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第74話 決闘①

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「ジャスミン、助けに来たよ」
「アダン様……!」
「動くな!」

 ジョージがズボンのポケットから短刀を突き出し、私の首元に向ける。そしてぐふふふふと不気味に笑い始めた。

「何をするつもりだ。ジョージ・ヨージス」
「そこから動けば、ジャスミンを刺して自分も死ぬ!」
「……!」
「王太子殿下、どうします?」
「……ふむ。ならこうしよう。ジョージ・ヨージスよ。これを受け取るが良い」

 アダン様がジョージに向けて放り投げたのは兵の1人が携えていた立派な剣だった。

「なんだ?」
「貴族の令息たるもの、剣術は習得していて当然と思われる。なら、やるべき事はただひとつ」
(もしや、決闘か?)
「何を言っているんだ?」
「君はバカか? 決闘と言っているんだよ」

 アダン様がややあきれながらも、決闘の誘いをジョージに向けた。
 決闘。それは1対1の殺し合いだ。どちらかが根を上げるか死ぬまで剣による一騎打ちが行われる。

「俺が勝てばジャスミンを解放しろ。君が勝てば……好きにするが良い。勝てたらの話だがな」

 そうジョージに向けて言い放ったアダン様の言葉は、絶対に負ける事は無いという自信に満ち溢れていた。確かにアダン様の剣術の腕は素晴らしいものがあるとの宮廷内での評判である。逆にジョージは剣術はどうだったか記憶が無い。可もなく不可もなくと言ったような感じだったような。

「わかった。決闘に勝てばいいんだな?」

 ジョージが床に落ちた剣をばっと拾った。やはり彼の何だかちんけなプライドをアダン様は読み取っていたらしいように思えた。これにて決闘が決まる。兵が私の両手を縛っていた布を解いてくれ、私達はそのまま大勢の兵に取り囲まれながら移送される。
 決闘は国王陛下の許可が必要だが、アダン様はその許可も取っていたらしい。彼の行動力はまるで嵐のようだ。

(アダン様、勝って)

 私は勿論彼の勝利を願うばかりだ。ジョージには勝ってほしくないし、アダン様が傷つく所も見たくは無い。死ぬなんてもっと嫌だ。
 移送された先は、宮廷前の大広場。道が交差する場所で、死刑囚の公開処刑が行われるのもこの場所だ。私には兵が常に付き従ってくれているので、自分の身の安全がある程度保証されているという点では、少しばかりは安心できる。
 また大広場にてハイダとメラニーとも再会できた。彼女達と抱き合って再会の喜びに浸った後は、アダン様の勝利を共に両手を組んで祈る。

「決闘だ!」
「王太子殿下が決闘をなさるぞ!」
「王太子殿下と、ヨージス家か?」
「おいみんな! 決闘だぞ!」

 決闘が開かれるのは実に久しぶりの事というのもあって、庶民に貴族が雪崩のように大広場に詰めかけて来た。
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