贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

文字の大きさ
上 下
9 / 327
第1話「映える心霊スポット」

弐:陽斗、連れ去られる

しおりを挟む
「じゃ、また明日ー」
「えぇ。またね」
「バイト、頑張れよー!」
 一日の授業が全て終わると、陽斗は教室を後にし、帰途についた。今日はこの後すぐ、コンビニのバイトに行かなければならないのだ。
 飯沼は掃除当番で教室に残り、成田は所属しているオカルト研究部の部室へ向かう。時間が合えば三人で帰ることもあったが、今日は陽斗一人で帰ることになった。
 校舎から一歩外へ出ると、灼熱地獄だった。日差しが強く、風は全く吹いていない。どの部屋もクーラーがガンガンに効いている校舎が無性に恋しかった。
「あっつ……もうすぐ夏休みだもんなぁ」
 陽斗はクーラーの誘惑にも負けず、校門を出て自宅のアパートを目指した。
 暑さのせいか、外を歩いているのは陽斗だけだった。他の生徒は皆、部活に行っているのだろう。
 人がいない代わりに、無数の蝉達がけたたましく鳴き声を上げていた。歩道沿いに植えられた低木にも一匹止まっており、孤独に鳴き続けていた。
 低木の葉の裏には蝉の抜け殻も張りついており、つぶらな丸い瞳に陽斗の姿が映っていた。陽斗はその抜け殻を見つけるなり、ボソッと呟いた。
「……あれ、食べられるかな?」

       ・

 陽斗は苦学生である。
 高校に入学してからというものの、複数のバイトを掛け持ちし、放課後と休日は連日バイト漬けの日々を過ごしていた。労働可能時間ギリギリまでシフトを入れ、コンビニのバイトが終わったらファミレスのバイトへ、ファミレスのバイトが終わったら、別のコンビニのバイトへと、一日に何軒ものバイト先をはしごすることがザラにあった。
 と言うのも、陽斗には両親がいなかった。彼が幼い頃、事故に遭って亡くなったのだ。
 その後は唯一の肉親である祖母に育てられたが、その祖母も陽斗の小学校の卒業式の日に亡くなり、高校に進学するまでは施設で育った。
 以降、陽斗に金銭的援助を行う大人はいなくなってしまった。祖母や両親の遺産は相続したものの「あのお金は形見だから、なるべく使いたくない」と手をつけようとはしなかった。
 よって、一人暮らしをしながら高校へ通うことになった陽斗は、自らの力で生活費と授業料を払うべく、バイトを始めた。
 しかし持ち前の鈍感さと、度が過ぎたお人好しのせいで、給料の未払いやサービス残業、不当解雇などの問題が立て続けに起こり、労力に見合った給料を得られないことが多かった。
 さらには、街中でキャッチセールスや見るからに胡散臭そうな占い師に声をかけられ、「幸運を呼ぶお守り」と称した安物を法外な値段で買わされた。おかげで幸運を呼ぶどころか、金がどんどん減っていく不幸を呼び込んでしまった。
 当初は「節約するために」始めた三食モヤシのみの生活が、今では「モヤシしか買えないから」という理由で食べるようになっていた。もしも高校で飯沼と出会わなければ、陽斗はとっくに餓死していたかもしれない。
 このような度重なる苦難に立たされ、貯金が一向に増えないことに疑問を持ちながらも、
「まだ、食べられる物があるから大丈夫だよね!」
「頑張っていれば、いつか貯まるよ!」
 と陽斗はポジティブに考え、今日も明るく生きていた。

       ・

「パリパリしてて美味しそう! 一口かじってみよっと」
 陽斗がセミの抜け殻へ手を伸ばしたその時、背後から首の後ろを軽く叩かれた。
「ほぇ?」
  陽斗は自分の身に何が起こったのか分からないまま、意識を失う。
 そのまま前方へ体が傾き、低木に激突しそうになったが、彼を手刀で気絶させた朱羅が後ろから抱きとめ、支えた。
「……手荒な真似をしてしまい、申し訳ございません」
 朱羅は謝罪したのち、陽斗を小脇に抱え上げると、路地裏に止めていた白いワゴン車へと彼を運んだ。
 後部座席のシートへ横にして寝かせ、両手足を結束バンドで縛り、口にガムテープを貼る。鞄は座席の足元に置いた。
 朱羅は陽斗を運び終わると、運転席へ移動し、席に座ってシートベルトを締めた。隣の助手席には、シートベルトを締めて待っていた黒縄が座っていた。
「誰にも見られていないだろうな?」
「はい。ちょうど車も通っていませんでしたし、大丈夫かと」
「常人にはお前の姿は見えねェとはいえ、騒ぎになったら面倒だからな。蒼劔や術者共が嗅ぎつけてくるとも限らねェ」
 悪く思うなよ、と黒縄は後部座席で眠る陽斗を振り返り、ニヤリと笑った。
 朱羅も可哀想なものを見るように陽斗を一瞥した後、浮かない顔のまま車を発進させた。

       ・

 蒼劔は三人を乗せたワゴン車が走り去っていくのを、電柱の上からジッと見下ろしていた。電柱はワゴン車が止まっていた路地裏から五百メートルほど離れた通り沿いにあり、黒縄も朱羅も彼の存在には気づいていなかった。
 蒼劔はワゴン車が発進した後も、しばらく電柱の上に留まっていた。小豆のアイスバーをかじりながら、ワゴン車の行方を目で追っていく。この猛暑の中、汗一つかいていなかった。
 やがて車が視界から外れそうになると、残りのアイスを歯で棒から外して噛み砕き、アイスの棒を電柱の真下にある自動販売機のゴミ箱へと捨てた。
 アイスの棒がゴミ箱の中に到達する頃には、彼は電柱の上から姿を消していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ニンジャマスター・ダイヤ

竹井ゴールド
キャラ文芸
 沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。  大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。  沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ
キャラ文芸
 三国志×学園群像劇!  平凡な少年・リュービは高校に入学する。  彼が入学したのは、一万人もの生徒が通うマンモス校・後漢学園。そして、その生徒会長は絶大な権力を持つという。  しかし、平凡な高校生・リュービには生徒会なんて無縁な話。そう思っていたはずが、ひょんなことから黒髪ロングの清楚系な美女とお団子ヘアーのお転婆な美少女の二人に助けられ、さらには二人が自分の妹になったことから運命は大きく動き出す。  妹になった二人の美少女の後押しを受け、リュービは謀略渦巻く生徒会の選挙戦に巻き込まれていくのであった。  学園を舞台に繰り広げられる新三国志物語ここに開幕!  このお話は、三国志を知らない人も楽しめる。三国志を知ってる人はより楽しめる。そんな作品を目指して書いてます。 今後の予定 第一章 黄巾の乱編 第二章 反トータク連合編 第三章 群雄割拠編 第四章 カント決戦編 第五章 赤壁大戦編 第六章 西校舎攻略編←今ココ 第七章 リュービ会長編 第八章 最終章 作者のtwitterアカウント↓ https://twitter.com/tobeitsuki?t=CzwbDeLBG4X83qNO3Zbijg&s=09 ※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。 ※この作品は小説家になろう・カクヨムにも公開しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

処理中です...