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第60話
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「呪いが、全て消えています」
医師からの言葉に、私も目を丸くさせた。国王陛下はベッドからお腹上がり、何かを確かめるように大きく大きく深呼吸する。
「……まだ、息苦しさはあるが大分楽にはなった。呪いが消えたやもしれない」
「へ、陛下……!」
「父上……!」
「……聖女の力だ。神託を受けた前後で、マリーナの魔力が変わっている。何もかも」
国王陛下はベッドから降りて軍服に着替えだす。医者がまだ安静にしているようにと制するが、彼は手を止めない。
「マリーナらが頑張っているのだ。こちらも休む暇はない」
こうして着替え終わった国王陛下は王の間に颯爽と戻っていった。
「良かった」
「そうですね」
「ありがとう、マリーナ」
「いえいえ」
「……失礼します」
ここでジュリーが周りの様子を伺う草食動物のように首をすぼめながら部屋に入ってきた。
「ジュリーさん。もうこちらは大丈夫です」
「マリーナ様が治したんですか?」
「ええ、そうよ」
「おお……! 流石はマリーナ様。あ、こちらは魔法弾全て納品してきました。明日の午前に激戦地で全て使用するみたいです。マリーナ様はどうしますか?」
「……現地に赴いて見てみるって事ですか?」
「はい。実験無しでの実戦投入なので軍の大臣様はからは出来れば。と。聖女様がお越しになれば兵も俄然やる気が出るだろうと」
確かに魔法弾の効果は実際にこの目で見ておきたい。だが戦地に赴くとなるとリスクがありすぎる。
「マリーナ、俺も行く」
「クリス様」
「俺がいれば大丈夫。君を守ってみせる」
クリス様の力強い声に王妃様は穏やかに笑い、クララ様はやれやれ……と漏らした。
「行きなさい。ただし、私も行くわ。何かあったらすぐに渡を頼るのよ?」
「はいっ、おばあさま」
「じゃあ、そう言う事でよろしく」
宮廷からクララ様の屋敷に戻り、残っている作業をあらかた済ませてから私は寝た。ちなみに令嬢達はジュリーを通して早めに寝るようにとクララ様からお達しがあったという。
翌朝、重い身体を引きずるようにしてなんとかベッドから起き上がり、動きやすそうかつ目立たない服に着替えて髪もセットして、リビングホールに向かう。
「おはようございます。クララ様」
「おはようマリーナ。早起きには慣れた?」
「前よりかは……」
「では行きましょう。令嬢達にはメモを置いておきます。ジュリーも行きましょう」
「はい、お師匠様」
まず向かうのは宮廷だ。そこでクリス様らと合流して戦地の近くまで向かう。
「おはよう、マリーナ。気分はどう?」
「ええ、元気です」
「それでは行こうか」
私はクリス様と同じ馬車に乗り込んだ。馬車は簡素なものだが座席はふかふかとしていて王族や貴族が乗るものとそう大差はない。馬車の馬が勢いよく鼻息を出して戦地へとかけていく。
「では、スピードをあげますよ」
御者の声が聞こえて来るのと同時に馬車のスピードが上昇した。一瞬だけ体勢崩すが、クリス様が支えてくれた。
「っと、大丈夫?」
「ありがとうございます。ちょっとバランス崩しましたけど大丈夫です」
「スピードあげないとたどり着かないからね」
ちなみにこのスピードが上がったのも、魔法薬によるものである。しかしこれは要はドーピングなのでそう何度も馬に飲ませる代物ではない。その為これを飲ませる時は本当に急いでいる時など限られたシチュエーションにのみ限られている。
「見えてきましたよ!」
窓からうっすらと顔を出すと、辺りは草原が広がって所々木々が見える。時折大きな砲弾の音が聞こえて来るのが分かった。
「では、ここからお願いします」
「下りない方がいいですよね」
「ああ、ここから見た方が良い」
すると私達の到着に気が付いたのか、兵隊が3人程現れ、馬車の近くまでやって来た。
「あの、聖女様ですか? うちに勢いをつけてやってください!」
「聖女様の顔を見ればやる気が出ると思います! さあ、こちらに」
と窓に手を伸ばす兵隊を前に、クリス様は落ち着くようにと手で払うようにして制した。
「ここは戦地だ。マリーナに何かあれば大変な事になる。ここから出る事は出来ない」
クリス様がそうきっぱりと断ると、兵隊は皆無言の表情を見せる。その瞬間、私は彼らから邪悪な何かを感じ取ったので急いで魔法のシールドを張った。
「危ない!」
兵隊が黒いバラのツルのような何かを伸ばしてこちらに襲い掛かって来た。クリス様が私の目の前に出てかばうも向こうの攻撃をもろに食らう形になってしまう。
「クリス様!」
「っマリーナ! 逃げろ!」
私は窓を開き、そこから出ようとするがそちらにも兵が周りこみ、包囲されてしまう。まるでここに至るまで私達の動きが全て敵に漏れていたんじゃないかと一瞬感じてしまった。
「くっ……」
(まさか、敵に包囲されるなんて)
すると黒い枝のような何かがクリス様の頭に直撃しようとしていた。私はすぐさまシールドを張りながらクリス様の前に立ちはだかる。
「っ!!!」
攻撃はなんとか防げたが、強い衝撃が私の頭から全体に向けて伝わるのと同時に、私の記憶はそこで途切れた。
医師からの言葉に、私も目を丸くさせた。国王陛下はベッドからお腹上がり、何かを確かめるように大きく大きく深呼吸する。
「……まだ、息苦しさはあるが大分楽にはなった。呪いが消えたやもしれない」
「へ、陛下……!」
「父上……!」
「……聖女の力だ。神託を受けた前後で、マリーナの魔力が変わっている。何もかも」
国王陛下はベッドから降りて軍服に着替えだす。医者がまだ安静にしているようにと制するが、彼は手を止めない。
「マリーナらが頑張っているのだ。こちらも休む暇はない」
こうして着替え終わった国王陛下は王の間に颯爽と戻っていった。
「良かった」
「そうですね」
「ありがとう、マリーナ」
「いえいえ」
「……失礼します」
ここでジュリーが周りの様子を伺う草食動物のように首をすぼめながら部屋に入ってきた。
「ジュリーさん。もうこちらは大丈夫です」
「マリーナ様が治したんですか?」
「ええ、そうよ」
「おお……! 流石はマリーナ様。あ、こちらは魔法弾全て納品してきました。明日の午前に激戦地で全て使用するみたいです。マリーナ様はどうしますか?」
「……現地に赴いて見てみるって事ですか?」
「はい。実験無しでの実戦投入なので軍の大臣様はからは出来れば。と。聖女様がお越しになれば兵も俄然やる気が出るだろうと」
確かに魔法弾の効果は実際にこの目で見ておきたい。だが戦地に赴くとなるとリスクがありすぎる。
「マリーナ、俺も行く」
「クリス様」
「俺がいれば大丈夫。君を守ってみせる」
クリス様の力強い声に王妃様は穏やかに笑い、クララ様はやれやれ……と漏らした。
「行きなさい。ただし、私も行くわ。何かあったらすぐに渡を頼るのよ?」
「はいっ、おばあさま」
「じゃあ、そう言う事でよろしく」
宮廷からクララ様の屋敷に戻り、残っている作業をあらかた済ませてから私は寝た。ちなみに令嬢達はジュリーを通して早めに寝るようにとクララ様からお達しがあったという。
翌朝、重い身体を引きずるようにしてなんとかベッドから起き上がり、動きやすそうかつ目立たない服に着替えて髪もセットして、リビングホールに向かう。
「おはようございます。クララ様」
「おはようマリーナ。早起きには慣れた?」
「前よりかは……」
「では行きましょう。令嬢達にはメモを置いておきます。ジュリーも行きましょう」
「はい、お師匠様」
まず向かうのは宮廷だ。そこでクリス様らと合流して戦地の近くまで向かう。
「おはよう、マリーナ。気分はどう?」
「ええ、元気です」
「それでは行こうか」
私はクリス様と同じ馬車に乗り込んだ。馬車は簡素なものだが座席はふかふかとしていて王族や貴族が乗るものとそう大差はない。馬車の馬が勢いよく鼻息を出して戦地へとかけていく。
「では、スピードをあげますよ」
御者の声が聞こえて来るのと同時に馬車のスピードが上昇した。一瞬だけ体勢崩すが、クリス様が支えてくれた。
「っと、大丈夫?」
「ありがとうございます。ちょっとバランス崩しましたけど大丈夫です」
「スピードあげないとたどり着かないからね」
ちなみにこのスピードが上がったのも、魔法薬によるものである。しかしこれは要はドーピングなのでそう何度も馬に飲ませる代物ではない。その為これを飲ませる時は本当に急いでいる時など限られたシチュエーションにのみ限られている。
「見えてきましたよ!」
窓からうっすらと顔を出すと、辺りは草原が広がって所々木々が見える。時折大きな砲弾の音が聞こえて来るのが分かった。
「では、ここからお願いします」
「下りない方がいいですよね」
「ああ、ここから見た方が良い」
すると私達の到着に気が付いたのか、兵隊が3人程現れ、馬車の近くまでやって来た。
「あの、聖女様ですか? うちに勢いをつけてやってください!」
「聖女様の顔を見ればやる気が出ると思います! さあ、こちらに」
と窓に手を伸ばす兵隊を前に、クリス様は落ち着くようにと手で払うようにして制した。
「ここは戦地だ。マリーナに何かあれば大変な事になる。ここから出る事は出来ない」
クリス様がそうきっぱりと断ると、兵隊は皆無言の表情を見せる。その瞬間、私は彼らから邪悪な何かを感じ取ったので急いで魔法のシールドを張った。
「危ない!」
兵隊が黒いバラのツルのような何かを伸ばしてこちらに襲い掛かって来た。クリス様が私の目の前に出てかばうも向こうの攻撃をもろに食らう形になってしまう。
「クリス様!」
「っマリーナ! 逃げろ!」
私は窓を開き、そこから出ようとするがそちらにも兵が周りこみ、包囲されてしまう。まるでここに至るまで私達の動きが全て敵に漏れていたんじゃないかと一瞬感じてしまった。
「くっ……」
(まさか、敵に包囲されるなんて)
すると黒い枝のような何かがクリス様の頭に直撃しようとしていた。私はすぐさまシールドを張りながらクリス様の前に立ちはだかる。
「っ!!!」
攻撃はなんとか防げたが、強い衝撃が私の頭から全体に向けて伝わるのと同時に、私の記憶はそこで途切れた。
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