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第一章 気が付いたら異世界
17.出立
しおりを挟む第006日―1
ミーシアさんから依頼達成の証明書を受け取り、換金所で報酬を手にしたところで、イクタスさんが僕達に声をかけてきた。
「ではカケル、メイ、ガスリン、わしは店に戻るとしよう」
「イクタスさん、ありがとうございました。これ、お礼の報酬です」
僕は受け取った報酬のうち、三分の一をイクタスさんに手渡した。
あとの三分の一はガスリンさんに渡して、残りの三分の一を僕とメイとで分ける事にしていたのだ。
「では遠慮なく受け取っておくぞ。ひまが出来ればまたいつでも遊びにきなさい」
イクタスさんは愉快そうに笑いながら店に戻っていった。
「ガスリンさんもこれどうぞ」
僕はガスリンさんにも、予定していた報酬を手渡した。
「わしも遠慮なく受け取っておこう」
僕は改めてお礼を言った。
「戦闘中はともかく、それ以外では色々教えてもらって、本当にありがとうございました」
「なあに、気にするな。わしも久々に若いやつと冒険出来て楽しかったしな。これでお前達も基礎は身についたはずだ。後は色々依頼を受けて精進していけばいい」
「それで……良ければ今後も一緒に冒険しませんか?」
たった三日間だけでも、彼からは多くの事を学ぶことが出来た。
ガスリンさんは豪快過ぎるけれど、良い人だし、冒険者としての知識や経験も豊富だし、今後も一緒に冒険してもらえれば、これ程心強い事は無い。
しかし僕の申し出を受けたガスリンさんは、少し困ったような顔になった。
「そうしてやりたいのは山々なんだがな……ちょいと事情があって、一旦故郷に戻らねばならん」
「そうなんですか。ガスリンさんの故郷って、結構ここから遠いんですか?」
「遠いぞ? 途中の森林地帯のモンスター共を見たら、グレートボアが可愛く見える」
ガハハ、とガスリンさんが豪快に笑った。
仕方ない。
「わかりました。また帰ってきたら色々教えてください」
「まあ、まずは宿に戻ろう。わしも出立は明日にしようと思っとるから、今夜はミーシアも誘って、パァ~っと御馳走でも食いに行こう」
明日からまたメイと二人か……
でも、“修業”した事だし、二人でも受けられる依頼の幅は広がったはず。
僕達は冒険者ギルドを出て、『宿屋タイクス』へと向かった。
――◇―――◇―――◇――
帝城の最奥、皇帝の居室―――
ノルンは、父である皇帝ガイウスに呼び出されていた。
「父上、お呼びでしょうか?」
「すまんな、急に呼び立てて。実はナイアから緊急の連絡が入った」
「勇者ナイアは確か北方で単身、魔王城へ至る道を探索していると聞いておりましたが」
ナイアはノルンと同年代の女性の身でありながら、幼いころより魔物を使い魔として従える才に秀で、加えて剣術や魔法に関しても非凡の才を発揮してきた。
そして当代の魔王の出現後、半年前、試練を突破した最初の勇者となっていた。
「【竜の巣】において宝珠を顕現せし者と交戦した、と知らせて参った」
彼女は移動速度に優れた使い魔を使役して、定期的に状況を帝都に連絡してきていた。
「【竜の巣】に宝珠の所持者が?」
ノルンの顔に緊張が走る。
【竜の巣】は確か北方に点在する魔物の拠点の一つ。
名前の通り、ドラゴン系統の魔物が巣くっている場所として知られていた。
「ナイアは、今も【竜の巣】周辺に留まっておるそうじゃ。そなたには手練れを連れて彼女と合流し、宝珠云々の件を詳しく調べてきてもらいたい」
「かしこまりました。急いで準備に取り掛かり、明日のカケル達への恩賞の儀が終わり次第、直ちに向かいます」
「事が事だけに、帝国を挙げて動くことが出来ぬ。そなたには不便をかけるな」
ノルンは一礼をして、皇帝の居室を後にした。
――◇―――◇―――◇――
僕達が『宿屋タイクス』に戻ってくると、何やら入り口に人だかりが出来ていた。
その中心に、瀟洒な馬車が止まっている。
何の騒ぎだろう?
訝しんでいると、馬車からちょうど降りてきた温厚そうな人物が、声を掛けてきた。
「おおっ! これは丁度良かった。カケル殿にメイ殿、それにガスリン殿も。ご無沙汰しておりますな」
「リュート様!? その節はお世話になりました」
僕は声を掛けてきた人物が、確かリュート公と呼ばれるこの街の知事であった事を思い出し、頭を下げた。
ガスリンさんが不思議そうな顔で問い掛けた。
「リュート公か、こんな場末の宿に何の用だ?」
「先日の恩賞の件で、帝都からカケル殿とメイ殿に来てもらいたい、と連絡があったのです」
恩賞?
そう言えば、ノルン様がそんな事を話していたっけ?
僕は戸惑いながら、リュート公に言葉を返した。
「そんな大した事してないんですが……」
いまだにどうやってあのモンスターを斃したのか、さっぱり思い出せないけれど、状況証拠から類推するに、あれは火事場の馬鹿力みたいなものだったのだろう。
つまり、まぐれで斃した? 僕なんかに恩賞云々って話は、僕の方が逆に恐縮してしまうわけで。
「ははは、ご謙遜を。とにかく、ノルン殿下も父君であらせられる陛下もいたく感謝しておられる。ついては早速ご同行頂ければ有難いのですが」
「今すぐですか?」
僕はガスリンさんとメイの方に顔を向けた。
「ガハハ、善は急げと言うではないか。ちょうど良い機会だ。この際、ゆっくり帝都見物でもしてきてはどうだ?」
ガスリンさんはいつも通り豪快に笑って、僕に帝都行きを勧めてきた。
メイはと言えば、相変わらずぼーっとしており、そもそも関心が無さそうであった。
「わかりました。ここにはいつ帰って来られるでしょうか?」
「今夜は帝都にお泊り頂いて、予定では明日、恩賞の儀が行われるでしょうから、早くて明後日かと」
「帝都って、アルザスの街から近いのでしょうか?」
「本来なら、馬車だと片道一週間といった所でしょうか? 今回は、転移の魔法陣で送らせてもらうので、行き来は一瞬ですよ」
どうやら、僕とメイは、転移の魔法陣で送迎してもらえるらしい。
ガスリンさんは招待されておらず、このまま今夜は『宿屋タイクス』に宿泊して、明朝故郷に出発するとの事であった。
ここ数日、一緒に過ごしたガスリンさんとここでいきなり別れるのは、やはり少し寂しいものがあった。
「なにしみったれた顔をしとる! またすぐどこかでばったり会うだろうよ」
そう口にしながら、ガスリンさんが僕の背中をバンバン叩いてきた。
彼なりに別れを惜しんでくれているのだろうが、叩かれた背中が結構悲鳴を上げていたのはここだけの話だ。
「それでは、宿の部屋から自分達の荷物を取ってきますね」
僕はリュート公にそう声をかけてから、メイと連れ立って、一旦部屋に戻った。
そして荷造りをしてから、再び階下に下りてきた。
「ルビドオさん、短い間でしたがお世話になりました」
今日までの宿泊費を清算して、僕は宿の主人、ルビドオさんに頭を下げた。
「ははは、またアルザスの街に戻って来た時は、是非うちに泊まっておくれ」
ルビドオさんやガスリンさん達に見送られ、僕とメイは、リュート公の用意してくれた馬車に乗り込んだ。
そして僕達を乗せた馬車は、この街に設置されている転移の魔法陣に向かって、ゆっくりと走り出した。
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馬車の屋根の上に、薄紅色のローブを目深にかぶったハーフエルフの少女が、右耳のピアスを触りながら、一人腰を下ろしていた。
彼女のローブには、透明化の加護がかかっており、誰も彼女の存在には気付かない。
「……今移動中……」
『“彼女”が帝都に赴くか……』
「皇帝は……彼女の正体に……気付く……でしょうか?」
『ノルンでさえ気付かなんだ。それに、例えガイウスが気付いたとしても、今回の帝都行きでは、確か何も起こらないはずじゃ。ともあれ油断は禁物。レルムス、引き続き二人の見守り、頼むぞ』
「……はい」
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