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12.帰り道で奇襲された
しおりを挟む2日目7
列に並んで数分で俺達の順番がやってきた。
俺は、ロイヒ村の届け先で受け取ったクエスト終了証明書と、ゴブリンの魔石を取り出した。
ちなみに、ダイアウルフの魔石20個と奴らのドロップした狼の牙3個は、リュックサックの中だ。
付き合いの長いバーバラは、当然、俺の実力を知っている。
ロイヒ村との往復の合間に、俺がほいほい大量のモンスターを斃しましたって話になれば、当然不審がるだろう。
かと言って、魔法ともスキルともつかない謎の【殲滅の力】で斃しましたっていう説明は、出来れば避けたい所だ。
これ以上ややこしい事に巻き込まれたくない。
まあ、当座はゴンザレスが格安で部屋を貸してくれるし、資金がショートする心配は薄い。
ダイアウルフの魔石と狼の牙は、毎日2~3個ずつ換金していけば、そんなに不審がられる事もないだろう。
ゴブリンの魔石を目にしたバーバラが聞いてきた。
「ゴブリン、やっぱり出たんだ」
「まあね。1匹だけだったし、元々弱っていたみたいで、そんなに苦労せず斃せたよ」
「良かったじゃない」
バーバラが、慣れた手つきで換金手続きを進めていく。
「え~と、ツボの配送が5,000ゴールド、ヒーリンググラスが153本で3,060ゴールド、それにゴブリンの魔石が1個で97ゴールド。締めて8.157ゴールドね」
俺は報酬を受け取りながら気になる事を聞いてみた。
「それで、“仲裁”の件、どうなった?」
バーバラがニヤリとした。
「夕方帰って来たマスターに話したら、すっごく怒っていたわ。あ、もちろん【黄金の椋鳥】に対してね。で、早い方がいいだろうって事になって、明日の朝9時からって話になっているんだけど、時間、大丈夫そう?」
「大丈夫だよ。ありがとう」
俺はお礼を言ってからカウンターを後にした。
さて、あとは宿に戻って、夕ご飯食べて寝るだけ。
明日起きたら、いよいよあいつらと直接対決だ!
って既にイレギュラーな形でギルドの広間で少しもめたけど。
そこまで考えた俺は、嫌な予感に捕らわれた。
あいつら、“仲裁”が明日の朝9時からって話は既に知っているんだよな。
で、その前に俺を脅すか何か……とにかく、“仲裁”前になんとかしたくて、俺がギルドに顔を出すのを待ち伏せていたんじゃ無いかな。
だとすると、今度はギルドを出た所で待ち伏せしているんでは……
さっきはマルコもハンスも、本気を出していなかったのか、或いは人目があったせいか、なんとか力ずくで拉致される事は阻止出来た。
しかしギルドを出てしまえば、物陰からこっそり、ミルカあたりの麻痺魔法かけられたりして、今度こそ、あいつらに拉致されてしまうのではないだろうか?
で、パーティーハウスにでも閉じ込められて、あいつらの悪行について口裏合わせを強要されて、拒否したら殺……
―――ぶるっ
知らず怖気をふるった。
俺は背中のリュックサックから『ウロボロスの衣』を取り出した。
確かこの灰色のフード付きローブ、状態異常完全防御の特殊効果付きだったはず。
これ着て、フードを目深に被り込んでおけば、パッと見、俺とは気付かれないのでは?
あいつらに会った時は、いつもの革鎧だったわけだし。
問題は、ナナだけど……
さっき、あいつらにナナと一緒の所を見られてしまっている。
ナナと並んで歩けば、隣に居るのが俺だとバレてしまうかもしれない。
少し考えた後、俺はナナに話しかけた。
「帰りは、少し離れて歩こう」
「離れ……て?」
ナナが小首を傾げた。
「さっき俺に絡んできていた連中、あいつら、俺の元パーティーメンバーだったんだ」
「【死にぞこないの……道化】?」
「違う。ほら、昼にバーバラと話していただろ? 【黄金の椋鳥】だよ」
「カースを……殺そうと……」
「そうそう。それで、あいつらの事だから、明日の“仲裁”までに、絶対何か仕掛けて来ると思うんだよな」
「じゃあ……殺す?」
俺は正直少し驚いた。
相変わらず感情表現に乏しいけれど、今までそんな過激な発言、した事無かったのに。
って、ナナと出会ってまだ24時間位しか経ってないけれど。
それにガチで殺りあったら、殺られるのは俺達の方だろう。
「殺すっていうか、戦うのはまずい。まあ適当にやり過ごして宿に戻りたいんだけど、あいつらの狙いは俺なんだ。だから、俺がまず先行するから、ナナは少し後ろ……10m位後ろからついてきて。万一俺が襲撃された時は、急いでこのギルドに駆け戻って、バーバラに知らせるんだ」
なるべく明るく、人通りのある場所を通って『無法者の止まり木』まで帰る。
宿に入ってさえしまえば、例えあいつらでも、宿の部屋まで襲撃して来る事はないはずだ(と信じたい)。
俺はウロボロスの衣を纏い、フードを目深に被り込んだ。
そしてナナに合図をしてからギルドの外に出た。
ギルドの前は、噴水広場になっている。
俺は素早く周囲を見回した。
目に入る範囲では、冒険者や一般住民が、思い思いに過ごしている姿が確認出来るだけ。
あいつらの姿は無さそうだ。
こっそり遠くから、こちらの様子を窺っているかもしれないけれど。
ともあれ、もし何か仕掛けて来るなら、ギルドから十分離れた場所で、だろう。
俺はそのまま広い通りを、『無法者の止まり木』目指して歩き始めた。
背後をそっと確認すると、ナナは事前の打ち合わせ通り、俺の後方、きっちり10mの距離を開けてついてきている。
そのまま歩く事5分。
経路上、どうしても通過しなければならない狭い通りに足を踏み入れた時、僅かに違和感を抱いた。
「ん? なんだ?」
歩みを緩め、素早く周囲に視線を向けたけれど、通りの両脇に立つ集合住宅含めて、特に怪しい物は見当たらない。
気のせい……かな?
俺は背後からついてくるナナを確認した後、再び歩き出した。
そして再び襲って来る違和感。
俺は歩みを止めた。
と、頭上から突然、何者かが降って来た。
そいつは一言も発しないまま、俺に斬りかかって来た。
いや、正確には俺の足を一閃しようとした。
俺にはなぜかその剣の軌跡がよく見えた。
余裕で躱した俺は、襲ってきた相手を睨みつけた。
「おい、マルコ! お前、どういうつもりだ?」
そう襲ってきたのは、マルコだった。
「てめえこそ、どうなってんだ?」
マルコが押し殺したような声を上げた途端、再度違和感が襲ってきた。
そして同時に、マルコが俺の方に剣を手に踏み込んで来る!
さっきよりも速く感じられたけれど、避けられない速度では無かった。
俺が再び身を躱すと、マルコがイライラした感じで怒鳴った。
「ミルカ! 真面目にやれ!」
「やってるわよ! そいつ何かおかしいわ!」
声の方に視線を向けると、通りに面した3階建ての古い廃屋の屋上からこちらを見下ろす、ミルカとユハナの姿を見付けた。
もしかして?
「大方、カースの纏っているローブが、ミルカの麻痺魔法を無効化しているのですわ」
やっぱり。
ユハナの声が、俺の推測を肯定してくれた。
先程からの違和感は、ミルカの放つ麻痺魔法による攻撃が原因だったらしい。
それにしてもミルカが状態異常の魔法を失敗するなんて……
って、そうか、俺がパーティーから追放された時点で、あいつは対象の魔法耐性を無視出来る【殲滅の杖】のスキルを失っている。
どうやら代替スキルを持っていないらしいミルカの麻痺魔法は、俺の纏うウロボロスの衣の特殊効果を突破出来なかったって事のようだ。
それはともかく、客観的に見れば、危機的状況だ。
建物の上には、ミルカとユハナ。
俺とナナの間に割り込むように立っているのは、マルコ。
って事は……
俺はマルコが立っているのとは逆の方向、本来の俺の歩く先に視線を向けた。
やはりというべきか、残念ながらというべきか、そこには右手に槍、左手に長大な盾を構えたハンスが、路地を塞ぐようにして立っていた。
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