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第4話「贄原くんの災厄な五日間 黒縄の逆襲」
5日目:五代を探せ!
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『話がまとまったようで何より! 陽斗氏の命も助かったみたいだし、オイラこのへんで失礼するよーん! じゃ! 頑張ってね!』
「五代さん?」
五代は他人事のように早口でまくし立てると、通話を切った。
陽斗が再度電話をかけても、繋がらない。
朱羅も自分のスマホで五代に連絡を取ろうとしたが、出来なかった。
「出ないね……急にどうしたんだろう?」
首を傾げる陽斗に、黒縄はため息混じりに言った。
「アイツ、目白にビビってんだよ」
「目白さんに? 何で?」
「全く情報がねぇからさ。素顔も分からねぇ、どんな術を使う術者なのかも分からねぇ、今何処にいるのか、そもそも生きているのかすら分からねぇ……何でも知れるヤツってのは、そんなどうしたって正体が知れない相手が1番怖いらしい」
蒼劔は目白と出会ってからどのくらいの時間が経ったのか逆算し、愕然とした。
「そうか……あれからもう200年も経つのか。ならば、目白が死んでいてもおかしくないな」
「一応、死んだ術者は全員リストアップさせているが、目白らしき術者が死んだ記録はまだない。同じ術者なら目白の動向を知ってるヤツもいるかもしれんが、知ってそうなヤツに限って、術で記憶を読み取れねぇようにしてやがる。まぁ、目白はかなり強力な霊力を持っていたから、200年くらいは生きてるんじゃないか?」
「術者さんって、そんなに長生きするの?」
目を丸くする陽斗に、朱羅は「えぇ」と頷いた。
「術者の多くは霊力を鍛えていらっしゃいますから、普通の人間よりも長寿だったり、身体能力が高かったりするんですよ。目白も、我々鬼に匹敵する身のこなしでした。あの様子では、術を使わずとも異形を退治出来るのではないでしょうか」
「目白さんって、そんなすごい術者さんなんだね!」
「あぁ。すごい術者なんだ」
「……人間が異形を素手で倒すとか、怖過ぎるだろ」
感心する陽斗に蒼劔は嬉しそうに大きく頷き、黒縄は怯えるように肩を震わせる。
ふと、原黒井ビルの外が騒がしくなってきた。大勢の話し声や空き地に車が停車する音が聞こえる。暫くすると、1階の出入り口や窓から懐中電灯のライトが差し込んだ。
「なっ、何?!」
「静かにしろ、クソガキ」
黒縄は陽斗を黙らせると、彼の手の甲に人差し指と中指を当て、何やらぶつぶつ呟いた。
すると、黒縄が指を当てていた箇所に黒い紋様が浮かび上がった。
「何これ?!」
「人間に姿が見えなくなる術式だ。たぶん、俺達が起こした騒ぎを聞きつけて、野次馬共が集まってきたんだ。面倒になる前に、さっさとずらかるぞ」
「わ、分かった」
「コイツのアパートでいいよな? 蒼劔」
黒縄に尋ねられ、蒼劔は陽斗を背負いながら頷く。
「やむを得まい。ついでに、五代を折檻しに行こう」
「アイツの居場所を知ってンのか?!」
「あぁ。逃げられないよう、既に手は打ってある。急ぐ必要もない」
「蒼劔殿……いつの間に?」
「最初からだ」
蒼劔は2階の窓をくぐり、外へ出る。黒縄と朱羅も壁をすり抜け、脱出した。
同時に、原黒井ビルの吹き抜けに張り巡らされていた大量の鎖とトラバサミも消えた。残されたのは、一夜にして内装が瓦礫と化した廃ビルだけだった。
原黒井ビルの惨状は翌朝のトップニュースになり、「設計ミスによって自然崩落した」と報じられた。
瓦礫と一緒にビルそのものも解体、撤去され、改めて新しくビルを建設することになったという。
・
節木荘へと戻ってくると、一行は陽斗の部屋を素通りし、その隣りの「無限大」の部屋の前にいた。彼の部屋は数日前とは異なり、青い光のバリアで囲まれていた。
「これは、蒼劔殿の結界……?! いつから仕込まれていたのですか?!」
「だから、最初からだと言っているだろう? ここの住人が引っ越してきてすぐに、下の部屋の天井に刀を刺しておいた。発動はせず、そのまま放置していたのだが、まさか実際に使う時が来るとはな」
蒼劔は刀で囲んだ空間に結界を作ることが出来る。刀で囲んでさえいれば、刺した刀の上にも下にも結界は構築出来る。
もっとも、数日間ずっと刀を維持するのは至難の業だ。普通の鬼ならば刀1本でも難しいところを、蒼劔は4本同時に維持していた。これは妖力が無尽蔵に溢れてくる蒼劔にしか出来ない芸当であり、同じ黒縄や朱羅にはとても真似は出来なかった。
そのすごさを知っている黒縄と朱羅は、淡々と説明する蒼劔に苦笑した。
「お前、すごい執念だな」
「よくバレませんでしたね」
「五代はほぼ、外に出ないからな。黒縄の様子を監視するのに夢中で、自分の足元のことなんて全く気にしてなかったんだろうな」
「無限大」の部屋からは騒々しい物音が聞こえていた。蒼劔達が来たことに慌てているのだろう。なにはともあれ、部屋の主が中にいるのは間違いなかった。
蒼劔は結界に向かって手を伸ばし、ドアの部分の結界のみを消した。外からドアをすり抜けて侵入し、内側から鍵を開ける。
彼が部屋に侵入した瞬間、中から「無限大」の悲鳴が聞こえた。完全に五代の声と同じだった。
「俺達も行くぞ」
黒縄は陽斗と朱羅を見上げ、2人に呼びかけた。
彼は原黒井ビルから離れたことで、幼い子供の姿に戻っていた。服装も学ランから、半袖の白いセーラー服と半ズボンに変わっている。つり目がちな大きな黒い瞳は黒真珠のように輝き、薔薇色の頬は焼き立ての餅のようにふっくらしていた。
そのあまりにも愛らしい姿に、陽斗は口元をゆるめずにはいられなかった。隣を見れば、朱羅も同じ表情をしていた。
「黒縄君、妖力が戻ってもずっとあのままでいて欲しいなぁ」
「あの姿で怒られても、全然怖くないですしね。私も是非、そうしていただきたいです」
「おいコラ」
黒縄は自分を見てほっこりしている2人の首へ鎖を巻きつけ、2人を引っ張りながら「無限大」の部屋のドアをすり抜けた。
「お、お待ち下さい、黒縄様!」
「首! 首絞まっちゃう!」
朱羅は問題なくドアをすり抜けられたが、肉体がある陽斗はドアにつっかえた。陽斗は首が絞まる前に慌ててドアを開き、飛び込むように部屋へ入った。
「五代さん?」
五代は他人事のように早口でまくし立てると、通話を切った。
陽斗が再度電話をかけても、繋がらない。
朱羅も自分のスマホで五代に連絡を取ろうとしたが、出来なかった。
「出ないね……急にどうしたんだろう?」
首を傾げる陽斗に、黒縄はため息混じりに言った。
「アイツ、目白にビビってんだよ」
「目白さんに? 何で?」
「全く情報がねぇからさ。素顔も分からねぇ、どんな術を使う術者なのかも分からねぇ、今何処にいるのか、そもそも生きているのかすら分からねぇ……何でも知れるヤツってのは、そんなどうしたって正体が知れない相手が1番怖いらしい」
蒼劔は目白と出会ってからどのくらいの時間が経ったのか逆算し、愕然とした。
「そうか……あれからもう200年も経つのか。ならば、目白が死んでいてもおかしくないな」
「一応、死んだ術者は全員リストアップさせているが、目白らしき術者が死んだ記録はまだない。同じ術者なら目白の動向を知ってるヤツもいるかもしれんが、知ってそうなヤツに限って、術で記憶を読み取れねぇようにしてやがる。まぁ、目白はかなり強力な霊力を持っていたから、200年くらいは生きてるんじゃないか?」
「術者さんって、そんなに長生きするの?」
目を丸くする陽斗に、朱羅は「えぇ」と頷いた。
「術者の多くは霊力を鍛えていらっしゃいますから、普通の人間よりも長寿だったり、身体能力が高かったりするんですよ。目白も、我々鬼に匹敵する身のこなしでした。あの様子では、術を使わずとも異形を退治出来るのではないでしょうか」
「目白さんって、そんなすごい術者さんなんだね!」
「あぁ。すごい術者なんだ」
「……人間が異形を素手で倒すとか、怖過ぎるだろ」
感心する陽斗に蒼劔は嬉しそうに大きく頷き、黒縄は怯えるように肩を震わせる。
ふと、原黒井ビルの外が騒がしくなってきた。大勢の話し声や空き地に車が停車する音が聞こえる。暫くすると、1階の出入り口や窓から懐中電灯のライトが差し込んだ。
「なっ、何?!」
「静かにしろ、クソガキ」
黒縄は陽斗を黙らせると、彼の手の甲に人差し指と中指を当て、何やらぶつぶつ呟いた。
すると、黒縄が指を当てていた箇所に黒い紋様が浮かび上がった。
「何これ?!」
「人間に姿が見えなくなる術式だ。たぶん、俺達が起こした騒ぎを聞きつけて、野次馬共が集まってきたんだ。面倒になる前に、さっさとずらかるぞ」
「わ、分かった」
「コイツのアパートでいいよな? 蒼劔」
黒縄に尋ねられ、蒼劔は陽斗を背負いながら頷く。
「やむを得まい。ついでに、五代を折檻しに行こう」
「アイツの居場所を知ってンのか?!」
「あぁ。逃げられないよう、既に手は打ってある。急ぐ必要もない」
「蒼劔殿……いつの間に?」
「最初からだ」
蒼劔は2階の窓をくぐり、外へ出る。黒縄と朱羅も壁をすり抜け、脱出した。
同時に、原黒井ビルの吹き抜けに張り巡らされていた大量の鎖とトラバサミも消えた。残されたのは、一夜にして内装が瓦礫と化した廃ビルだけだった。
原黒井ビルの惨状は翌朝のトップニュースになり、「設計ミスによって自然崩落した」と報じられた。
瓦礫と一緒にビルそのものも解体、撤去され、改めて新しくビルを建設することになったという。
・
節木荘へと戻ってくると、一行は陽斗の部屋を素通りし、その隣りの「無限大」の部屋の前にいた。彼の部屋は数日前とは異なり、青い光のバリアで囲まれていた。
「これは、蒼劔殿の結界……?! いつから仕込まれていたのですか?!」
「だから、最初からだと言っているだろう? ここの住人が引っ越してきてすぐに、下の部屋の天井に刀を刺しておいた。発動はせず、そのまま放置していたのだが、まさか実際に使う時が来るとはな」
蒼劔は刀で囲んだ空間に結界を作ることが出来る。刀で囲んでさえいれば、刺した刀の上にも下にも結界は構築出来る。
もっとも、数日間ずっと刀を維持するのは至難の業だ。普通の鬼ならば刀1本でも難しいところを、蒼劔は4本同時に維持していた。これは妖力が無尽蔵に溢れてくる蒼劔にしか出来ない芸当であり、同じ黒縄や朱羅にはとても真似は出来なかった。
そのすごさを知っている黒縄と朱羅は、淡々と説明する蒼劔に苦笑した。
「お前、すごい執念だな」
「よくバレませんでしたね」
「五代はほぼ、外に出ないからな。黒縄の様子を監視するのに夢中で、自分の足元のことなんて全く気にしてなかったんだろうな」
「無限大」の部屋からは騒々しい物音が聞こえていた。蒼劔達が来たことに慌てているのだろう。なにはともあれ、部屋の主が中にいるのは間違いなかった。
蒼劔は結界に向かって手を伸ばし、ドアの部分の結界のみを消した。外からドアをすり抜けて侵入し、内側から鍵を開ける。
彼が部屋に侵入した瞬間、中から「無限大」の悲鳴が聞こえた。完全に五代の声と同じだった。
「俺達も行くぞ」
黒縄は陽斗と朱羅を見上げ、2人に呼びかけた。
彼は原黒井ビルから離れたことで、幼い子供の姿に戻っていた。服装も学ランから、半袖の白いセーラー服と半ズボンに変わっている。つり目がちな大きな黒い瞳は黒真珠のように輝き、薔薇色の頬は焼き立ての餅のようにふっくらしていた。
そのあまりにも愛らしい姿に、陽斗は口元をゆるめずにはいられなかった。隣を見れば、朱羅も同じ表情をしていた。
「黒縄君、妖力が戻ってもずっとあのままでいて欲しいなぁ」
「あの姿で怒られても、全然怖くないですしね。私も是非、そうしていただきたいです」
「おいコラ」
黒縄は自分を見てほっこりしている2人の首へ鎖を巻きつけ、2人を引っ張りながら「無限大」の部屋のドアをすり抜けた。
「お、お待ち下さい、黒縄様!」
「首! 首絞まっちゃう!」
朱羅は問題なくドアをすり抜けられたが、肉体がある陽斗はドアにつっかえた。陽斗は首が絞まる前に慌ててドアを開き、飛び込むように部屋へ入った。
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