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第37話 お茶会
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王太后様はその後、薬が身体に合っていたのか、みるみるうちに元気を取り戻していった。
「もう熱も引きまして、咳も出なくなりました。痛みもだいぶ楽になっています」
朝の診察でそう語る王太后様の顔は、喜びに満ち溢れている。苦しみが和らいだのは薬師としても個人としても喜ばしい事だ。
「ああ、ハイダとジャスミン。明日、お茶会を開きたいのですがよろしいですか?」
「はい!」
「ジャスミン共々よろしくお願いいたします」
お茶会は明日の午後。王太后様の部屋の隣にある中庭にて開かれる事となった。参加するのは私とハイダとアダン様と王太后様の4名。明日国王陛下は王妃アネーラと共に地方へ日帰りで公務に行く為、参加はできない。
だが、国王陛下の隣には常に王妃アネーラが付き従っている。これでは国王陛下が暇でもお茶会に呼ぶのは難しいだろう。
「せっかくだし、ビスケットにサンドイッチもたくさんご用意いたしましょう」
王太后様はベッドに座り、早速明日のお茶会へ思いをはせていた。
「ジャスミン、これをアダンに渡しておいてくれませんか?」
王太后様が私に差し出したのは白い封筒。聞けばメイドに代筆してもらった招待状という。
「わかりました。お渡しいたします」
「よろしくお願いいたしますわね」
その後、王太后様に託された招待状を、私はアダン様に直接手渡した。アダン様は物珍しそうにして封筒を眺めると、封を外して手紙を取り出す。
「おばあさまから?」
「はい。明日の午後からという事です」
「どれどれ……本当だ」
「私も出席させて頂く事となりました。よろしくお願いいたします」
「ジャスミンも呼ばれたんだ。じゃあ、よろしくね」
「はいっ!」
「ふふっ、楽しみだ。おばあさまとはあまり話す機会が無かったから」
「そうなんですね……」
「おばあさまはもう隠居の身分だし、持病もあるから中々会える機会も無いというか」
だからこそ王太后様はアダン様を招いて直接お話がしたいと考えたのかもしれない。
「まあ、明日ゆっくり話すよ」
「ぜひ、そうなさってみてください。王太后様もきっと喜ばれると思います」
アダン様は大事そうに、手紙を両手で持ってずっと眺めていたのだった。
そしてお茶会の時間がやって来た。私とハイダは先に王太后様の部屋に訪れて、メイドと共に庭のセッティングを手伝う。椅子やテーブルを動かし、花を花瓶に生けたりしてお茶会らしく華やかな空気を演出していくのだ。
「このような感じでよろしいでしょうか?」
「ええ、ハイダ。これでいいわ。花も……これでいいでしょう。あまり増やしてたらかえってごちゃついてしまうでしょうし」
「かしこまりました」
セッティングが終了した所で、紅茶や軽食の準備をする。すると、アダン様が部屋へとやって来た。
その動きはどこか、硬さが見受けられる。緊張しているのだろうか。
「おばあさま、失礼します」
「アダン、今日はどうぞゆっくりしていってちょうだい」
「はい。おばあさまとゆっくりお話したいです。今日は父上達がいないので時折執事らがこちらを訪ねるかもしれませんが、それでもよろしいですか?」
「ええ、勿論。忙しい時に誘ってしまってごめんなさいね」
「良いのです。おばあさまと話したかったので」
アダン様は部屋で杖をついて立っている王太后様へ手を差し伸べ、優しくエスコートする。左腕を持って抱えるようにして王太后様が歩き、椅子に座るまでをサポートした。王太后様が席に着くと、対面の席にアダン様は座った。
2人が座ったタイミングで、メイド2名がそれぞれのティーカップに紅茶を注ぎ入れる。紅茶の色はルビーの如き深い紅色を放っている。
「美味しいですわ……」
「うん、良い紅茶だ。あ、おばあさま。体調はどう?」
「ええ、皆さんのおかげでよくなりました」
そう言って王太后様は後ろに立って2人の様子を見守っている私とハイダに目線を向ける。
「ジャスミン、ハイダ。どうぞお座りなさい」
私はアダン様の左隣、ハイダは王太后様の左隣にそれぞれ着席する。メイドから紅茶を頂き、一口分口に含むと熱とすっとした香りと味が口の中にふわっと広がった。
「美味しいです」
「ジャスミンさんの言う通り、とても美味しい紅茶ですね」
軽食もクッキーがしっとりとしていて口当たりも滑らかで美味しい。サンドイッチもハムとチーズが挟まれており塩味が効いていてクッキーと差別化できている味となっている。
「おばあさま、最近は……ひとりでさみしくない?」
「ええ、メイドの皆さんもいますからさみしくはありませんわね」
「そうか。それはよかった」
「アダンは、最近どうして過ごしているの? 何か、好きな人でもで出来たかしら?」
「ああ……」
一瞬だけアダン様が私の方に目線を向けたので、どきっと心臓が跳ねあがる。
「出来たよ」
「そう。大切になさいね。そして好きでいつか結ばれたいなら、他の誰かに取られる前に思いを告げなさいね」
その王太后様の静かな言葉を聞いて、彼女の昔話を思い出した私は少しだけ胸がちくっと傷んだような気がしたが、すぐに収まったのだった。
「もう熱も引きまして、咳も出なくなりました。痛みもだいぶ楽になっています」
朝の診察でそう語る王太后様の顔は、喜びに満ち溢れている。苦しみが和らいだのは薬師としても個人としても喜ばしい事だ。
「ああ、ハイダとジャスミン。明日、お茶会を開きたいのですがよろしいですか?」
「はい!」
「ジャスミン共々よろしくお願いいたします」
お茶会は明日の午後。王太后様の部屋の隣にある中庭にて開かれる事となった。参加するのは私とハイダとアダン様と王太后様の4名。明日国王陛下は王妃アネーラと共に地方へ日帰りで公務に行く為、参加はできない。
だが、国王陛下の隣には常に王妃アネーラが付き従っている。これでは国王陛下が暇でもお茶会に呼ぶのは難しいだろう。
「せっかくだし、ビスケットにサンドイッチもたくさんご用意いたしましょう」
王太后様はベッドに座り、早速明日のお茶会へ思いをはせていた。
「ジャスミン、これをアダンに渡しておいてくれませんか?」
王太后様が私に差し出したのは白い封筒。聞けばメイドに代筆してもらった招待状という。
「わかりました。お渡しいたします」
「よろしくお願いいたしますわね」
その後、王太后様に託された招待状を、私はアダン様に直接手渡した。アダン様は物珍しそうにして封筒を眺めると、封を外して手紙を取り出す。
「おばあさまから?」
「はい。明日の午後からという事です」
「どれどれ……本当だ」
「私も出席させて頂く事となりました。よろしくお願いいたします」
「ジャスミンも呼ばれたんだ。じゃあ、よろしくね」
「はいっ!」
「ふふっ、楽しみだ。おばあさまとはあまり話す機会が無かったから」
「そうなんですね……」
「おばあさまはもう隠居の身分だし、持病もあるから中々会える機会も無いというか」
だからこそ王太后様はアダン様を招いて直接お話がしたいと考えたのかもしれない。
「まあ、明日ゆっくり話すよ」
「ぜひ、そうなさってみてください。王太后様もきっと喜ばれると思います」
アダン様は大事そうに、手紙を両手で持ってずっと眺めていたのだった。
そしてお茶会の時間がやって来た。私とハイダは先に王太后様の部屋に訪れて、メイドと共に庭のセッティングを手伝う。椅子やテーブルを動かし、花を花瓶に生けたりしてお茶会らしく華やかな空気を演出していくのだ。
「このような感じでよろしいでしょうか?」
「ええ、ハイダ。これでいいわ。花も……これでいいでしょう。あまり増やしてたらかえってごちゃついてしまうでしょうし」
「かしこまりました」
セッティングが終了した所で、紅茶や軽食の準備をする。すると、アダン様が部屋へとやって来た。
その動きはどこか、硬さが見受けられる。緊張しているのだろうか。
「おばあさま、失礼します」
「アダン、今日はどうぞゆっくりしていってちょうだい」
「はい。おばあさまとゆっくりお話したいです。今日は父上達がいないので時折執事らがこちらを訪ねるかもしれませんが、それでもよろしいですか?」
「ええ、勿論。忙しい時に誘ってしまってごめんなさいね」
「良いのです。おばあさまと話したかったので」
アダン様は部屋で杖をついて立っている王太后様へ手を差し伸べ、優しくエスコートする。左腕を持って抱えるようにして王太后様が歩き、椅子に座るまでをサポートした。王太后様が席に着くと、対面の席にアダン様は座った。
2人が座ったタイミングで、メイド2名がそれぞれのティーカップに紅茶を注ぎ入れる。紅茶の色はルビーの如き深い紅色を放っている。
「美味しいですわ……」
「うん、良い紅茶だ。あ、おばあさま。体調はどう?」
「ええ、皆さんのおかげでよくなりました」
そう言って王太后様は後ろに立って2人の様子を見守っている私とハイダに目線を向ける。
「ジャスミン、ハイダ。どうぞお座りなさい」
私はアダン様の左隣、ハイダは王太后様の左隣にそれぞれ着席する。メイドから紅茶を頂き、一口分口に含むと熱とすっとした香りと味が口の中にふわっと広がった。
「美味しいです」
「ジャスミンさんの言う通り、とても美味しい紅茶ですね」
軽食もクッキーがしっとりとしていて口当たりも滑らかで美味しい。サンドイッチもハムとチーズが挟まれており塩味が効いていてクッキーと差別化できている味となっている。
「おばあさま、最近は……ひとりでさみしくない?」
「ええ、メイドの皆さんもいますからさみしくはありませんわね」
「そうか。それはよかった」
「アダンは、最近どうして過ごしているの? 何か、好きな人でもで出来たかしら?」
「ああ……」
一瞬だけアダン様が私の方に目線を向けたので、どきっと心臓が跳ねあがる。
「出来たよ」
「そう。大切になさいね。そして好きでいつか結ばれたいなら、他の誰かに取られる前に思いを告げなさいね」
その王太后様の静かな言葉を聞いて、彼女の昔話を思い出した私は少しだけ胸がちくっと傷んだような気がしたが、すぐに収まったのだった。
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