贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第5話「節木高校七不思議」

陸:男子トイレの太郎君

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 トイレに掃除道具を戻し、陽斗達が元の場所へ戻ってくると、ちょうど岡本が息を切らして階段を上ってくるところだった。
 岡本は肩で息をしながら、自販機で買ってきたお茶を飲み干し「ぷはーっ!」と息を吐いた。
「どうでした?」
 恐る恐る成田が尋ねると、岡本は先程までの怒りの形相から一転して清々しい顔で「いやー、ダメだった!」と笑った。
「教室棟中探したけど、何処にもいない! たぶん、私達が入ってきた昇降口から出て行ったとは思うけど、外から足音は聞こえなかったし……もしかしたらまだ校内にいるかも!」
「えぇー?! このまま調査、続けてて大丈夫なんですか?」
 不審者がまだ校内にいると聞き、成田、神服部、遠井は顔を硬らせる。「家庭科室に出入りしている不審者」を探しているはずの不知火は、素知らぬ顔でサンダルの裏に塩がついていないか確認していた。
「武器は持ってなかったし、大丈夫でしょ。人数だって、こっちの方が多いし。もし襲いかかってきたら、本当に傷害罪で訴えてやろうぜ! ってことで、次だー!」
 そう言うなり岡本は拳を突き上げ、次の七不思議が起こる場所に向かって、廊下を走っていった。不審者が校内を徘徊している程度のアクシデントでは、帰るつもりはないらしい。
 陽斗と蒼劔が唖然とする中、オカルト研究部の部員達は見慣れた様子で「さすが部長だな」と肩をすくめ、ついて行った。
「今まで日本中の心霊スポットを回ってきただけあって、肝が座ってるぜ」
「先週も、空き家を溜まり場にしてたヤンキー達を塩だけで撃退したって言ってたよね?
 今どき珍しい、リーゼントのヤンキーだったって!」
「普通はそういう時こそ、警察に通報するべきじゃないのか?」
「それが、電波が入ってなくて、スマホが使えなかったんだと。空き家の中だけ圏外だったらしいぜ」
 陽斗は岡本の武勇伝を聞き、青ざめた。
「その人達って、ほんとの幽霊だったんじゃないの……?」
「ははっ、まっさかー!」
 それを聞いた当の岡本は声を出して笑った。
「あんなやさぐれた幽霊なんているわけないじゃないか! 幽霊っていうのはもっと白くて、幸薄そうな存在なんだよ? と言っても、私も実際に見たことはないけどね」
 陽斗は今まで見てきた霊の姿を思い返し、「そうでもない幽霊も多かったけどなぁ」と首を傾げた。

         ・

 次の七不思議は、同じ3階の東側にある男子トイレだった。
「さすがに、我々女子が入るわけにはいかないからね。男子諸君! 頼んだゾー」
「へーい」「了解です!」「……」
 陽斗、成田、遠井は岡本の指示に従い、真っ暗な男子トイレの中で1列になってドア伝いに進んでいった。蒼劔は3人の頭上を飛び越え、先回りする。不知火は岡本と神服部と一緒に入口で待っていた。
 岡本の話によると、入口から数えて3番目のトイレには「トイレの太郎君」と呼ばれている霊が住み着いているらしい。
 数十年前、「トイレの花子さん」という怪談が流行っていた頃、太郎君は肝試しの脅かし役として男子トイレにこもっていた。
 しかし、肝試しがスタートする前に、参加者達が宿直の教師に見つかってしまった。太郎君を除く参加者は全員、学校から追い出され、太郎君はそのまま置き去りにされた。
 翌朝、太郎君は。自宅にも帰っておらず、待機していたトイレの鍵は内側から閉まったままだった。
 警察は誘拐事件として太郎君を捜索したが、現在も見つかっていない。
「一体、太郎君は何処に行っちゃったんだろうね?」
「噂じゃ、『幽霊の学校』に連れて行かれたんじゃないかって話だぜ」
「幽霊の学校?」
 成田は恐怖で顔を引きつらせたまま「節木高校七不思議の7番目の話のことさ」と後ろを歩く陽斗を振り返った。
「この学校に通っていた間に死んだ生徒が死後に通ってる学校で、他の七不思議を全て網羅すると行けるらしい。ただし、日の出までに帰ってこられないと、二度と幽霊の学校から出られなくなって、自分も幽霊になっちまうんだってよ」
「ってことは……僕達もこのまま七不思議を調べていったら、幽霊の学校に行っちゃうってこと?」
「……そうなるな」
 浮かない表情の成田に対し、陽斗の後ろからついてきている遠井は「そんな場所が存在するはずがない」と切り捨てた。
「どうせ、生徒が学校に忍び込まないよう、教師達が流したデマに決まっている」
「それ、さっきも言ってなかったか? あんまり死亡フラグを立てんなよぉ、遠井」
「あれは偶然だ。あんなことが2度も3度も起こってたまるか」
 やがて3人は噂の3番目の男子トイレの前にたどり着いた。
 先回りしていた蒼劔はトイレの前で眉根をよせ、両手で刀を構えている。
「どう? 蒼劔君」
 陽斗が小声で尋ねると、蒼劔はトイレのドアを見つめたまま頷いた。
「確かに、中にいる。お前達がドアを開けた瞬間に、始末するぞ」
「おっけー」
 太郎君を呼び出すのは、「1番いいリアクションをしそうだから」という岡本の独断で成田の役目と決まっていた。
 成田はトイレの中に誰もいないことを確認してからドアを閉め、震える拳でトイレを3回ノックした。
「た、太郎君、いらっしゃいますか……?」
 その直後、内側からトイレのドアが勢いよく開かれ、中にいた青白い顔の学ランの男子生徒が怒りの形相で成田に飛びかかった。
「山田ァッ! お前のせいで、幽霊になっちまったじゃねーか! どうしてくれんだよ!」
「ひぃーっ! 俺の名字、山田じゃないんですけどぉっ?!」
 成田は突然目の前に現れた太郎君に絶叫し、隣にいた遠井にすがりつく。遠井もひと気のなかったトイレから突然出てきた太郎君に驚き、目を見開いた。
「黙れ。今さら生者を責めたところで、貴様は人間には戻れん」
 蒼劔は太郎がトイレから出てきた瞬間、彼の腹を刀で斬り、体を両断した。太郎は成田に触れる寸前で青い光の粒子となって消滅し、陽斗達の前からいなくなった。
 3人は呆然と立ち尽くし、無人に戻ったトイレの中を見つめる。
 蒼劔は刀を左手へ戻し、一向に出て行こうとしない彼らを見て、不思議そうに眉をひそめた。
「陽斗、お前はこの程度の霊は慣れているだろう? さっさと岡本に報告しに行った方がいいのではないか?」
 陽斗は蒼劔に言われてハッと気がつき「そういえばそっか」と手を打つと、成田と遠井を急かして外へ戻っていった。
 霊を見慣れていない成田と遠井は入口へ戻るまでの道中でも衝撃が和らがず、狐につままれたような顔で歩いていた。
「見たか?」
「見た」
「……消えたよな?」
「あぁ、消えた」
「あれ……幻覚じゃないよな?」
「分からない。こうも立て続けに集団幻覚を起こすなど、あり得ない。夜な夜な幻覚作用をもたらす薬品が撒かれているとしか……」
「それはそれで怖ぇよ」
 共通の恐怖を体験したことで、2人の距離は少し縮まった。
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