上 下
15 / 58

第14話 エドワード様の帰還

しおりを挟む
「え、もう隣国へ帰られたんですか?」

 この日の午前中。私は魔法薬の入った木箱を持って野戦病院に訪れていた。負傷兵の数は昨日と比べると少し減ったように思ったので近くにいた衛生兵に何かあったのかと尋ねると、昨日の夕方にエドワード様と回復した兵併せて数十人程が隣国へと帰還したのだと教えてくれた。

「そうだったんですか……」
「そうなんです。なんでも王太子は隣国での公務に戻られる必要があるとかで……それにさっき停戦協定に合意したとかで一旦は戦争は休止になりました。なので負傷兵の数も落ち着くでしょう」
「なるほど。それなら良いのですが」

 この野戦病院はそのまま野戦病院として残しておく事も決まったそうだ。たまたま近くを通りがかった衛生兵を統括する人物に魔法薬を持ってきた事を伝えると、持ってきた魔法薬のうち半分ほどで良いと言われた。

「わかりました」

 彼が指示する場所に魔法薬を置き、私は徒歩で屋敷に戻った。
 エドワード様と出来れば挨拶したかったが、こればっかりは仕方ない。

(私が王宮にいる時に帰ったんだな……)

 次またエドワード様と会える日が来るだろうか。いや、そんな日はもうないかもしれない。私は侯爵の血こそ引くが薬師の資格を持つただのメイドの端くれだ。身分が違い過ぎる。
 屋敷に戻る道中。私はやはり気になったので再び野戦病院に戻り、エドワード様がいた個室に入る。そこには勿論誰もいなかった。

「ああ……」

 シーツの敷かれたベッドこそあるが毛布は無い。窓もしっかりと施錠されている。暗くてエドワード様がいた痕跡は跡形もなくなくなっていた。

「……」
(いなくなってしまった)

 なんでだろう。ただエドワード様がいなくなっただけで胸がこんなにも苦しい。それに早くエドワード様にお会いしたいという気持ちが湧いてくる。
 もしかして私、エドワード様を好きになってしまったのだろうか。

(こんな私では、結ばれるわけがないというのに。無駄なのに……)

 身分違いな事も何もかも理解しているはずなのに、エドワード様を欲している。早く会って、あの夜にした事をもう一度したい。彼との交わりを想像しただけで下腹部が熱くなるのと同時に胸の中が苦しくなって泣きそうになって来る。

「……エドワード様……」

 ここまで自分が熱く感情をコントロールできなくなるのは初めてかもしれない。私はその場から立ち去りながらあふれ出る涙を両手の甲で数回拭ったのだった。

(早く、早くエドワード様にお会いしたい……)

 屋敷に戻り、工場に入る時レゼッタとばったりと鉢合わせしてしまった。こういうタイミングの悪い時に限ってと思っていると、彼女はにたりと笑いながらお姉様? と口を開く。

「いかがなさいましたか?」
「私、エドワード様をお助けした事を国王陛下に話した。と言った事覚えている?」
「はい。何かありました?」
「それで今度国王陛下の仲介でエドワード様と会わせてくれる事になったの!」
「え?」

 もしかして、またエドワード様と会えるのだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません

青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく そしてなぜかヒロインも姿を消していく ほとんどエッチシーンばかりになるかも?

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

【R18】聖女のお役目【完結済】

ワシ蔵
恋愛
平凡なOLの加賀美紗香は、ある日入浴中に、突然異世界へ転移してしまう。 その国には、聖女が騎士たちに祝福を与えるという伝説があった。 紗香は、その聖女として召喚されたのだと言う。 祭壇に捧げられた聖女は、今日も騎士達に祝福を与える。 ※性描写有りは★マークです。 ※肉体的に複数と触れ合うため「逆ハーレム」タグをつけていますが、精神的にはほとんど1対1です。

処理中です...