元聖女候補の監禁令嬢は元婚約者の王子から一途な溺愛を注がれる。

二位関りをん

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ソヴィ視点⑨

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 今。私の目の前にはマリーナがいる。ベッドの上で寝間着の状態であおむけになっている。どうやら兵が彼女を捕縛してこちらへと連行してきたと聞いた。
 そして私は今、彼女が目覚めるのを待っている。イリアス様からは絶対に触らないようにという命令が出ている。
 なのでこうして座って彼女を見ている他ない。

(……)

 私はあれからイリアス様とベッドを共にしたが、彼が私を抱く事は無かった。私をそっと抱きしめて軽くキスをして終わり。それだけだった。
 勿論、つまらないとかそんな事は言えなかった。しかし私はあなたの為に処女を自分で捨てたのでもう抱いても呪われる事は無い。とは言ったが、彼は疲れていると言って取り合う事は無かった。
 まあ、一緒に寝られただけ光栄だ。彼の美しさをずっと間近で堪能する事が出来たのだから。

(やはりイリアス様はお美しい)

 その後、私はお母様と従者が話している場面に遭遇した。お母様はうつむいたままだったので何があったのか聞いてみると、お父様が亡くなったらしいと聞いた。

「処刑されたんですって。かわいそうに……」

 そう涙をこらえながらお母様は私に教えてくれた。だが、本当に処刑されたのかどうかという疑問は残る。
 ここに戻ってきてから何故かお母様の言う事が信じられない時があるのだ。お父様がマリーナの両親を殺した事について知らないと言ったのが最たる例。

(お母様は何かを私に隠している)

 でも、問い詰めた所でお母様が正直に白状してくれるかどうかの保障と言うか、そう言った部分は見えなかったので問い詰めるのは止めた。
 お父様はザパルディ国に埋葬されたそうだ。これもお母様から聞いた事だ。
 ある日。私は部屋で昼寝をしているとバタバタと騒がしさに目を覚ます。

「何かあったの?」

 近くにいたメイドを捕まえて問うてみると、マリーナがこちらへと運ばれるのでその準備に追われていると答えた。

「マリーナが?」
「はい、そうです」
「……マリーナ」

 こちらにマリーナが運ばれる。誰の指示かは分からないが聖女である彼女を捕縛したとするならロイナ国がより有利に立つ事はしっかりと理解できる。
 そのまま周囲を見渡していると、メイドが廊下で噂をしているのが見える。

「リリーネ子爵は呪殺されたそうね」
「本当に?」
「聖女の両親と祖父母をイリアス様の命令で殺したって白状したそうよ」

 その話が耳に届いた瞬間、私はメイドの右肩に手を置く。

「その話、詳しく聞かせて」

 メイドは私の方を見ながらガタガタと震えだした。まるで私をバケモノのように見ている。そんな目で見るような事なのか?

「お、王太子妃様……」
「聞かせなさい」
「……!」
「わ、わかりました。あの、誰もいない部屋に……」

 メイド達が全身を震わせながらそう頼んで来たので私は仕方なく自室に2人を入れた。

「それで、お父様が?」
「り、リリーネ子爵には呪いがかけられていました。口封じの呪いです。ですが、ザパルディ国の者による自白剤を飲まされた事でリリーネ子爵は聖女の両親と祖父母をイリアス様の命令通り殺害した事を白状しました」
「……それで、口封じの呪いが発動した訳ね。処刑されたんじゃないんだ」

 何故か今はお父様が処刑されたというお母様からの情報より、こちらの情報の方が信用出来る気がしている。しかしイリアス様がそのような命令を下す訳が無い。
 それと同時にイリアス様には何かお考えがあるから、このような事をしたのだ。という思考が頭の中を巡る。

「証拠は?」
「こちらです」

 メイドが服のポケットから小さな絵を取り出した。そこには遠目寄りだがお父様の身体が爆発四散する様子が浮かび上がる。そこにはイリアス様がよく使う魔術の魔法陣とよく似た紋様が記されていた。それらを見た私は息を呑む。

「……!」
「そちら、お渡しします」
「ありがとう。受け取るわ。もういいわよ」
「失礼します」

 メイド達を返した後、私の部屋にお母様が扇子をパタパタと口元でせわしなく動かしながら入ってきた。

「マリーナがこちらに運ばれてくるんですって」
「ええ、知ってるわ」
「あの忌み子。まだ生きてたのね」
「……お母様」
「あら、何かしら」
「お父様、処刑されたんじゃないのね」

 私がそうぼそりと打ち明けた瞬間、お母様の口角が引き攣り始めた。笑顔を作っているのがバレバレである。

「あら、何の事かしら……」
「お母様、お父様は処刑されたんじゃない。口封じに呪い殺されたのよ」
「……あなた、何でそれを」
「さあ?」
「……そうよ。あの人は殺されたのよ。イリアス様の言い付けを守らなかったから……」

 お母様の全身に、黒い茨のような紋様が浮かび上がった。

「お母様……? まさか」
「ええ、バレてしまえばこうなるだけ。良い? あなたは私の産んだ子供じゃない。国王陛下の命令で孤児院から引き取った子なの。今まで黙っていてごめんなさいね」 

 そう言い残してお母様は爆発四散した。部屋の中の壁や家具には彼女の血肉が辺り一面に散らばるようにして付着している。私の身体も服もそうだ。
 私はただ、立っている事しか出来なかった。しばらくしてようやく、自身の衣服と肌、部屋中に付着したお母様だったものを、魔法で綺麗に取り除く事が出来たのだった。
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