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第62話 私がこの世界に留まる意味とは
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彼女の方がアルグレートの事を知っている。その事実をポプリの入った箱がありありと見せつけてくれている気がした。
「ポプリか。懐かしいな」
「オトネ様、あなたのお好みも知りたいですわ」
私の分も作ってくれると言うのか。それはそれでうれしいけど、一体そこに何の意図があるのかがわからない。
「オトネ、どうする? ちなみに俺の分はこんな感じだ」
アルグレートが箱を開封してくれた。中には麻袋に入ったポプリが5つ入っている。
ポプリはアルグース帝国では入浴用と睡眠用の2種類があり、用途に応じて香りや草花の種類が違うのだとアルグレートが丁寧に教えてくれた。
「へえ……入浴剤みたいな感じかな」
「そうだな。睡眠用のものだと快眠に導くものや特定の夢を見る為のものなんかもある」
「まあ、アルグレート……オトネ様の事を愛していらっしゃるのが伝わってきますわね」
嫌味なのか単純にそう思ったのかのどちらかがわからないマリアの言葉に、アルグレートは何事も無かったかのように当たり前だと返した。
「オトネは俺の大事な番だから」
それを聞いたマリアの微笑みにヒビが少しだけ入った。ぎこちない表情を浮かべるもすぐに笑顔を取り戻したマリアの顔。彼女が虚勢を張っているのが理解できた。
「じゃあ、私もポプリを作って頂けませんか?」
彼女の反応を私は敢えて探る事にした。ここで彼女がどう出るかをごくりと唾を飲み込んで見つめる。
「わかりましたわ。ぜひお作りしたく存じます」
にこりと優しい笑みを作るマリアに私は素直に感謝を述べる。
その後は彼女とアルグレートからポプリの配合を教えてもらい、私だけのオリジナルポプリを配合を決めたのだった。
「出来上がるまで1週間かかります。そこはご了承くださいませ」
「いえいえ。マリア様。お気になさらず」
「では、私はこれにて失礼いたしますわ。ポプリが出来上がりましたらまたお届けに参ります」
マリアをアルグレートと共に玄関まで見送ると、彼女は白と金色の丸い馬車に乗って帰路についたのだった。
「オトネ、一緒にいてくれてありがとう」
「あ、いや……気にしないで。私もアルグレートがいて助かったよ。ポプリの事知らないからさ」
「アルグレート様、エイティン家から手紙が届いております」
「わかったツォルグ。オトネ、ここで俺は失礼する」
アルグレートはマリアから送られたポプリの箱を大事そうに持って、ツォルグさんと共に書斎へと向かっていく。私はひとり自室に帰った。
「はあ……」
いつの間にか身体に張り付いていた緊張が全て解けていく。ベッドの上に腰掛けると、胸から大きな息が吐き出された。
「やっぱりマリアはアルグレートと仲が良かったな……」
ポプリの配合について私に教えてくれていた時も2人は息が合っていた。一応アルグレートは私の事を最優先にしてくれていたとはいえ。それに多分マリアはアルグレートにちょっぴり未練がありそう。
でも彼女は竜人。アルグレートとは番になれないし子をなせない。
「はあ……」
それならいっそ私が出産後もここに居続ける意味なんてないのではないか。と考えてしまった。
「私が産んだ子どもを、マリアとアルグレートが育てたらいいんじゃないかな……」
アルグレートが私の事を大事に思っているのはもちろんわかってはいるんだけど、なんだかマリアが可哀想だなと思ってしまうのだ。
「だって先に出会ったのはマリアだもんなぁ……」
マリア・オフスキーはアルグレートの幼馴染。
――マリア様はアルグレート様とは幼馴染の関係でございます。ですから、アルグレート様の事をとてもお慕いしていらっしゃるのです。アルグレート様もマリア様をお慕いしていらっしゃいます。
と、メイドが語っていた事も思いだす。私は元は子どもを成す為に呼ばれた存在だ。アルグレートは今こそ私を愛してくれていてたまに独占欲を剥き出しにしているけど、その独占欲が露わになるほど私を愛している部分までマリアが知ればどうなるだろうかと気になってしまう。
「……辛いだろうな」
人によってはざまぁみろっていうシチュエーションなんだろうけど、私はそうは思えない。
「元の世界に戻るべきなのか」
と、考えると頭の中にアルグレートの笑みがよぎる。
私がもし元の世界に戻る事を望めば、彼はどう考えるのか。そして今、お腹にいるこの子供は私の顔を知らないで育つ事になる。それもどうなのか。
「嫌だって引き留めてくるかもしれない。もしそうなら……」
多分私は情に流される。それは間違いない。
「ああ~! だめだ、わかんないや!」
胸の中にたまったもやもやを全部声に出して吐き出した所で、アナスタシアさんとサファイア所長の存在を思い出した。
「手紙か何かで聞いてみようかな……」
仲睦まじいアナスタシアさんとサファイア所長の夫婦へ手紙を出す事にした私は、部屋の扉を開けてたまたま廊下を歩いていた若いメイドを呼んだのだった。
「すみません、お手紙書いてもらえませんか?」
「どなた宛でしょうか?」
「魔術研究所のサファイア所長と、アナスタシアさんへお願いします」
「ポプリか。懐かしいな」
「オトネ様、あなたのお好みも知りたいですわ」
私の分も作ってくれると言うのか。それはそれでうれしいけど、一体そこに何の意図があるのかがわからない。
「オトネ、どうする? ちなみに俺の分はこんな感じだ」
アルグレートが箱を開封してくれた。中には麻袋に入ったポプリが5つ入っている。
ポプリはアルグース帝国では入浴用と睡眠用の2種類があり、用途に応じて香りや草花の種類が違うのだとアルグレートが丁寧に教えてくれた。
「へえ……入浴剤みたいな感じかな」
「そうだな。睡眠用のものだと快眠に導くものや特定の夢を見る為のものなんかもある」
「まあ、アルグレート……オトネ様の事を愛していらっしゃるのが伝わってきますわね」
嫌味なのか単純にそう思ったのかのどちらかがわからないマリアの言葉に、アルグレートは何事も無かったかのように当たり前だと返した。
「オトネは俺の大事な番だから」
それを聞いたマリアの微笑みにヒビが少しだけ入った。ぎこちない表情を浮かべるもすぐに笑顔を取り戻したマリアの顔。彼女が虚勢を張っているのが理解できた。
「じゃあ、私もポプリを作って頂けませんか?」
彼女の反応を私は敢えて探る事にした。ここで彼女がどう出るかをごくりと唾を飲み込んで見つめる。
「わかりましたわ。ぜひお作りしたく存じます」
にこりと優しい笑みを作るマリアに私は素直に感謝を述べる。
その後は彼女とアルグレートからポプリの配合を教えてもらい、私だけのオリジナルポプリを配合を決めたのだった。
「出来上がるまで1週間かかります。そこはご了承くださいませ」
「いえいえ。マリア様。お気になさらず」
「では、私はこれにて失礼いたしますわ。ポプリが出来上がりましたらまたお届けに参ります」
マリアをアルグレートと共に玄関まで見送ると、彼女は白と金色の丸い馬車に乗って帰路についたのだった。
「オトネ、一緒にいてくれてありがとう」
「あ、いや……気にしないで。私もアルグレートがいて助かったよ。ポプリの事知らないからさ」
「アルグレート様、エイティン家から手紙が届いております」
「わかったツォルグ。オトネ、ここで俺は失礼する」
アルグレートはマリアから送られたポプリの箱を大事そうに持って、ツォルグさんと共に書斎へと向かっていく。私はひとり自室に帰った。
「はあ……」
いつの間にか身体に張り付いていた緊張が全て解けていく。ベッドの上に腰掛けると、胸から大きな息が吐き出された。
「やっぱりマリアはアルグレートと仲が良かったな……」
ポプリの配合について私に教えてくれていた時も2人は息が合っていた。一応アルグレートは私の事を最優先にしてくれていたとはいえ。それに多分マリアはアルグレートにちょっぴり未練がありそう。
でも彼女は竜人。アルグレートとは番になれないし子をなせない。
「はあ……」
それならいっそ私が出産後もここに居続ける意味なんてないのではないか。と考えてしまった。
「私が産んだ子どもを、マリアとアルグレートが育てたらいいんじゃないかな……」
アルグレートが私の事を大事に思っているのはもちろんわかってはいるんだけど、なんだかマリアが可哀想だなと思ってしまうのだ。
「だって先に出会ったのはマリアだもんなぁ……」
マリア・オフスキーはアルグレートの幼馴染。
――マリア様はアルグレート様とは幼馴染の関係でございます。ですから、アルグレート様の事をとてもお慕いしていらっしゃるのです。アルグレート様もマリア様をお慕いしていらっしゃいます。
と、メイドが語っていた事も思いだす。私は元は子どもを成す為に呼ばれた存在だ。アルグレートは今こそ私を愛してくれていてたまに独占欲を剥き出しにしているけど、その独占欲が露わになるほど私を愛している部分までマリアが知ればどうなるだろうかと気になってしまう。
「……辛いだろうな」
人によってはざまぁみろっていうシチュエーションなんだろうけど、私はそうは思えない。
「元の世界に戻るべきなのか」
と、考えると頭の中にアルグレートの笑みがよぎる。
私がもし元の世界に戻る事を望めば、彼はどう考えるのか。そして今、お腹にいるこの子供は私の顔を知らないで育つ事になる。それもどうなのか。
「嫌だって引き留めてくるかもしれない。もしそうなら……」
多分私は情に流される。それは間違いない。
「ああ~! だめだ、わかんないや!」
胸の中にたまったもやもやを全部声に出して吐き出した所で、アナスタシアさんとサファイア所長の存在を思い出した。
「手紙か何かで聞いてみようかな……」
仲睦まじいアナスタシアさんとサファイア所長の夫婦へ手紙を出す事にした私は、部屋の扉を開けてたまたま廊下を歩いていた若いメイドを呼んだのだった。
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