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ソヴィ視点⑥
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久しぶりにザパルディ国に足を踏み入れた。宮廷近くの街はロイナ国よりも街の人々は活気に満ち溢れているような気もしないでもない。
馬車を降りた私はそのままザパルディ国の国王陛下と王妃様がいる王の間へと挨拶へ向かう。宮廷には国内外から集った貴族や王族方が大勢見受けられる。
(やっぱりいるか)
国王陛下が座っている玉座の近くにはマリーナがいた。マリーナは今や公爵でクリス王子の婚約者。聖女候補と言う肩書も復活したと聞いている。
(私は王太子妃よ? マリーナはしょせんまだ王子の婚約者。私の方が立場が上なんだから!)
私はイリアス様の左腕を大事に抱きしめるようにして握っている。そうしていれば幾分緊張が解れるからだ。
「国王陛下、ロイナ国より参りました。イリアスでございます」
「同じくロイナ国より参りました。ソヴィでございます」
「ソヴィ。息災にしておるか?」
「はい、おかげさまで元気に暮らしております」
挨拶をした後、マリーナと視線が合った。彼女はいつも通り無機質な笑顔か無表情の狭間のような、そんな表情を浮かべている。
「あなたがクリス王子とその婚約者であるジェリコ公爵様ですか?」
イリアス様がマリーナとクリス往時に近づき、胸に手を当ててにこにこと話しかけにいく。勿論私は乗り気じゃないが付いていくしか無い。
「初めましてイリアス王太子様。クリスでございます」
「初めまして、マリーナ・ジェリコと申します」
「ふふっ、クリス王子もジェリコ公爵様もお綺麗で見目麗しい方だ。お会いでき光栄です」
イリアス様がマリーナとクリス王子へそう語る間中、私の胸の中ではモヤモヤとした不快な何かが渦巻いていた。
「……ソヴィ様。何か申したい事でもございますか?」
「!」
と、いきなりマリーナに尋ねられた。予想だにしていなかったが、この胸のモヤモヤした不快感を言語化しようとしたが、止めておいた。だって私はロイナ国の王太子妃なのだから。
「いえ、何もありません」
「そうですか。何か言いたそうにしていたので」
「……ソヴィ。嘘はいけないぞ」
イリアス様の言葉が、先程マリーナ達に挨拶をした時の朗らかなものから、低くとげのあるような声へと変わる。私はその声を聴いた事で、蛇に睨まれたカエルのように、委縮してしまう。
「……すみません、なんで、マリーナがここにいるのかって、そう、思ってしまいました……」
「正直に言うのは良い事だ」
「……ソヴィ。それはマリーナが俺が婚約者だからだ。マリーナは俺の大事な人。侮辱するのは許さない」
クリス王子はそう言ってきっと私を睨んだ。クリス様に睨まれるなんて。そんなにマリーナの事を溺愛してるなんて。
「はい、申し訳ありません」
「私からよく言って聞かせよう。なんせ、ソヴィはジェリコ公爵様とは仲が悪かったと聞いている。では、失礼します」
結局午前はランチで出た鹿肉のステーキが思ったよりも美味しかった事くらいしか、楽しくは無かった。
馬車を降りた私はそのままザパルディ国の国王陛下と王妃様がいる王の間へと挨拶へ向かう。宮廷には国内外から集った貴族や王族方が大勢見受けられる。
(やっぱりいるか)
国王陛下が座っている玉座の近くにはマリーナがいた。マリーナは今や公爵でクリス王子の婚約者。聖女候補と言う肩書も復活したと聞いている。
(私は王太子妃よ? マリーナはしょせんまだ王子の婚約者。私の方が立場が上なんだから!)
私はイリアス様の左腕を大事に抱きしめるようにして握っている。そうしていれば幾分緊張が解れるからだ。
「国王陛下、ロイナ国より参りました。イリアスでございます」
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「ソヴィ。息災にしておるか?」
「はい、おかげさまで元気に暮らしております」
挨拶をした後、マリーナと視線が合った。彼女はいつも通り無機質な笑顔か無表情の狭間のような、そんな表情を浮かべている。
「あなたがクリス王子とその婚約者であるジェリコ公爵様ですか?」
イリアス様がマリーナとクリス往時に近づき、胸に手を当ててにこにこと話しかけにいく。勿論私は乗り気じゃないが付いていくしか無い。
「初めましてイリアス王太子様。クリスでございます」
「初めまして、マリーナ・ジェリコと申します」
「ふふっ、クリス王子もジェリコ公爵様もお綺麗で見目麗しい方だ。お会いでき光栄です」
イリアス様がマリーナとクリス王子へそう語る間中、私の胸の中ではモヤモヤとした不快な何かが渦巻いていた。
「……ソヴィ様。何か申したい事でもございますか?」
「!」
と、いきなりマリーナに尋ねられた。予想だにしていなかったが、この胸のモヤモヤした不快感を言語化しようとしたが、止めておいた。だって私はロイナ国の王太子妃なのだから。
「いえ、何もありません」
「そうですか。何か言いたそうにしていたので」
「……ソヴィ。嘘はいけないぞ」
イリアス様の言葉が、先程マリーナ達に挨拶をした時の朗らかなものから、低くとげのあるような声へと変わる。私はその声を聴いた事で、蛇に睨まれたカエルのように、委縮してしまう。
「……すみません、なんで、マリーナがここにいるのかって、そう、思ってしまいました……」
「正直に言うのは良い事だ」
「……ソヴィ。それはマリーナが俺が婚約者だからだ。マリーナは俺の大事な人。侮辱するのは許さない」
クリス王子はそう言ってきっと私を睨んだ。クリス様に睨まれるなんて。そんなにマリーナの事を溺愛してるなんて。
「はい、申し訳ありません」
「私からよく言って聞かせよう。なんせ、ソヴィはジェリコ公爵様とは仲が悪かったと聞いている。では、失礼します」
結局午前はランチで出た鹿肉のステーキが思ったよりも美味しかった事くらいしか、楽しくは無かった。
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