【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第三章 ついに巡り合う二人

38.異変

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第015日―5


飛行を始めてしばらくすると、ナイアがしきりに首をかしげだした。

「おかしい……何か眼下の風景に違和感がある」

彼女は飛行中も魔力の感知網を広げていたのだが、どうも街道の配置等が、彼女の知るそれと異なっていた。
ここ半年ほどは北方の地にこもりきりではあったけれど、その短い間に、これほどまで街道が改変されてしまうのは考えにくい

「どこか近くの街に下りて確認してみては?」

アレル達の提案にナイアがうなずいた。


しばらく飛行を続けると、街が見えてきた。
位置関係から推測すると、帝国直轄領のヴィンダの街のはず。
ナイアは街から少し離れた林の中に、『マンタ』を着地させた。

「あんまり人目につくと、皆を驚かせちまうからね」

『マンタ』をタリスマンに収容した後、彼女は包帯を取り出した。

「アレル、あたしらの右手の赤いやつ、不審がられても面倒だから、これで隠していこう」

アレルとナイアは、お互いの右手の甲を隠すように包帯を巻き合った。


街の入り口までは、30分程で到着した。
入り口の詰所には、数名の衛兵達が立っていた。
五人は、詰所でそれぞれの身分証を提示した。

「……? ナレタニア帝国? 聞いたことの無い国だな」

衛兵達が不思議そうに身分証を眺めている。
ナイアが怪訝そうに尋ねた。

「ここは帝国直轄領のヴィンダの街では?」
「帝国直轄領? ここは確かにヴィンダの街だが、スロニア王国の街だぞ?」

五人は一斉に顔を見合わせた。
スロニア王国は、300年ほど前に、ナレタニア帝国に併合されたはずだ。
咄嗟とっさにナイアが機転を利かした。

「すまないね。遠方の新興国出身でね。あたしら、その身分証しか持ってないんだよ。必要だったら、この街のギルドかどこかで身分証作り直すけど?」
「まあいいさ。身分証としては、書式もしっかりしているしな。別にあんたらに犯罪歴も無さそうだ。ゆっくりしていってくれ」

そう口にしながら、警備兵は笑顔で身分証を返してくれた。

「どういう事だろう?」

街には入れたけれど、詰所でのやり取りは不可解のきわみであった。
アレルが提案した。

「転移の魔法陣で、帝都に一度戻ってみませんか?」

彼等の記憶が正しければ、ここヴィンダの街にも転移の魔法陣が設置されているはず。
ところが……

「転移の魔法陣? なんだそれは?」

街の冒険者ギルド、商店等で場所を尋ねるが、誰もその施設を知らなかった。
仕方無く、ナイアが魔力の感知網で転移の魔法陣の所在を探りながら、街を歩く事にした。
しかし日暮れ近くまで、可能な範囲を探索したにも関わらず、転移の魔法陣が見つからない。

「どう考えても、何かがおかしい。もしこれが幻惑の檻か何かだったら、とっくにボロが出ているはずさ。そうでない所を見ると、これは現実と考えざるを得ない。仕方ないから今夜はここに泊まって、明朝、『マンタ』で直接帝都があるはずの場所に向かってみよう」

ナイアの提案に一同はうなずき、宿屋に向かった。
しかし、ここでも問題が発生した。

「なんだい、この通貨は? 見た事無いし、ここじゃ使えないね」

どうやら帝国通貨そのものが、貨幣として流通していない様子であった。
ナイアが手持ちの魔結晶をいくつか宿屋の主人に見せた。

「じゃあ、魔結晶での現物払いはどうだい?」
「中々の上物だな。いいよ、宿代それで払ってもらおう」

五人は相談の上、全員が同じ部屋で過ごせるよう、宿で一番広い部屋を借りる事にした。
また、宿屋の中とはいえ、状況の変化に即応できるよう、交代で見張りを立てることとした。

「一体、どうなっちまっているんだい……」

最初の見張りに立ったナイアは、宿の窓辺から外の景色を眺めながら、そっとつぶやいた。
…………
……

夜半過ぎ、ナイアは突然頭の中で鳴り響く警報で目を覚ました。
今はアマゾネスのエリスが見張りに立っている頃合いだ。
窓辺に立つ彼女の方にちらりと視線を送るが、特に変わった様子は見られない。

「って事は、これは街の外に配した使い魔からの警報ってわけだね……」

彼女はひとちた。
ナイアは生来しょうらいの性格に加え、過去の経験から、基本的に他人を決して無条件には信用しない。
幼馴染のノルンやハーミル達に対してさえ、完全に心を許してはいなかった。
故に、アレル達と協力する現状でも、独自に使い魔達を数体、街内外に見張りとして配していた。
彼女は警報を送って寄越した使い魔に意識を集中した。

と、彼女の顔色が変わった。

「ちょっとみんな! 緊急事態だよ!!」

突然の叫び声に、アレル、イリア、ウムサも飛び起きた。

「ナイアさん、どうしたんですか?」
「強力なモンスターの群れが、北方からこの街に押し寄せてきている。その数……」

使い魔からもたらされた情報に、さしものナイアも声が上ずった。

「……数千!?」

エリスが鋭い質問を投げつけた。

「時間的猶予は?」
「小一時間も……無いっ!」
「兎に角、街の知事なり、有力者なりに連絡して、住民を避難させましょうぞ」
「それでは間に合わないかも。ナイアさん、あなたの使い魔達を使って、街の住民全員に直接警報を発する事は出来ないですか?」
「分かった。飛行出来る使い魔達を総動員して、上空から触れ回らせよう。あと、ギルドに行って、冒険者達をありったけ集めてくる。あんたらは、詰所の衛兵達に事態を知らせて、敵を街の外で迎え撃つ準備をしといて」

ナイアは、敵の予想される侵攻ルートをアレル達に伝えた後、ただちに行動を開始した。
それにしても、信じられない。
モンスター数千の襲撃等、ナイア自身の半年に及ぶ北方の探索では、そのような兆候は一切つかめなかった。
魔王エンリル自身が魔王城を出て、全力で侵攻してきた、とでも言うのだろうか?
しかし彼女は今までに入手出来た情報及び、彼女自身による探索の結果から、魔王エンリルは、『儀式』を通じて『彼方かなたの地』なる異界への扉を開き、そこに蓄えられた何らかの力を手に入れ、それを以って勇者を打倒しようとしている、との結論に達していた。
そして、まだ『彼方かなたの地』への扉を完全に開くには至っていないはず、との感触も得ていた。
この段階で、魔王が動くのは奇妙である。

ふいに彼女の心の中に、一見突拍子も無いはずの、しかし現状を説明出来そうな整合性の高い推測が浮かび上がってきた。
そして彼女は、彼女自身が良く知る文献に記された一節を思い出した。

『時は至り、ついに魔王ラバスは、数千の精強なるモンスターの大群を、豊穣なるヴィンダの街に差し向けた。三名の勇者達は力を合わせ、魔王の企みを阻止した。街は救われたのである』

それは400年前、最終的に勇者ダイスが魔王ラバスを打ち倒す物語。

彼女は戸外に走り出ると、タリスマンを握りしめ、飛行可能な使い魔達を全て召喚して、街中に解き放った。
夜のしじまを破り、使い魔達は口々にモンスターの大群が押し寄せて来る、と叫び始めた。
騒然とする街中を駆け抜け、ナイアは冒険者ギルドに走り込んだ。


「勇者ダイスはいない!?」

突然駆け込んできた彼女の鬼気迫る叫び声に、中に居た数人の冒険者達の視線が一斉に集まった。
その中の一人が口を開いた。

「ダイスなら、もうこの街にはいないぜ? 三日前に、北方に向かったはずだ」

ナイアは自らの右手の包帯を解き放った。
赤く不気味に輝く勇者の紋章が現れる。
彼女はその右手を高々と掲げた。

「あたしは勇者ナイア! この街に間もなく数千のモンスターの大群が押し寄せて来る。撃退するから人を集めて! あと、勇者ダイスも呼び戻して!」
「なんだって!?」
「おい! それは本当か!?」

ギルドの建物全体が大混乱に陥るのに、そんなに時間はかからなかった。

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