6 / 58
第5話 野戦病院
しおりを挟む
いつもと変わらず地下の工場で作業に取り組んでいた午前中の時。いきなり部屋の扉がばんっ! と勢いよく開かれる。
そこには軍服を着た軍人にレゼッタとカルナータカ夫人が立っていた。
「皆さん、今から野戦病院に行ってもらう。聖女様の手助けをするのだ」
急遽、私とメイド3人で野戦病院へ向かう事が決まった。
ルネと他のメイドは工場に留まる事になる。私達はありったけの魔法薬を馬車に詰め込んで、歩いて野戦病院に移動した。レゼッタとカルナータカ夫人は馬車での移動だ。
「皆! 聖女が来たぞ!」
野戦病院はかつて王族が離宮として使っていた建物を再利用したもの。だが、建物内に負傷兵を収容出来なくなっており離宮の外にはいくつか白い簡易テントが設置されていた。
現地からは血と汚物の匂いもうっすらと香る。馬車から降りたレゼッタは持っていたピンク色の派手な扇子でしきりにぱたぱたと仰ぎ始めた。
「臭いわね……血と汚い匂いがするわ」
レゼッタは顔をしかめたが、軍人の存在に気づいたのかすぐにぺったりとした作り笑いを浮かべた。そんなレゼッタに軽傷の負傷兵や衛生兵が次々に駆け寄ってくる。
「聖女レゼッタ様!」
「聖女様だ! 俺の怪我治して!」
「おい! 俺の方が重いんだぞ!」
「聖女様!」
彼らを半ば押しのけつつ、私達は軍人に連れられて建物の中に入った。
「まずは重傷患者からお願いします」
「分かったわ……」
レゼッタのあまり乗り気ではない返事からは、嫌そうな感じがひしひしと伝わってきた。重傷患者のいる部屋は先程以上の血と汚物まみれの強烈な臭いで充満している。
「早くするわよ。衛生兵の方。この聖女の力が籠もった薬を使ってくださいませ」
魔法薬を片っ端から開けて怪我をした箇所に塗り込む。するとみるみるうちに彼らの怪我が治っていく。
「……っ。もう痛くない……?」
「ふふっ。聖女である私の力ですよ」
「レゼッタ様が怪我を癒やしてくれた……!」
「レゼッタ様! 感謝します!」
怪我が癒え身動きできるようになった負傷兵はレゼッタに抱き着こうとしたが、彼女は嫌な顔をしつつそれを制するのだった。
その後も負傷兵への手当は続いた。魔法薬が無くなったらまた馬車で屋敷から取り寄せて使う。その繰り返しだ。そうこうしているうちに日没を迎える。
「すみません、そろそろお時間が……」
今日もレゼッタは夜会があるのでそろそろ屋敷に帰らなければならない。私の後輩が軍人にそう告げると彼は悲しそうな顔をする。
「聖女様ならずっと付きっきりで看病してくださると思っていたのに……」
そこには軍服を着た軍人にレゼッタとカルナータカ夫人が立っていた。
「皆さん、今から野戦病院に行ってもらう。聖女様の手助けをするのだ」
急遽、私とメイド3人で野戦病院へ向かう事が決まった。
ルネと他のメイドは工場に留まる事になる。私達はありったけの魔法薬を馬車に詰め込んで、歩いて野戦病院に移動した。レゼッタとカルナータカ夫人は馬車での移動だ。
「皆! 聖女が来たぞ!」
野戦病院はかつて王族が離宮として使っていた建物を再利用したもの。だが、建物内に負傷兵を収容出来なくなっており離宮の外にはいくつか白い簡易テントが設置されていた。
現地からは血と汚物の匂いもうっすらと香る。馬車から降りたレゼッタは持っていたピンク色の派手な扇子でしきりにぱたぱたと仰ぎ始めた。
「臭いわね……血と汚い匂いがするわ」
レゼッタは顔をしかめたが、軍人の存在に気づいたのかすぐにぺったりとした作り笑いを浮かべた。そんなレゼッタに軽傷の負傷兵や衛生兵が次々に駆け寄ってくる。
「聖女レゼッタ様!」
「聖女様だ! 俺の怪我治して!」
「おい! 俺の方が重いんだぞ!」
「聖女様!」
彼らを半ば押しのけつつ、私達は軍人に連れられて建物の中に入った。
「まずは重傷患者からお願いします」
「分かったわ……」
レゼッタのあまり乗り気ではない返事からは、嫌そうな感じがひしひしと伝わってきた。重傷患者のいる部屋は先程以上の血と汚物まみれの強烈な臭いで充満している。
「早くするわよ。衛生兵の方。この聖女の力が籠もった薬を使ってくださいませ」
魔法薬を片っ端から開けて怪我をした箇所に塗り込む。するとみるみるうちに彼らの怪我が治っていく。
「……っ。もう痛くない……?」
「ふふっ。聖女である私の力ですよ」
「レゼッタ様が怪我を癒やしてくれた……!」
「レゼッタ様! 感謝します!」
怪我が癒え身動きできるようになった負傷兵はレゼッタに抱き着こうとしたが、彼女は嫌な顔をしつつそれを制するのだった。
その後も負傷兵への手当は続いた。魔法薬が無くなったらまた馬車で屋敷から取り寄せて使う。その繰り返しだ。そうこうしているうちに日没を迎える。
「すみません、そろそろお時間が……」
今日もレゼッタは夜会があるのでそろそろ屋敷に帰らなければならない。私の後輩が軍人にそう告げると彼は悲しそうな顔をする。
「聖女様ならずっと付きっきりで看病してくださると思っていたのに……」
377
お気に入りに追加
1,353
あなたにおすすめの小説
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜
茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。
☆他サイトにも投稿しています
腹黒王子は、食べ頃を待っている
月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません
青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく
でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう
この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく
そしてなぜかヒロインも姿を消していく
ほとんどエッチシーンばかりになるかも?
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
【R18】聖女のお役目【完結済】
ワシ蔵
恋愛
平凡なOLの加賀美紗香は、ある日入浴中に、突然異世界へ転移してしまう。
その国には、聖女が騎士たちに祝福を与えるという伝説があった。
紗香は、その聖女として召喚されたのだと言う。
祭壇に捧げられた聖女は、今日も騎士達に祝福を与える。
※性描写有りは★マークです。
※肉体的に複数と触れ合うため「逆ハーレム」タグをつけていますが、精神的にはほとんど1対1です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる