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第5話 野戦病院

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 いつもと変わらず地下の工場で作業に取り組んでいた午前中の時。いきなり部屋の扉がばんっ! と勢いよく開かれる。
 そこには軍服を着た軍人にレゼッタとカルナータカ夫人が立っていた。

「皆さん、今から野戦病院に行ってもらう。聖女様の手助けをするのだ」

 急遽、私とメイド3人で野戦病院へ向かう事が決まった。
 ルネと他のメイドは工場に留まる事になる。私達はありったけの魔法薬を馬車に詰め込んで、歩いて野戦病院に移動した。レゼッタとカルナータカ夫人は馬車での移動だ。

「皆! 聖女が来たぞ!」

 野戦病院はかつて王族が離宮として使っていた建物を再利用したもの。だが、建物内に負傷兵を収容出来なくなっており離宮の外にはいくつか白い簡易テントが設置されていた。
 現地からは血と汚物の匂いもうっすらと香る。馬車から降りたレゼッタは持っていたピンク色の派手な扇子でしきりにぱたぱたと仰ぎ始めた。

「臭いわね……血と汚い匂いがするわ」

 レゼッタは顔をしかめたが、軍人の存在に気づいたのかすぐにぺったりとした作り笑いを浮かべた。そんなレゼッタに軽傷の負傷兵や衛生兵が次々に駆け寄ってくる。

「聖女レゼッタ様!」
「聖女様だ! 俺の怪我治して!」
「おい! 俺の方が重いんだぞ!」
「聖女様!」

 彼らを半ば押しのけつつ、私達は軍人に連れられて建物の中に入った。

「まずは重傷患者からお願いします」
「分かったわ……」

 レゼッタのあまり乗り気ではない返事からは、嫌そうな感じがひしひしと伝わってきた。重傷患者のいる部屋は先程以上の血と汚物まみれの強烈な臭いで充満している。

「早くするわよ。衛生兵の方。この聖女の力が籠もった薬を使ってくださいませ」

 魔法薬を片っ端から開けて怪我をした箇所に塗り込む。するとみるみるうちに彼らの怪我が治っていく。

「……っ。もう痛くない……?」
「ふふっ。聖女である私の力ですよ」
「レゼッタ様が怪我を癒やしてくれた……!」
「レゼッタ様! 感謝します!」

 怪我が癒え身動きできるようになった負傷兵はレゼッタに抱き着こうとしたが、彼女は嫌な顔をしつつそれを制するのだった。
 その後も負傷兵への手当は続いた。魔法薬が無くなったらまた馬車で屋敷から取り寄せて使う。その繰り返しだ。そうこうしているうちに日没を迎える。

「すみません、そろそろお時間が……」

 今日もレゼッタは夜会があるのでそろそろ屋敷に帰らなければならない。私の後輩が軍人にそう告げると彼は悲しそうな顔をする。

「聖女様ならずっと付きっきりで看病してくださると思っていたのに……」


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