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第1.5話「インチキ霊能力者をぶっ倒せ!」
漆:水晶のブレスレット
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「蒼劔君だよね? 僕に喋らせてたの」
壺教からの帰りのバスの中で、陽斗は思い切って蒼劔に尋ねた。饅頭を食べていた蒼劔は「あぁ」とあっさり認めた。
「お前の体に取り憑いて、操っていた。お前のためを思えば、全てお前自身の力で金を取り戻させるべきだっただろう。しかしそんなことをすれば、お前の金も命もいくらあっても足らなくなる。なので少々、手助けした」
「だったら、ずっと取り憑いててくれれば良かったのに。僕、すっごく怖かったんだよ? サングラスのお兄さん達とか、壺教の人達とか」
陽斗はこの1日で経験した出来事を思い出しただけで、鳥肌が立った。しかし蒼劔は「それは出来ない」と首を振った。
「人間は異形に取り憑かれると、異形が持つ妖力の一部を吸収してしまう。今回のように短時間ならば害は無いが、長く取り憑かれていればいるほど、吸収される妖力は増える。場合によっては、憑依している異形と同化し、異形そのものに変わってしまうこともあるんだぞ」
「ってことは、あのまま蒼劔君が取り憑いてたら、僕は蒼劔君になっちゃってたってこと? それは困るなぁ」
ふと、陽斗はリュックの外ポケットに何かが入っていることに気づいた。普段は使っていないポケットなので、気にも留めていなかった。
「なんか入れてたっけ?」
外ポケットのチャックを開け、手を入れてみると、中から水晶のブレスレットと小さく折り畳まれた紙が出て来た。
恐る恐る紙を広げてみると、それはブレスレットの保証書だった。保証書にはブレスレットを購入した際に受け取った領収書が貼られている。
陽斗は保証書に書かれていたブレスレットの説明を読んだ。
「開運ブレスレット。貴方に降りかかる厄災を退けます。効果が実感出来ない場合は、無料で交換します。有効期限、購入から半年」
「……まだインチキ開運グッズを持っていたのか」
蒼劔がブレスレットに気づき、睨むような視線を向ける。指でブレスレットを摘むと、眼前まで持ち上げた。
「素材は本物の水晶で出来ているようだが、特殊な力は込められていないようだな。これもパチモン開運グッズかもしれん。何処で買った?」
「えっとね……」
陽斗は保証書に書かれていた店名を口にした。
「稲葉淳一心霊相談所だって。名曽野駅の近くのお店だよ」
「いかにも怪しい名前の店だな。行ってみるか」
蒼劔はたった1つのブレスレットのために、またも自称霊能力者の元へ乗り込むつもりらしい。そんな蒼劔を見て、陽斗はずっと気になっていたことを尋ねた。
「蒼劔君、どうして僕のためにここまでしてくれるの? 開運グッズの返品なんて、妖怪や鬼とは何の関係もないのに」
「……全く関係がない訳ではない」
蒼劔はブレスレットを陽斗に返し、真っ直ぐ彼を見た。
「異形達は人間の心の弱さにつけ込む。金を欲する人間には金をちらつかせ、憎い相手がいる人間には“俺が代わりにそいつを殺してやる”と囁く。……今日出会った似非霊能力者達と同じだ。人間を騙し、利用し、自分のためなら何だってやる。今のままのお前では、間違いなく奴らの食い物にされるだろう。その不安材料を減らすためにも、必要なことなんだ」
それに、と蒼劔は少し表情を和らげ、言った。
「お前が家賃を払えなくなったら、野宿生活になってしまうからな。真夜中に外で寝るのは危険だ。妖怪が昼間の倍以上はいる。そうなれば俺でもキツい。野宿にならないためにも、金は集めておいた方がいい」
「妖怪が昼間の倍以上……」
陽斗は寝袋で寝ている自分の周りを大勢の妖怪達が取り囲み、自分を見下ろしている光景を想像して青ざめた。
・
稲葉淳一心霊相談所は駅前の雑居ビルの3階にあった。その雑居ビルは古く、左右に建つ高層ビルと高層ビルに押し潰されているように見える。
「こんな所にお店があったんだ……」
「ブレスレットを買った時に来たんじゃないのか?」
「ううん。名曽野駅の前で買ったんだよ。たまたまおじさんに声をかけられて、“これを持ってないと危ない”って言われたから、1万円で買ったんだー」
「そんな軽々しく1万円を渡すな」
陽斗と蒼劔は薄暗く急な階段を上り、稲葉淳一心霊相談所のドアを叩いた。中から「どうぞ」としゃがれた男の声が聞こえた。
「お、お邪魔します」
陽斗が恐る恐るドアを開くと、白髪まじりで髭面の和装の男が出迎えた。
「ようこそ、稲葉淳一心霊相談所へ……おや、君は」
男は陽斗のことを覚えていたようで、目を丸くした。陽斗も「ご無沙汰です」と会釈する。
部屋には来客用のテーブルとソファの他に、作業用の机と椅子が置かれていた。作業中だったのか、いくつかのパーツと工具が机の上に散乱している。
男は陽斗に会えたのがよほど嬉しかったのか、笑顔で歩み寄って握手してきた。
「いやはや、また君に会えるとは! もう駄目かと諦めていたが、息災で何より……いや、むしろ以前に会った時よりも霊力が高くなってはおらんかね?」
しかし男はすぐに陽斗の異変に気づき、眉を顰めた。
「驚いたな。貴様、本物の術者か」
男の様子を見ていた蒼劔は陽斗の背後から男の前へ姿を現した。男は蒼劔を目にした途端、「うぉおっ?!」と声を上げ、飛び上がった。
「蒼劔! 何故お前がここに?!」
壺教からの帰りのバスの中で、陽斗は思い切って蒼劔に尋ねた。饅頭を食べていた蒼劔は「あぁ」とあっさり認めた。
「お前の体に取り憑いて、操っていた。お前のためを思えば、全てお前自身の力で金を取り戻させるべきだっただろう。しかしそんなことをすれば、お前の金も命もいくらあっても足らなくなる。なので少々、手助けした」
「だったら、ずっと取り憑いててくれれば良かったのに。僕、すっごく怖かったんだよ? サングラスのお兄さん達とか、壺教の人達とか」
陽斗はこの1日で経験した出来事を思い出しただけで、鳥肌が立った。しかし蒼劔は「それは出来ない」と首を振った。
「人間は異形に取り憑かれると、異形が持つ妖力の一部を吸収してしまう。今回のように短時間ならば害は無いが、長く取り憑かれていればいるほど、吸収される妖力は増える。場合によっては、憑依している異形と同化し、異形そのものに変わってしまうこともあるんだぞ」
「ってことは、あのまま蒼劔君が取り憑いてたら、僕は蒼劔君になっちゃってたってこと? それは困るなぁ」
ふと、陽斗はリュックの外ポケットに何かが入っていることに気づいた。普段は使っていないポケットなので、気にも留めていなかった。
「なんか入れてたっけ?」
外ポケットのチャックを開け、手を入れてみると、中から水晶のブレスレットと小さく折り畳まれた紙が出て来た。
恐る恐る紙を広げてみると、それはブレスレットの保証書だった。保証書にはブレスレットを購入した際に受け取った領収書が貼られている。
陽斗は保証書に書かれていたブレスレットの説明を読んだ。
「開運ブレスレット。貴方に降りかかる厄災を退けます。効果が実感出来ない場合は、無料で交換します。有効期限、購入から半年」
「……まだインチキ開運グッズを持っていたのか」
蒼劔がブレスレットに気づき、睨むような視線を向ける。指でブレスレットを摘むと、眼前まで持ち上げた。
「素材は本物の水晶で出来ているようだが、特殊な力は込められていないようだな。これもパチモン開運グッズかもしれん。何処で買った?」
「えっとね……」
陽斗は保証書に書かれていた店名を口にした。
「稲葉淳一心霊相談所だって。名曽野駅の近くのお店だよ」
「いかにも怪しい名前の店だな。行ってみるか」
蒼劔はたった1つのブレスレットのために、またも自称霊能力者の元へ乗り込むつもりらしい。そんな蒼劔を見て、陽斗はずっと気になっていたことを尋ねた。
「蒼劔君、どうして僕のためにここまでしてくれるの? 開運グッズの返品なんて、妖怪や鬼とは何の関係もないのに」
「……全く関係がない訳ではない」
蒼劔はブレスレットを陽斗に返し、真っ直ぐ彼を見た。
「異形達は人間の心の弱さにつけ込む。金を欲する人間には金をちらつかせ、憎い相手がいる人間には“俺が代わりにそいつを殺してやる”と囁く。……今日出会った似非霊能力者達と同じだ。人間を騙し、利用し、自分のためなら何だってやる。今のままのお前では、間違いなく奴らの食い物にされるだろう。その不安材料を減らすためにも、必要なことなんだ」
それに、と蒼劔は少し表情を和らげ、言った。
「お前が家賃を払えなくなったら、野宿生活になってしまうからな。真夜中に外で寝るのは危険だ。妖怪が昼間の倍以上はいる。そうなれば俺でもキツい。野宿にならないためにも、金は集めておいた方がいい」
「妖怪が昼間の倍以上……」
陽斗は寝袋で寝ている自分の周りを大勢の妖怪達が取り囲み、自分を見下ろしている光景を想像して青ざめた。
・
稲葉淳一心霊相談所は駅前の雑居ビルの3階にあった。その雑居ビルは古く、左右に建つ高層ビルと高層ビルに押し潰されているように見える。
「こんな所にお店があったんだ……」
「ブレスレットを買った時に来たんじゃないのか?」
「ううん。名曽野駅の前で買ったんだよ。たまたまおじさんに声をかけられて、“これを持ってないと危ない”って言われたから、1万円で買ったんだー」
「そんな軽々しく1万円を渡すな」
陽斗と蒼劔は薄暗く急な階段を上り、稲葉淳一心霊相談所のドアを叩いた。中から「どうぞ」としゃがれた男の声が聞こえた。
「お、お邪魔します」
陽斗が恐る恐るドアを開くと、白髪まじりで髭面の和装の男が出迎えた。
「ようこそ、稲葉淳一心霊相談所へ……おや、君は」
男は陽斗のことを覚えていたようで、目を丸くした。陽斗も「ご無沙汰です」と会釈する。
部屋には来客用のテーブルとソファの他に、作業用の机と椅子が置かれていた。作業中だったのか、いくつかのパーツと工具が机の上に散乱している。
男は陽斗に会えたのがよほど嬉しかったのか、笑顔で歩み寄って握手してきた。
「いやはや、また君に会えるとは! もう駄目かと諦めていたが、息災で何より……いや、むしろ以前に会った時よりも霊力が高くなってはおらんかね?」
しかし男はすぐに陽斗の異変に気づき、眉を顰めた。
「驚いたな。貴様、本物の術者か」
男の様子を見ていた蒼劔は陽斗の背後から男の前へ姿を現した。男は蒼劔を目にした途端、「うぉおっ?!」と声を上げ、飛び上がった。
「蒼劔! 何故お前がここに?!」
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