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第30話 聖女である為に(レゼッタ視点)
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目が覚める。この天井にこのふかふかしたベッド……私の部屋か。執事かお母様かお父様が運んでくれたのだろうか。
「ふわあ……」
部屋には誰もいない。それにやけに静かな気がする。私はベッドから起き上がるが身体全身に痛みが走る。ああ、エドワード様の魔術で壁まで吹き飛んだんだった。
(私に魔法が使えれば、反撃出来たしそもそも吹き飛ばされてなかった)
部屋を出ると廊下も静かだった。屋敷の外からはおそらく私を求めてやってきている人々の声は聞こえるが、屋敷内は不自然な程静かでメイドや執事がいる気配は無い。窓からは日の光が差し込んでいる。これはもしかして朝日か?
(おかしい。私そんなに寝ていた? それに誰もいない)
廊下を歩く途中でようやく1人の中年くらいのメイドを見つけた。メイドは私を見るや否やぎょっとした目つきを見せる。
「何驚いてるの?」
「あ、ああ……お目覚めになられたのかと」
「そうだけど? それが何? 目覚めて欲しくなかったって事?」
「い、いえ! 違います! それよりも大広間には行かれましたか?」
「いや、まだよ?」
「では、お早めに……もう侯爵様は家から出ましたから」
「お父様出て行ったの?!」
「はい」
「なんで引き止めないのよ!」
私はつい苛立ってそのメイドを手で壁へ突き飛ばした。
「申し訳ありません! もうこの屋敷には戻らないと言って聞かず……!」
「ああもう!」
とりあえず大広間へ行こう。歩いて移動して大広間の扉を開けると中にはお母様が震えながら何やら紙を両手で持って読んでいる姿が見えた。
「お母様おはよう。何かあったの?」
「……マルガリータ達工場のメイドが全員……エドワード様の手で隣国に連れて行かれたわ。ああ、なんて事。あのマルガリータ達が隣国に行ってしまった……!」
「え」
お姉様が隣国に連れていかれた? そんなバカな。エドワード様がメイドのお姉様に興味を抱くわけがない。私はそうお母様に話した。
「だってそうじゃない。ねえ? メイドに興味を示す王族なんて見た事が無いわよ」
「でもここに皆いないじゃない!」
「ちょっとそれ見せてよ」
私はお母様から紙を半ば強引に奪い取って読んだ。これはお父様の書置きか。エドワード様によってお姉様達は隣国に迎え入れられた。そしてお父様はもうこの侯爵家には戻らない。地下にあった魔法薬の工場も閉鎖して無かった事にした。と記されていた。
魔法薬の工場を無かった事にする? それだと私はどうなるの? だって私聖女よ? あの工場が無かったら私は聖女じゃいられなくなっちゃうじゃない!
「お嬢様! 夫人!」
大広間に若いメイドがベテランの執事を伴って現れた。
「お屋敷の門を開けろと人々が……!」
「うっさいわね! わかってるわよ!」
「レゼッタお嬢様。では聖女としての活動を始めましょう」
「ええ、扉を開けて中に人をいれなさい。あと魔法薬をここに置いて頂戴」
そう執事に頼むともう工場は閉鎖したので薬は新しく作る事は出来ず、今ある分だけという返答が返された。
「わかったわ。今日は在庫でなんとかする」
「承知いたしました」
「待ちなさいレゼッタ。あなた魔力がほとんどないのにどうするつもり?!」
お母様が心配そうに私へ問いかける。何を言ってるのだろう。そもそも魔法薬の工場を閉鎖するだなんてお父様が勝手に決めた事だ。この屋敷では婿養子であるお父様より先代のカルナータカ侯爵……すなわちおじい様の娘であるお母様の方が力は強いのでは?
「簡単よ。工場を再開すればいいわ」
「え、でも……マルガリータ達はいないのよ? 魔力量ではあのマルガリータが聖女でルネも上位、他の子も中位がほとんどだったような」
「お母様何を焦ってるの? お姉様やルネみたいにまた孤児院から集めてくればいいじゃない」
そうだ。孤児院にいる子達やお姉様のような貴族の血を引く訳ありの子のうち魔力がそれなりにある子を寄せ集めて魔法薬を作らせればよい。工場には作り方を記したマニュアルがあるはずだ。お姉様の事だしそれくらいは置いてあるに違いない。
「ああ、確かに……その手があったわね。じいや」
「ははっ」
ベテランの執事をお母様が呼んだ。そして彼に孤児院や訳ありの貴族の血を引いている娘を何人か連れて来るようにと要求する。
「かしこまりました。夫人」
「早急に済ませなさいね」
「勿論、そのように」
こうして大広間に私を待っていた人々が列をなして現れる。こいつらは私を聖女だとあがめている。私を聖女様と呼ぶたびに私は胸の奥底から嬉しさがこみあげて来る。
お姉様ではなく、私が聖女なのだ。正真正銘人々から敬われる聖女はこの私だ。
「レゼッタ様! お会いしとうございました!」
「ええ、どこが悪いの?」
「全身の関節がひどくて……」
「ではこちらの薬を飲みなさいな。聖女であるこの私が作った薬を飲めばよく効くわよ?」
「ああ、ありがとうございます! お代はこれです……!」
「はい、代金はちょうど受け取りました。お次の方どうぞ」
お姉様は今頃エドワード様と楽しくやっているのだろうか。そう考えると吐き気を催すほど憎らしくなってきた。
私はお姉様を許しはしない。
「ふわあ……」
部屋には誰もいない。それにやけに静かな気がする。私はベッドから起き上がるが身体全身に痛みが走る。ああ、エドワード様の魔術で壁まで吹き飛んだんだった。
(私に魔法が使えれば、反撃出来たしそもそも吹き飛ばされてなかった)
部屋を出ると廊下も静かだった。屋敷の外からはおそらく私を求めてやってきている人々の声は聞こえるが、屋敷内は不自然な程静かでメイドや執事がいる気配は無い。窓からは日の光が差し込んでいる。これはもしかして朝日か?
(おかしい。私そんなに寝ていた? それに誰もいない)
廊下を歩く途中でようやく1人の中年くらいのメイドを見つけた。メイドは私を見るや否やぎょっとした目つきを見せる。
「何驚いてるの?」
「あ、ああ……お目覚めになられたのかと」
「そうだけど? それが何? 目覚めて欲しくなかったって事?」
「い、いえ! 違います! それよりも大広間には行かれましたか?」
「いや、まだよ?」
「では、お早めに……もう侯爵様は家から出ましたから」
「お父様出て行ったの?!」
「はい」
「なんで引き止めないのよ!」
私はつい苛立ってそのメイドを手で壁へ突き飛ばした。
「申し訳ありません! もうこの屋敷には戻らないと言って聞かず……!」
「ああもう!」
とりあえず大広間へ行こう。歩いて移動して大広間の扉を開けると中にはお母様が震えながら何やら紙を両手で持って読んでいる姿が見えた。
「お母様おはよう。何かあったの?」
「……マルガリータ達工場のメイドが全員……エドワード様の手で隣国に連れて行かれたわ。ああ、なんて事。あのマルガリータ達が隣国に行ってしまった……!」
「え」
お姉様が隣国に連れていかれた? そんなバカな。エドワード様がメイドのお姉様に興味を抱くわけがない。私はそうお母様に話した。
「だってそうじゃない。ねえ? メイドに興味を示す王族なんて見た事が無いわよ」
「でもここに皆いないじゃない!」
「ちょっとそれ見せてよ」
私はお母様から紙を半ば強引に奪い取って読んだ。これはお父様の書置きか。エドワード様によってお姉様達は隣国に迎え入れられた。そしてお父様はもうこの侯爵家には戻らない。地下にあった魔法薬の工場も閉鎖して無かった事にした。と記されていた。
魔法薬の工場を無かった事にする? それだと私はどうなるの? だって私聖女よ? あの工場が無かったら私は聖女じゃいられなくなっちゃうじゃない!
「お嬢様! 夫人!」
大広間に若いメイドがベテランの執事を伴って現れた。
「お屋敷の門を開けろと人々が……!」
「うっさいわね! わかってるわよ!」
「レゼッタお嬢様。では聖女としての活動を始めましょう」
「ええ、扉を開けて中に人をいれなさい。あと魔法薬をここに置いて頂戴」
そう執事に頼むともう工場は閉鎖したので薬は新しく作る事は出来ず、今ある分だけという返答が返された。
「わかったわ。今日は在庫でなんとかする」
「承知いたしました」
「待ちなさいレゼッタ。あなた魔力がほとんどないのにどうするつもり?!」
お母様が心配そうに私へ問いかける。何を言ってるのだろう。そもそも魔法薬の工場を閉鎖するだなんてお父様が勝手に決めた事だ。この屋敷では婿養子であるお父様より先代のカルナータカ侯爵……すなわちおじい様の娘であるお母様の方が力は強いのでは?
「簡単よ。工場を再開すればいいわ」
「え、でも……マルガリータ達はいないのよ? 魔力量ではあのマルガリータが聖女でルネも上位、他の子も中位がほとんどだったような」
「お母様何を焦ってるの? お姉様やルネみたいにまた孤児院から集めてくればいいじゃない」
そうだ。孤児院にいる子達やお姉様のような貴族の血を引く訳ありの子のうち魔力がそれなりにある子を寄せ集めて魔法薬を作らせればよい。工場には作り方を記したマニュアルがあるはずだ。お姉様の事だしそれくらいは置いてあるに違いない。
「ああ、確かに……その手があったわね。じいや」
「ははっ」
ベテランの執事をお母様が呼んだ。そして彼に孤児院や訳ありの貴族の血を引いている娘を何人か連れて来るようにと要求する。
「かしこまりました。夫人」
「早急に済ませなさいね」
「勿論、そのように」
こうして大広間に私を待っていた人々が列をなして現れる。こいつらは私を聖女だとあがめている。私を聖女様と呼ぶたびに私は胸の奥底から嬉しさがこみあげて来る。
お姉様ではなく、私が聖女なのだ。正真正銘人々から敬われる聖女はこの私だ。
「レゼッタ様! お会いしとうございました!」
「ええ、どこが悪いの?」
「全身の関節がひどくて……」
「ではこちらの薬を飲みなさいな。聖女であるこの私が作った薬を飲めばよく効くわよ?」
「ああ、ありがとうございます! お代はこれです……!」
「はい、代金はちょうど受け取りました。お次の方どうぞ」
お姉様は今頃エドワード様と楽しくやっているのだろうか。そう考えると吐き気を催すほど憎らしくなってきた。
私はお姉様を許しはしない。
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