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第3話「贄原くんの災厄な五日間」後編
4日目:夏祭り②
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炎が陽斗の指に触れる直前、蒼劔は上から屋台を飛び越え、左手から出した刀で2つの炎を同時に切った。炎は青い光の粒子となって消えた。
蒼劔は2人の男の子を睨み、彼らに向かって刀を横へ走らせる。
「チッ」
「チッ」
2人の男の子は林檎飴の棒から手を離し、蒼劔の攻撃を大きく後方へ飛び退いて寸前で避けた。通行人が彼らに当たりそうになったが、体をすり抜けていった。
そこでようやく2人の外見が明らかになった。2人は炎を模したオレンジ色の刺繍が左右対称に施された、長袖の白いカンフーの道衣を纏っていた。靴もカンフーで使われる布製の白い靴を履いている。
2人は蒼劔から距離を取ると、額に着けていた狐の面を外して捨てた。面の下には白い小さなツノが片方ずつ生えていた。
「お、鬼?! あんな子供が?!」
陽斗は2人のツノを見て、驚く。以前蒼劔から子供の鬼がいることは聞いていたが、実際に見るのは初めてだった。
屋台主には2人の鬼の姿は見えていなかった。陽斗が突然声を上げても「鬼のコスプレをした子供でも見たのだろう」と大して気に留めなかった。
「炎を自在に操る鬼……なるほど、あいつらが焦熱と炎熱か」
蒼劔は2人のツノを見て、眉をひそめる。
彼の言葉に陽斗は再度驚いた。
「ってことは、あの子達も僕を狙ってる悪い鬼?!」
「そういうことだ」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
話を聞いていた朱羅も、陽斗と同様に驚きを隠せなかった。慌てて金棒を手に屋台の後ろから蒼劔の元へ回り込んでくる。
そして2人の鬼を目の前にして、愕然とした。どこからどう見ても、幼い子供にしか見えない。
「嘘でしょう……あのような幼子が焦熱と炎熱だなんて……」
「知らなかったのか?」
「……彼らの姿をまともに見た者はほとんどいません。皆、逃げる前に燃やされてしまうからです。分かっているのは炎を操る能力を持つ鬼だということと、常に2人で行動していることだけです」
「じゃあ! もしかしたらあの子達は別人かもしれないんじゃない?!」
「朱羅、五代に連絡しろ」
「承知しました」
朱羅はすぐに五代に連絡した。暫くして五代に繋がった。
五代は密かにこの状況を観察していたのか、開口一番『彼らは本物の焦熱と炎熱だよ』と即答した。怯えているのか、声が震えている。
『2人の記憶を読み取った。間違いなく、地獄八鬼に所属していた焦熱と炎熱だ。朱羅氏の村を焼いたのも彼らだよ』
「……そうですか」
朱羅の脳裏に、跡形もなく燃やされた村の惨状が過ぎる。食べ物、家具、服、畑、人……村にあった何もかもが焼き尽くされ、灰と炭に変わっていた。
今でも地獄八鬼を憎む気持ちは変わらない。しかしいくら仇の1人とはいえ、ここ優しき朱羅が幼子と戦うのは覚悟のいる所業だった。
「……倒す以外に道はないのでしょうか」
『ないね。2人は黒縄氏からの依頼を正しく理解出来てない。“人間は殺すべき存在なのに、何で生かす必要があるんだろう”って思ってる。何にも感じないような顔してるけど、心の中は人間への憎悪でメラメラだよ』
「そうですか……」
朱羅は悲しげに目を伏せ、ぐっと目を瞑った。再び開いた朱羅の目には、もう迷いはなかった。
「ならば、私は彼らを倒さなくてはなりませんね。あのような惨劇を、この太平の世で繰り返させはしません」
スマホを胸ポケットへ仕舞い、焦熱と炎熱に向かって金棒を構える。
蒼劔は横目で朱羅の表情を窺い、彼の覚悟が決まったことを確認した。
「周りに被害が及ばぬよう、ビルの屋上へ誘導し、結界で囲う。いいな?」
「はい!」
蒼劔と朱羅は同時に焦熱と炎熱に向かって走り出した。彼らの眼前まで距離を縮め、それぞれの武器を振り下ろす。
焦熱と炎熱は武器が当たる寸前に大きく跳躍して避けた。そのまま、背後に建っていたビルの外壁へ着地する。
蒼劔と朱羅も焦熱と炎熱を追って跳躍し、ビルの外壁に留まっている2人に向かって武器を振り上げる。
焦熱と炎熱は狙い通り、その場から跳躍してさらに上へと飛び上がり、攻撃を避ける。
しかしあと1歩で屋上のところで、2人はツノがない方の半身にある手からオレンジ色の火の玉を出現させ、屋台から心配そうにこちらを見上げている陽斗に向かって投げつけた。2つの火の玉は蒼劔と朱羅の頭上を飛んで、真っ直ぐ陽斗の元へ襲いかかる。
「陽斗殿!」
朱羅はビルの外壁へ着地し、陽斗を助けに行こうとしたが、蒼劔は「陽斗は大丈夫だ」と朱羅を制した。
「あいつには魔具がある。今は焦熱と炎熱を誘導することだけを考えろ」
「……分かりました」
朱羅は不安を抱えたまま陽斗に背を向け、蒼劔と共にビルの外壁を踏み台に跳躍して焦熱と炎熱を追った。
焦熱と炎熱は別々の方向へ逃げようとしたが、蒼劔と朱羅が彼らの行く手を阻むように武器を振り下ろした。2人はやむなく屋上へと着地し、そのまま後方へ跳躍して逃げようとする。
「させん」
蒼劔は持っていた刀を2人の後方にある屋上の角の一方へと投げた。続けて左手から新たな刀を出し、もう一方の角へ投げつける。
2本の刀は硬いコンクリートの屋上へ突き刺さり、刀を起点に焦熱と炎熱の背後に青みを帯びた透明の結界を出現させた。
「っ!」
「っ!」
突如出現した結界を見た焦熱と炎熱は、目を見開いた。それまで無表情だった2人の顔に焦りが生じる。
体を結界へ向け、両手から炎を放ってブレーキをかけた。2人の体は結界に触れる寸前で停止した。結界は2人の炎を浴びても、変わらずそこにあった。
「ふぅっ」
「ふぅっ」
2人はホッと息を吐いた。
その様子を後ろから見ていた蒼劔はボソッと呟いた。
「……感情がないわけじゃないんだな、お前達」
「!」
「!」
焦熱と炎熱は睨むように振り返る。そこでようやく、自分達が罠にかかったことに気づいた。
蒼劔は2人が背を向けている隙に、刀を屋上の四隅へ突き立て、結界を完成させていた。ドーム型の結界は天井から床下まで囲み、屋上にいる4人の鬼を閉じ込めていた。
蒼劔は刀を、朱羅は金棒を構え、焦熱と炎熱を睨む。焦熱と炎熱も蒼劔を睨み返し、左右対称に構えた。
蒼劔は2人の男の子を睨み、彼らに向かって刀を横へ走らせる。
「チッ」
「チッ」
2人の男の子は林檎飴の棒から手を離し、蒼劔の攻撃を大きく後方へ飛び退いて寸前で避けた。通行人が彼らに当たりそうになったが、体をすり抜けていった。
そこでようやく2人の外見が明らかになった。2人は炎を模したオレンジ色の刺繍が左右対称に施された、長袖の白いカンフーの道衣を纏っていた。靴もカンフーで使われる布製の白い靴を履いている。
2人は蒼劔から距離を取ると、額に着けていた狐の面を外して捨てた。面の下には白い小さなツノが片方ずつ生えていた。
「お、鬼?! あんな子供が?!」
陽斗は2人のツノを見て、驚く。以前蒼劔から子供の鬼がいることは聞いていたが、実際に見るのは初めてだった。
屋台主には2人の鬼の姿は見えていなかった。陽斗が突然声を上げても「鬼のコスプレをした子供でも見たのだろう」と大して気に留めなかった。
「炎を自在に操る鬼……なるほど、あいつらが焦熱と炎熱か」
蒼劔は2人のツノを見て、眉をひそめる。
彼の言葉に陽斗は再度驚いた。
「ってことは、あの子達も僕を狙ってる悪い鬼?!」
「そういうことだ」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
話を聞いていた朱羅も、陽斗と同様に驚きを隠せなかった。慌てて金棒を手に屋台の後ろから蒼劔の元へ回り込んでくる。
そして2人の鬼を目の前にして、愕然とした。どこからどう見ても、幼い子供にしか見えない。
「嘘でしょう……あのような幼子が焦熱と炎熱だなんて……」
「知らなかったのか?」
「……彼らの姿をまともに見た者はほとんどいません。皆、逃げる前に燃やされてしまうからです。分かっているのは炎を操る能力を持つ鬼だということと、常に2人で行動していることだけです」
「じゃあ! もしかしたらあの子達は別人かもしれないんじゃない?!」
「朱羅、五代に連絡しろ」
「承知しました」
朱羅はすぐに五代に連絡した。暫くして五代に繋がった。
五代は密かにこの状況を観察していたのか、開口一番『彼らは本物の焦熱と炎熱だよ』と即答した。怯えているのか、声が震えている。
『2人の記憶を読み取った。間違いなく、地獄八鬼に所属していた焦熱と炎熱だ。朱羅氏の村を焼いたのも彼らだよ』
「……そうですか」
朱羅の脳裏に、跡形もなく燃やされた村の惨状が過ぎる。食べ物、家具、服、畑、人……村にあった何もかもが焼き尽くされ、灰と炭に変わっていた。
今でも地獄八鬼を憎む気持ちは変わらない。しかしいくら仇の1人とはいえ、ここ優しき朱羅が幼子と戦うのは覚悟のいる所業だった。
「……倒す以外に道はないのでしょうか」
『ないね。2人は黒縄氏からの依頼を正しく理解出来てない。“人間は殺すべき存在なのに、何で生かす必要があるんだろう”って思ってる。何にも感じないような顔してるけど、心の中は人間への憎悪でメラメラだよ』
「そうですか……」
朱羅は悲しげに目を伏せ、ぐっと目を瞑った。再び開いた朱羅の目には、もう迷いはなかった。
「ならば、私は彼らを倒さなくてはなりませんね。あのような惨劇を、この太平の世で繰り返させはしません」
スマホを胸ポケットへ仕舞い、焦熱と炎熱に向かって金棒を構える。
蒼劔は横目で朱羅の表情を窺い、彼の覚悟が決まったことを確認した。
「周りに被害が及ばぬよう、ビルの屋上へ誘導し、結界で囲う。いいな?」
「はい!」
蒼劔と朱羅は同時に焦熱と炎熱に向かって走り出した。彼らの眼前まで距離を縮め、それぞれの武器を振り下ろす。
焦熱と炎熱は武器が当たる寸前に大きく跳躍して避けた。そのまま、背後に建っていたビルの外壁へ着地する。
蒼劔と朱羅も焦熱と炎熱を追って跳躍し、ビルの外壁に留まっている2人に向かって武器を振り上げる。
焦熱と炎熱は狙い通り、その場から跳躍してさらに上へと飛び上がり、攻撃を避ける。
しかしあと1歩で屋上のところで、2人はツノがない方の半身にある手からオレンジ色の火の玉を出現させ、屋台から心配そうにこちらを見上げている陽斗に向かって投げつけた。2つの火の玉は蒼劔と朱羅の頭上を飛んで、真っ直ぐ陽斗の元へ襲いかかる。
「陽斗殿!」
朱羅はビルの外壁へ着地し、陽斗を助けに行こうとしたが、蒼劔は「陽斗は大丈夫だ」と朱羅を制した。
「あいつには魔具がある。今は焦熱と炎熱を誘導することだけを考えろ」
「……分かりました」
朱羅は不安を抱えたまま陽斗に背を向け、蒼劔と共にビルの外壁を踏み台に跳躍して焦熱と炎熱を追った。
焦熱と炎熱は別々の方向へ逃げようとしたが、蒼劔と朱羅が彼らの行く手を阻むように武器を振り下ろした。2人はやむなく屋上へと着地し、そのまま後方へ跳躍して逃げようとする。
「させん」
蒼劔は持っていた刀を2人の後方にある屋上の角の一方へと投げた。続けて左手から新たな刀を出し、もう一方の角へ投げつける。
2本の刀は硬いコンクリートの屋上へ突き刺さり、刀を起点に焦熱と炎熱の背後に青みを帯びた透明の結界を出現させた。
「っ!」
「っ!」
突如出現した結界を見た焦熱と炎熱は、目を見開いた。それまで無表情だった2人の顔に焦りが生じる。
体を結界へ向け、両手から炎を放ってブレーキをかけた。2人の体は結界に触れる寸前で停止した。結界は2人の炎を浴びても、変わらずそこにあった。
「ふぅっ」
「ふぅっ」
2人はホッと息を吐いた。
その様子を後ろから見ていた蒼劔はボソッと呟いた。
「……感情がないわけじゃないんだな、お前達」
「!」
「!」
焦熱と炎熱は睨むように振り返る。そこでようやく、自分達が罠にかかったことに気づいた。
蒼劔は2人が背を向けている隙に、刀を屋上の四隅へ突き立て、結界を完成させていた。ドーム型の結界は天井から床下まで囲み、屋上にいる4人の鬼を閉じ込めていた。
蒼劔は刀を、朱羅は金棒を構え、焦熱と炎熱を睨む。焦熱と炎熱も蒼劔を睨み返し、左右対称に構えた。
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