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ジュナ視点⑦  鬱屈と新たな出会いと

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 正直に言おう。
 ここでの暮らしにもう飽きている。部屋は狭いし着る服は地味だし、シスターと質素な食事を食べなきゃいけないしでもう耐えられない。

「主は……」

 今は聖堂で聖書の朗読が行われている。なぜかは分からないけど私も参加させられている。

(抜け出そう)

 私は立ち上がり、聖堂を後にした所でシスターが後を追いかけてきた。

「ジュナさん! 待って!」
「気分悪くなったから帰るわ。頭も痛いの」

 こう言う時は仮病が役に立つ。シスターはそれ以上は引き留めようとはしなかった。

「最近体調良くなさそうですが、医者呼びましょうか?」
(どうせ呼んでも変わらないのに)
「いや、いいわ。寝ていれば治るから」

 仮病ではあるが、こうしてやり取りしたり慣れない事をすれば自然と気分も悪くなるし頭も痛くなる。
 部屋に戻った私はそのまま簡易ベッドに入り、横になったのだった。

(疲れた)

 翌朝、私は高熱を出した。咳もうっすら出ている。

「やはり令嬢にここの暮らしはきつかったのでは?」
「ここに来てから、ずっと体調を崩していたものね」
「死んだら葬式はどうなるの?」

 シスター達が、私の部屋の外で口々に私に対する言葉を吐く中、シスター長が呼んだ医者が訪れた。

「失礼いたします。私はリナードと申します」
「……ジュナ・ヨージスよ。よろしく」

 貴族のような品のあるいでたちに、長い金髪を束ねた長身のリナードを一目見るや否や、私は恋に落ちた。これは紛れもなく恋だ。私は彼が好きになる。

「診察いたしますね」
「はい、お願いします」

 診察の結果、肺を病んでいるとの事で専用の薬が処方された。

「これを飲んでみてください。早く治りますように祈っています」
「祈ってくれるの?」
「はい、医者の務めですから」

 にこりと爽やかな笑顔を浮かべるリナードの顔が眩しい。

(ああ、私はリナードが欲しい)
「リナードはどこから来たの?」
「隣国の〇〇国の〇〇△の街から来ました」

 ここからなら徒歩でもいけるか。

「そう、ならまた来てほしいわ」
「その時には良くなっているといいですね」
「ええ」

 リナードが部屋から去る。私は食事も薬もちゃんと飲んで食べた。
 症状は1週間くらいで収まったのだった。2回目のリナードの診察では、彼は私の症状が落ち着いたのをとても喜んでくれたのだった。

「治まって良かったです。もう薬も必要ないでしょう」
「本当? 良かった」
「また何かありましたらいつでも呼んでくださいね」
「はい!」
(ああ、これで会えなくなるのか)

 彼の背中を目に焼き付け、私は深呼吸を繰り返す。

(リナードに再び会うには、どうすれば良いか)

 私は考える。彼に再び会うには仮病を使おうか。でも仮病ならそれっきりで終わるんじゃないか?

(毎回仮病考えるのも面倒くさい)

 なぜか今までに無いくらい、頭が冴えている気がしてならない。そして考えついたのが、この修道院を出て彼に直接会いに行く方法だった。
 夜なら皆ぐっすり眠っているだろうし、静かに歩けばバレないはず。

(そうしよう、こんな生活死ぬまで送るのも嫌だしね)

 だが、幸運にもリナードは程無くして私の目の前に再び現れた。理由はシスター達の相次ぐ体調不良。季節柄流行っているらしく私もまた熱を出してしまった。

(治っていたのに)

 修道院を出る計画は水に流れたけれど、再び彼に会えたのはまあ、良いか。

「風邪がここまで流行るなんて初めてだわ」
「ああ、神よ加護を」
「ねえ、皆。ジュナさんを迎えてから良くない事ばかりじゃない?」
「そうだわ! 呪われてるんじゃない?」
「ジュナさんに悪魔祓いをしましょう!」

 治療の間に私はなぜかそう考えたシスター達によって呼ばれたエクソシストに悪魔祓いを受けたが、勿論何にも無かった。むしろ逆にエクソシスト達がずっと変な呪文を唱えていたせいで頭が痛くなった。

(時間の無駄すぎる)

 風邪は何とか10日くらいで完治した。しかしその後も体調を崩すシスターが続出し、私はその手伝いに追われる日々を送る羽目になった。
 掃除に洗濯に炊事。どれも面倒くさいし疲れる。なんで私がこんな重労働をやらなきゃ行けないのか。掃除は埃が目や鼻に入るし単純に汚いものに触れたくない。洗濯も量が多いし他人が着た服なんて汗が染み込んでいるんだし触りたくもない。炊事は掃除や洗濯よりかはましだけど、それでも嫌なのには変わりない。

(なんで私がやんなきゃ行けないのよ)

 体調不良になっているシスターの数が減ってきた辺りで私は計画を実行に移す事を決めた。リナードが暮らしている家の場所はもう知っている。後は荷物をまとめてそこに行くだけだ。
 夜の23時。秘密裏に中へ荷物をまとめていたトランクを持って私は部屋の扉を音が出ないように開いた。

(さよなら。二度と戻ってやるものか)

 静かに静かに音を出さないように歩く。シスター達は皆寝静まっていた。部屋からは寝息やいびきも聞こえてくる。面白みもない彼女達にはもう二度と会わないだろう。
 私は大きな玄関の扉に手をかけた。しかし玄関の扉には鍵がかかっている。そこから出るのは断念し、近くにあった窓を潜り抜けて外に出たのだった。


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