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第36話 王太后様の昔話

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「昔話ですか」
「そう。最近の話も含まれるけど」
「ぜひお聞きしたいです」
「わかりましたわ。ハイダは?」
「私もぜひ」
「じゃあ、話すわね」

 王太后様の昔話がゆっくりと始まった。
 王太后様は公爵家の次女として誕生した。私は長女と聞いていたが、王太后様は次女であるとはっきり告げた。

「生まれた順に言えば次女。だけれどお姉様はお父様と娼婦との間に生まれた娘でね、認知はされてはいたけど正式な娘とは認められていなかったのです」
「母親が反対されたとか?」
「ハイダの言う通り。お母様は怖い人だった。あの人の事だから令嬢ならまだしも娼婦相手に認める訳が無い」

 そんな両親は、末娘の4女をそれはそれは大層溺愛していて欲しがる物は全て与えたという。彼女は美人だが、生まれながら病弱の身で、よく助けを必要としといた。双子の姉である3女に王太后様と長女は両親からは半ば放置されて育ったという。
 末娘はそんな環境に育った故か、自己中心のわがままな性格の持ち主となり周りが自身を助けるのは当然と考えていたようだ。その話を聞くと、どこか末の妹がジュナと重なる姿に思う。

「家族揃っての食事なんて中々ありませんでしたわね」
「寂しくありませんでしたか?」
「ああ、ジャスミン。お姉様と妹と3人で食事をしていたから、寂しくはありませんでした」

 その後姉は伯爵家に養子に出されたという。伯爵家には子がいなかった為に養子縁組がなされたというが、事実上の厄介払いだった。

「お姉様は、その後別の伯爵家に嫁いだけれどすぐに亡くなってしまいました。産後の肥立ちがあまりよろしくなくてね……」

 その時に誕生した娘は、今は他国の修道院にて、シスターとして静かに暮らしていると言う。

「そして末の妹の嫁ぎ先が決まったわ。お相手は当時の王太子殿下。先の国王陛下にあたる方でした。しかし、当時私は王太子殿下と親しい間柄にありました」

 王太后様が当時の王太子殿下と出会ったのは舞踏会での事で、相手が一目ぼれしたのがきっかけだった。秘密裏に逢瀬を重ねるうちに、王太后様も好意を抱いていったのだった。

「どんな方でしたか?」
「今思えば孫のアダンに似ているかもしれませんね」
(アダン様と似た感じ、か……)

 そんな中体調を悪化させて寝て過ごす日が多くなった末の妹は、自身の命があまり長くないのを予感していたらしく、王妃になれなくても良いから当時の王太子殿下と結婚させてくれ。と両親に頼んだようだ。
 しかしそれを裏で聞いていた王太后様はその事を王太子殿下に打ち明けると、即座に王太子殿下は王太后様と正式に婚約を結んだ。それを知った両親からは罵倒の言葉を浴びせられたようだが、末の妹からは罵倒は受けなかったらしい。
 しかし。

「お姉様も私と同じね」

 という呪いとも言える言葉を残したという。この時王太后様はすぐに返事は出来なかったが、結婚式の前日、末の妹にこのような言葉を吐いた。

「私にも欲しいものがあるの。ごめんなさいね?」

 その言葉に、もはや幾ばくもない命となっていた末の妹はただ穏やかに笑っていたという。
 王太后様が王太子殿下と結婚し、すぐに末の妹は亡くなった。両親は密葬で静かに葬ったという。
 その後、末の妹の双子の姉を王太后様が呼び出し、侯爵家から婿を取る形で結婚させた。両親は当初この結婚には納得行っていなかったのだが、当時の国王の許しが出ると大人しく受け入れたのだった。

「両親と末の妹には振り回されていたわね。本当に大変だった。末の妹の私と同じという言葉が今も胸の中に刺さっているのです」

 そう語る王太后様の目はここではないどこか遠くを見つめているような、そんな雰囲気を感じられた。

「結婚して、子供に恵まれたのはとてもうれしかったわ。だけど、体調がだんだんと悪くなっていった。リウマチになったのは今の国王を産んですぐの事だったかしらね」

 王太后様が産んだ子供は3人。娘であり国王陛下の姉にあたる王女が2人と今の国王陛下。国王陛下の姉はそれぞれ別の国へと政略結婚により嫁ぎ、相手と仲睦まじく暮らしている。今も文通は時折交わしていると王太后様は語ってくれた。

「最近は手紙を書くのも指が痛くて辛いから、代筆をお願いしているの」

 そう語る王太后様。確かにそのリウマチ症状の出ている手でペンを取って手紙を書くのは確かに辛そうだ。

「最後にアダン。あまり構ってあげられていないのは申し訳ないとは思っているの。だから、いつかは彼を招いてお茶会でもしようと思っているのだけれど……」
「しましょうよ。お茶会」

 自分でも驚くくらい、一瞬でその言葉が私の口から飛び出た。

「ジャスミン?」
「アダン様もきっとお喜びになると思いますから」
「……ありがとうございます、ジャスミン。この薬を飲んで体調を良くして、お茶会をします」
「はい!」
「その時はジャスミンとハイダもぜひ、出席してください」

 王太后様はまるで憑き物がほろりと落ちたかのような笑みを零した。苦しさや辛さは一切見えない。

「はい、お願いします」
「このハイダからも、よろしくお願いいたします」

 
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