贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第5話「節木高校七不思議」

壱:オカルト研究部への誘い(いざない)

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 夜中、クーラーの効いた自室で陽斗が宿題をしていると、成田から電話がかかってきた。成田とは普段はメールでやり取りしているので、珍しかった。
 陽斗は宿題を中断し、机の上に置いていたスマホを手に取った。
『陽斗、明日の夜ってヒマ?』
 成田は開口一番、そう切り出してきた。少し焦っているようだった。
 陽斗は何故彼が急に自分の予定を聞いてきたのか訝しむことなく、正直に答えた。
「ヒマだよー。バイト先の店長さんが行方不明になったから」
『ゆ、行方不明?!』
 成田は驚き、声を上擦らせる。
 その店長とは山根彦丸こと、元地獄八鬼の大叫喚のことだったのだが、いくら陽斗でも
「実はその人は人間を拉致してた、悪い鬼だったんだ。でも、大丈夫! 僕の友達がやっつけてくれたから! あっ、やっつけたっていうのは、っつけたって意味だよ!」
 とは言えず、ニュースで報じられている通り、行方不明ということにしておいた。
 成田は突然陽斗に訪れた不運に同情しつつ、用件を伝えた。
『明日の夜、オカルト研究部の活動で校内を探検するんだけど、陽斗も来ねぇ? 参加費とかはいらないからさ』
「え、いいの? 僕、オカルト研究部の人じゃないのに」
 オカルト研究部というのは文字通り、「オカルトを研究する部活動」で、節木高校1怪しい部活として名が知れている。幾度の廃部の危機に見舞われながらも、毎年一定の部員数を保ち、なんだかんだと存続している。表向きは「オカルト的側面から郷土史を研究する」という真っ当そうな活動目的を掲げ、結果も残しているため、学校側も何も言えないらしい。
 特に現在の部長が入部してからというものの、部のオカルト研究への熱は過去最高に高まっているらしく、休日は毎週心霊スポット巡りに費やしているとか。陽斗も成田から何度も勧誘されていたが、部活動にかけるお金も時間もなかったため、断っていた。
『それが、絶対陽斗も連れて来いって部長に言われてさ。理由は俺も知らねぇけど、ゆっくり話がしたいんだと。どうよ?』
「ふーん……ちょっと待っててね」
 陽斗は音が聞こえないよう、スマホをリュックの底に突っ込むと、部屋の隅で陽斗の化学の教科書を読んでいた蒼劔の元へ歩み寄った。
「蒼劔君。明日の夜、学校に行きたいんだけど、いい?」
「学校?」
 蒼劔は眉をひそめ、教科書から顔を上げた。読んでいたのは、水銀について書かれたページだった。
「忘れ物でも取りに行くのか?」
「成田君からオカルト研究部の調査に一緒に来ないかって誘われたんだ。ちょうどバイトもないし、僕は行きたいんだけど……」
 陽斗は遠慮がちに蒼劔に言った。
 というのも、夜は異形が活発的になる時間であるため、蒼劔は陽斗が夜中に出歩くのをよく思っていなかった。夜のバイトも、なるべく少なくするよう言われている。
 それは黒縄が来てからも同じで、うっかり異形を節木荘に招き入れないために、制限されていた。
 蒼劔は暫く考え込んでいたが、「まぁ、いいだろう」と調査への参加を許可した。
「やった! 本当にいいの?」
「あぁ。ついでに、厄介な異形が学校に住み着いていないか調査する。あの学校は日に日に霊が増え続けているからな。今のうちに始末しておかないと」
「うちの学校、そんなに霊が増えてるの?」
 陽斗は自分が異形が見えていると知る前から霊を見てきたため、生者と死者の区別がつかない。霊が増えているかどうかも、よく分からなかった。
「遠目から見ても分かるぞ。おおよそ、実際にあの学校に通っている生徒と同数の霊が住み着いている」
「えぇっ?! いつの間にうちの学校、そんなマンモス校になっちゃったの?!」
「知らん。最初は陽斗の霊力に引き寄せられてきたのだと思っていたが、夏休みに入ってからも霊は増え続けている。お前以外の何かに引き寄せられているとしか考えられない」
「僕以外の何かって?」
「……分からん。俺が知る限り、そんな特殊な物はあの学校にはなかった。あるいは、夏休みの間に、何かが住み着いたのかもしれん。それが何なのか確かめるためにも、行ってみる価値はある」
「黒縄君達も一緒に行くかな?」
 蒼劔は顔をしかめ「絶対来ないと思うぞ」と答えた。
「死者とはいえ、霊も人間だからな。無理矢理連れて行こうものなら、戦争になるだろう。黒縄が行かないなら朱羅も残るだろうし、五代はそもそも外に出る気がない」
「そっか……残念だなぁ。みんなで言ったら賑やかになって、楽しそうなのに」
「楽しそう……?」
 蒼劔は陽斗の感覚を疑い、訝しげに眉をひそめる。彼が陽斗と知り合ってから1ヶ月ほど経ったが、未だに陽斗の考え方のついて行けないことが多かった。
 鬼からそんな風に思われているとは知らない陽斗は意気揚々とリュックの底からスマホを回収し、成田に調査に参加する意思を伝えた。
 成田はホッとしたように息を吐き、陽斗に当日の予定を話した。
『明日の夜10時に、正門の前で集合だからな。部活の調査だから、制服で来てくれ。遅れると置いていかれるから、時間厳守だぞ!』
「ほーい」
 陽斗は成田との通話を切り、ついでにメールボックスを確認した。すぐに全てのメールを確認し終え、陽斗の顔が曇った。
 大半がバイト先と成田から送られてきたメールばかりで、祖母の家に帰省している飯沼からは1通も届いていなかった。陽斗が送ったメールにも返信がない。
「…… 飯沼さん、今頃何してるんだろう?
 飯沼さんのおばあちゃんの家って、電波が届かないところなのかな?」
「場所は聞いていなかったのか?」
「すっごく山奥にあるって言ってたよ。県内だけど、行くのに1日かかるんだって」
 ふと、蒼劔は陽斗の夏休みの予定に帰省が組まれていないことに気づいた。
「お前は実家に帰らなくていいのか?」
「……うん」
 陽斗は複雑そうな表情を浮かべて頷いた。
「お墓の手入れは近所の人に頼んであるし、家も不動産屋さんに任せてあるから大丈夫だよ。古いからか、全然買い手がつかないらしいけど」
「そうか……」
 蒼劔は陽斗の気持ちを察し、口を閉ざす。
 陽斗の身の上は既に本人から聞いていた。
 陽斗が村に帰り、実家を目にすれば、嫌でも家族と過ごした日々を思い出してしまうだろう。同時に、彼らがもうこの世にいないという悲しみも。
 蒼劔は話を中断し、教科書のページをめくった。水銀の利用方法について書かれてあった。
 陽斗もノートの上に置いていたシャーペンを持ち、宿題を再開した。静まり返った部屋には、字を書く音と教科書をめくる音だけが聞こえていた。
「ハァッ?! ガチャ爆死したんですけどぉッ?! ピックアップってなんぞ?!」
 ……もっとも、静かだったのは陽斗の部屋だけで、隣の部屋からは五代のけたたましい奇声が聞こえていた。陽斗の部屋が静かになったことで、余計にハッキリと聞こえてくる。
「……」
「……」
 陽斗と蒼劔は互いに黙って顔を見合わせるとおもむろに立ち上がり、ガムテープを手に五代の部屋へ向かった。
 やがて戻ってきた2人はスッキリした表情で各々の作業に戻り、その後は朱羅に夕食に呼ばれるまで、静かに過ごせた。
 2人に拘束され、喋れないよう口を塞がれた五代は打ち上げられたマグロのように、床の上で跳ねていた。
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