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第66話

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 私達がザパルディ国へ帰還してから1週間が過ぎた時の事。宮廷にロイナ国の使者が訪れたと聞いたので私とクララ様、ジュリーは急いで宮廷へと向かった。
 ロイナ国の使者は若い男性の2人。王の間で国王陛下と王妃様、クリス様と謁見する事となった。

「まずは急な到来にもかかわらず、こうしてお会いできて光栄でございます」
「ああ、して話はなんだ」
「戦争を停戦したいと、王太子殿下及び国王陛下からの申し出でございます。聖女様及びグランバス公爵の提案を飲みたいとの仰せでございます」
「提案とは?」

 と、国王陛下が私とクララ様にそれぞれ目線を向けたので、私達はイリアス様へ畑の栄養剤などを輸入するといった話をした事を国王陛下に説明したのだった。私達の説明を聞いた国王陛下はうんうんと咀嚼するように頷き、なるほどなと呟いた。

「わかった。ではそのようにしよう」

 国王陛下がロイナ国の使者からの提案を飲んだ事で、こうしてロイナ国とザパルディ国含めた連合国との戦争は終わりを告げた。
 その後。ロイナ国では様々な動きがあった。まずはイリアス様は自ら王太子を廃位したという情報がもたらされた事だ。後継にはイリアス様のいとこであるレーベン様が付くと聞いた。彼は両親を早くに亡くし、国王陛下の庇護の元で育った人物でエブリナ国の学校に留学していると聞いた。まもなく彼はロイナ国に戻り、王太子となる。それにレーベン様には婚約者がおり彼女との結婚式も執り行われるそうだ。
 その式に私とクリス様も出席する事が決まった。クリス様から招待状を受け取り読んでみる。白い下地に金色とピンクの模様が入った便箋は、温かな印象を感じ取れた。

「レーベン様の婚約者はリアネ様と言うんですね」
「ああ、留学先の学校で知り合ったそうだ。リアネ様は侯爵家の長女で以前は別の男性と婚約していたそうだが、いとこに婚約者を取られてそのまま婚約破棄されたそうだな」
「なるほど。それでレーベン様と婚約したと」
「そうだ。互いに一目ぼれだったそうで。リアネ様のいとこは懲りずにレーベン様も奪おうとしてひと悶着あったみたいだな」
「はは……」

 そしてソヴィについての情報ももたらされた。彼女はひそかに宮廷を出てロイナ国の王都から遠く離れたエルシドの街で御者のイデルと共にいる所を発見されたらしい。宮廷へとイデルと共に連行された彼女はそこでイリアス様から離縁の証明書を手渡され、自らサインをしたという。

「ソヴィが離縁したんですか?」
「父上から聞いたけどそうみたい。嫌がるそぶりも無かったって……」
「そうなんですか……」

 王太子妃ではなくなったソヴィはそのままイデルと再婚し、エルシド近郊の集落で彼と馬と共に静かに暮らしているという。自らサインをしたくらいなのでイリアス様への愛想が完全に尽きてしまったのだろう。だが、子爵家の令嬢として育てられた彼女に、庶民のような生活が送れるものなのだろうか?

「エルシドの近郊にかつて王族が避暑地として使っていたものの空き家になってた古い洋館があるらしくて、そこにイデルと共に住んでいるんだってさ。やっぱり子爵家の令嬢だから庶民の暮らしは嫌だったんだろ」
「まあ、彼女はそういう人物でしたからね」
「稼ぎはイデルが工面してるらしい。彼、魔法がある程度使えるみたいで魔法薬を売ったり近くの鉱山で魔術用の鉱石を掘削してそれを換金したりしてるんだってさ」

 王太子妃ではなくなったソヴィ。彼女にはもう会う事は無いだろう。
 ちなみにソヴィとイリアス様には国王陛下と共にザパルディ国への立ち入りを禁じる措置が行われている。なので彼女はこの国には居場所は無い。

(もう会う事も無いだろう)

 ロイナ国を含めた周辺国との間で、魔法薬の交易が始まった。これにより魔法薬の輸出入がさかんい行われるようになり人々の往来も従来とは比べ物にならない程増えた。王都には様々な国々から訪れた人達で常に賑わいを見せるようになったのだ。
 また、まだ現地で確認できていないのだが栄養剤の効果は覿面で、ザパルディ国の内外から作物が良く育つとの評判を得る事が出来た。勿論そこにはロイナ国からの評判も含まれている。
 魔法薬にはまだまだ改善の余地が残されているので、私は引き続きジュリーや令嬢らと共に大学院に通いながら開発と生産にいそしむ毎日を送っている。
 
「マリーナ様。こちら完成しましたので確認お願いします」
「はい……良いですよ。完成品を梱包して納品をお願いします」
「はい!」

 これまで聖女は2度、この国を豊かにしてきた。それは戦いの勝利によってもたらされたものだ。勿論彼女達を否定する気はないが、私は彼女とは違う方法で国を、そして外国もこれから更に豊かにしてきたいと願っている。


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