贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第5話「節木高校七不思議」

弐:夜の学校へ

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 翌日の夜、陽斗は制服に着替え、蒼劔と共に正門へたどり着いた。
 蒼劔の予想通り、黒縄、朱羅、五代の3人は来なかった。理由はやはり霊が大勢いるせいだった。
「妖怪がいたら、ここまで連れて来い。勝手に倒すんじゃねぇぞ」
 出発間際、黒縄はこう蒼劔に命令した。
 その堂々とした態度に蒼劔は苛立ち、舌打ちしながらも「分かった」と渋々承諾した。
 正門には既に、成田を含めたオカルト研究部のメンバーが3人揃っていた。成田の他に、スマホをいじっている真面目そうな男子生徒と、茶がかった長い髪の女子生徒が待っていた。
「よっ! 陽斗、久しぶりだな!」
「こんばんは、成田君。今日はよろしくね」
 成田は陽斗が正門に来ると、他の2人に陽斗を紹介した。
「こいつが俺のダチの贄原陽斗だ。部長の命令……じゃなくて、招待で参加することになった。今日は仲良くしてやってくれ」
「よ、よろしくお願いします!」
 陽斗は少々緊張した面持ちで頭を下げる。
 男子生徒の方は黙って陽斗を一瞥し、すぐにスマホに目を落としたが、茶がかった女子生徒の方は陽斗に対してにこやかに微笑みかけ、「よろしくね」と挨拶した。
「私は神服部愛衣かんはどりあいって言います。神に服部って書いて『かんはどり』って読むの。変わってるでしょ?」
「うん、初めてそんな珍しい名字の人に会ったよ。神服部さんは何年生なの?」
「君と同じ1年生だよ。そこにいる遠井君も一緒」
 神服部が男子生徒に目を向け、陽斗もつられて彼に視線を向ける。
 男子生徒は注目する陽斗達を煩わしそうに睨みながらも、ボソッと呟くように名乗った。
「……遠井石也とおいせきやだ」
 遠井は神服部のように自己紹介をすることはなく、「やることは終わった」とばかりに口をつぐみ、スマホの画面に目を落とした。
「よろしく、遠井君!」
「……」
 陽斗が呼びかけても、全く反応しない。
 陽斗は聞こえなかったのだと思い、大声で呼びかけようとしたが「やめといた方がいいぜ」と成田に手で制された。
「あいつ、オカルトに興味ないんだよ。放課後と休みの日は毎日塾に行っててさ、出欠がキツくない部活なら何処でも良かったんだと。最初の自己紹介の時に言われたよ。俺達と関わる気はないって」
「そっか……塾で忙しいなら、仕方ないね。僕だって、バイトで忙しいから部活には入ってないし」
「陽斗だったらいつでも大歓迎だぜ? この調査でオカルトに興味を持ってくれたら、嬉しいんだけどなぁ」
「興味を持つどころか、毎日異形と関わっているがな」
 蒼劔は陽斗の隣からそう補足する。
 しかし成田には蒼劔の声が聞こえないため、陽斗にオカルトへの興味を持ってもらえるよう必死だった。
「知ってるか? 最近、この節木市ではおかしな事件や事故が多発してるんだぜ? 俺も何回か、怪しいものを見てさぁ……」
「怪しいものってなぁに?」
 その時、眼鏡をかけた三つ編みの女子生徒が懐中電灯で自分の顔を下から照らし、何処からともなく成田の目の前に現れた。髪型も相まって、古風な印象の女子生徒だったが、制服は現代のものだった。
「うぉっ?!」
「い、いつの間に?!」
 突然現れた眼鏡の女子生徒に成田は飛び上がる。陽斗も声を上げ、驚いた。
「急に脅かさないで下さいよ、部長! 心臓が止まるかと思ったじゃないっすか!」
「にゃはははっ! もしそうなったら救急車を呼んで、病院に連れて行ってあげるよん」
 女子生徒は大人しそうな容姿に似合わず、豪快に笑った。
 そして陽斗を見るなり「君が贄原君だね?」と陽斗に詰め寄り、ニヤリと笑った。
「はじめまして。私はオカルト研究部の部長をしている、2年生の岡本留美子おかもとるみこという者だ。成田君からは話を聞いているよ。君は節木荘に住んでいるんだってね?」
 岡本の含みのある言い方に、陽斗は首を傾げる。
「そうですけど……僕が住んでいるアパートがどうかしたんですか?」
「フッフッフ。まさか、知らないとでも言う気かい?」
 岡本は眼鏡の向こうの目を細め、不気味に笑う。眼鏡をしているせいで分かりにくいがまつげが長く、つり目がちの美しい顔立ちをしている。その顔は、何処となく黒縄と似ていた。
(この女……人間にしか見えないが、俺達のことを何か知っているのか? 俺の姿は見えていないようだが……)
 隣にいる蒼劔も岡本を警戒し、睨む。
 もしも彼女が陽斗の生活に支障が出るようなことを知っているのならば、今すぐこの場から節木荘へ連れ去り、黒縄に術で記憶を消してもらおうと考えていた。
「部長、陽斗が住んでるアパートって何かあるんすか?」
「私、見たことありますけど、普通のアパートでしたよ?」
 成田と神服部も興味津々で岡本の話に耳を傾ける。遠井もスマホは持ったまま、岡本に視線を向けた。
 この場にいる全員が注目する中、岡本は顔の下から懐中電灯で照らし、重々しく口を開いた。
「節木荘はね……昔から怪現象が頻繁に起こっている、隠れた心霊スポットなのだよ。誰もいない部屋から声が聞こえたり、押し入れに引き込まれそうになったりね」
「えぇー?! そんなすっげぇとこに住んでたのかよ、陽斗!」
「本当なの、贄原君?!」
 節木荘の知られざる秘密に、成田と神服部は興奮した様子で陽斗に詰め寄る。遠井もその場から動きこそしないが、岡本の話に耳を疑うように眉をひそめた。
 一方、当事者である陽斗と蒼劔は何故そんな大したことのないことを岡本が深刻そうに言うのか、そして何故2人はこんなにも驚いているのか、全く理解出来なかった。この夏休みの間にもっと危ない目に遭ったせいで、その程度のことは日常茶飯事になっていたのだ。
 どんな衝撃発言をするかと警戒していた蒼劔は「大袈裟な女だ」とため息を吐き、陽斗も慌てて弁解した。
「今は普通のアパートだよ! リフォームしてきれいになったし、全然心霊スポットじゃないって!」
「そのリフォームも、たった1日で完成させたそうじゃないか。一体どんな魔法を使ったんだい? 住人の贄原君には是非、真相を聞かせて欲しいねぇ?」
「そ、それは……」
(言えない……黒縄君が妖怪を雇って作ってもらったとは……!)
 どう説明したものか、陽斗は頭をフルに活動させ、言い訳を考える。蒼劔も隣で眉間を寄せ、知恵を絞っていた。
 その時、蒼劔の背後から声が聞こえた。
「案外、本当に魔法を使ったのかもしれないね」
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