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第52話 運命の再託宣
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夜明けとともに小鳥がぴよぴよとけたたましく鳴くのと同時にカラスの鳴き声が不気味に響き渡った。その鳥達の声で目が覚めた私はベッドから起きて机に置かれた水をごくりと何口か飲む。水はひんやりと冷えていて喉の渇きを潤してくれる。
「今日、か」
部屋の扉を開けると右側の廊下からメイドが2人こちらへと向かっているのが見えた。カートを押してきているのでおそらくは朝食を持ってきてくれたのだろう。
「あ、どうぞ入ってください」
「失礼します。お食事お持ちしました。終わりましたらドレスの着用のお手伝いとお化粧と髪結いを担当させて頂きます」
「了解しました」
朝食は楕円形のパンと細かく刻まれた野菜の入ったスープ。パンをちぎってスープに浸しながら食べると柔らかくなって食べやすくなる上にパンとスープの塩気が良い感じに混ざり合って美味しい。朝食をさっとすませた後は一息休憩してからドレスに着替える。ドレスは少し暗めの紅色。黒いフリルがついており更にレースも細やかだ。
(なんだかレゼッタが好みそうなドレスに見える)
特に黒い細やかなレース付きの手袋に扇子はレゼッタらしく見えた。おそらくこのドレスは王宮から借りたものと思われるがまさかレゼッタっぽさを感じるドレスを着る事になろうとは……。
(まあ、こんな時もあるか)
ドレスに着替えた後はお化粧に髪結いの時間だ。メイドから化粧はどのような雰囲気にされますか? と質問を受けたのでいつものように質素な感じでお願いします。と返した所今日くらいは派手めにしてもいいのでは? と言われた。
「良いんでしょうか?」
「良いんじゃないでしょうか? 少しだけ明るめの色を使って華やかにしてみるくらいなら浮ついた感じもしないでしょう」
「ですよね。ではそれでお願いします」
「承知しました」
髪結いとお化粧、更には爪も丁寧に手入れしてもらった後は扇子を持って部屋を出てリビングの広間に向かう。その道中、大理石の床に絵画がたくさん飾られた廊下でルネと鉢合わせした。
「マルガリータ、おはよう。昨日はよく眠れた?」
「ルネおはよう。まあまあって感じかしらね」
「私はあんまり寝られなかったわ。マルガリータ、今日の化粧とドレス似合ってるじゃない。私と対照的なのもなんか好きだわ」
ルネは青空のような深い青色のドレスを身に纏っている。黒いフリルに黒い手袋は私の着ているドレスに手袋と共通している。
「なんだか姉妹みたいじゃない? ねえマルガリータ」
「確かに。でもルネとは姉妹みたいなものじゃない? だって孤児院の頃からずっと一緒だもの」
ルネとは孤児院の頃からの長い付き合いだ。同じ孤児院で育ち、カルナータカ侯爵家で一緒に苦楽を共にし(どっちかと言うと苦の方が大きかったが)そして一緒にエドワード様やバンディ様のいる国へ研究者として招かれた。もう距離感的に姉妹と言っていいかもしれない。
「そうね。もう姉妹みたいなものだものね」
「でしょ? ルネ」
「ええ、マルガリータの言う通りだわ。ねえ、私達ずっと一緒よ。一緒に幸せになりましょうね」
「ええ。私もルネと一緒にいたいわ。それとルネは最終的にはバンディ様と結婚するつもりなの?」
「それはまだ分からないわ。それに私は平民よ。無理だわ」
「わからないわよ? というか私も平民扱いにはなってるのかしら?」
「カルナータカの苗字はあるとはいえその辺は侯爵様に聞かないと分からないわね」
「そうね……ま、今はいっか」
「ふふっ。そうね」
リビングに到着すると正装に着替えたエドワード様とバンディ様がソファに腰掛けていた。エドワード様は長い足を組んで優雅に座りつつ白地に金色のラインが描かれたティーカップを持って紅茶を飲んでいた。彼らにあいさつすると爽やかな声が返って来る。
「マルガリータとルネ。あれから2人とも昨日はよく眠れたか? バンディは眠れなかったらしくてな」
「そうなんだよねえ。2人ともどう?」
「私はあんまり眠れませんでした……」
「私はまあまあ眠れました。エドワード様はいかがですか?」
「俺はまあ眠れたな。気が付いたら夜明けだったよ。……さて、そろそろ向かうか? 王宮の中庭へ」
エドワード様がソファから立ち上がり、ティーカップを傍らにある茶色い机に置いた。それを見たバンディ様も立ち上がって颯爽と玄関へ向かって歩き出す。
「行きましょうかね」
私達は歩いて、現場へと向かうのだった。王宮へと通ずる石畳の道を歩く道中、私の脳内にはこれまでの思い出が浮かび上がっていた。
物心ついた時から孤児院にいて、ルネ達やシスター達がいた。大変だった時もあるけどルネ達がいてくれたおかげでどうにかなった。
カルナータカ侯爵家での暮らしは孤児院での暮らしよりもしんどかった。ルネや優しくしてくれたメイドや執事達がいなければ耐えられていなかったと思う。父親のカルナータカ侯爵もあまり頼れなかった。しかしお給金をくれたのは唯一のやりがいというか働きが認められた気がしてささやかな幸せだった。
レゼッタとカルナータカ夫人は神託後罰せられるだろうというのは理解できている。おそらくカルナータカ侯爵もある程度は罰せられるだろう。
などと思い出を振り返っている内にいつの間にか王宮の門をくぐり、廊下を歩いていた。廊下には沢山の貴族達が歩いたり立ち話をしたりしている。
「マルガリータ」
「エドワード様。いかがされましたか?」
「緊張しているか?」
「……いえ。皆さん一緒ですから」
エドワード様にルネとバンディ様がいる。だから怖くはない。そう伝えるとエドワード様は柔らかい笑みを見せてくれた。
中庭に到着すると既に国の内外から来たと思わしき貴族方に王族方、国王陛下と王妃様に神官達が揃っていた。それに遠くには兵士にガードされる形で平民達も揃い始めている。
「お待ちしておりました、マルガリータ様、ルネ様」
白髪の神官が私達を出迎える。
「神官よ。聖女はまだ来てはいないのか?」
「それがまだ来てはいないのです……」
「まさか、逃げ出したのではあるまいな?」
それは私も薄々感じ取っていた。しかし逃げた所でレゼッタにメリットは無い。むしろ聖女の力が落ちてきていると更に疑われるだけだ。
「待ちましょう。皆さん」
私達は用意された古めの椅子に座り、レゼッタ達が来るのを待つ事にした。
「今日、か」
部屋の扉を開けると右側の廊下からメイドが2人こちらへと向かっているのが見えた。カートを押してきているのでおそらくは朝食を持ってきてくれたのだろう。
「あ、どうぞ入ってください」
「失礼します。お食事お持ちしました。終わりましたらドレスの着用のお手伝いとお化粧と髪結いを担当させて頂きます」
「了解しました」
朝食は楕円形のパンと細かく刻まれた野菜の入ったスープ。パンをちぎってスープに浸しながら食べると柔らかくなって食べやすくなる上にパンとスープの塩気が良い感じに混ざり合って美味しい。朝食をさっとすませた後は一息休憩してからドレスに着替える。ドレスは少し暗めの紅色。黒いフリルがついており更にレースも細やかだ。
(なんだかレゼッタが好みそうなドレスに見える)
特に黒い細やかなレース付きの手袋に扇子はレゼッタらしく見えた。おそらくこのドレスは王宮から借りたものと思われるがまさかレゼッタっぽさを感じるドレスを着る事になろうとは……。
(まあ、こんな時もあるか)
ドレスに着替えた後はお化粧に髪結いの時間だ。メイドから化粧はどのような雰囲気にされますか? と質問を受けたのでいつものように質素な感じでお願いします。と返した所今日くらいは派手めにしてもいいのでは? と言われた。
「良いんでしょうか?」
「良いんじゃないでしょうか? 少しだけ明るめの色を使って華やかにしてみるくらいなら浮ついた感じもしないでしょう」
「ですよね。ではそれでお願いします」
「承知しました」
髪結いとお化粧、更には爪も丁寧に手入れしてもらった後は扇子を持って部屋を出てリビングの広間に向かう。その道中、大理石の床に絵画がたくさん飾られた廊下でルネと鉢合わせした。
「マルガリータ、おはよう。昨日はよく眠れた?」
「ルネおはよう。まあまあって感じかしらね」
「私はあんまり寝られなかったわ。マルガリータ、今日の化粧とドレス似合ってるじゃない。私と対照的なのもなんか好きだわ」
ルネは青空のような深い青色のドレスを身に纏っている。黒いフリルに黒い手袋は私の着ているドレスに手袋と共通している。
「なんだか姉妹みたいじゃない? ねえマルガリータ」
「確かに。でもルネとは姉妹みたいなものじゃない? だって孤児院の頃からずっと一緒だもの」
ルネとは孤児院の頃からの長い付き合いだ。同じ孤児院で育ち、カルナータカ侯爵家で一緒に苦楽を共にし(どっちかと言うと苦の方が大きかったが)そして一緒にエドワード様やバンディ様のいる国へ研究者として招かれた。もう距離感的に姉妹と言っていいかもしれない。
「そうね。もう姉妹みたいなものだものね」
「でしょ? ルネ」
「ええ、マルガリータの言う通りだわ。ねえ、私達ずっと一緒よ。一緒に幸せになりましょうね」
「ええ。私もルネと一緒にいたいわ。それとルネは最終的にはバンディ様と結婚するつもりなの?」
「それはまだ分からないわ。それに私は平民よ。無理だわ」
「わからないわよ? というか私も平民扱いにはなってるのかしら?」
「カルナータカの苗字はあるとはいえその辺は侯爵様に聞かないと分からないわね」
「そうね……ま、今はいっか」
「ふふっ。そうね」
リビングに到着すると正装に着替えたエドワード様とバンディ様がソファに腰掛けていた。エドワード様は長い足を組んで優雅に座りつつ白地に金色のラインが描かれたティーカップを持って紅茶を飲んでいた。彼らにあいさつすると爽やかな声が返って来る。
「マルガリータとルネ。あれから2人とも昨日はよく眠れたか? バンディは眠れなかったらしくてな」
「そうなんだよねえ。2人ともどう?」
「私はあんまり眠れませんでした……」
「私はまあまあ眠れました。エドワード様はいかがですか?」
「俺はまあ眠れたな。気が付いたら夜明けだったよ。……さて、そろそろ向かうか? 王宮の中庭へ」
エドワード様がソファから立ち上がり、ティーカップを傍らにある茶色い机に置いた。それを見たバンディ様も立ち上がって颯爽と玄関へ向かって歩き出す。
「行きましょうかね」
私達は歩いて、現場へと向かうのだった。王宮へと通ずる石畳の道を歩く道中、私の脳内にはこれまでの思い出が浮かび上がっていた。
物心ついた時から孤児院にいて、ルネ達やシスター達がいた。大変だった時もあるけどルネ達がいてくれたおかげでどうにかなった。
カルナータカ侯爵家での暮らしは孤児院での暮らしよりもしんどかった。ルネや優しくしてくれたメイドや執事達がいなければ耐えられていなかったと思う。父親のカルナータカ侯爵もあまり頼れなかった。しかしお給金をくれたのは唯一のやりがいというか働きが認められた気がしてささやかな幸せだった。
レゼッタとカルナータカ夫人は神託後罰せられるだろうというのは理解できている。おそらくカルナータカ侯爵もある程度は罰せられるだろう。
などと思い出を振り返っている内にいつの間にか王宮の門をくぐり、廊下を歩いていた。廊下には沢山の貴族達が歩いたり立ち話をしたりしている。
「マルガリータ」
「エドワード様。いかがされましたか?」
「緊張しているか?」
「……いえ。皆さん一緒ですから」
エドワード様にルネとバンディ様がいる。だから怖くはない。そう伝えるとエドワード様は柔らかい笑みを見せてくれた。
中庭に到着すると既に国の内外から来たと思わしき貴族方に王族方、国王陛下と王妃様に神官達が揃っていた。それに遠くには兵士にガードされる形で平民達も揃い始めている。
「お待ちしておりました、マルガリータ様、ルネ様」
白髪の神官が私達を出迎える。
「神官よ。聖女はまだ来てはいないのか?」
「それがまだ来てはいないのです……」
「まさか、逃げ出したのではあるまいな?」
それは私も薄々感じ取っていた。しかし逃げた所でレゼッタにメリットは無い。むしろ聖女の力が落ちてきていると更に疑われるだけだ。
「待ちましょう。皆さん」
私達は用意された古めの椅子に座り、レゼッタ達が来るのを待つ事にした。
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