19 / 81
第17話
しおりを挟む
(なんか怪しいような……)
怪しいという曖昧な感覚は覚えたが、いかんせん曖昧過ぎて確証がなさ過ぎる。
「でも、噂は当たっていると思うわよ」
「クララ様?」
「実際、リリーネ子爵の領地には悪魔の獣が良く出る。まあ領地の半分が森林に山だから立地上致し方無い部分もあるけど、それでも悪魔の獣がよく出るのは領主としては頂けないわね」
クララ様がそう語ると説得力が出る。彼女の低い声が身体の芯まで伝わるのだ。
その後。イェルガーから何度か宮廷にいた時の話を聞きつつ1週間程が経過した日の昼前。屋敷にふわふわと白い封筒が窓の隙間を縫いながら漂うようにして届いた。
「ジュリーからだわ」
安楽椅子に座り紫色の毛糸を使って編み物をしていたクララ様が白い封筒をぱっと掴む。そして封を開いて中の紙を取り出して読みはじめた。
「うんうん……大丈夫そうね。マリーナ。クリスとイェルガーを呼んで来て」
「はいっ」
私は屋敷の中庭で剣術の訓練をしている2人に、クララ様が呼んでいるという旨を伝えた。
「マリーナ! すぐ行く!」
「参りましょう」
こうしてクララ様の元に集合し、彼女からの話を聞く事になった。
「結論から言うと大丈夫そうだから、宮廷に戻ってもいいわよ」
「!」
クリス様が目をぱっと輝かせ、私の方を見るとばっと私を抱き締めた。
「やった……! 俺達宮廷に戻れるんだ!」
「クリス様……!」
「やった、やった!」
クリス様の温かな体温が更に喜びにより紅潮していく。彼の喜び具合は私が言うのもなんだが、まるではしゃぐ犬のようだ。まあ、クリス様は昔から犬っぽい所はあるが。
「良かったですね!」
「ああ! 嬉しい!」
彼の願いが叶ったのは素直に嬉しい。
するとそこで、クララ様が落ち着くようにとクリス様を制する。
「あ、すみません」
「ごほん! 宮廷への帰還はゴールではございません。その事はあなたも重々理解しているはず」
「はい……」
「それとマリーナ」
「はい?」
「クリスは宮廷へ帰還した後、あなたと再婚約したいという意思を示してはいるけど、あなたはどう暮らすつもり?」
「あーー……」
リリーネ子爵の元では過ごせないし、婚約者という立場では宮廷で暮らせられるかどうかも分からない。
「という訳でクリスとマリーナ。宮廷に帰還後のあなた達の暮らしについても一応は考えを立てました。まずクリスは王子としてまた暮らせるだろうから、そこまで心配はしていません。問題はマリーナの方」
「……私」
「マリーナ。王立魔術大学院に通うのはどうですか? クリスにとっても良い話だと思うけど」
その後、クララ様から王立魔術大学院についての話を聞いてみた。まとめてみると王立魔術大学院はその名の通り魔術を習う学校。王立魔術学園のグループ内に属し、初等部、中等部、高等部、大学と来て大学院が一番上になる。
しかも大学院は成人を迎えた者なら貴族庶民問わず誰でも通えるという事だった。学費もいらないらしい。
「マリーナは公爵家にいた時は学校には通わずに家庭教師から色々学んでいたのよね?」
「はい」
「なら、大学院の方が良いわ。大学ならテストがあるけど大学院なら面接だけだし」
「なるほど」
「あ、おばあさま!」
ここで、クリス様が右手を挙げながら何かを決めたかのような真剣な目でクララ様を見つめる。
「俺も行きます! マリーナと一緒にいたいし、魔術も学びたいので!」
「ええ、いいわよ」
「……おばあさま、ありがとうございます! マリーナ、俺も一緒だから。心配しないで」
クリス様の穏やかな笑みが私の胸の中に染みていく。熊のぬいぐるみもそうだが、彼といるとなんだか安心できて癒やされるのだ。
「マリーナは?」
「私も大学院に行きたいです」
(もっと魔術について勉強したい)
「分かりました。では、私も決めねばならないわね」
「?」
「私も同行するわ。そして魔術大学院の教授として教鞭を取り、あなた達を見守りつつ導きましょう」
クララ様は立ち上がり、そう自信たっぷりに言い放った。
これが、グランバスも大魔女のオーラとでも言うように圧がすごい。
「おばあさま、本当ですか?」
「ええ。ジュリーにもこの事は伝えておくわ。イェルガーもよろしく」
「はい、クリス様とマリーナ様をお守りいたします」
「では早速手紙を書くわね。みんなは下がっていいわよ」
「はい!」
クララ様は宮廷、国王陛下と王妃様あてに手紙を書いて風に乗せて送り届けた。返信は夜の22時頃に到着する。
「クリスとマリーナ、イェルガーの帰還を待っているとの事よ。良かったわね」
ほっと一息つきながら、寝間着姿のクララ様から手紙を受け取り読んでみる。そこには確かにクララ様の言ったような内容の文言が記されていた。
「クリス様、返信です」
「どれどれ……!」
手紙は隣の部屋にいるクリス様にも勿論見せた。クリス様もクララ様と同じように、息をほっとつきながら良かったと呟いたのだった。
「一緒に行こう。マリーナ」
「はい。クリス様」
クリス様は私をそっと抱き締め頭を撫でる。
怪しいという曖昧な感覚は覚えたが、いかんせん曖昧過ぎて確証がなさ過ぎる。
「でも、噂は当たっていると思うわよ」
「クララ様?」
「実際、リリーネ子爵の領地には悪魔の獣が良く出る。まあ領地の半分が森林に山だから立地上致し方無い部分もあるけど、それでも悪魔の獣がよく出るのは領主としては頂けないわね」
クララ様がそう語ると説得力が出る。彼女の低い声が身体の芯まで伝わるのだ。
その後。イェルガーから何度か宮廷にいた時の話を聞きつつ1週間程が経過した日の昼前。屋敷にふわふわと白い封筒が窓の隙間を縫いながら漂うようにして届いた。
「ジュリーからだわ」
安楽椅子に座り紫色の毛糸を使って編み物をしていたクララ様が白い封筒をぱっと掴む。そして封を開いて中の紙を取り出して読みはじめた。
「うんうん……大丈夫そうね。マリーナ。クリスとイェルガーを呼んで来て」
「はいっ」
私は屋敷の中庭で剣術の訓練をしている2人に、クララ様が呼んでいるという旨を伝えた。
「マリーナ! すぐ行く!」
「参りましょう」
こうしてクララ様の元に集合し、彼女からの話を聞く事になった。
「結論から言うと大丈夫そうだから、宮廷に戻ってもいいわよ」
「!」
クリス様が目をぱっと輝かせ、私の方を見るとばっと私を抱き締めた。
「やった……! 俺達宮廷に戻れるんだ!」
「クリス様……!」
「やった、やった!」
クリス様の温かな体温が更に喜びにより紅潮していく。彼の喜び具合は私が言うのもなんだが、まるではしゃぐ犬のようだ。まあ、クリス様は昔から犬っぽい所はあるが。
「良かったですね!」
「ああ! 嬉しい!」
彼の願いが叶ったのは素直に嬉しい。
するとそこで、クララ様が落ち着くようにとクリス様を制する。
「あ、すみません」
「ごほん! 宮廷への帰還はゴールではございません。その事はあなたも重々理解しているはず」
「はい……」
「それとマリーナ」
「はい?」
「クリスは宮廷へ帰還した後、あなたと再婚約したいという意思を示してはいるけど、あなたはどう暮らすつもり?」
「あーー……」
リリーネ子爵の元では過ごせないし、婚約者という立場では宮廷で暮らせられるかどうかも分からない。
「という訳でクリスとマリーナ。宮廷に帰還後のあなた達の暮らしについても一応は考えを立てました。まずクリスは王子としてまた暮らせるだろうから、そこまで心配はしていません。問題はマリーナの方」
「……私」
「マリーナ。王立魔術大学院に通うのはどうですか? クリスにとっても良い話だと思うけど」
その後、クララ様から王立魔術大学院についての話を聞いてみた。まとめてみると王立魔術大学院はその名の通り魔術を習う学校。王立魔術学園のグループ内に属し、初等部、中等部、高等部、大学と来て大学院が一番上になる。
しかも大学院は成人を迎えた者なら貴族庶民問わず誰でも通えるという事だった。学費もいらないらしい。
「マリーナは公爵家にいた時は学校には通わずに家庭教師から色々学んでいたのよね?」
「はい」
「なら、大学院の方が良いわ。大学ならテストがあるけど大学院なら面接だけだし」
「なるほど」
「あ、おばあさま!」
ここで、クリス様が右手を挙げながら何かを決めたかのような真剣な目でクララ様を見つめる。
「俺も行きます! マリーナと一緒にいたいし、魔術も学びたいので!」
「ええ、いいわよ」
「……おばあさま、ありがとうございます! マリーナ、俺も一緒だから。心配しないで」
クリス様の穏やかな笑みが私の胸の中に染みていく。熊のぬいぐるみもそうだが、彼といるとなんだか安心できて癒やされるのだ。
「マリーナは?」
「私も大学院に行きたいです」
(もっと魔術について勉強したい)
「分かりました。では、私も決めねばならないわね」
「?」
「私も同行するわ。そして魔術大学院の教授として教鞭を取り、あなた達を見守りつつ導きましょう」
クララ様は立ち上がり、そう自信たっぷりに言い放った。
これが、グランバスも大魔女のオーラとでも言うように圧がすごい。
「おばあさま、本当ですか?」
「ええ。ジュリーにもこの事は伝えておくわ。イェルガーもよろしく」
「はい、クリス様とマリーナ様をお守りいたします」
「では早速手紙を書くわね。みんなは下がっていいわよ」
「はい!」
クララ様は宮廷、国王陛下と王妃様あてに手紙を書いて風に乗せて送り届けた。返信は夜の22時頃に到着する。
「クリスとマリーナ、イェルガーの帰還を待っているとの事よ。良かったわね」
ほっと一息つきながら、寝間着姿のクララ様から手紙を受け取り読んでみる。そこには確かにクララ様の言ったような内容の文言が記されていた。
「クリス様、返信です」
「どれどれ……!」
手紙は隣の部屋にいるクリス様にも勿論見せた。クリス様もクララ様と同じように、息をほっとつきながら良かったと呟いたのだった。
「一緒に行こう。マリーナ」
「はい。クリス様」
クリス様は私をそっと抱き締め頭を撫でる。
5
お気に入りに追加
243
あなたにおすすめの小説
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
純潔の寵姫と傀儡の騎士
四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。
世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
旦那様、離縁の申し出承りますわ
ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」
大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。
領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。
旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。
その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。
離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに!
*女性軽視の言葉が一部あります(すみません)
冷血皇帝陛下は廃妃をお望みです
cyaru
恋愛
王妃となるべく育てられたアナスタシア。
厳しい王妃教育が終了し17歳で王太子シリウスに嫁いだ。
嫁ぐ時シリウスは「僕は民と同様に妻も子も慈しむ家庭を築きたいんだ」と告げた。
嫁いで6年目。23歳になっても子が成せずシリウスは側妃を王宮に迎えた。
4カ月後側妃の妊娠が知らされるが、それは流産によって妊娠が判ったのだった。
側妃に毒を盛ったと何故かアナスタシアは無実の罪で裁かれてしまう。
シリウスに離縁され廃妃となった挙句、余罪があると塔に幽閉されてしまった。
静かに過ごすアナスタシアの癒しはたった1つだけある窓にやってくるカラスだった。
※タグがこれ以上入らないですがざまぁのようなものがあるかも知れません。
(作者的にそれをザマぁとは思ってません。外道なので・・<(_ _)>)
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※作者都合のご都合主義です。作者は外道なので気を付けてください(何に?‥いろいろ)
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる