【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第五章 正義の意味

121. 念話

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第042日―5


素っ頓狂な声を上げてるという、彼女らしくない仕草を目にして、ついこぼれそうになった笑いを噛み殺しつつ、僕は彼女に謝った。

「ごめんごめん。驚かせるつもりは無かったんだけど」

彼女がバツの悪そうな顔になった。

「急に顔近付けて来たら、びっくりするじゃない。私にも心の準備というか」
「一体何の話?」
「……まあ、気にしないで。それより何?」
「いや、ハーミルの右耳のピアスって……どこで手に入れたの?」
「えっ? ピアス?」

ハーミルは少し驚いたような顔をして、自分の右耳のピアスに触れた。

「これが、どうかしたの?」
「いや、そのピアス、さっき霊力の光を放っているように見えたから」

ハーミルが大きく目を見開いた。
そして、少し逡巡する素振りを見せた後、言葉を返してきた。

「これね……実は、前にイクタスさんから貰ったやつで、霊晶石加工して作ったお守りみたいな物だから、身に着けといたらって」

少しこちらの反応を探るようなハーミルの視線が気にはなったけれど、彼女の言葉を否定する材料も持ち合わせていない。
それに、確かにイクタスさんなら、霊晶石の『お守り』の一つや二つ、作れるかもしれないし。

そんな事を考えていると、ハーミルが問いかけてきた。

「それよりどうする? もう少しこの祭壇、調べてみる?」

彼女の言葉を受けて、今度は僕が考え込んだ。

元々ここへやってきたのは、僕にとって調査は二の次で、単に『彼女サツキ』との思い出の祭壇を見たかったというのが最大の目的だった。
そしてその個人的な目的は、ほぼ達成されてしまっている。
欲を言えば、あの四百年前の“触手”騒ぎの様子を、詳しく“視る”事が出来れば、なお良かったけれど……

そこまで考えて、心の中に、ある可能性が唐突に浮かんできた。
四百年前の“触手”騒ぎの事を思い浮かべながら霊力を展開したら、あの虚無の空間で“声”に出会った。
もしかしてあの“声”は、“触手”のあるじである魔神のモノだったのではないだろうか?
だけどそれにしては、その姿が細身の女性というのが少しひっかかる。
加えて、『彼女サツキ』らしき“声”まで聞こえてきたのも、奇妙な感じだ。

四百年前のあの世界で、『彼女サツキ』は自分がミルムの額に封印した“触手”の正体を、はっきりとは分かっていないような口振りだった。
ところが先程の虚無の空間での『彼女サツキ』らしき“声”は、最初に聞こえた魔神(?)の“声”の危険性を、よく知っているかのような雰囲気であった。
あの“声”はやはり、僕がかつて出会った『彼女サツキ』とは無関係だったのだろうか?

結局僕達は相談の上、今日の“調査”を切り上げて、一旦報告のため、皇帝ガイウスの軍営に戻る事とした。


宗廟から自分達に割り当てられている幕舎の中へ転移で戻って来た僕達は、早速報告の為、皇帝ガイウスの幕舎に向かう事にした。
しかしハーミルやジュノと一緒に幕舎を出た僕は、周囲が慌ただしい雰囲気に包まれている事に気が付いた。
向こうにいた小一時間程度の間に、何か異変でも有ったのであろうか?

隣接して設置されている皇帝ガイウスの幕舎に視線を向けると、幕舎の前で高官達と何事かを話していた様子のノルン様が、僕達に気付いたらしく、こちらへ顔を向けて来た。
そして慌てた感じで、こちらに駆け寄って来た。

「カケル! 良かった……そなたに何かあったのでは、と心配していた所だ」
「? ノルン様、何かありました?」
「そなた達が宗廟へと向かってしばらくして、突然、コイトスへと通じていた転移門が消滅したのだ」

僕達は顔を見合わせた。
もしかして、僕が宗廟で昏倒した事と何か関係あるのかもしれない。
そのまま皇帝ガイウスの幕舎に招き入れられた僕は、皇帝ガイウスに、手短に宗廟での出来事、そして僕が“視た”情景――メイが宗廟で儀式を行っていた下りは除いて――について報告した。

「そうか、その“声”なる者の正体は、結局、判然とはしなかったのだな」

調査の結果を聞いた皇帝ガイウスは、少し落胆した様子であったけれど、すぐに顔を上げて、消滅したという転移門について、問いかけてきた。

「再度、同じ物を同じ場所に設置出来るであろうか?」
「やってみないと分かりませんが、多分可能だと思います」
「ではすぐに再度設置を試みてくれ」


――◇―――◇―――◇――


『ちょっと! カケルにこの念話、気付かれる所だったわよ?』
『それは、私に言ってもどうしようもないと思うぞ』
『念話する時、このピアスが霊力発しているなんて話、聞いてなかったし』
『霊晶石で出来た装置だと最初に説明したではないか。不用心に、カケルの目の前で平気で使っていたハーミルが悪い』
『だって、今までこのピアスについて、カケルから突っ込まれた事無かったからつい……』

皇帝ガイウスのもとを辞したハーミルは、転移門の再設置に向かうカケルを見送った後、ジュノと一緒に、割り当てられているこの幕舎に、一足先に帰ってきていた。
そして自分の部屋で一人になってから、『彼女サツキ』との念話を再開していた。
宗廟では、カケルから聞いた話をそのまま『彼女サツキ』に伝え、いざ『彼女サツキ』の意見を聞こうとしていたところで、カケルに不審がられ、念話を中断せざるを得なくなっていた。

『で、話を戻すけど、今日、カケルが“見た”空間で、カケルに話しかけていたのは、あなたでは無いって事ね?』
『私では無い。しかし、もしかすると私かもしれぬ』
『何それ?』
『実は私は、『彼方かなたの地』からこの世界にやって来る時、全ての“力”を持ち出しては来なかった』
「一部の“力”を、わざと『彼方かなたの地』に置いてきたって事?」
『そういう事だ。守護者であった時の私の“意識”は、“力”に依存していた。今は人の身となり、そのような“力”との繋がりは全て途絶えてしまっているが、『彼方かなたの地』には、今も私の残した“力”に依存した私の“意識”の一部が残っているはず』
『……なんでそんなややこしい事したの?』
『なんとなく、という他無いな。イクタス達が『彼方かなたの地』にやってきて、私が予定外の起こされ方をした時、なぜか“そうするべき”と思った、と言うのが正直な所だ。今の私では、最早独力で『彼方かなたの地』に戻る事は出来ないし、戻るつもりも無い。つまり『彼方かなたの地』に残っている私の意識の一部は、私にとっては最早別人格と言う事だ。カケルが、その虚無なる空間にて私の“声”を聞いたとするならば、一番可能性が高い仮説は、その『彼方かなたの地』に残っているであろう、私の別人格が、何らかの手段でその虚無なる空間に干渉した、という事であろう』
『じゃあ結局、カケルが聞いたというもう一つの“声”の正体も、魔神とかいう存在についても分からないままね……』
『魔神に関しては、少し進展があった』
『進展?』
『結社の仲間達が、あの勇者ダイスと行動を共にしていた銀色のドラゴンが居るであろう場所を突き止めた』
『凄いじゃない! で、あのドラゴンには会えたの?』
『残念ながらまだのようだ。ドラゴンが居るであろう場所は、強力な結界によって護られているらしい。三日ほど前から、仲間達がその結界の解除に取り組んでいるが、まだ成功していない。まあもしかしたら、結界をいじられている事に気が付いたドラゴンの方から、出てくるかもしれぬがな』
『あのドラゴンに会えれば、少しは魔神の事も分かるかな?』
『まあ、あのドラゴンがまた、“禁忌”については語らぬ、とか言い出して、結局何も聞き出せない可能性もあるが』
「あのドラゴンは、“守護者”としてのあなたの事、よく知っていたようだけど、あなたはあのドラゴンとの事、何か覚えていないの?」
『どうであろうな……カケルと出会う前の私は、基本的にこの世界の事物に無関心であった。過去にあのドラゴンと関わりがあったかどうかについても、さっぱり覚えておらぬというのが、正直なところだ』

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