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第47話 ベッドメイキングのやり方が違うんだけど
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「失礼します!」
野戦病院の中はすでに亜人や人間の兵士があちこちに点在していた。歩き回っているものもいれば、廊下で座ったり横になったりしているものもいる。
そんな兵士達をかき分けるようにして、病院内にある衛生兵らが待機するエリアに向かった。
「乙音、はぐれちゃだめよ」
「は、はい!」
待機エリアに到着し、固く閉ざされた白い扉をアナスタシアさんが開けると、そこには私達と同じカラーリングの軍服を身にまとった亜人の衛生兵がいた。
男女比は3対7で女性が多めなのは、元いた世界とは変わらない。
「衛生兵長! ただいま参りました!」
衛生兵長と思わしき男性は、私達に背を向けて部屋の奥にあるデスクに座りなにやら羽ペンを動かしていた。アナスタシアさんの声を聞いた衛生兵長はゆっくりと椅子から立ち上がり、こちらへと歩み寄ってくる。
「イルストーンズ魔術研究所所長の夫人と、グスタフ公爵夫人か。よく参られた」
衛生兵長は黒い馬耳に馬の尻尾を生やしている。黒い長髪をひとつに束ねている彼はアルグレートよりも背が高い。
「はじめまして、衛生兵長! 本日よりお世話になります……!」
「グスタフ公爵夫人、良い声をしているな」
ふふっと衛生兵長が笑った瞬間、後ろから何やら殺気めいた目線が私に向けられるのを感じる。
「乙音、後ろに女のベテラン衛生兵がいるわ。皆あなたを見ている」
「え」
殺気めいた目線の元が判明した瞬間、背筋がゾクリと震える感覚が来た。この世界でもどうやらお局はいるらしい。
すると部屋の壁からいきなり石ころか何かが吹っ飛んできて、衛生兵長の顔のよこをかすめていった。
「! て、敵襲か!?」
唐突に戦闘モードに至る雰囲気だが、私はうっすらとこれが敵襲ではない事を感じる。
きっとこれは……アルグレートの仕業だ。
「む、追撃はなし、か……総員、警戒態勢を解いても大丈夫ですよ」
ピリついた空気が一瞬で和らぐと、衛生兵長はまた椅子に腰掛ける。
「おふたりとも、早速業務にあたってもらいます。ただ……」
ここで、衛生兵長は言葉を詰まらせる。何か問題があるのだろうか?
「衛生兵長、何か?」
と、アナスタシアさんが眉間にしわを寄せながら衛生兵長に尋ねる。
「あなた方は人間ですので、魔法が使えません。その為やれる事がかなり限られてはきますが、それでもよろしいですか?」
「かまいません。魔法道具をはじめ物資があれば何とかなります」
アナスタシアさんの力強い返事に、思わず聞き入ってしまう。するとアナスタシアさんから乙音も大丈夫よね? と同意を求められた。
「はい! 頑張ります……!」
「では、よろしく頼みますよ。君達、案内と指示をお願いします」
さっきのお局衛生兵がこちらへとやって来た。ぱっと見は中年くらいの人間の女性に見えるけど……多分鳥人とかの亜人だろう。
「今からあなた達にはベッドメイクと掃除をお願いするわ」
冷たい声だ。だけどこんなんで怯む私じゃない。それはアナスタシアさんもそうみたいだ。
「はい!」
「元気の良い返事で結構。ではついてらっしゃい」
アナスタシアさんとは途中で別れ、私が案内されたのは3階の病棟。1部屋につき6人が収容できるスペースは、思ったよりも狭く感じた。簡素なベッドだけ置かれている部屋を見渡していると自分が勤務していた病院だとマックスで4人の大部屋と個室の2種類だったのを思い出す。
「今からこの部屋のベッドメイキングをお願いするわ。リネン類の置かれたワゴンは入り口に置いてあるから」
「えっと、こちら専用のやり方とかってあります?」
「無いわ、自由にして頂戴」
「かしこまりました……!」
お局達が部屋から去っていくのに背中を向け、まずは支給品のマスクを着用し換気の為に部屋の扉を開けようとしたら、突如どこかへと消え去ったはずのお局にだめだめだめ! と制止される。
「部屋の窓は開けてはだめよ! 結界を張ってあるとはいえ悪魔の攻撃がこっちに飛んで来たらどうするのよ!」
いや、やり方は自由にしていいって言ってたやないかい!
「失礼しました、では、換気はせずに交換していけば良いのですね?」
普通ベッドメイキングの時はほこりがすごいから換気はするって教えられたんだけどなあ……。だけど悪魔の攻撃が飛んできてもいけない。ここは指示通りにしよう。
「そうよ。そしてひとつずつじゃなくてベッド全部同時にベッドメイキングしないと」
「ど、同時にですか?!」
いやいや複数のベッドを同時にだなんて無理だって! だがリネン類が置かれたワゴンを漁ってみるとなんかドライヤーみたいな道具があるのを発見した。
「それでシーツを全部吸い取るのよ」
「な、なるほど」
「ほら、早くやりなさい。時間が無いのだから。衛生兵長から気に入られてるからって調子に乗るんじゃないわよ」
うわ、これはまごう事なきいや~なお局だ……。今度こそ彼女達が部屋から出ていったのを確認したのと同時に、持ち手の付け根の方にある魔法道具のボタンを押すと、そこから風が出てきた。
「これをシーツに当てたら……お、吸い込まれちゃった」
シーツを全て取り払った後は、下シーツを引いていかないといけない。でもまたひとつずつやってたらもたもたするなって言われそうだし……何かいい魔法道具はないのだろうか?
野戦病院の中はすでに亜人や人間の兵士があちこちに点在していた。歩き回っているものもいれば、廊下で座ったり横になったりしているものもいる。
そんな兵士達をかき分けるようにして、病院内にある衛生兵らが待機するエリアに向かった。
「乙音、はぐれちゃだめよ」
「は、はい!」
待機エリアに到着し、固く閉ざされた白い扉をアナスタシアさんが開けると、そこには私達と同じカラーリングの軍服を身にまとった亜人の衛生兵がいた。
男女比は3対7で女性が多めなのは、元いた世界とは変わらない。
「衛生兵長! ただいま参りました!」
衛生兵長と思わしき男性は、私達に背を向けて部屋の奥にあるデスクに座りなにやら羽ペンを動かしていた。アナスタシアさんの声を聞いた衛生兵長はゆっくりと椅子から立ち上がり、こちらへと歩み寄ってくる。
「イルストーンズ魔術研究所所長の夫人と、グスタフ公爵夫人か。よく参られた」
衛生兵長は黒い馬耳に馬の尻尾を生やしている。黒い長髪をひとつに束ねている彼はアルグレートよりも背が高い。
「はじめまして、衛生兵長! 本日よりお世話になります……!」
「グスタフ公爵夫人、良い声をしているな」
ふふっと衛生兵長が笑った瞬間、後ろから何やら殺気めいた目線が私に向けられるのを感じる。
「乙音、後ろに女のベテラン衛生兵がいるわ。皆あなたを見ている」
「え」
殺気めいた目線の元が判明した瞬間、背筋がゾクリと震える感覚が来た。この世界でもどうやらお局はいるらしい。
すると部屋の壁からいきなり石ころか何かが吹っ飛んできて、衛生兵長の顔のよこをかすめていった。
「! て、敵襲か!?」
唐突に戦闘モードに至る雰囲気だが、私はうっすらとこれが敵襲ではない事を感じる。
きっとこれは……アルグレートの仕業だ。
「む、追撃はなし、か……総員、警戒態勢を解いても大丈夫ですよ」
ピリついた空気が一瞬で和らぐと、衛生兵長はまた椅子に腰掛ける。
「おふたりとも、早速業務にあたってもらいます。ただ……」
ここで、衛生兵長は言葉を詰まらせる。何か問題があるのだろうか?
「衛生兵長、何か?」
と、アナスタシアさんが眉間にしわを寄せながら衛生兵長に尋ねる。
「あなた方は人間ですので、魔法が使えません。その為やれる事がかなり限られてはきますが、それでもよろしいですか?」
「かまいません。魔法道具をはじめ物資があれば何とかなります」
アナスタシアさんの力強い返事に、思わず聞き入ってしまう。するとアナスタシアさんから乙音も大丈夫よね? と同意を求められた。
「はい! 頑張ります……!」
「では、よろしく頼みますよ。君達、案内と指示をお願いします」
さっきのお局衛生兵がこちらへとやって来た。ぱっと見は中年くらいの人間の女性に見えるけど……多分鳥人とかの亜人だろう。
「今からあなた達にはベッドメイクと掃除をお願いするわ」
冷たい声だ。だけどこんなんで怯む私じゃない。それはアナスタシアさんもそうみたいだ。
「はい!」
「元気の良い返事で結構。ではついてらっしゃい」
アナスタシアさんとは途中で別れ、私が案内されたのは3階の病棟。1部屋につき6人が収容できるスペースは、思ったよりも狭く感じた。簡素なベッドだけ置かれている部屋を見渡していると自分が勤務していた病院だとマックスで4人の大部屋と個室の2種類だったのを思い出す。
「今からこの部屋のベッドメイキングをお願いするわ。リネン類の置かれたワゴンは入り口に置いてあるから」
「えっと、こちら専用のやり方とかってあります?」
「無いわ、自由にして頂戴」
「かしこまりました……!」
お局達が部屋から去っていくのに背中を向け、まずは支給品のマスクを着用し換気の為に部屋の扉を開けようとしたら、突如どこかへと消え去ったはずのお局にだめだめだめ! と制止される。
「部屋の窓は開けてはだめよ! 結界を張ってあるとはいえ悪魔の攻撃がこっちに飛んで来たらどうするのよ!」
いや、やり方は自由にしていいって言ってたやないかい!
「失礼しました、では、換気はせずに交換していけば良いのですね?」
普通ベッドメイキングの時はほこりがすごいから換気はするって教えられたんだけどなあ……。だけど悪魔の攻撃が飛んできてもいけない。ここは指示通りにしよう。
「そうよ。そしてひとつずつじゃなくてベッド全部同時にベッドメイキングしないと」
「ど、同時にですか?!」
いやいや複数のベッドを同時にだなんて無理だって! だがリネン類が置かれたワゴンを漁ってみるとなんかドライヤーみたいな道具があるのを発見した。
「それでシーツを全部吸い取るのよ」
「な、なるほど」
「ほら、早くやりなさい。時間が無いのだから。衛生兵長から気に入られてるからって調子に乗るんじゃないわよ」
うわ、これはまごう事なきいや~なお局だ……。今度こそ彼女達が部屋から出ていったのを確認したのと同時に、持ち手の付け根の方にある魔法道具のボタンを押すと、そこから風が出てきた。
「これをシーツに当てたら……お、吸い込まれちゃった」
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