【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

文字の大きさ
上 下
166 / 239
第六章 神に行き会いし少年は世界を変える

166. 脱出

しおりを挟む

12日目―――3


真っ二つになった大きな壺の下から、地下に続くと思われる隠し扉が現れたのを目にした『彼女』が、驚いたような顔になった。

「カケル! もしかして霊力で感知したのか?」
「いや、霊力は使えないままだよ」
「では何故、この扉の事が分かったのだ?」
「えっ? だって、この小さな光が……」

僕は、目の前をフワフワ移動していく小さな光を指さした。
しかし『彼女』は、怪訝そうな顔をした。
どうやら、『彼女』には、小さな光が見えていない様子であった。
だから僕は状況を改めて説明した。

「小さな光が見えるんだ。誰かが手助けしてくれているのかも」

僕は『彼女』にそう話すと、隠し扉を開けてみた。
その下に、地下へと続く階段が現れた。
僕達はその階段を下りて行った。
階段の下は、下水道のような場所に繋がっていた。
迷路のようなその暗がりの中を、さらに小さな光が僕を誘導していく。
やがて小さな光が、上へと続く梯子の所で停止した。
ここを昇れという事だろうか?

「ありがとう」

僕はその小さな光にそっと声を掛け、梯子に手を掛けた。
僕と『彼女』が梯子を昇りだすのを見届けたかのように、小さな光は溶けるように消えていった。
昇り切った梯子の突き当りは、蓋になっていた。
そっと押し上げてみると、蓋の隙間から裏路地のような場所が見えた。
注意深く確認してみたけれど、一応誰の姿も見当たらない。
僕が先にその裏路地に這い上がり、『彼女』に手を貸して引き上げた。

その裏路地は袋小路になっていた。
進めるのは一方向のみ。
僕と『彼女』は、周囲を警戒しながら慎重に進み始めた。
いつの間にか、上空に映し出されていた僕達の姿は消えていた。
一度地下に潜った事で、中継が切れたのだろうか?
その裏路地を抜けると大きな通りに出た。
奇妙な事に、通りには通行人含めて、人影は一切見当たらない。

「カケル、気を付けよ。明らかに様子がおかしい」

そう声を掛けて来た『彼女』が、緊張した面持ちで腰の剣を抜いた。
そのまま慎重に進んで行くと、別の大きな通りに出るT字路に行き当たった。
大通りの左右は、激昂する住民達で一杯だった。

『彼女』が小声で話し掛けてきた。

「街の外に通じる道で、私達を待ち伏せしているようだな……強行突破するしかないな」

そしてそのまま手に持つ剣を構え直し、飛び出して行こうとした。
僕は慌てて『彼女』の腕を掴んだ。

「街の住民達を傷つけたら、それこそ相手の思うつぼだよ。引き返して別の道を探そう」

『彼女』にそう声を掛け、方向転換した僕の目に、驚きの光景が飛び込んできた。

いつの間に現れたのであろうか?
たった今、僕達が来た通りのすぐ後ろ、30mばかりの位置に、数十名程の兵士達が通りを塞ぐように並び、槍衾を作っていた。

『彼女』が歯噛みした。

「しまった、囲まれた!」

僕としても信じられない思いであった。
まさかあの小さな光、僕達をここへ誘導するための罠だったのだろうか?

剣を構え直した『彼女』が、僕をかばうように前に出た。

と、兵士達をかき分けるようにして、一人の女性が姿を現した。
黒い生地に金色の刺繍が施された壮麗なローブを身に付けている。
そしてその頭部には、魔族の特徴である一対の角が見て取れた。
彼女は布に包まれた長い棒の様な物を手に持っていた。
その彼女の顔を目にした僕の心の中に、驚きが広がった。

「キガルさん!?」

僕は思わず叫んでいた。
僕の記憶が正しければ、彼女は1週間前第141話、神都の酒場で、僕とセリエに声を掛けてきたあの魔族の女性であった。

『彼女』が驚いたような雰囲気で、僕に囁きかけて来た。

「カケル、代行者を知っているのか?」
「代行者?」

その時、その魔族の女性が口を開いた。

「私は代行者エレシュ。しゅの命により、冥府の災厄を殺し、守護者アルファを捕縛するためにここへ来ました」

そして彼女は、棒のようなものを包んでいた布を取り払った。
それは1本の槍であった。
その槍には、禍々しく黒いオーラがまとわりついていた。
その槍を目にした『彼女』の顔が強張こわばった。

「あれは、殲滅の槍!」

代行者エレシュキガル?と名乗ったその女性の口元が歪んだ。

「さすがは守護者アルファ。よくご存じね。この槍を用いれば、霊力を持つ者の力を奪い、殺すことが出来る。今回特別に、しゅから使用を御許可頂いた神器よ」
「キガルさん、僕はあなたの神様と戦うつもりは無い! 神様と話をさせて下さい」

エレシュが、酷薄な笑みを浮かべながら言葉を返してきた。

「冥府の災厄さん、久し振り。確か、カケル……って名乗っていたわね。残念ながら、あなたの企みは、事前に全てしゅに見通されていたの。私はしゅの命を受けて、情報収集のためにあなたに近付いた。間抜けなあなたと哀れな獣人の女の子が、色々話してくれたおかげで、あなたの計画の全貌が分かったわ。まあ、守護者アルファが、あなたに魅了されて寝返ったのは計算違いだったけど」

『彼女』が声を上げた。

「代行者よ、私はカケルに魅了などされていない。それに、カケルにはしゅと争う意思もない」
「ふふふ、守護者アルファ、惨めね。魅了されている者は、自分が魅了されている事に気付かないもの。慈悲深いしゅが、せっかくチャンスをくれたのに、あなたは結局それをふいにした。あなた、“カケルとしゅが争う時は、カケルの側に立つ”、なんて不遜な事まで口にしたそうじゃない?」

やはりあの女神は、何らかの方法で、ずっと僕達を監視していたようだ。
僕はエレシュに呼びかけた。

「僕は何も企んでないし、そもそも神様と争うつもりもない。キガルさん、いえ、本当はエレシュさんでしたっけ? 僕やセリエと話したあなたなら、僕が何も企んでいないのは、容易に分かるはずだ。僕はただ、セリエを生き返らせて、自分の世界に……」

しかし途中でエレシュがさえぎってきた。

「怖い怖い。守護者最強のアルファを寝返らせた冥府の言霊ことだま。あまり長く聞き続けていると、私まで魂を穢されてしまうかも」

エレシュが右手を高々と掲げた。
それに連動するように、僕と『彼女』の足元に、突然魔法陣と思われる複雑な幾何学模様が描き出された。
直後、僕達は身動きが取れなくなった。

「残念ね、お二人さん。霊力を使えれば、こんな拘束、すぐに抜け出せたでしょうに。今、この街全体は、ベータ以下の守護者達によって、霊力を完全に無効化する結界が張られているの。まあ、冥府の災厄が、獣あたりから妙な“邪法”でも授けられていない限り、この拘束からは決して逃れられないわ」

僕はダメ元で霊力の展開を試みたけれど、エレシュの言葉通り、全く霊力の流れを感じる事が出来ない。
隣で『彼女』も同じようにもがいている。


―――殺せ! 殺せ!


いつの間にか、周囲に住民達が集まって来ていた。
彼等は皆、一様に憤怒の形相を浮かべ、今にも僕達に襲い掛からんばかりの様子であった。
彼等をエレシュが制した。

「待ちなさい、ヨーデの民よ。この者達は冥府の眷属。“邪法”を隠し持っているかもしれません。とどめは、私が刺しましょう」

エレシュが殲滅の槍を手に、慎重にこちらに近付いて来た。

「油断してはいけません。相手は冥府の災厄。苦し紛れに冥府の“邪法”を使用してくるかもしれませんからね」

僕はエレシュの言動に若干の違和感を抱いた。
彼女は、なぜ先程から“冥府の邪法”なるものを連呼しているのだろう?
霊力を抑制され、魔力で拘束されている僕達には、最早抵抗するすべは……

「!」

僕は目を閉じて、自身の身体に竜気を巡らせた。
幸い、竜気は封じられていないようで、すぐに彼等の“声”が聞こえてきた。

「「私達は風の精霊。私達に何か御用?」」

目を開けると、周囲を青く輝く何かが渦巻いていた。
僕は叫んだ

「僕達を街の外に運んで!」


―――ゴォォォ!



突如その場を、一陣の強風が吹き抜けた。
舞い上がる砂塵に、多くの者が顔をそむけた。
風が収まると、そこにカケルとアルファの姿は無かった。
人々が動揺したように騒ぎ出した。

「代行者様の拘束から逃げたぞ!」
「探し出して殺すんだ!」

騒然とする人々に、エレシュが凛とした声で呼び掛けた。

「ヨーデの民よ、落ち着きなさい。街の外へと通じる門を固めるのです!」

彼女は率いてきた兵士達にも、てきぱきと指示を出していく。
そのさなか、街の外へそっと視線を送ったエレシュの右の口角が、わずかに吊り上がった。

「運命がどう転ぶのか、後は、あの二人次第……」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

処理中です...