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第45話

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 大学院や、宮廷での準備やダンスの練習等と慌ただしい日を過ごし、いよいよ親善交流の日を迎えた。国内外から多くの貴族や王族が一同にザパルディ国の宮廷に集まって来る。

「マリーナ、起きなさい」
「……はっ、クララ様、おはようございます」

 王族や貴族と言った方々を宮廷で出迎え挨拶をする為に、私とクララ様は夜明け前から起床して支度をしなければならないのだ。だが、私の頭の中は全体的にぼーーっと白い靄がかかっているような状態だ。鏡で顔を見てみるとなぜか目元にクマが出来ている。

「マリーナ、寝ぼけてる?」
「ほうれすか?」
「……ほら」
「……頭がぼーーっとしますね……」
「とりあえずメイドに温かいタオルを用意させるわ」

 早起きは慣れない。さっとドレスに着替えて髪のセットとお化粧に目元のクマ取りをメイドにしてもらい、食堂で軽く食事を取ってからジュリーとクララ様と共に馬車に乗って宮廷へと向かう。 
 ドレスはクララ様から頂いた新品だ。クリーム色の穏やかで淡い色が綺麗に思う。クララ様もジュリーもドレスアップして着飾っている。
 宮廷に到着し馬車から降りて王の間に移動する。そこにはクリス様が赤い派手な軍服を着用して玉座の左側に立っていた。

「おはようございます、クリス様」
「おはようマリーナ、ジュリーさん、クララおばあさま」
「クリスは朝起きれた?」
「ええ、はい」
(すごいな……)

 クリス様の表情は爽やかで、肌も張りがあって美しい。それだけ朝すっきりと起きられたのだろう。

「マリーナは朝起きれた?」
「全然無理でした……」
「まあ、これくらいの早い時間に起きるのは中々無いからねえ」
「ですよね……」

 そうすると貴族が次々と王の間に入室してきた。国王陛下と王妃様も玉座の裏から現れて、それぞれ玉座について挨拶をする。
 
「皆、よく来てくれた。おはよう」
「おはようございます、国王陛下」

 早速他国の貴族と王族が王の間に現れた。この国は……西方の国か。王族らしき女性が身に着けているドレスの色は赤に茶色に緑と実に様々な色合いが細かく入っている。

「初めまして、ザパルディ国王」
「ザパルディ国王にお会いできてうれしいです」

 次々と入れ替わるようにして、貴族や王族方が入室し、国王陛下と王妃様に挨拶をしていく。よく目を凝らしていると国によって着ている服に違いがあるのが面白い。

「ザパルディ国王、お初にお目にかかります」

 この国の王族や貴族の女性は肌が黒く髪も黒くてしかもおしりくらいの長さがある。それでいて髪は傷んでいなくて艶々と輝いている。身に着けているドレスはベールのように薄いく、私達が着ているようなドレスとは形も全く違う。まるで身体全体に大きな薄い布を巻いているような、そんな見た目だ。それに頭にもティアラとドレスと同じ色のベールを着用している。

(こんな服もあるのか)

 そして、彼女も顔を見せた。ソヴィだ。彼女は赤と黒のドレスを着用し、同じく黒い軍服を着用したイリアス様と共に王の間に入って来た。
 ソヴィはイリアス様の左腕を抱きしめるようにして握っている。微笑みを浮かべてはいるが、少しだけ硬さを感じた。緊張しているのだろうか。

「国王陛下、ロイナ国より参りました。イリアスでございます」
「同じくロイナ国より参りました。ソヴィでございます」
「ソヴィ。息災にしておるか?」
「はい、おかげさまで元気に暮らしております」

 ソヴィはそう国王陛下にそう、ころころとした声で語るがその笑顔は以前硬いままだ。しかも私と視線が合った瞬間、私の存在に気が付いたのか更に笑顔にぎこちなさと嘘が混じる。
 逆にイリアス様は余裕と言ったような、そんな笑みだ。品格だけでなくずっといつも微笑みを絶やさず浮かべているような、そんな慣れというのも感じる。

「あなたがクリス王子とその婚約者であるジェリコ公爵様ですか?」

 イリアス様が私とクリス様に近づき、胸に手を当ててにこにこと話しかけてきた。ソヴィももちろん付いてきたが明らかに乗り気じゃない。

「初めましてイリアス王太子様。クリスでございます」
「初めまして、マリーナ・ジェリコと申します」
「ふふっ、クリス王子もジェリコ公爵様もお綺麗で見目麗しい方だ。お会いでき光栄です」

 イリアス様が私とクリス様へそう語る間中、ソヴィは口角が引きつったかのような不自然な笑みを浮かべつつ私を睨みつけている。
 まるで、私の方が立場が上なのに。とでも言いたいのだろうか。

(聞いてみようか。我慢させるのも良くないだろうし)
「……ソヴィ様。何か申したい事でもございますか?」

 と、彼女に聞いてみる。すると彼女は何かを言いだそうとしたがそれを止めてイリアス様の方を見ると何かを飲みこむような仕草を見せてから、口を開いた。

「いえ、何もありません」
「そうですか。何か言いたそうにしていたので」
「……ソヴィ。嘘はいけないぞ」

 イリアス様の言葉が、先程私達に挨拶をした時の朗らかなものから、低くとげのあるような声へと変わる。ソヴィはその声を聴いた事で、蛇に睨まれたカエルのように、委縮してしまう。

「……すみません、なんで、マリーナがここにいるのかって、そう、思ってしまいました……」
「正直に言うのは良い事だ」
「……ソヴィ。それはマリーナが俺が婚約者だからだ。マリーナは俺の大事な人。侮辱するのは許さない」

 クリス様はそう言ってきっとソヴィを睨んだ。クリス様に睨まれたソヴィはぐっと唇を噛む。イリアス様だけでなくクリス様にも何か言われるとは思っていなかったのか。

「はい、申し訳ありません」
「私からよく言って聞かせよう。なんせ、ソヴィはジェリコ公爵様とは仲が悪かったと聞いている。では、失礼します」

 イリアス様はソヴィを連れ、王の間からすたすたと退出していったのだった。

「!」
(リリーネ子爵……!)

 イリアス様と入れ替るようにして、リリーネ子爵とその妻が静かに歩いて姿を現す。2人ともニコニコとイリアス様のような笑みを浮かべたまま、国王陛下と王妃様に頭を下げて挨拶をした。

「国王陛下、お久しぶりです」
「リリーネ子爵よ。久しぶりだな。なぜザパルディ国に中々戻らなかったのだ?」
「!」
 
 痛い所を衝かれたのか、リリーネ子爵は真顔になり言葉に詰まるもすぐさま笑顔を作って口を開いた。

「ソヴィが心配でして」
「そうか。今日はザパルディで皆とゆっくり過ごすが良い」
「はっ」

 リリーネ子爵夫妻が王の間から退出した後も他国の王族や貴族らからの挨拶が続き、全て終わったのは昼前の事だ。それから今度はランチ会が待っている。

(忙しい……)

 宮廷内にある大広間へと歩いて移動し、到着すると巨大な長方形の形をした食卓と金色に赤いベルベットの椅子がずらりと並んでいる。食卓には白い布が敷かれ、ナイフにフォークに白い皿、金色の燭台が規則正しく並んでいる。

「わ……」

 思わず私の口から驚きの声が漏れてしまった。これは圧倒される。

「座ろう、マリーナ」

 クリス様に案内され、私達はそれぞれ指定された席へと座った。貴族や王族の方々、イリアス様にソヴィ、リリーネ子爵夫妻も続々と自らの席へと座っていく。

「皆、揃ったか」

 最後に入室したのは国王陛下と王妃様。1番前かつ真ん中の席に着席した国王陛下は少しだけ咳をすると、手を挙げた。

「皆様、ザパルディ国に訪れて頂き感謝します。どうぞごゆっくりお楽しみ頂けたらと存じます」

 彼のこの言葉を合図に、メイドと執事が一斉に現れ前菜を持って来た。
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