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第52話 作戦終了
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「そうですか?」
顔が良い……なんだろ? 私は正直自分の容姿が優れているとは思った事が無い。そう考えているとアナスタシアさんが私の右のほっぺたを人差し指で突っついてきた。
「ほら、明るい感じになってる」
「えっあっえ~と……ありがとうございます?」
「やっぱり乙音には笑っているのが一番似合うわよ」
にこっと太陽のようなまぶしさを纏いながら笑うアナスタシアさんに、私も微笑みで返すのだった。
◇ ◇ ◇
それから3週間。衛生兵の人とも打ち明ける事が出来た私。今日はいよいよ野戦病院で頑張る最後の日である。おととい視察に来た皇帝陛下が戦地を魔法道具で見て回り、大方討伐できたと判断した為に大規模掃討作戦は今日で終了となったのだった。
既に部隊は昨日撤退を開始しており、今新規でやってくる負傷兵の数はない。
「皆さん、おはようございます。私達衛生兵の撤退は今日です。負傷兵への対応とお見送りに建物の掃除片付けをしっかりと行ってください」
私含めて衛生兵のほとんどは今日、この地を去る。一応何名かは次の作戦に備えて常駐するみたい。
「では、はじめ!」
夜勤の人達と交代し、私は最後の朝食配りに向かった。カートに収められている食事の数は5つと、一番多かった時と比べてすっかり数を減らしている。
「おはようございます! こちら朝食になります!」
朝食のメニューは丸いパンに、大きな鳥肉の入ったシチューと茹でたキャベツとニンジンのサラダ。簡素だけど、5人にとってはこれが最後の食事となる。
「ありがとうございます!」
「いただきます!」
朝食を受け取った5人は手早く食事を済ませると、軍服に着替えた。もう彼らは既にギプスなどは取れているので、こうして自力で身動きが可能なのだ。
朝食を乗せていたカートを厨房へと返した後、彼らを出入り口まで見送る。
「皆さん、ありがとうございました! またお世話になる時がくるかもしれませんが、その時はよろしくお願いします!」
大きな声で私達へと感謝の言葉を紡いでくれた彼らに、衛生兵長から暖色系で固められた花束が贈呈された。この花束の草花はここから少し離れた森林から採取されたものだそう。
花束を手に持ち大きく手を振りながら、馬車に乗り込む彼らへ、負けないようにこちらも大きな手を振り返したのだった。
◇ ◇ ◇
夕方。私とアナスタシアさんが野戦病院から撤退する時間が来た。なんだかんだでこの場所がいとおしかった私とアナスタシアさんと衛生兵長は最後までここにいたのだが、玄関にアルグレートとサファイア所長が迎えに来たと聞き、慌てて準備を行っている最中である。
「アナスタシアさん! これ、髪留めそうですよね?」
彼女の足元に楕円形をしたサファイアブルーの髪留めが転がっていた。キラキラとした深い青の輝きはサファイア所長の目と同じに見える。
「あっいけないけない! 乙音、拾ってくれてありがとう!」
「いえいえ、他は……大丈夫ですね」
「うん、オーケー! じゃあ、いこっか!」
残った支給品も全て抱えて、玄関へと飛び出していくと勢いよく躓いてしまった。
「うわっ!」
「おっと! 大丈夫か? びっくりしたよ」
アルグレートが受け止めてくれたおかげで転ばずに済んだ。自分が最後の最後で怪我するなんてそんな情けない事にならなくて良かったとほっと息を吐く。
「全く君は……だがそんな君だからこそ好きなのだがな」
「ごめんごめん」
「じゃあ、ここでお別れね。また会いましょう!」
「アナスタシアさん! 所長! あと衛生兵長さん……! ありがとうございました!」
アナスタシアさん達とはまた会えますように。と心で願いながら馬車に乗り込んだ。
戦いを得たせいか、アルグレートの顔は以前よりも大人っぽくなった気がする。もっと言えば厳しい面も顔に現れているように感じた。
「アルグレート、戦地は大丈夫だったの?」
馬車の中では私とアルグレートのふたりっきりになったので、さっそくその質問をぶつけてみる事にした。
「俺は怪我もなんともない。無傷だ、だが今回の作戦、即死する者が多かった。負傷者よりも死んだ者の方が多かっただろう」
「!」
「アイツらは以前よりも更に致死性の高い攻撃を行うようになってきている」
ダメージを受け、野戦病院に来る前に命を落とした者が多い。という情報を聞いた私の脳に衝撃が走る。
「そんな……」
「まず君は何にも悪くないという事だけは伝えておきたい。君は十分役目を全うした。兵士達からも君から声をかけられて怪我だけでなくメンタルもよくなったと聞いている」
「そ、そうなんだ……」
「とはいえ俺の番に色目を使うような奴には叱責を施したがな。話は戻るが今後はやられる前にやる。を徹底せねばならないと将軍と話し合った」
やられる前にやる。か……先手必勝、という事だよね。
「俺達は魔法が使える。しかしそれでも死者をよみがえらせる事は不可能だからな。今回の大規模掃討作戦で犠牲は少なくなかったが、これで帝国にいた悪魔の10割近くを排除できた。これは大きな成果に値するだろう」
アルグレートの目には寂しさと悲しさで彩られている。でも、前を向く彼の姿に、私は彼へついていかなければと強く感じさせられた。
顔が良い……なんだろ? 私は正直自分の容姿が優れているとは思った事が無い。そう考えているとアナスタシアさんが私の右のほっぺたを人差し指で突っついてきた。
「ほら、明るい感じになってる」
「えっあっえ~と……ありがとうございます?」
「やっぱり乙音には笑っているのが一番似合うわよ」
にこっと太陽のようなまぶしさを纏いながら笑うアナスタシアさんに、私も微笑みで返すのだった。
◇ ◇ ◇
それから3週間。衛生兵の人とも打ち明ける事が出来た私。今日はいよいよ野戦病院で頑張る最後の日である。おととい視察に来た皇帝陛下が戦地を魔法道具で見て回り、大方討伐できたと判断した為に大規模掃討作戦は今日で終了となったのだった。
既に部隊は昨日撤退を開始しており、今新規でやってくる負傷兵の数はない。
「皆さん、おはようございます。私達衛生兵の撤退は今日です。負傷兵への対応とお見送りに建物の掃除片付けをしっかりと行ってください」
私含めて衛生兵のほとんどは今日、この地を去る。一応何名かは次の作戦に備えて常駐するみたい。
「では、はじめ!」
夜勤の人達と交代し、私は最後の朝食配りに向かった。カートに収められている食事の数は5つと、一番多かった時と比べてすっかり数を減らしている。
「おはようございます! こちら朝食になります!」
朝食のメニューは丸いパンに、大きな鳥肉の入ったシチューと茹でたキャベツとニンジンのサラダ。簡素だけど、5人にとってはこれが最後の食事となる。
「ありがとうございます!」
「いただきます!」
朝食を受け取った5人は手早く食事を済ませると、軍服に着替えた。もう彼らは既にギプスなどは取れているので、こうして自力で身動きが可能なのだ。
朝食を乗せていたカートを厨房へと返した後、彼らを出入り口まで見送る。
「皆さん、ありがとうございました! またお世話になる時がくるかもしれませんが、その時はよろしくお願いします!」
大きな声で私達へと感謝の言葉を紡いでくれた彼らに、衛生兵長から暖色系で固められた花束が贈呈された。この花束の草花はここから少し離れた森林から採取されたものだそう。
花束を手に持ち大きく手を振りながら、馬車に乗り込む彼らへ、負けないようにこちらも大きな手を振り返したのだった。
◇ ◇ ◇
夕方。私とアナスタシアさんが野戦病院から撤退する時間が来た。なんだかんだでこの場所がいとおしかった私とアナスタシアさんと衛生兵長は最後までここにいたのだが、玄関にアルグレートとサファイア所長が迎えに来たと聞き、慌てて準備を行っている最中である。
「アナスタシアさん! これ、髪留めそうですよね?」
彼女の足元に楕円形をしたサファイアブルーの髪留めが転がっていた。キラキラとした深い青の輝きはサファイア所長の目と同じに見える。
「あっいけないけない! 乙音、拾ってくれてありがとう!」
「いえいえ、他は……大丈夫ですね」
「うん、オーケー! じゃあ、いこっか!」
残った支給品も全て抱えて、玄関へと飛び出していくと勢いよく躓いてしまった。
「うわっ!」
「おっと! 大丈夫か? びっくりしたよ」
アルグレートが受け止めてくれたおかげで転ばずに済んだ。自分が最後の最後で怪我するなんてそんな情けない事にならなくて良かったとほっと息を吐く。
「全く君は……だがそんな君だからこそ好きなのだがな」
「ごめんごめん」
「じゃあ、ここでお別れね。また会いましょう!」
「アナスタシアさん! 所長! あと衛生兵長さん……! ありがとうございました!」
アナスタシアさん達とはまた会えますように。と心で願いながら馬車に乗り込んだ。
戦いを得たせいか、アルグレートの顔は以前よりも大人っぽくなった気がする。もっと言えば厳しい面も顔に現れているように感じた。
「アルグレート、戦地は大丈夫だったの?」
馬車の中では私とアルグレートのふたりっきりになったので、さっそくその質問をぶつけてみる事にした。
「俺は怪我もなんともない。無傷だ、だが今回の作戦、即死する者が多かった。負傷者よりも死んだ者の方が多かっただろう」
「!」
「アイツらは以前よりも更に致死性の高い攻撃を行うようになってきている」
ダメージを受け、野戦病院に来る前に命を落とした者が多い。という情報を聞いた私の脳に衝撃が走る。
「そんな……」
「まず君は何にも悪くないという事だけは伝えておきたい。君は十分役目を全うした。兵士達からも君から声をかけられて怪我だけでなくメンタルもよくなったと聞いている」
「そ、そうなんだ……」
「とはいえ俺の番に色目を使うような奴には叱責を施したがな。話は戻るが今後はやられる前にやる。を徹底せねばならないと将軍と話し合った」
やられる前にやる。か……先手必勝、という事だよね。
「俺達は魔法が使える。しかしそれでも死者をよみがえらせる事は不可能だからな。今回の大規模掃討作戦で犠牲は少なくなかったが、これで帝国にいた悪魔の10割近くを排除できた。これは大きな成果に値するだろう」
アルグレートの目には寂しさと悲しさで彩られている。でも、前を向く彼の姿に、私は彼へついていかなければと強く感じさせられた。
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