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第1.5話「インチキ霊能力者をぶっ倒せ!」
陸:憑依
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陽斗はオヤジを指差し、壺を被った男性に尋ねた。
「あの人は誰ですか?」
「あの人とは?」
案の定、壺を被った男性はオヤジに気づいていなかった。陽斗が指差した方向をジッと見るような仕草をしている。
「ほら、壺の横にいるおじさんですよ。太っちょの」
「……」
壺を被った男性は暫く動きを止めていたが「なるほど!」と急に声を上げるなり、陽斗の肩に手を置いた。
「素晴らしい! 貴方は壺神様が見えるのですね?!」
「え?」
陽斗はオヤジが壺神と聞いて、驚いた。オヤジには神聖なオーラも言葉では表せない神々しさも微塵もない。今も週刊誌を眺めては、肥えた腹をボリボリかいている。
「ほ、本当にあの人が壺神様なんですか?! 全然神様っぽく無いんですけど!」
「それが壺神様なのです。壺神様は我々凡人をお導きになるため、敢えてあのようなお姿をされているのですよ」
「えぇぇ……? もっと神様っぽい格好した方がいいと思うけど……蒼劔君はどう思う?」
陽斗が隣の蒼劔に尋ねると、彼は壺を被った男性の壺の中から小さな機械を取り出し、眺めていた。
「あれはただの霊だ。生前、ここに住んでいたか、住処を追われてここに行き着いたのだろう。あの様子を見るに、危険な霊ではなさそうだ」
「じゃあ、壺神様じゃないんだ。ところで、蒼劔君が持ってるそれは何?」
「俺にもよく分からんが、ここから声が聞こえる」
「声?」
2人には見慣れないアイテムだったが、それはコードがないタイプのワイヤレスイヤホンだった。
陽斗は壺を被った男性にワイヤレスイヤホンが見えないよう、蒼劔にワイヤレスイヤホンを持ってもらった状態のまま、試しに耳に付けてみた。すると、そこから確かに声が聞こえてきた。
『その少年を信者達の前に出せ! 壺神様の証言をさせるんだ!』
「君、ちょっとついてきてもらえますか?」
「え? え?」
壺を被った男性はワイヤレスイヤホンの指示通りに陽斗の手を引き、信者達の前へ誘導した。信者達は壺を被った男性が近づくより先に道を開け、頭を下げる。
陽斗は手を振り解いて逃げ出したかったが、壺を被った男性の力が強く、そのまま引っ張られていった。
「なるほど。信者共は全員あの機械を身に着けているおかげで、目では見えなくとも周囲の状況を知れるのか。おおかた、部屋中に監視カメラが仕込んであって、その映像を元に指示を出している連中がいるのだろう」
蒼劔も陽斗の後ろからついてくる。陽斗は壺を被った男の人に聞かれないよう、小声で蒼劔に尋ねた。
「でも、これからどうするの? この人達、全然お金返してくれる気配無いよ? このままじゃ、家に返してくれるかどうかも怪しくない?」
「そうだな。奴らはお前を入信させるつもりなのだろう。そうなれば、今まで以上に金を搾取される」
「えぇー?! せっかく、取り戻したのに?!」
「俺もさっさとこいつの壺を剥ぎ取って、オダマリハリセンを使って金を返却させたいが、さっきの機械の話を聞くに、どうやらこいつは組織の中堅らしい。実際に組織を動かしているのはもっと上の人間のようだ。そいつらを潰さない限り、信者は増え続ける」
「あのハリセンってそんな名前だったんだ……。じゃあどうすればいいの?」
「一芝居打つ。お前は堂々としていればいい」
「お芝居?」
蒼劔と話しているうちに、陽斗は壺を被った男性によって信者の前に立たされていた。壺の横で週刊誌を眺めていたオヤジも陽斗に気づき、思わず二度見する。
「おっほー! 兄ちゃん、いい霊力持ってんなぁ! おじちゃんにちょっと分けてはくれんかね?」
やはりオヤジは言うこともオヤジだったが、陽斗の横にいた蒼劔を見た途端、週刊誌を投げ出し、その体型からは想像出来ない程の素早い動きで部屋から逃げ出そうとした。しかし、壁を通り抜ける寸前で蒼劔に刀で斬られ、消滅する。
「皆さん! この少年は壺神様のお姿が見える神子でございます! これより彼から、壺神様のありがたいお言葉を賜わりますので、どうかご静粛に!」
オヤジが消えたとは知らない壺を被った男性は信者達を前にそう豪語し、陽斗に視線を向ける。正確には壺を被っているので陽斗から彼の目は見えないが、壺の顔が彼を見ているということは、おそらくそうなのだろう。
陽斗は蒼劔に言われた通り、堂々と胸を張っていることにした。すると、またも勝手に口が動いた。
「壺神様は他の信者もこの部屋へ集めろ、と仰っています」
「分かりました」
壺を被った男性は陽斗の言うことを信じて頷くと、壺の中で何やら呟いた。彼はワイヤレスイヤホンの片方がなくなっていることに気づいたようだが、自分が落としたのだと思ったのか、態度には現さなかった。
やがて、彼の通信を聞いた他の信者達も部屋に集まってきた。座っていた信者達が立ち上がっても全員は部屋に入りきらず、扉の向こうの玄関ホールにあぶれていた。大きな壺を被った教団の教祖や幹部らしき男達も信者を押し除けて部屋に入り、最前列で陽斗の言葉を待っている。
信者達が全員集まると、再び陽斗の口が動いた。
「壺神様は怒っている。今まで誰も自分の存在に気づかず、放置されていたことを嘆いておられる」
陽斗の言葉を聞き、信者達はざわついた。教祖や幹部も壺の顔を見合わせている。
(え? 壺神様ってあのおじさんのことだよね? おじさん、もういなくなっちゃったんじゃ……?)
陽斗も自分の発言に困惑する。しかし、陽斗の口は止まらない。
「壺神様は天罰を食らわせると仰っている。貴様達のような愚か者にその壺は似合わない、と」
この発言には教祖と幹部が黙っていなかった。
「でたらめを言うな!」「今日来たばかりの若造が!」「貴様に壺神様の何が分かる!」
教祖と幹部は怒りのあまり、陽斗に食ってかかろうとした。
「ひぇー!」
陽斗はその場から逃げ出したかったが、周りを信者で囲われているせいで、逃げられなかった。次の瞬間、
「よっと」
陽斗の横に立っていた蒼劔が教祖の壺を持ち上げるなり、床に叩きつけた。壺は「ガシャーンッ!」と音を立て、粉々に砕ける。
「……」
その場にいた誰もが言葉を失った。目では見えないが、音で分かる。これは壺が割れた音だ、と。
陽斗に食ってかかろうとしていた幹部達も動きを止め、音がした方を見下ろした。ただ1人、被っていた壺がひとりでに持ち上がり、割られた本人だけが悲鳴を上げた。白い髭を生やした老人だった。教祖はそのまま床へ尻餅をつき、怯えた眼差しで陽斗を指差した。
「こ、こいつは悪魔だ! 壺神様の代行者を名乗った悪魔だ!」
「やかましい」
蒼劔が喚く教祖の頭をハリセンで叩く。ハリセンで頭を叩かれた教祖はその場で倒れ、虚な目で天井を見つめた。
「教祖様?」「どうなされたのです?」
突然静かになった教祖に、周りの信者達は困惑するが、誰も壺を取って様子を確認しようとはしない。その間に蒼劔は教祖の耳元へ囁いた。
「この教団を解散し、騙した人々に金を返してやれ。そして幹部共々、警察に出頭しろ」
「ふぁかりまひた」
教祖は虚な目のままで頷くと、よろよろと立ち上がり、集まった信者達の方を向いて宣言した。
「壺神様のお告げにより、我々壺教は本日をもって解散する! 今まで騙し取ってきた金は全額返却し、幹部信者は儂と共に警察へ出頭せよ!」
突如心変わりした教祖に、信者達は動揺した。中でも幹部達は焦り、教祖へ詰め寄る。
「教祖様、何を仰っているのですか!」「まさか教祖様まで悪魔に乗っ取られたのでは?!」「そうだ! 悪魔が教祖様を惑わしているのだ!」
その幹部達の壺も蒼劔が次々に外し、床へ叩きつけていく。壺を失った幹部達は目の前で起こっていることを信じられず、慌てふためいていた。
常に冷静だった彼らの慌てる声を耳にし、信者達はさらに不安を募らせた。とうとう一部の信者が自ら壺を外し、幹部達に起こっている現象を目撃すると、一様に悲鳴を上げた。
「壺が浮いてる!」「壺神様の祟りだ!」「我々も呪われてしまう!」
壺を外した信者達は他の信者達をかき分け、開け放たれたままの扉から降臨の間を出て行った。そのまま玄関ホールにいた信者達を押し除け、施設の外へ逃げ出す。
玄関ホールにいた信者達は降臨の間で何が起こっているのかまだ知らなかったが、降臨の間から逃げ出していった信者達の異様な剣幕に、恐る恐る壺を外した。そして、開け放たれた扉から降臨の間で起こっている怪奇現象を目の当たりにし、悲鳴を上げながら一斉に施設から逃げ出した。あれだけ大切にしていた壺は床へ投げ捨てられ、割れた破片が玄関ホールの床を埋め尽くす。
「待て! 待ってくれ!」「我々を置いていかんでくれー!」「こ、殺されるー!」
壺を割られた幹部やまだ部屋で壺を被っていた信者達も彼らを追いかけるように降臨の間から逃げ出し、施設を出ていく。草履のような履物を履いていた彼らの足は、床に散乱した壺の破片で傷だらけになっていたが、途中で足を止める者は誰もいなかった。
陽斗を案内した男も頭から壺を外し、信者達と一緒に施設から逃げていった。
残されたのは陽斗と蒼劔と教祖だけだった。
喧騒が遠ざかり、静まり返った降臨の間を教祖はゆっくりと見回した。降臨の間の床にも、大量の壺の破片が散らばっていた。
やがて教祖は信者達が「壺神」と崇めていた壺の中を覗き込むと、おもむろに手を突っ込んだ。暫くして壺から出て来た教祖の手には、分厚い札束が握られていた。
「君はいくら払ったのかね?」
教祖は札束を手にしたまま、陽斗に尋ねた。空っぽになった部屋を呆然と眺めていた陽斗は、慌ててリュックの中から請求書を取り出し、教祖に見せた。
「に、2000万円です! 壺、20個買いました!」
教祖は懐から老眼鏡を出し、請求書へ目を凝らすと、壺から2000万円分の札束を取り出し、陽斗に手渡した。
「君のような若い人からこんな大金を騙し取って、すまなかったね。買った壺は好きなようにしてくれていいから」
「じゃあ、全部ここに置いていきます」
陽斗は自分のリュックと蒼劔の風呂敷から全ての壺を「壺神様」の隣へ置いた。全ての壺を置き終わると、陽斗のリュックは軽くなり、蒼劔の風呂敷に入っていた荷物は何も無くなった。
蒼劔は陽斗から風呂敷を受け取ると、小さく畳んで懐へ仕舞った。
「あの人は誰ですか?」
「あの人とは?」
案の定、壺を被った男性はオヤジに気づいていなかった。陽斗が指差した方向をジッと見るような仕草をしている。
「ほら、壺の横にいるおじさんですよ。太っちょの」
「……」
壺を被った男性は暫く動きを止めていたが「なるほど!」と急に声を上げるなり、陽斗の肩に手を置いた。
「素晴らしい! 貴方は壺神様が見えるのですね?!」
「え?」
陽斗はオヤジが壺神と聞いて、驚いた。オヤジには神聖なオーラも言葉では表せない神々しさも微塵もない。今も週刊誌を眺めては、肥えた腹をボリボリかいている。
「ほ、本当にあの人が壺神様なんですか?! 全然神様っぽく無いんですけど!」
「それが壺神様なのです。壺神様は我々凡人をお導きになるため、敢えてあのようなお姿をされているのですよ」
「えぇぇ……? もっと神様っぽい格好した方がいいと思うけど……蒼劔君はどう思う?」
陽斗が隣の蒼劔に尋ねると、彼は壺を被った男性の壺の中から小さな機械を取り出し、眺めていた。
「あれはただの霊だ。生前、ここに住んでいたか、住処を追われてここに行き着いたのだろう。あの様子を見るに、危険な霊ではなさそうだ」
「じゃあ、壺神様じゃないんだ。ところで、蒼劔君が持ってるそれは何?」
「俺にもよく分からんが、ここから声が聞こえる」
「声?」
2人には見慣れないアイテムだったが、それはコードがないタイプのワイヤレスイヤホンだった。
陽斗は壺を被った男性にワイヤレスイヤホンが見えないよう、蒼劔にワイヤレスイヤホンを持ってもらった状態のまま、試しに耳に付けてみた。すると、そこから確かに声が聞こえてきた。
『その少年を信者達の前に出せ! 壺神様の証言をさせるんだ!』
「君、ちょっとついてきてもらえますか?」
「え? え?」
壺を被った男性はワイヤレスイヤホンの指示通りに陽斗の手を引き、信者達の前へ誘導した。信者達は壺を被った男性が近づくより先に道を開け、頭を下げる。
陽斗は手を振り解いて逃げ出したかったが、壺を被った男性の力が強く、そのまま引っ張られていった。
「なるほど。信者共は全員あの機械を身に着けているおかげで、目では見えなくとも周囲の状況を知れるのか。おおかた、部屋中に監視カメラが仕込んであって、その映像を元に指示を出している連中がいるのだろう」
蒼劔も陽斗の後ろからついてくる。陽斗は壺を被った男の人に聞かれないよう、小声で蒼劔に尋ねた。
「でも、これからどうするの? この人達、全然お金返してくれる気配無いよ? このままじゃ、家に返してくれるかどうかも怪しくない?」
「そうだな。奴らはお前を入信させるつもりなのだろう。そうなれば、今まで以上に金を搾取される」
「えぇー?! せっかく、取り戻したのに?!」
「俺もさっさとこいつの壺を剥ぎ取って、オダマリハリセンを使って金を返却させたいが、さっきの機械の話を聞くに、どうやらこいつは組織の中堅らしい。実際に組織を動かしているのはもっと上の人間のようだ。そいつらを潰さない限り、信者は増え続ける」
「あのハリセンってそんな名前だったんだ……。じゃあどうすればいいの?」
「一芝居打つ。お前は堂々としていればいい」
「お芝居?」
蒼劔と話しているうちに、陽斗は壺を被った男性によって信者の前に立たされていた。壺の横で週刊誌を眺めていたオヤジも陽斗に気づき、思わず二度見する。
「おっほー! 兄ちゃん、いい霊力持ってんなぁ! おじちゃんにちょっと分けてはくれんかね?」
やはりオヤジは言うこともオヤジだったが、陽斗の横にいた蒼劔を見た途端、週刊誌を投げ出し、その体型からは想像出来ない程の素早い動きで部屋から逃げ出そうとした。しかし、壁を通り抜ける寸前で蒼劔に刀で斬られ、消滅する。
「皆さん! この少年は壺神様のお姿が見える神子でございます! これより彼から、壺神様のありがたいお言葉を賜わりますので、どうかご静粛に!」
オヤジが消えたとは知らない壺を被った男性は信者達を前にそう豪語し、陽斗に視線を向ける。正確には壺を被っているので陽斗から彼の目は見えないが、壺の顔が彼を見ているということは、おそらくそうなのだろう。
陽斗は蒼劔に言われた通り、堂々と胸を張っていることにした。すると、またも勝手に口が動いた。
「壺神様は他の信者もこの部屋へ集めろ、と仰っています」
「分かりました」
壺を被った男性は陽斗の言うことを信じて頷くと、壺の中で何やら呟いた。彼はワイヤレスイヤホンの片方がなくなっていることに気づいたようだが、自分が落としたのだと思ったのか、態度には現さなかった。
やがて、彼の通信を聞いた他の信者達も部屋に集まってきた。座っていた信者達が立ち上がっても全員は部屋に入りきらず、扉の向こうの玄関ホールにあぶれていた。大きな壺を被った教団の教祖や幹部らしき男達も信者を押し除けて部屋に入り、最前列で陽斗の言葉を待っている。
信者達が全員集まると、再び陽斗の口が動いた。
「壺神様は怒っている。今まで誰も自分の存在に気づかず、放置されていたことを嘆いておられる」
陽斗の言葉を聞き、信者達はざわついた。教祖や幹部も壺の顔を見合わせている。
(え? 壺神様ってあのおじさんのことだよね? おじさん、もういなくなっちゃったんじゃ……?)
陽斗も自分の発言に困惑する。しかし、陽斗の口は止まらない。
「壺神様は天罰を食らわせると仰っている。貴様達のような愚か者にその壺は似合わない、と」
この発言には教祖と幹部が黙っていなかった。
「でたらめを言うな!」「今日来たばかりの若造が!」「貴様に壺神様の何が分かる!」
教祖と幹部は怒りのあまり、陽斗に食ってかかろうとした。
「ひぇー!」
陽斗はその場から逃げ出したかったが、周りを信者で囲われているせいで、逃げられなかった。次の瞬間、
「よっと」
陽斗の横に立っていた蒼劔が教祖の壺を持ち上げるなり、床に叩きつけた。壺は「ガシャーンッ!」と音を立て、粉々に砕ける。
「……」
その場にいた誰もが言葉を失った。目では見えないが、音で分かる。これは壺が割れた音だ、と。
陽斗に食ってかかろうとしていた幹部達も動きを止め、音がした方を見下ろした。ただ1人、被っていた壺がひとりでに持ち上がり、割られた本人だけが悲鳴を上げた。白い髭を生やした老人だった。教祖はそのまま床へ尻餅をつき、怯えた眼差しで陽斗を指差した。
「こ、こいつは悪魔だ! 壺神様の代行者を名乗った悪魔だ!」
「やかましい」
蒼劔が喚く教祖の頭をハリセンで叩く。ハリセンで頭を叩かれた教祖はその場で倒れ、虚な目で天井を見つめた。
「教祖様?」「どうなされたのです?」
突然静かになった教祖に、周りの信者達は困惑するが、誰も壺を取って様子を確認しようとはしない。その間に蒼劔は教祖の耳元へ囁いた。
「この教団を解散し、騙した人々に金を返してやれ。そして幹部共々、警察に出頭しろ」
「ふぁかりまひた」
教祖は虚な目のままで頷くと、よろよろと立ち上がり、集まった信者達の方を向いて宣言した。
「壺神様のお告げにより、我々壺教は本日をもって解散する! 今まで騙し取ってきた金は全額返却し、幹部信者は儂と共に警察へ出頭せよ!」
突如心変わりした教祖に、信者達は動揺した。中でも幹部達は焦り、教祖へ詰め寄る。
「教祖様、何を仰っているのですか!」「まさか教祖様まで悪魔に乗っ取られたのでは?!」「そうだ! 悪魔が教祖様を惑わしているのだ!」
その幹部達の壺も蒼劔が次々に外し、床へ叩きつけていく。壺を失った幹部達は目の前で起こっていることを信じられず、慌てふためいていた。
常に冷静だった彼らの慌てる声を耳にし、信者達はさらに不安を募らせた。とうとう一部の信者が自ら壺を外し、幹部達に起こっている現象を目撃すると、一様に悲鳴を上げた。
「壺が浮いてる!」「壺神様の祟りだ!」「我々も呪われてしまう!」
壺を外した信者達は他の信者達をかき分け、開け放たれたままの扉から降臨の間を出て行った。そのまま玄関ホールにいた信者達を押し除け、施設の外へ逃げ出す。
玄関ホールにいた信者達は降臨の間で何が起こっているのかまだ知らなかったが、降臨の間から逃げ出していった信者達の異様な剣幕に、恐る恐る壺を外した。そして、開け放たれた扉から降臨の間で起こっている怪奇現象を目の当たりにし、悲鳴を上げながら一斉に施設から逃げ出した。あれだけ大切にしていた壺は床へ投げ捨てられ、割れた破片が玄関ホールの床を埋め尽くす。
「待て! 待ってくれ!」「我々を置いていかんでくれー!」「こ、殺されるー!」
壺を割られた幹部やまだ部屋で壺を被っていた信者達も彼らを追いかけるように降臨の間から逃げ出し、施設を出ていく。草履のような履物を履いていた彼らの足は、床に散乱した壺の破片で傷だらけになっていたが、途中で足を止める者は誰もいなかった。
陽斗を案内した男も頭から壺を外し、信者達と一緒に施設から逃げていった。
残されたのは陽斗と蒼劔と教祖だけだった。
喧騒が遠ざかり、静まり返った降臨の間を教祖はゆっくりと見回した。降臨の間の床にも、大量の壺の破片が散らばっていた。
やがて教祖は信者達が「壺神」と崇めていた壺の中を覗き込むと、おもむろに手を突っ込んだ。暫くして壺から出て来た教祖の手には、分厚い札束が握られていた。
「君はいくら払ったのかね?」
教祖は札束を手にしたまま、陽斗に尋ねた。空っぽになった部屋を呆然と眺めていた陽斗は、慌ててリュックの中から請求書を取り出し、教祖に見せた。
「に、2000万円です! 壺、20個買いました!」
教祖は懐から老眼鏡を出し、請求書へ目を凝らすと、壺から2000万円分の札束を取り出し、陽斗に手渡した。
「君のような若い人からこんな大金を騙し取って、すまなかったね。買った壺は好きなようにしてくれていいから」
「じゃあ、全部ここに置いていきます」
陽斗は自分のリュックと蒼劔の風呂敷から全ての壺を「壺神様」の隣へ置いた。全ての壺を置き終わると、陽斗のリュックは軽くなり、蒼劔の風呂敷に入っていた荷物は何も無くなった。
蒼劔は陽斗から風呂敷を受け取ると、小さく畳んで懐へ仕舞った。
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