上 下
56 / 81

第49話

しおりを挟む
「いやーーー!!!」
「誰かっ、助けてくれぇっ!!」
「バケモノだあああっ!」

 案の定、ダンスホール中はパニック状態となる。リリーネ子爵夫妻とソヴィも明らかに怯えた表情を見せている。

「皆様、こちらへどうぞ! これよりこのマリーナ・ジェリコ公爵が神託を受けます!」

 国王陛下はそう大声で高らかに宣言した。
 え、これが神託? 何かの間違いでは?

「いやこれが神託? 嘘でしょ?」

 私はつい大声で国王陛下にそう返してしまったが、国王陛下は咳き込みつつも何事も無かったかのような表情を見せている。

「ああ、そうだとも? 悪魔の獣も予定通りだ」
「えぇ……」
「ち、父上……」

 正直驚きを隠せないのはあるが、これが神託なら受けざるを得ない。
 私は悪魔の獣の前に歩み寄り、両手を前にかざす。
 私が聖女だと信じている人達の為にも、期待に応えたい。

「はあっ……」

 魔力を限界まで、さらに限界以上まで高ぶらせる。そうでもしないとこの数の悪魔の獣を相手だと私には勝ち目が無いからだ。すると私の周囲に青白い光の玉が床からしゃぼん玉のように湧き上がり、私が立つ床にはこれまた青白い色の魔法陣が浮び上がる。

「すーーっ……」

 これまでダンスホールにいる人達を睨み付けていた悪魔の獣が一斉に私の元へと襲いかかる。魔力を開放するならこの瞬間だ。

「はあっ!」

 最大限まで高ぶらせていた魔力を一気に開放、放出した。

 パアアアアアッ

 視界が青白い光に包まれて何も見えなくなる。人の悲鳴に歓声が聞こえてくる気はうっすらとしたが、どうなのか。
 青白い光が晴れると前方にいたのは悪魔の獣ではなく、神父や騎士達だった。それにイェルガーもいる。

「見て下さい皆様! これが聖女の力でございます!」

 国王陛下の高らかな宣言に、王族や貴族方からは地鳴りのような歓声が起こった。

「マリーナ!」
「クリス様!」
「マリーナ! 額……!」

 クリス様と先程まで悪魔の獣だった神父が近づく。そして私の額を指で指し示し始めた。神父の右手には古びた書物があり、ぱらぱらと器用にめくる。

「これは……聖女の証。模様も書物と同じ!」
「……じゃあ!」
「クリス王子。ジェリコ公爵様は本物の聖女です。1000年振りに聖女がおわしました!」

 ザパルディ国には1000年に一度、聖女と呼ばれる莫大な魔力を持つ娘が誕生する。
 その聖女と結ばれた王子には、莫大な加護がつき、国が豊かになるというものだ。
 聖女の特徴は3つ。まずは美しい金髪、次に美しい容姿、そして血のような真っ赤な瞳。その特徴を備えた少女が成人した時に神託を受けると、聖女として目覚め、証が浮かび上がる。
 それらを全て兼ね備え、莫大な魔力を有する娘こそが、聖女である。そんな聖女の再来を民はずっと待ちわびている。

 この神話通りに、私は聖女となったのだ。王族や貴族達からは祝福の声が湧いて出てくる。
 そんな中、ある人物だけはわなわなと身体を震えさせていた。勿論私とクリス様がその様子に気が付かない筈が無かった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です

灰銀猫
恋愛
両親と妹にはいない者として扱われながらも、王子の婚約者の肩書のお陰で何とか暮らしていたアレクシア。 顔だけの婚約者を実妹に奪われ、顔も性格も醜いと噂の辺境伯との結婚を命じられる。 辺境に追いやられ、婚約者からは白い結婚を打診されるも、婚約も結婚もこりごりと思っていたアレクシアには好都合で、しかも婚約者の義父は初恋の相手だった。 王都にいた時よりも好待遇で意外にも快適な日々を送る事に…でも、厄介事は向こうからやってきて… 婚約破棄物を書いてみたくなったので、書いてみました。 ありがちな内容ですが、よろしくお願いします。 設定は緩いしご都合主義です。難しく考えずにお読みいただけると嬉しいです。 他サイトでも掲載しています。 コミカライズ決定しました。申し訳ございませんが配信開始後は削除いたします。

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...