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第75話 決闘②

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 大広間には貴族と庶民が入り混じった群衆が集い、お祭り騒ぎになっている。そして剣を携え武装したアダン様とジョージが広場に到着した所で、更に群衆のボルテージが高まる。ここまでの騒ぎは見た事が無い。大歓声で地割れが起きそうだ。

「これより。アダン王太子殿下と、ジョージ・ヨージスによる決闘を執り行う」

 立会人は騎士団長。中年の彼もまた武装し、剣を天に掲げて騎士らしく振舞っている。その振る舞いには落ち着いた部分と高揚している部分の相反する2つが織り交ざっているかのように感じられたのだった。

「では、両者。挨拶を」

 その騎士団長の言葉を受け、2人は互いに頭を垂れてお辞儀をした。アダン様は深々とお辞儀をしたのに対してジョージは軽く済ませ更に動きがぎこちない事もあってさっそく群衆からヤジを受け始めた。

「おいおいヨージス家の坊ちゃんそれじゃあだめだぞーー!」
「もっと深く礼をしなさいよ!!」
「相手は王太子殿下だぞ! ちゃんと礼しろ!」
(これは緊張してるな)

 礼が済むと互いに距離を2人分取り、そこで騎士団長がはじめ! と力強く叫んだ。

「はじまったぞ!」
「王太子殿下頑張って!」

 2人は距離を取ったまま、互いの出方を伺っている。その間にもアダン様へは応援の声が、ジョージにはヤジが飛ぶ。この時点で大群衆のほとんどがアダン様支持に傾いているのが分かる。

「たっ!」

 隙を捉えてアダン様が一気に前に出て剣で突くが、ジョージがそれを剣で防ぐ。しかしアダン様も体勢を崩す事無く防御の構えを取り、ジョージからの攻撃を剣で防ぐ。
 彼らが持つ剣がかち合う度に、きんきんと金属音が響き渡り、その度に大群衆から歓声が沸く。

(勝って!)

 ヒットアンドアウェイの一進一退の攻防戦が続く。互いに呼吸が少し荒くなっては来ているが、目はしっかり相手を見据えている。ジョージは若干アダン様から放たれる殺気におびえているようにも見えたが、それでも食らいついていく。

(なんで私なんだろう)

 途中で私との婚約を破棄してジュナと結婚した癖に。エミリアと婚約を結んだ癖に。最後になってなんで私を選んだのか。

(理解できない)

 聞いたって無駄だ。それに、彼にはもう愛想も何にもない。それにアダン様がいる。ここでジョージには勝ってほしくはない。
 すると、ジョージがアダン様の右足のすねに向けて剣で薙ぎ払うように攻撃した。

「っ!」

 これでアダン様は足を滑らせて、その場で転倒してしまう。更にアダン様の上からジョージが剣を突き差し、アダン様の腹部に命中した。

「!!」

 幸い、斬られたのは脇腹で、アダン様はすぐに転がって起き上がり体勢を元に戻すも、ダメージが大きいのか肩で息を吐いている。
 すかさずジョージが派手な連続突きを繰り出すが、アダン様は全て剣で弾き、更にジョージの右太ももを切り裂いた。

「ぐっ……!」

 ジョージもアダン様もここで動きが止まる。動きが止まって約3分が経過した所で、騎士団長が一時停戦を告げた。
 私はこの隙に、彼らの元に向かって走る。何かここで話さないと駄目なような、そんな気に駆られたからだ。

「はあっ……」
「ジャスミン」
「なぜ、ジャスミンがここに」
「まずは、ジョージ。なぜ私が好きか聞かせて」
「……ジュナと結婚したのが間違いだった。君と結婚していれば良かったんだ。全部やり直したい。本当の気持ちに気づくのが、遅かったと思う」
「アダン様は……その私のどこに」
「全部だ。あの時泣いていた弱い俺を助けてくれた時から君に惹かれていた」
「……」

 これ以上、語る事は無いと言った表情は2人は浮かべる。

「健闘を祈ります」

 私はそう2人に言い残し、その場から去る。今気づいたのだが、あれだけ歓声を上げていた群衆は静まり返っている。
 私が元いた場所に戻り、騎士団長が再会を告げると2人は闘志を燃やし、何度も剣が激しくぶつかって起こる金属音がこだまする。

(すごい迫力だ)

 2人の傷が少しずつ増える。顔や四肢が赤い血の色で染まっていく。

「いけーー!」
「殿下ーー! 頑張ってーー!」

 その時。ジョージの剣がアダン様の右胸付近をばすっと切り裂いた。

「がっ!」
「もらった!」

 ジョージが飛びかかるようにして、アダン様の息の根を止めようと剣を振りかざす。しかし。

 ぶすっ!

 アダン様の剣が、ジョージの左胸を貫いた。

「がっ、はあっ……」
「はあっ、はあっ……」
「決着! この勝負、アダン様の勝ち!」

 アダン様の勝ちが、高らかに宣言された。大群衆は雄叫びの如き歓声を挙げる。

「殿下が勝った!」
「殿下ーー!」

 私は急いでアダン様の元に駆け寄る。アダン様がすぐ前まで迫った所で、誰かに右足首を掴まれた。ジョージだ。

「ジョージ、様」
「……ジャスミン、愛し……」

 ジョージの腕の力が徐々に無くなり、ついには力尽きた。

「……」
「ジャスミン……」

 アダン様が私の名前を呼び、その場で力なく倒れた。

「っ!」

 
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