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第33話

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 その後。取り調べによってジェシカが国王陛下にかけたのは、彼の寿命を奪う呪いだと判明した。侍医の診察曰く私の魔力によって呪いはだいぶ薄まったが、わずかに残ってしまっているという。何度か完全に消え去るように魔力を放出して試してみたが、消える事は無かった。

「すみません……」
「マリーナが謝る必要はない。ジェシカが悪いんだ」
「そうよマリーナ。気にしないで頂戴。あなたはやれるだけの事はやったのだから」
「クリス様、王妃様……」
(何とか消え去ってくれたら良かったんだけど……)

 ジェシカとフリードリア伯爵の斬首刑は、ギロチンで行われるものだ。しかも公開処刑で行われるという。
 その公開処刑に私とクリス様が立会人として出席する事となった。クララ様も心配して駆けつけてくれる事も決まった。

「何かあればすぐに言ってね」
「はい」

 公開処刑が行われる街の大広場には、すでに庶民や貴族らが織り交ざった群衆が形成されていた。魔術大学院の生徒も大勢いる。もしかしたら人数的に魔術大学院に通う生徒のほぼ全員がこちらへと足を運んでいるかもしれない。

「あ、来た!」

 ジェシカとフリードリア伯爵が、罪人を乗せるための台車に乗せられて大広場へと移送されてきた。2人とも罪人用の白い粗末な服を着せられている。ジェシカの髪こそギロチン処刑用に短くばっさりと切られてはいるが、色は金色のままだ。

「来たぞ!」
「偽の聖女候補め!」

 彼女が聖女候補を演じていた偽物である事は庶民や貴族にも広く知れ渡っていた。処刑の宣告から今日までわずか数日しか経っていない。ものすごいスピードで情報が伝わっている。

「偽聖女候補め!!」
「偽聖女候補! 金を返せ!!」

 貴族や庶民が石を投げ始めた。だが、制する者はいない。その光景に私はなんだかもやもやする。

「石を投げるのは、止めてください!」

 自分でも分からないくらい、気づいたらそう群衆に私は叫んでいた。しんと静かな空気が流れる。

「あなた方の気持ちも理解できます。辛いのも分かります。しかし裁くのはあなた達ではなく、あのギロチンです。その……2人は確かに大罪を犯した者ですが、これからギロチンで刑を受ける者へ対してあなたたちが石を投げるのは間違っていると思います」

 静かな空気が流れたのち、クリス様が私のそばに近寄り、俺も同じ考えだ。と群衆に向けて告げた。

「確かに、ジェリコ公爵様とクリス王子の言う通りだ」
「お2人とも、高潔なお方だ……」

 群衆は石を投げるのを止めた。確かにジェリコ公爵の言う通りだといった声があちこちから聞こえ、自制の様子を見せていった。

「マリーナ」
「クリス様」
「俺はジェシカを許せない。だが、確かにあの女を裁くのは、あのギロチンだ。マリーナ。君は正しい事を言ってくれた。ありがとう」
「いえ……思った事を言ったまでです」

 後ろからはクララ様が、穏やかに私達を見ていてくれたのだった。私達はギロチンから少し距離を置いて右側にある立会人としての席に座り、先に刑を受けるフリードリア伯爵を見る。彼はまだ死にたくないなどと抵抗の言葉を挙げていた。

「やめてくれ! 死にたくない!」

 その様子をクリス様とクララ様は落ち着いた目つきで見ていた。フリードリア伯爵は兵数人がかりで持ち上げられるようにして、ギロチン台にかけられ、散っていった。ギロチンが降ろされた瞬間、群衆からは大歓声が起こる。
 私は彼がギロチンにかけられる前後は目を閉じて見ないようにしていた。彼の首と遺体が運ばれた後目を開けて周りを見てみると、おそらくはジェシカはその様子をじっと見ていたものと推察できた。クリス様とクララ様もそうだろう。

「では、ジェシカ・フリードリア」
「はい」
「何か最後に言う事は無いか」
「……」

 一瞬だけ、私とジェシカの目線がばちっと合う。

「……ごきげんよう」

 ジェシカは私とクリス様、クララ様に向けて服の裾を掴み、令嬢らしく美しく挨拶をしたのだった。その挨拶は入学パーティーで見せた、あの美しい挨拶となんら変わりは無かった。
 彼女は自ら進んで首を差し出し、あっという間に散っていった。

「うおおおおっっっ!!!!!!」
「偽聖女候補が断罪されたぞ!!!!」
「良かった、良かった……!!」

 群衆が大歓声を挙げている。すると、どこからか万歳という声が小さく聞こえ始め、次第にそこを中心に万歳と唱える輪が広がっていく。

「ジェリコ公爵様万歳!」
「クリス王子様万歳!!」
「ジェリコ公爵こそ、聖女候補にふさわしい!!」

 万歳と唱える声と、狂信的な声がこだまして聞こえる。それに血の匂い……なんだか言葉にできない色々なものが織り交ざっていて、身体にダイレクトに伝わってきてなんだか気分が悪い。

「……っ」

 視界がぐるりと一周する。気が付けば私は椅子から崩れ落ちてその場に倒れた。クリス様とクララ様が手を差し伸べようとした所で、私の意識は遠のいてしまった。

「……ここは」

 目を開けると、クララ様の屋敷にある私の部屋のベッドに寝かされているのが分かった。右側にクリス様、左側にジュリーとクララ様と医者が控え、心配そうに私を見つめていたのだった。
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