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第5話「節木高校七不思議」
漆:呪いの姿見
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岡本は陽斗達から男子トイレでの怪現象を聞き、すぐさま男子トイレへ駆け込んだ。
先程まで太郎がいたトイレのドアを拳で殴るように叩き、
「太郎くーん?! いるんだろー?! 私にも姿を見せておくれよー!」
と、呼びかけたが、太郎は既に消えていたため、何も起こらなかった。
「くっそー、出し渋らなくたっていいじゃないか! でもまぁ、いいネタが手に入って良かったよ。グッジョブ、太郎! 君のお陰で、我が部のレポートは白紙の危機を脱した!」
「部長……頑張ったの、俺達なんすけど」
成田が不満そうに唇を尖らせると、岡本の代わりに神服部が「お疲れ様、成田君」と労った。
「贄原君と遠井君も、ご苦労様。後でどんな霊だったのか教えてね」
「か……神服部ちゃん、優しー! いいよ、いいよ! 後でしっかり教えてあげる!」
「その時は私もぜひ同席させてくれ」
「部長は聞かなくてもいいじゃないっすか! どうせ、このメモ提出するんですから!」
「字だけじゃ、臨場感に限界があるからね。やっぱ声で聞かないと」
・
結局、今回の体験を声でも残すことが決まったところで、岡本は次なる七不思議について説明した。
「次の七不思議は『呪いの姿身』だ。霊や得体の知れない化物を映してしまうといういわくつきの鏡で、見つけた者は鏡の中の世界へ引きずり込まれるらしい。発見者が消えてしまう上、夜にしか現れないせいか、学校の何処にあるのかは判明していない。面倒だが、こればっかりは私達で探すしかないね」
鏡の中へ引きずり込まれる、と聞き、蒼劔と不知火以外のメンバーは動揺する。
彼らは首吊り桜、男子トイレの太郎君、と2度の心霊現象を体験し、完全に怯えていた。遠井はまだ七不思議が科学的に証明できると考えているようだったが、七不思議の噂が現実に起こることだとは信じていた。
「部長……本当にこのまま調査を続けてて大丈夫なんすかね」
「もし、噂通りに鏡の中に閉じ込められたら、どうすればいいんですか?」
成田と神服部は不安そうに岡本に尋ねるが、岡本はヘラヘラと笑いながら「1人にならなきゃ、大丈夫だって!」と手をヒラヒラさせた。
「ひとまず、この教室棟を2人1組で片っ端から探そう。何かあったら、すぐに連絡すること! 探し終わったら、ここへ戻ってきてくれ。ついでに、さっきの不審者がいたら捕まえてくるように!」
「はい……」
陽斗達は不安そうな表情のまま、頷いた。
岡本からそれぞれ探索する階の全ての教室の鍵を渡され、陽斗は成田(と蒼劔)と1階を、遠井と不知火は2階を、岡本と神服部は3階を、それぞれ探索しに向かった。
陽斗と成田はスマホの明かりを頼りに1階へと下りると、順に教室を回っていった。
どの教室も昼間とは打って変わって静まり返っており、カーテンが閉まっているせいで真っ暗だった。普段見慣れているはずの教室が、今は別世界の空間のように見える。
教室の電灯は点けないよう岡本に言われているため、陽斗と成田はスマホ片手に闇の中をさまよった。その間、蒼劔は壁にもたれ、2人を見守っていた。
「蒼劔君も一緒に探してよ」
陽斗が小声で抗議すると、蒼劔は「ここにはない」と断言した。
「この校舎からは雲外鏡の妖力は感じない。おそらく、実習棟の家庭科室にあるはずだ。あそこは気配が淀んでいて、判然としないからな」
「雲外鏡って?」
「長く使った鏡が妖力を得て、妖怪になったものだ。呪われた姿身同様、異形の姿を映し出し、人間を鏡の中にある異界へ引きずり込む……異界というのは、あの世とこの世の狭間にある世界で、人間が長期間いては危険な場所だ。阿鼻無間がお前と朱羅を落とした空間や、山根がお前を閉じ込めた冷凍室も異界の一種だな。この学校の校舎は古いようだし、雲外鏡が1匹くらいいても不思議ではないだろう」
蒼劔の言葉通り、陽斗と成田が捜索した1階にも、他のメンバーが捜索した階にも、呪われた姿身らしき鏡は見当たらなかった。
「それでは、実習棟へ移動しよう! チミ達、ちゃんとついてくるんだゾー」
岡本は全員無事に集合場所へ戻ってきたのを確認すると、教室棟の鍵を全て回収し、渡り廊下へ向かった。夜間は施錠されている渡り廊下の鍵を開け、陽斗達を引き連れて渡り廊下を歩く。
「言われなくても、ついて行きますよー」
「1人で夜の学校に取り残されるなんて、怖すぎるもんね」
無音の渡り廊下に、陽斗達の上履きの靴音がパタパタと響く。蒼劔も下駄の音をカラコロと鳴らしながら、彼らの後をついて行った。
その隣では、不知火がスリッパをペタペタと言わせていた。歩きながら渡り廊下の窓へ目をやり、外を眺めている。
「お前、呪われた姿身の場所を知っているのではないのか? 何故あいつらに教えない?」
「……」
不知火は窓から差し込む月明かりを眩しそうに見て、目を細めた。
蒼劔も渡り廊下の窓に目をやる。蒼劔の目には自身の姿が窓に映って見えた。
陽斗のように、異形の姿が見える者は、普通の鏡でも霊が映っていれば見える。しかし、異形が見えない一般人には、雲外鏡のような特殊な鏡でもない限り、鏡に映っていても見えない。
(こいつは、どっちなのだろうな……)
蒼劔は窓に映った不知火を見て、眉をひそめた。
不知火の視線は、窓に映った蒼劔へ向けられている気がした。
先程まで太郎がいたトイレのドアを拳で殴るように叩き、
「太郎くーん?! いるんだろー?! 私にも姿を見せておくれよー!」
と、呼びかけたが、太郎は既に消えていたため、何も起こらなかった。
「くっそー、出し渋らなくたっていいじゃないか! でもまぁ、いいネタが手に入って良かったよ。グッジョブ、太郎! 君のお陰で、我が部のレポートは白紙の危機を脱した!」
「部長……頑張ったの、俺達なんすけど」
成田が不満そうに唇を尖らせると、岡本の代わりに神服部が「お疲れ様、成田君」と労った。
「贄原君と遠井君も、ご苦労様。後でどんな霊だったのか教えてね」
「か……神服部ちゃん、優しー! いいよ、いいよ! 後でしっかり教えてあげる!」
「その時は私もぜひ同席させてくれ」
「部長は聞かなくてもいいじゃないっすか! どうせ、このメモ提出するんですから!」
「字だけじゃ、臨場感に限界があるからね。やっぱ声で聞かないと」
・
結局、今回の体験を声でも残すことが決まったところで、岡本は次なる七不思議について説明した。
「次の七不思議は『呪いの姿身』だ。霊や得体の知れない化物を映してしまうといういわくつきの鏡で、見つけた者は鏡の中の世界へ引きずり込まれるらしい。発見者が消えてしまう上、夜にしか現れないせいか、学校の何処にあるのかは判明していない。面倒だが、こればっかりは私達で探すしかないね」
鏡の中へ引きずり込まれる、と聞き、蒼劔と不知火以外のメンバーは動揺する。
彼らは首吊り桜、男子トイレの太郎君、と2度の心霊現象を体験し、完全に怯えていた。遠井はまだ七不思議が科学的に証明できると考えているようだったが、七不思議の噂が現実に起こることだとは信じていた。
「部長……本当にこのまま調査を続けてて大丈夫なんすかね」
「もし、噂通りに鏡の中に閉じ込められたら、どうすればいいんですか?」
成田と神服部は不安そうに岡本に尋ねるが、岡本はヘラヘラと笑いながら「1人にならなきゃ、大丈夫だって!」と手をヒラヒラさせた。
「ひとまず、この教室棟を2人1組で片っ端から探そう。何かあったら、すぐに連絡すること! 探し終わったら、ここへ戻ってきてくれ。ついでに、さっきの不審者がいたら捕まえてくるように!」
「はい……」
陽斗達は不安そうな表情のまま、頷いた。
岡本からそれぞれ探索する階の全ての教室の鍵を渡され、陽斗は成田(と蒼劔)と1階を、遠井と不知火は2階を、岡本と神服部は3階を、それぞれ探索しに向かった。
陽斗と成田はスマホの明かりを頼りに1階へと下りると、順に教室を回っていった。
どの教室も昼間とは打って変わって静まり返っており、カーテンが閉まっているせいで真っ暗だった。普段見慣れているはずの教室が、今は別世界の空間のように見える。
教室の電灯は点けないよう岡本に言われているため、陽斗と成田はスマホ片手に闇の中をさまよった。その間、蒼劔は壁にもたれ、2人を見守っていた。
「蒼劔君も一緒に探してよ」
陽斗が小声で抗議すると、蒼劔は「ここにはない」と断言した。
「この校舎からは雲外鏡の妖力は感じない。おそらく、実習棟の家庭科室にあるはずだ。あそこは気配が淀んでいて、判然としないからな」
「雲外鏡って?」
「長く使った鏡が妖力を得て、妖怪になったものだ。呪われた姿身同様、異形の姿を映し出し、人間を鏡の中にある異界へ引きずり込む……異界というのは、あの世とこの世の狭間にある世界で、人間が長期間いては危険な場所だ。阿鼻無間がお前と朱羅を落とした空間や、山根がお前を閉じ込めた冷凍室も異界の一種だな。この学校の校舎は古いようだし、雲外鏡が1匹くらいいても不思議ではないだろう」
蒼劔の言葉通り、陽斗と成田が捜索した1階にも、他のメンバーが捜索した階にも、呪われた姿身らしき鏡は見当たらなかった。
「それでは、実習棟へ移動しよう! チミ達、ちゃんとついてくるんだゾー」
岡本は全員無事に集合場所へ戻ってきたのを確認すると、教室棟の鍵を全て回収し、渡り廊下へ向かった。夜間は施錠されている渡り廊下の鍵を開け、陽斗達を引き連れて渡り廊下を歩く。
「言われなくても、ついて行きますよー」
「1人で夜の学校に取り残されるなんて、怖すぎるもんね」
無音の渡り廊下に、陽斗達の上履きの靴音がパタパタと響く。蒼劔も下駄の音をカラコロと鳴らしながら、彼らの後をついて行った。
その隣では、不知火がスリッパをペタペタと言わせていた。歩きながら渡り廊下の窓へ目をやり、外を眺めている。
「お前、呪われた姿身の場所を知っているのではないのか? 何故あいつらに教えない?」
「……」
不知火は窓から差し込む月明かりを眩しそうに見て、目を細めた。
蒼劔も渡り廊下の窓に目をやる。蒼劔の目には自身の姿が窓に映って見えた。
陽斗のように、異形の姿が見える者は、普通の鏡でも霊が映っていれば見える。しかし、異形が見えない一般人には、雲外鏡のような特殊な鏡でもない限り、鏡に映っていても見えない。
(こいつは、どっちなのだろうな……)
蒼劔は窓に映った不知火を見て、眉をひそめた。
不知火の視線は、窓に映った蒼劔へ向けられている気がした。
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