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第五章 正義の意味
128. 禁呪
しおりを挟む第044日―4
「ここは一体どこですか? それに今のも……もしかしてイクタスさん、何かご存知なんですか?」
僕の問い掛けに対し、イクタスさんが言葉を返してきた。
「ここは南半球の、とある島の沖合の船の上じゃ」
「南半球!? ですか? では、あの巨大魔法陣は……」
北半球のヤーウェンから南半球まで、僕と一緒に転移してきた、とでも言うのであろうか?
「あれは描き出された魔法陣のパターンから推測するに、恐らく異界から強力な存在を召喚する禁呪の一つ。しかもそれを反転させたものに相違ない」
「? どういう意味でしょうか?」
「簡単に言うと、カケル君をこの世界から連れ去りたい誰かさんがいるって事よ」
「ミーシアさん!?」
いつからそこにいたのであろうか?
視線の先には、ミーシアさんが立っていた。
「ごめんね、ちょっと手間取っちゃって、結局間に合わなかったわ」
ミーシアさんは、イクタスさん達にそう声を掛け、頭を下げた。
僕は彼女に問い掛けた。
「さっきの囁き声と見せてくれた情景、やっぱりミーシアさんの精霊魔法によるものだったんでしょうか?」
「そうよ。本当はもう少し早くカケル君達と合流したかったんだけど、色々手間取っちゃって。代わりに精霊魔法でカケル君の避難を手助けさせて貰ったってわけよ」
「精霊魔法……南半球からでも囁き声を飛ばせるんですか?」
ミーシアさんが苦笑した、
「ふふふ、さすがにそれは無理よ。あの時、実は割りと近く、あの空の異変が見える位の所まで来ていたの。で、カケル君に声を飛ばして情景を見せた後、風の精霊の力を借りて、最寄りの転移の魔法陣がある街に戻って、それを使って、ここまで転移してきたところよ。」
ミーシアさんが指さす先には、甲板上に設置された転移の魔法陣があった。
彼女が説明してくれたところによると、僕達から自身の兄、ロデラの話を聞いたミーシアさんは、僕達を心配して、自身の出自を明かした上で、一緒に皇帝ガイウスの軍営に従軍を申し出ようと、近くまで来ていたのだという。
「で、話を戻すと、さっきの巨大魔法陣は、ヤーウェンの上空に出現したものじゃないわ。カケル君の真上に出現したものよ」
「? 僕の真上って事は、ヤーウェンの上空って事じゃないんですか?」
イクタスさんが代わって口を開いた。
「説明が難しいのじゃが、あの禁呪の本体は、別の次元、別の世界にあったはずじゃ。つまりヤーウェンの上空とは同期しておらず、カケルの存在そのものと同期しておった。たまたまカケルがヤーウェン近郊にいたから、その上空にあるように見えていただけじゃ。だからこそ、カケルがここへ来ると、禁呪がついてきたように見えたのじゃ」
「それでは、昨日と今日のあの魔法陣は……」
「恐らく昨日のは、カケルと禁呪との同期を図る下準備。そして今日のが、実際に禁呪を使ってカケルを自分達の世界へ召喚する本番だったのじゃろう」
別の世界に召喚!?
いや既に、この世界自体が元のニホンから見れば、異世界なわけだけど。
そんな事を考えていると、ハーミルが口を開いた。
「別の世界の存在では無くて、魔王エンリルが、再びカケルを攫おうって仕掛けてきた可能性は無いのかしら。魔王はカケルの霊力を利用しようって企み、捨ててないんでしょ?」
しかしイクタスさんは首を振った。
「それは今回に限っては考えにくい。先ほども申した通り、禁呪の本体はこの世界にはなかった。つまりカケルを召還しようとしておった何者かは、この世界とは全く異なる、どこか別の世界に存在しておるはず。そんな世界の壁を越えて何か成す事なんぞ、いくらなんでも、魔王になったとはいえ、やつに可能とはとても思えぬ」
そこで一旦言葉を切ったイクタスさんは、今度は僕に顔を向けて来た。
「いずれにせよ、禁呪を使用した何者かは、恐るべき力の持ち主に相違ない。なにしろ、通常は越えられないはずの、異なる世界を隔てる壁に穴を開けたのじゃからな。しかも霊力を使用しておった。そうじゃろう?」
僕は頷いた。
「はい、昨日は感じなかった霊力を、今日は感じました。それも桁外れに強力な……」
霊力の暴走によって、アレルやナイアさん達は、通常は不可能なはずの時間の壁を越えて400年前の世界に飛ばされた。
僕自身も、霊力を使用して、400年前の世界とこの世界との間を行き来する事に成功した。
強力な霊力を使用すれば、イクタスさんのいう所の、異なる世界の間を隔てる壁すら、穴を穿つ事が出来るのかもしれない。
だとすれば……
「その何者かは、僕を召喚してどうするつもりだったのでしょうか?」
「わざわざカケルを狙い撃ちしているところを見れば、カケルの霊力を利用して、何かをしたかった、或いはさせたかったとしか推測できんな。そう考えれば、魔王エンリルと目的は似たり寄ったりかもしれんのう」
僕は改めて、霊力砲の核にされて霊力を無理矢理しぼり取られた時の事を思い出して、身震いした。
そんな僕に、ハーミルが声を掛けてきた。
「カケルは、今回は声を聞かなかったの?」
「そう言えば、あの巨大魔法陣が消える寸前に、“これ程の力を操れる彼ならば、必ず……”って“声”が聞こえたよ」
イクタスさんの表情が険しさを増した。
「ううむ……と言う事は、その何者かは、まだカケルを諦めておらんようじゃな」
「でもカケルの霊力で逆襲して、あの巨大魔法陣、消滅したじゃない。禁呪は破られたって事にならないの?」
ハーミルの問い掛けに、イクタスさんは険しい表情のまま、言葉を返した
「しかし恐らく、禁呪とカケルとの同期はまだ解除されておらんじゃろう。であれば、時間がかかるかもしれぬが、再びその何者かが仕掛けてくるのは確実じゃ。今回は、そこの霊力を飛躍的に増幅できる魔法陣の中でカケルを守り切るのに成功したが、次回も通用するかは分からぬ」
僕はおずおずと聞いてみた。
「あのう……僕とその禁呪の同期って、解除する方法無いんでしょうか?」
「解除できるとすれば、カケルが一旦この世界を去る事位じゃろうな。禁呪との同期は、あくまでもこの世界でのカケルと禁呪との間で成立しているもの」
この世界を去る?
元の世界に一旦退避するとか?
でも前に、霊力を使って元の世界への転移を試みて、気絶しちゃったんだよな……
そんな事を思い起こしていると、ハーミルが口を開いた。
「『彼方の地』って、この世界とは別扱いになるのかしら?」
「確かに、『彼方の地』は、この世界からすれば異界に当たる。カケルがあそこへ一旦移動出来れば、禁呪との同期も解除されよう。しかしそれを行うには、いくつか問題が生じる可能性がある」
『彼方の地』
この世界に複数の勇者或いは魔王が出現した時、彼等に審判を与え、ただ一人を選び出す“守護者”がその地より現れ出づると伝承されてきた異界だ。
確か北の塔最上階の祭壇の間、僕が400年前の世界に向かう事になったあの時、イクタスさんは、『彼方の地』と守護者について話していたはず。
僕は聞きそびれていた、だけど僕にとってはとても大事な質問を、イクタスさんにぶつけてみる事にした。
「イクタスさん、かつて『彼方の地』への扉を開いたことがあったって話していましたよね?」
イクタスさんが、何かを懐かしむような表情になった。
「そうじゃな……昔の話じゃ」
「イクタスさんは、『彼方の地』で、守護者……僕がサツキと名付けた『彼女』に出会ったんですよね? それに彼女が、僕に守護者としての力を継承させた、とも話していましたよね? でしたら、彼女がその後どうなったのか、ご存知なのでは?」
イクタスさんの目がすっと細くなった。
が、彼はすぐに表情を元に戻し、淡々と言葉を返してきた。
「カケルよ。その事に関しては、今は話せぬ。こらえてくれぬか? 時期が来れば、必ず教えよう」
イクタスさんの物言いの裏には、何か深い事情がありそうであった。
僕は質問を変えてみた。
「では、『彼女』が今も生きているかどうかだけでも、教えてもらえないですか?」
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