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ジュナ視点⑥ 私は欲しかっただけなのに
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朝、この日の私はいつも以上に目覚めが良かった。しゃきっと起床できたが、胸の中には言語化できない黒いもやもやがたまっている。
「おなかすいた……」
寝間着のまま食堂に向かうと、母親がいた。まだ父親とジョージ様は来ていないようだ。
「お母様おはよう」
「おはようジュナ」
「おなかすいた」
「あらもう?」
「うん。早く食べたい」
今日の朝食はいつも通りのパンにスクランブルエッグ。そしてソーセージときのこのポタージュスープだ。
「美味しい」
いつになく朝食が美味しく感じられる。私はそのまま朝食を頂き、自室に戻って私服とお化粧をしていると部屋の向こうからがやがやと誰かが騒ぐ音が聞こえて来る。
「何かしら」
するとばたばたがしゃがしゃとした靴音がこちらに向かってきたと思うと部屋の扉が乱暴に開かれた。
「ジュナ・ヨージス! 貴様を捕縛し宮廷へと連行する!」
「はっ?」
私は乱暴に武装した屈強な兵達に両手を後ろに回されてそのまま取り押さえられた。縄で痛いくらいに縛り上げられ、歩くように命じられる。
私は侯爵令嬢よ? 何よこの仕打ち。
「ほら! さっさと歩いて馬車に乗れ!!」
「なっ……!」
両親もジョージ様も後ろからじっと見つめているだけだ。動く気配も何かを話す気配もない。3人の両端にはこれまた武装した兵が取り囲んでいる。
私は兵に言われた通りに馬車に乗り込む。これは、罪人用の馬車ではないか。
「私、罪人なの?」
そう兵士に問うが無視された。
その子私は出禁にされていた宮廷に連行されて、王太子殿下の前に引き出された。
「ジュナ・ヨージスか?」
「はい、王太子殿下」
王太子殿下の目には明らかに殺気が宿っている。私がその殺気に圧倒されているのは自分でも分かるくらいだ。
しばらくしてお姉様ともう1人華奢な女が来た。お姉様は相変わらずだらしない見た目だ。それにお化粧も地味。お姉様を見ているだけでイライラする。
(ふん、何よあれ)
やっぱり、王太子殿下とお姉様は仲が良いんだ。そうじゃないならわざわざお姉様をこの場に連れては来ないはず。
「では再度聞こう。ジュナ・ヨージス。不貞は事実か?」
「いいえ、王太子殿下。全て執事の妄言ですわ」
「未だ否定するか。もう証拠は出ているのだぞ」
「だから、その証拠も全て嘘よ」
そう、その場しのぎの嘘をついたが次々と証拠が露わになる。あの執事め、ここまでバラすなんて。
「はい、認めます。王太子殿下」
「ようやく認めたか。理由は?」
「欲しかったからです」
欲しかった。だって幼い頃から欲しいものは全て手に入れてきたのだから、欲しいのは当たり前じゃない。
「ジュナ、あなたジョージがいるじゃない」
「お姉様が羨ましかった。それにジョージ様では物足りなくなっちゃったの」
「なんで羨ましかったの?」
「薬師になって、王太子殿下を手に入れようとしているんでしょ?」
そうだ。お姉様は王太子殿下を手に入れようとしているんでしょう?
そう考えていたら、お姉様の顔はみるみるうちに殺気めいたものに変わっていった。
「ジュナ。あなたも私と同じ目に合えばよかったのに。だったら私の事も理解出来たでしょう。私は令嬢としての暮らしに嫌気がさして、なりたかった薬師になっただけ。まあ、あなたには分からないでしょうね」
「……」
私を呪うような声音で、その言葉をなげかけたお姉様に私は記憶している限りでは初めて恐怖を抱き、言葉が出なかったのだった。
「では、父上に報告する。しばし待て」
王太子殿下が立ち上がり、その場を後にした。無言のピリピリした空気が流れた後、彼が戻って来た。
「ジュナ・ヨージス。そなたをジョージ・ヨージスと離縁のち流刑の処分と致す。そしてヨージス家は侯爵から伯爵家に降格と致す。以上だ」
こうして、私は断罪された。
ジョージ様とは正式に離縁した。離縁を示す書類にサインする時も、ジョージ様は終始私に話しかける事は無かったのだった。
流刑先は北部の国境付近の修道院。そこは修道院になる前は監獄だったらしく、その施設に私は屋敷軟禁のち移送された。
「はあ、何でこうなったのか意味がわからない」
とりあえず胸の中に溜まったもやもやを口に出して吐き出しても、もやもやは消えてくれない。なので途中でやめた。
(修道院生活なんて面白くない)
修道院に到着した後、私は荒々しく馬車の中から荷物と共に降ろされた。その様子をシスター達は怯えるような目つきで見ている。
(何よ、その目)
そして私は修道院の中にある個室へと案内された。小さくて簡素で全く面白みの無い部屋。牢獄じゃないだけまだましだけど、それでも嫌という感情が湧いて出てくる。
家具は簡易ベッドと机と椅子だけ。クローゼットや化粧台などは一切ない。
「ここで暮らせと言うの?」
と口に出すと、シスター達は怯えながら国王陛下の指示なので。としか言ってくれない。
(はあ……私は欲しかっただけなのに。なんでこうなったんだろう)
お姉様は欲しいものを手に入れて、私は手に入れられないなんて納得出来ない。全部全部手に入れないと気に食わないのに。
「おなかすいた……」
寝間着のまま食堂に向かうと、母親がいた。まだ父親とジョージ様は来ていないようだ。
「お母様おはよう」
「おはようジュナ」
「おなかすいた」
「あらもう?」
「うん。早く食べたい」
今日の朝食はいつも通りのパンにスクランブルエッグ。そしてソーセージときのこのポタージュスープだ。
「美味しい」
いつになく朝食が美味しく感じられる。私はそのまま朝食を頂き、自室に戻って私服とお化粧をしていると部屋の向こうからがやがやと誰かが騒ぐ音が聞こえて来る。
「何かしら」
するとばたばたがしゃがしゃとした靴音がこちらに向かってきたと思うと部屋の扉が乱暴に開かれた。
「ジュナ・ヨージス! 貴様を捕縛し宮廷へと連行する!」
「はっ?」
私は乱暴に武装した屈強な兵達に両手を後ろに回されてそのまま取り押さえられた。縄で痛いくらいに縛り上げられ、歩くように命じられる。
私は侯爵令嬢よ? 何よこの仕打ち。
「ほら! さっさと歩いて馬車に乗れ!!」
「なっ……!」
両親もジョージ様も後ろからじっと見つめているだけだ。動く気配も何かを話す気配もない。3人の両端にはこれまた武装した兵が取り囲んでいる。
私は兵に言われた通りに馬車に乗り込む。これは、罪人用の馬車ではないか。
「私、罪人なの?」
そう兵士に問うが無視された。
その子私は出禁にされていた宮廷に連行されて、王太子殿下の前に引き出された。
「ジュナ・ヨージスか?」
「はい、王太子殿下」
王太子殿下の目には明らかに殺気が宿っている。私がその殺気に圧倒されているのは自分でも分かるくらいだ。
しばらくしてお姉様ともう1人華奢な女が来た。お姉様は相変わらずだらしない見た目だ。それにお化粧も地味。お姉様を見ているだけでイライラする。
(ふん、何よあれ)
やっぱり、王太子殿下とお姉様は仲が良いんだ。そうじゃないならわざわざお姉様をこの場に連れては来ないはず。
「では再度聞こう。ジュナ・ヨージス。不貞は事実か?」
「いいえ、王太子殿下。全て執事の妄言ですわ」
「未だ否定するか。もう証拠は出ているのだぞ」
「だから、その証拠も全て嘘よ」
そう、その場しのぎの嘘をついたが次々と証拠が露わになる。あの執事め、ここまでバラすなんて。
「はい、認めます。王太子殿下」
「ようやく認めたか。理由は?」
「欲しかったからです」
欲しかった。だって幼い頃から欲しいものは全て手に入れてきたのだから、欲しいのは当たり前じゃない。
「ジュナ、あなたジョージがいるじゃない」
「お姉様が羨ましかった。それにジョージ様では物足りなくなっちゃったの」
「なんで羨ましかったの?」
「薬師になって、王太子殿下を手に入れようとしているんでしょ?」
そうだ。お姉様は王太子殿下を手に入れようとしているんでしょう?
そう考えていたら、お姉様の顔はみるみるうちに殺気めいたものに変わっていった。
「ジュナ。あなたも私と同じ目に合えばよかったのに。だったら私の事も理解出来たでしょう。私は令嬢としての暮らしに嫌気がさして、なりたかった薬師になっただけ。まあ、あなたには分からないでしょうね」
「……」
私を呪うような声音で、その言葉をなげかけたお姉様に私は記憶している限りでは初めて恐怖を抱き、言葉が出なかったのだった。
「では、父上に報告する。しばし待て」
王太子殿下が立ち上がり、その場を後にした。無言のピリピリした空気が流れた後、彼が戻って来た。
「ジュナ・ヨージス。そなたをジョージ・ヨージスと離縁のち流刑の処分と致す。そしてヨージス家は侯爵から伯爵家に降格と致す。以上だ」
こうして、私は断罪された。
ジョージ様とは正式に離縁した。離縁を示す書類にサインする時も、ジョージ様は終始私に話しかける事は無かったのだった。
流刑先は北部の国境付近の修道院。そこは修道院になる前は監獄だったらしく、その施設に私は屋敷軟禁のち移送された。
「はあ、何でこうなったのか意味がわからない」
とりあえず胸の中に溜まったもやもやを口に出して吐き出しても、もやもやは消えてくれない。なので途中でやめた。
(修道院生活なんて面白くない)
修道院に到着した後、私は荒々しく馬車の中から荷物と共に降ろされた。その様子をシスター達は怯えるような目つきで見ている。
(何よ、その目)
そして私は修道院の中にある個室へと案内された。小さくて簡素で全く面白みの無い部屋。牢獄じゃないだけまだましだけど、それでも嫌という感情が湧いて出てくる。
家具は簡易ベッドと机と椅子だけ。クローゼットや化粧台などは一切ない。
「ここで暮らせと言うの?」
と口に出すと、シスター達は怯えながら国王陛下の指示なので。としか言ってくれない。
(はあ……私は欲しかっただけなのに。なんでこうなったんだろう)
お姉様は欲しいものを手に入れて、私は手に入れられないなんて納得出来ない。全部全部手に入れないと気に食わないのに。
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