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第64話
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「さあ、どうやったら出られますかね?」
「もういいんですか? 聖女について調べなくてもよろしいので?」
そう言えばそうだった。あの聖女がどうなったのか、調べてからにしよう。
それらしき書物を探し、1冊1冊呪いを解除してからページをめくって探し出す。5冊目くらいにようやく記述が見つかった。
「世界中を旅して、途中で消息不明になった……」
とだけ、簡潔に記されていた。となると墓は残ってなさそうだ。更に7冊目の文献には、彼女は建国の聖女として敬われる事を拒否していた。更に家族との仲もあまり良くはなく、家から追い出された結果ザパルディ国の建国に繋がったとも記されていた。思った以上に不遇な状況に置かれていたようだ。
確かに聖女として敬われる事を拒否したのなら彼女について語られる事も少ないだろう。
(そんな事情があったのか……なんだか複雑だな)
その記述についても簡潔にメモにまとめてから、改めてメイドと共に出口を探そうとしているとどこからか靴音が聞こえてきた。
「……どうやらここに落ちていたようだな」
「イリアス様」
私の後ろからこつこつと歩いてきたのはイリアス様だった。どうやらソヴィは連れてきていない。今の所彼と私とメイドの3人しかこの部屋にはいないようだ。
「すみませんイリアス様! 聖女様が間違って扉を開いてしまったようで……!」
「まあ、聖女はこの宮廷を知らない。わざと開けた訳ではないのなら許す」
「……イリアス様。お話があります」
切り出すなら今しかない。
この時。私はとある策に辿りついていた。それはロイナ国へ私達が開発し、生産している畑の栄養剤を輸出ないし
ロイナ国の土地にあった栄養剤を更に開発するという事だ。
私にはそれまでの聖女と違って老獪というか、戦争に勝つ策を思いつく自信が無い。それにロイナ国がこれまでザパルディ国の聖女に打ち負かされているのなら、今回は打ち負かさない方法が必要だと感じたのだ。
勿論、私は両親祖父母を殺すよう命じたイリアス様を許す事が出来ない。しかし彼の動機の元となったかもしれない負の連鎖は断ち切っておきたいとう気持ちが芽生え始めている。
「私、今ザパルディ国にて魔法薬の開発と生産をやっています」
「……ああ、そうみたいだな」
「結論から言いますとうちで開発している畑の栄養剤をロイナ国に輸出したいと考えています。そうすればロイナ国もザパルディ国ももっと豊かになります。今、ロイナ国はかなり疲弊しているんじゃないですか?」
「……やはり、ここの記録を読んだか」
「勝手に読まさせて頂きました。それにあなたは私が嫌いなようですね?」
「……ロイナ国の者なら聖女を好む者はいないだろう」
私はメイドに目線を向ける。彼女は私と目線があった瞬間びくっと肩を震わせる。しかし私を見る目自体には力と熱がこもっていた。
「そうじゃないみたいですね」
「……まあいい。その条件、簡単に飲むとでも?」
「飲むと思っています。ロイナ国なら。栄養剤だけでなく、家畜への栄養剤も持ち込ませるようにします」
「……」
「利益を独占せず、共に手を取り合って……それではダメでしょうか? 戦争よりかは遥かに精神は保たれると思います。これ以上傷つけあっても何も産みません」
「実に聖女らしい考えだ。私は戦ってこそだと考えている。その方が鬱憤も晴れるというものだ」
イリアス様は氷のような冷たい笑みを崩さない。すると後方からどたどたどたという足音が複数こちらに向かってやって来る。まさか増援だとでも言うのか。
「マリーナ!」
違った。この聴きなじんだ声はクリス様だ。クリス様と杖を両手に抱えたようにして走るジュリーにクリス様におんぶされているクララ様合わせて3人がこちらへと駆け寄って来る。私の姿を見つけたクリス様は改めてもう一度大きな声で私の名を呼んだ。
「マリーナ! 見つけた!」
「クリス様!!」
クリス様が私を抱き寄せ、守るような構図を取った。
「マリーナ、もう大丈夫だ」
「ありがとうございます……」
「なぜこちらが分かった」
「……ロイナ国の兵を捕まえて聞いたのと、魔力のパスを追ってこちらまで来ました。聖女は返して頂きます」
「クリス王子、それはどうかな?」
「お待ちくださいイリアス様。先ほどの話はお忘れで?」
イリアス様が右手を天井に掲げ、右手の甲を中心に魔法陣が展開される。何か攻撃しようとしているのを察知した私はそれを止めるべく彼に声をかけた。
「畑の栄養剤と家畜用の栄養剤をロイナ国へ輸出します。それと並行してロイナ国の土地にあった魔法薬を新たに開発します」
「マリーナ、正気か?」
クリス様は目を見開いて驚きの表情を浮かべる。そして口をパクパクさせながら私の考えを何とか飲み込もうとしていた。実際この行為は敵を支援する行為でもある。驚くのも無理はないか。
「……ええ。これからは前の聖女とは違って戦争ではなくもっと、こう……えっと……」
「わかったわマリーナ、交易を活発にする。って事であってるかしら?」
「そ、そうです。今、私達が他国と同盟を結んでいるように、共に助け合っていければロイナ国も豊かになるはずです。それに……」
「そんなものは生ぬるい。戦争をしなければ真の意味では豊かにならない」
イリアス様の言葉が、冷ややかに部屋中に響き渡る。私は反論したいが、良い言葉が浮かばないでいた。
「もういいんですか? 聖女について調べなくてもよろしいので?」
そう言えばそうだった。あの聖女がどうなったのか、調べてからにしよう。
それらしき書物を探し、1冊1冊呪いを解除してからページをめくって探し出す。5冊目くらいにようやく記述が見つかった。
「世界中を旅して、途中で消息不明になった……」
とだけ、簡潔に記されていた。となると墓は残ってなさそうだ。更に7冊目の文献には、彼女は建国の聖女として敬われる事を拒否していた。更に家族との仲もあまり良くはなく、家から追い出された結果ザパルディ国の建国に繋がったとも記されていた。思った以上に不遇な状況に置かれていたようだ。
確かに聖女として敬われる事を拒否したのなら彼女について語られる事も少ないだろう。
(そんな事情があったのか……なんだか複雑だな)
その記述についても簡潔にメモにまとめてから、改めてメイドと共に出口を探そうとしているとどこからか靴音が聞こえてきた。
「……どうやらここに落ちていたようだな」
「イリアス様」
私の後ろからこつこつと歩いてきたのはイリアス様だった。どうやらソヴィは連れてきていない。今の所彼と私とメイドの3人しかこの部屋にはいないようだ。
「すみませんイリアス様! 聖女様が間違って扉を開いてしまったようで……!」
「まあ、聖女はこの宮廷を知らない。わざと開けた訳ではないのなら許す」
「……イリアス様。お話があります」
切り出すなら今しかない。
この時。私はとある策に辿りついていた。それはロイナ国へ私達が開発し、生産している畑の栄養剤を輸出ないし
ロイナ国の土地にあった栄養剤を更に開発するという事だ。
私にはそれまでの聖女と違って老獪というか、戦争に勝つ策を思いつく自信が無い。それにロイナ国がこれまでザパルディ国の聖女に打ち負かされているのなら、今回は打ち負かさない方法が必要だと感じたのだ。
勿論、私は両親祖父母を殺すよう命じたイリアス様を許す事が出来ない。しかし彼の動機の元となったかもしれない負の連鎖は断ち切っておきたいとう気持ちが芽生え始めている。
「私、今ザパルディ国にて魔法薬の開発と生産をやっています」
「……ああ、そうみたいだな」
「結論から言いますとうちで開発している畑の栄養剤をロイナ国に輸出したいと考えています。そうすればロイナ国もザパルディ国ももっと豊かになります。今、ロイナ国はかなり疲弊しているんじゃないですか?」
「……やはり、ここの記録を読んだか」
「勝手に読まさせて頂きました。それにあなたは私が嫌いなようですね?」
「……ロイナ国の者なら聖女を好む者はいないだろう」
私はメイドに目線を向ける。彼女は私と目線があった瞬間びくっと肩を震わせる。しかし私を見る目自体には力と熱がこもっていた。
「そうじゃないみたいですね」
「……まあいい。その条件、簡単に飲むとでも?」
「飲むと思っています。ロイナ国なら。栄養剤だけでなく、家畜への栄養剤も持ち込ませるようにします」
「……」
「利益を独占せず、共に手を取り合って……それではダメでしょうか? 戦争よりかは遥かに精神は保たれると思います。これ以上傷つけあっても何も産みません」
「実に聖女らしい考えだ。私は戦ってこそだと考えている。その方が鬱憤も晴れるというものだ」
イリアス様は氷のような冷たい笑みを崩さない。すると後方からどたどたどたという足音が複数こちらに向かってやって来る。まさか増援だとでも言うのか。
「マリーナ!」
違った。この聴きなじんだ声はクリス様だ。クリス様と杖を両手に抱えたようにして走るジュリーにクリス様におんぶされているクララ様合わせて3人がこちらへと駆け寄って来る。私の姿を見つけたクリス様は改めてもう一度大きな声で私の名を呼んだ。
「マリーナ! 見つけた!」
「クリス様!!」
クリス様が私を抱き寄せ、守るような構図を取った。
「マリーナ、もう大丈夫だ」
「ありがとうございます……」
「なぜこちらが分かった」
「……ロイナ国の兵を捕まえて聞いたのと、魔力のパスを追ってこちらまで来ました。聖女は返して頂きます」
「クリス王子、それはどうかな?」
「お待ちくださいイリアス様。先ほどの話はお忘れで?」
イリアス様が右手を天井に掲げ、右手の甲を中心に魔法陣が展開される。何か攻撃しようとしているのを察知した私はそれを止めるべく彼に声をかけた。
「畑の栄養剤と家畜用の栄養剤をロイナ国へ輸出します。それと並行してロイナ国の土地にあった魔法薬を新たに開発します」
「マリーナ、正気か?」
クリス様は目を見開いて驚きの表情を浮かべる。そして口をパクパクさせながら私の考えを何とか飲み込もうとしていた。実際この行為は敵を支援する行為でもある。驚くのも無理はないか。
「……ええ。これからは前の聖女とは違って戦争ではなくもっと、こう……えっと……」
「わかったわマリーナ、交易を活発にする。って事であってるかしら?」
「そ、そうです。今、私達が他国と同盟を結んでいるように、共に助け合っていければロイナ国も豊かになるはずです。それに……」
「そんなものは生ぬるい。戦争をしなければ真の意味では豊かにならない」
イリアス様の言葉が、冷ややかに部屋中に響き渡る。私は反論したいが、良い言葉が浮かばないでいた。
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