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第62話
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部屋の扉がいきなり開かれた。扉の前には黒い軍服を身に纏ったイリアス様が入ってきた。イリアス様の姿を見たソヴィは目を輝かせながら立ち上がる。
「イリアス様!」
「……目覚めたのか」
イリアス様の目線は完全に私へと向けられている。ソヴィには全く目線を向ける様子も見受けられない。イリアス様は私に近づき、左手を取ると私の身体を隅から隅までじっくりと観察していく。
「あの、私何か……」
「……」
イリアス様は黙ったままだ。ソヴィもイリアス様の様子に気がついたのか喜ぶのをやめて口を真っ直ぐに結び、じっと私を凝視する。
「これが聖女か」
「……何か用で?」
「ああ。ずっと君が欲しかったからな」
その言葉は背中の産毛ゾッと逆立つほど邪悪で、恐怖が籠もっていた。更にソヴィは私に嫉妬を感じたのか、私へ対して殺気混じりの鋭い視線を浴びせてくる。
「だから両親祖父母を殺して、リリーネ子爵家の地下牢に入れたのですね」
「……誰から聞いた」
「ザパルディ国の者が調査した結果です。全てはあなたの指示通り。違いますか?」
「ふん、聖女に知られたとなるともはや隠し立てする必要も無いか。そうだ、私が全て命令した」
イリアス様の笑みはあの親善交流パーティーで見せたあの穏やかな笑みとは遠くかけ離れていた。目を見開き時折舌なめずりする。まるで私が肉食動物の獲物のようだ。
「やはり」
「……ふん。だがもう君はザパルディ国には帰れないし返すつもりもない。一生をここで過ごすのだ」
「地下牢には入れないでくださいますか?」
「それは約束する。ただし、君がずっと私の言う事を聞く良い子でいればの話だがね」
「分かりました。良い子でいます。それと少し質問いいですか?」
イリアス様は私の顎にそっと手を乗せ、そして唇を重ねて来る。彼の唇が私の唇に重なった瞬間、バチバチとした衝撃が唇から身体全体に流れ出す。
「っ!!」
私はその衝撃に思わずベッドの上に吹き飛ぶようにして倒れてしまう。私の様子に気がついたのかソヴィは目を丸くさせた。ベッドの上に倒れてからも、手足の小刻みな震えが収まらないでいる。
これは魔術だ。私にも分からないが私へ危害を与える魔術なのは理解出来た。これは嫌な予感がする。
「ソヴィ」
「はい、イリアス様!」
「紅茶を持って来て欲しい」
「待ってください」
私は2人を制する。これからイリアス様が私にしようとする事は分かっている。それはソヴィからすればこの上なく嫌な事でもあるだろう。もっと言うと私だって嫌だ。だって私はクリス様が好きなのだ。
「イリアス様。私が紅茶をお持ちします。その間は王太子妃であるソヴィと仲良くしてください。お願いします」
「……マリーナ」
「だって私がイリアス様に抱かれたら、あなたは嫉妬するでしょう?」
様々な感情が混ざった目で私を見るソヴィ。私は臆する事無く彼女を見る。
「……そうね。言ってくれるじゃない」
「イリアス様。どうかお聞きを。私が逃げ出すと疑っておいででしたら、メイドなり執事なり兵なり付けて下さい」
「……」
イリアス様は何度か確かめるようにして首を縦に振る。
「分かった。ただし、メイドを付けよう」
「ありがとうございます」
イリアス様が指を鳴らすと部屋をノックする音が聞こえてくる。イリアス様が入れ。と促すと若いメイドが部屋に入室してきた。
「案内するように」
「畏まりました」
私は彼女と共に部屋を出る。彼女に紅茶を入れる事を伝えると、分かりました。と静かに返事をしたのだった。
「イリアス様には好みの紅茶がございますのでそれを淹れましょう」
「分かりました」
廊下には誰もいない。人が近くにいるような雰囲気も感じられない。金色の装飾だらけの壁には所々巨大な鏡が設置されている。
「鏡、あるんですね」
「綺麗でしょう?」
「ええ……」
なんだか鏡にいる自分に見つめられているような気がして胸の中がざわめく。それに鏡が灯りをキラキラと反射していてやや眩しい。ザパルディ国の宮廷と違い、どこか冷たく攻撃的な雰囲気を感じてしまう。
「こちらです」
メイドに案内されて入った部屋にはガラスのケースに入った茶葉が本棚と似た棚の中に大切に置かれている。棚は天井まで届く高さだ。
(すごいな……)
その時、私は茶葉も何も置かれていない空きスペースを発見した。高さは私の顔くらいだ。試しに空きスペースを覗くと奥には何やら黒い扉が見えた。
(何だろう)
私がその扉を開いた瞬間、メイドが私の腕に手を伸ばす。
「それを開けては……!」
だが時すでに遅し。私は扉から放たれた竜巻のような何かに吸い込まれていく。しかもメイドも一緒だ。
「わああああああ!」
そこで視界は全て真っ暗になる。しばらくして視界が開くと周囲には大量の本棚に金色とワインレッドの天井が飛び込んでくる。
「こ、ここは……」
「ここは記録室です。ロイナ国の歴史や王族にまつわる記録が書物として収められています」
「あ、あなたも来てたんですね」
どうやら、メイドも一緒に吸い込まれていたようだ。
「イリアス様!」
「……目覚めたのか」
イリアス様の目線は完全に私へと向けられている。ソヴィには全く目線を向ける様子も見受けられない。イリアス様は私に近づき、左手を取ると私の身体を隅から隅までじっくりと観察していく。
「あの、私何か……」
「……」
イリアス様は黙ったままだ。ソヴィもイリアス様の様子に気がついたのか喜ぶのをやめて口を真っ直ぐに結び、じっと私を凝視する。
「これが聖女か」
「……何か用で?」
「ああ。ずっと君が欲しかったからな」
その言葉は背中の産毛ゾッと逆立つほど邪悪で、恐怖が籠もっていた。更にソヴィは私に嫉妬を感じたのか、私へ対して殺気混じりの鋭い視線を浴びせてくる。
「だから両親祖父母を殺して、リリーネ子爵家の地下牢に入れたのですね」
「……誰から聞いた」
「ザパルディ国の者が調査した結果です。全てはあなたの指示通り。違いますか?」
「ふん、聖女に知られたとなるともはや隠し立てする必要も無いか。そうだ、私が全て命令した」
イリアス様の笑みはあの親善交流パーティーで見せたあの穏やかな笑みとは遠くかけ離れていた。目を見開き時折舌なめずりする。まるで私が肉食動物の獲物のようだ。
「やはり」
「……ふん。だがもう君はザパルディ国には帰れないし返すつもりもない。一生をここで過ごすのだ」
「地下牢には入れないでくださいますか?」
「それは約束する。ただし、君がずっと私の言う事を聞く良い子でいればの話だがね」
「分かりました。良い子でいます。それと少し質問いいですか?」
イリアス様は私の顎にそっと手を乗せ、そして唇を重ねて来る。彼の唇が私の唇に重なった瞬間、バチバチとした衝撃が唇から身体全体に流れ出す。
「っ!!」
私はその衝撃に思わずベッドの上に吹き飛ぶようにして倒れてしまう。私の様子に気がついたのかソヴィは目を丸くさせた。ベッドの上に倒れてからも、手足の小刻みな震えが収まらないでいる。
これは魔術だ。私にも分からないが私へ危害を与える魔術なのは理解出来た。これは嫌な予感がする。
「ソヴィ」
「はい、イリアス様!」
「紅茶を持って来て欲しい」
「待ってください」
私は2人を制する。これからイリアス様が私にしようとする事は分かっている。それはソヴィからすればこの上なく嫌な事でもあるだろう。もっと言うと私だって嫌だ。だって私はクリス様が好きなのだ。
「イリアス様。私が紅茶をお持ちします。その間は王太子妃であるソヴィと仲良くしてください。お願いします」
「……マリーナ」
「だって私がイリアス様に抱かれたら、あなたは嫉妬するでしょう?」
様々な感情が混ざった目で私を見るソヴィ。私は臆する事無く彼女を見る。
「……そうね。言ってくれるじゃない」
「イリアス様。どうかお聞きを。私が逃げ出すと疑っておいででしたら、メイドなり執事なり兵なり付けて下さい」
「……」
イリアス様は何度か確かめるようにして首を縦に振る。
「分かった。ただし、メイドを付けよう」
「ありがとうございます」
イリアス様が指を鳴らすと部屋をノックする音が聞こえてくる。イリアス様が入れ。と促すと若いメイドが部屋に入室してきた。
「案内するように」
「畏まりました」
私は彼女と共に部屋を出る。彼女に紅茶を入れる事を伝えると、分かりました。と静かに返事をしたのだった。
「イリアス様には好みの紅茶がございますのでそれを淹れましょう」
「分かりました」
廊下には誰もいない。人が近くにいるような雰囲気も感じられない。金色の装飾だらけの壁には所々巨大な鏡が設置されている。
「鏡、あるんですね」
「綺麗でしょう?」
「ええ……」
なんだか鏡にいる自分に見つめられているような気がして胸の中がざわめく。それに鏡が灯りをキラキラと反射していてやや眩しい。ザパルディ国の宮廷と違い、どこか冷たく攻撃的な雰囲気を感じてしまう。
「こちらです」
メイドに案内されて入った部屋にはガラスのケースに入った茶葉が本棚と似た棚の中に大切に置かれている。棚は天井まで届く高さだ。
(すごいな……)
その時、私は茶葉も何も置かれていない空きスペースを発見した。高さは私の顔くらいだ。試しに空きスペースを覗くと奥には何やら黒い扉が見えた。
(何だろう)
私がその扉を開いた瞬間、メイドが私の腕に手を伸ばす。
「それを開けては……!」
だが時すでに遅し。私は扉から放たれた竜巻のような何かに吸い込まれていく。しかもメイドも一緒だ。
「わああああああ!」
そこで視界は全て真っ暗になる。しばらくして視界が開くと周囲には大量の本棚に金色とワインレッドの天井が飛び込んでくる。
「こ、ここは……」
「ここは記録室です。ロイナ国の歴史や王族にまつわる記録が書物として収められています」
「あ、あなたも来てたんですね」
どうやら、メイドも一緒に吸い込まれていたようだ。
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