャイムが鳴り響いた。
その直後、陽斗の首を絞めていた女子生徒の腕にフライパンが叩きつけられた。
「キャッ!」
女子生徒は短く悲鳴を上げ、陽斗の首から手を離した。そのまま鏡の中へ沈み、姿を消す。
フライパンの主は女子生徒が鏡の中へ戻ったのを確認すると、引き出しを足で押し込み、開けられないよう四方をガムテープでキッチリ止めた。
「はぁ、はぁ……ありがとうございます、不知火先生。助かりました」
陽斗は息を整え、フライパンを手に立っている不知火に礼を言った。
「私は教師だからね。生徒の危険を見過ごすわけにはいかないよ」
不知火は陽斗に手を差し伸べ、表情のない顔で返す。
陽斗はその手を取って立ち上がると、困ったように引き出しを見た。
「どうします? きっと、これが呪いの姿見なんですよね?」
「……このままにしておこう。場所も、みんなには教えない方がいい。岡本君には“見つからなかった”と報告しよう」
不知火はフライパンがへこんでいないか確認すると、準備室に戻しに行った。
「陽斗、何か見つかったか?」
入れ替わりに、蒼劔が歩み寄ってきた。
「もう! 蒼劔君、何やってたの?! 僕、すっごいピンチだったんだからね?!」
陽斗はプンスコ怒りながら、呪いの姿見を見つけたこと、そこから出てきた猫の面の女子生徒に首を絞められ、鏡の中へ引き込まれそうになったことを話した。
「不知火先生が助けてくれたから良かったけど、あのまま鏡の中に入れられてたら、二度と出て来られないとこだったんだよ!」
珍しく憤慨する陽斗に、蒼劔もたじたじになる。
「す、すまない……全く気づかなかった。おそらく、その女子生徒は気配を遮断させる術を使っていたのだろう。相手は猫の面をかぶっていたと言ったな? 山根のレストランに来ていた女も猫の面をかぶっていたし、2人は同一人物なのかもしれん」
「その人って、僕を助けてくれた女の人のこと? でも、僕がさっき見た子はうちの生徒だったよ?」
「俺達の世界において、姿を変えることは造作もない。ただ、彼女が術者だとすると、話は別だ。気配遮断術と変身術を同時にこなせるとすれば、相当の腕の持ち主だろう」
だが、と蒼劔は目を伏せ、引き出しに視線を向ける。
「奴の行動原理が分からん。前回は陽斗を助け、今回は陽斗を襲った……一体、何が目的だ? 少なくとも、この部屋に霊鍛草を持ち込んだ犯人である可能性は1番高いが」
「きっと、世間ではあのお面が流行ってるんだよ! あの2人が同じ人だなんて、僕には考えられないな」
「……だといいんだが」
そこへ不知火が準備室に鍵をかけ、戻ってきた。
「他の場所も一応探しておこう。呪いの姿見は1つではないかもしれないし」
「えぇーっ?! 僕もう、あんな怖い目に遭いたくないんですけど!」
「大丈夫。今度は手分けしないで、固まって探そう。それなら、何かあっても対処できるだろう?」
不知火は陽斗に向かって話していたが、蒼劔には彼の最後の言葉が、自分への挑発のように聞こえた。
『背後で贄原君が襲われていたのに気づかないとは、情けない。仕方ないから、一緒に行動していたまえ。それなら彼に何があっても、すぐに気づけるだろう? フハハハ』
という具合で、不知火が心の中で嘲笑っているような気がした。
蒼劔は妄想の中の不知火に殺意を抱き、現実の不知火を鋭く睨んだ。
「……効率は悪いが、致し方あるまい。だが、貴様も教師の端くれならば、生徒を守るのが仕事だろう? 戦えるのなら、少しは手を貸せ」
「……?」
不知火はポカンとした顔で首を傾げる。
慌てて陽斗は「すみません」と不知火に謝り、小声で蒼劔に注意した。
「ダメだよ、蒼劔君。見えないからって、不知火先生を睨んじゃ」
「いや……あいつは俺の姿が見えている。他の異形の姿もな。その上で、成田達を見殺しにしようとしたんだ。遠井が首を吊られそうになった時も、男子トイレから霊が飛び出してきた時も、理科室で骨格標本に追われていた時も……。猫の面の女子生徒からお前を助けた理由は、よく分からんがな。もしかしたら、奴が霊鍛草をここへ持ち込み、それを猫の面の女子生徒に奪われたのかもしれん」
「えぇっ?! で、でもなんのために?」
「そりゃ、学校で使うためだろう。生徒か教師か……学校関係者の誰かに霊鍛草を与え、霊力を増幅させる気なのかもしれん。術者の中には未だに人間を生贄として使い、異形を使役する連中もいると聞くしな」
「そんな……!」
陽斗は愕然とした。頼りにしていた教師が、そんな卑劣なことをするはずがない、と。
咄嗟に不知火を振り返り、疑いの目を向ける。
「ふぁっ」
すると不知火はちょうど、あくびをしていた。眠そうに目をこすり、立っているのもままならないほどフラフラしている。
「せ、先生、大丈夫ですか?」
陽斗は不知火への懐疑心を忘れ、心配そうに声をかけた。
不知火はふるふると首を振り、「むちゃくちゃ眠い」と断言した。
「そろそろ帰らないと、途中で寝てしまうかもしれない」
「普段は何時くらいに寝てるんですか?」
「……10時」
「早っ! じゃあ早く終わらせて、帰りましょう! 七不思議はあと1つなんですよね? どんな噂かは知らないけど、見つけたらすぐに蒼劔君に斬ってもらいますから、もうちょっとだけ我慢してて下さいね」
「早めに頼んだよ」
眠気をこらえる不知火に、陽斗はすっかり危機感を忘れ、同情した。
しかし蒼劔は尚も不信感を抱き、不知火を睨み続けていた。
・
その後、陽斗達は3階の他の教室を探し、呪いの姿見がないのを確認すると、成田達が戻ってくるのを廊下で待った。
陽斗がスマホで時刻を確認すると、残り数秒で日付が変わろうとしていた。
「そろそろ日付が変わっちゃいますね。成田君達、遅いなー」
「いっそ、迎えに行ったらどうだ? こうして待っていても、埒が明かんだろう?」
「でも、入れ違いになったら困るでしょ? 気長に待ってようよ」
その時、校内にチャイムが鳴り響いた。
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