浜辺で暮らす少女は、王子様を拾う

二位関りをん

文字の大きさ
上 下
1 / 1

浜辺で暮らす少女は、王子様を拾う

しおりを挟む
「今日も貝あるかなー」

 ここは浜辺にある農村の一角。磯へ続く小道を歩いている少女の名前はノエル。漁師の父親とその手伝いをしている母親の元でゆっくりと過ごしている。
 この日もまた、日課の貝取りに磯まで訪れていたのだった。

「よいしょ…」

 磯には貝がいくつか岸壁にしがみつくように生えている。それらをノエルはむしりとって籠の中に入れていく。

「こんなもんかなあ」

 籠の中の3分の2ほどが埋まった所で、この日の貝取りを終わりにしようとしていたノエルだったが、そこである事に気づく。

「あれは…?」

 ノエルから約20m離れた先に青年が横たわっているのが見える。高貴な見た目をしており、ノエルが急いで彼の元へと近寄るとうめき声が聞こえてくるのが分かる。

(まだ、生きてる…!)
「もし、もしもし!」

 ノエルが彼の肩をぽんぽんと叩くと、彼はゆっくりと目を見開いた。

「こ、ここは…」
「ここはミルア村です」
「そうか…」

 青年は安心したかのようにまた目を閉じたのだった。ノエルは自分だけでは青年を抱えて運べないと判断した為、近くの漁港まで走り、若い男を2人連れてくる。

「こりゃまあ…」
「もしかしたら王族の者かもしれん」
「こないだクーデターがあったって聞いたよなあ」

 ここミルア村から王都までは大分離れており、徒歩だと2週間はかかる程の距離である。そして王都に住む王族内でいさかいがあり、王子王女らはちりぢりに逃げたという噂が村内に流れていたのだった。
 ノエルは自身の家の離れまで青年を運び、母親と共に看病する。桶に入れた水と手拭いを持ってきた母親は青年の顔を改めてまじまじと見つめると、こうノエルに告げた。

「この方もしかしたら王族かもしれないわ」
「ほんとう?」
「ローラン様に似ていらっしゃるもの」

 すると青年は痛がるそぶりを見せつつゆっくりベッドから起き上がる。

「大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ…やはり私の事はご存知でしたか」

 青年は国王の第四王子ローランであると自身の正体を明かしたのだった。聞けばクーデターによりこちらまで逃れて来たものの嵐に会ったりしてここにたどり着くまでの記憶は一部ないという事だった。

「気を失っていたのもあるかもしれない」
「そうですか…して、これからどうするおつもりで?」

 母親の問いに対して、ローランはうつむく。そんなノエルはローランをずっと見つめていた。ノエルの心臓はドキドキと熱く早く動いている。

(欲を言えば、一緒に暮らせたらなあ…)
「あの、一緒に暮らしませんか?」

 つい、欲がノエルの口から割って出たのだった。ノエルの母親はそんな無茶な事が、とノエルをいさめようとするが、ローランはまんざらでもない様子で頷く。

「確かにその方が良いかもしれない」
「ですが、王子様がこのような狭い場所で…」
「いや、むしろその方が都合が良いと思う。ここまで追手はこないだろうし」
「確かにそうですね…」
「そうでしょ、お母さん!私もそれが良いと思ったの!」

 と、最終的にはノエルのごり押しやローランの頼みもあって、なし崩し的にノエルの家族とローランの同居が決まったのだった。
 ローランは家の離れを主な拠点にして暮らす事になった。離れは元は半ば倉庫扱いだったがノエルらが何とか掃除をして綺麗にし、ローランが難なく住めるくらいにはなったのだった。

「すまないな」
「いえいえ!」

 実は、この時点でノエルはローランに一目ぼれしていたのだった。ローランを匿えば共に暮らせる。そしてずっと一緒に暮らしたいという欲がノエルの中で芽生え始めていたのである。

(ここなら王都からも遠いし、大丈夫なはず…)

 夜。寝間着姿のノエルは自室からこっそり抜け出して、ローランのいる離れに向かった。

「失礼します。ノエルです」
「どうぞ」

 小声でローランに挨拶を交わし、離れに入るノエル。その鼓動はドキドキと高鳴っていた。ローランは簡易ベッドの上に座り、ノエルが渡していた本を読んでいる。

「少しだけ、お話しませんか」
「良いよ」
「あの、王宮はどんな所だったんですか?」
「ああ、楽しかったけれど…」

 ローラン曰く序列がそこまで高くないという事もあって、プレッシャーや圧力は無かったという。幼少期は家庭教師の先生方と仲良くしていたそうだ。しかし2年ほど前から国王反対派の勢力が強まり、今回起こったクーデターに繋がったのだという。

「王族の政治では無く、議員達の合議制による政治を彼らは推し進めていた…」
「そうだったんですか」

 ノエルには政治と言った難しい事柄はあまり良く理解できないものではあるが、それでも彼の心情に寄り添おうと必死で理解しようとしていた。

「迷惑をかけてすまないな」
「いえ、いえ…!」
(むしろ、一緒にいたいし…!)
 
 ノエルはええい、と勢いに任せてローランに抱き付いた。ノエルは勿論この行動が相手へ失礼にあたるとは理解していたが、それでも衝動は収まらなかった。

「ろ、ローラン様…!私と一緒に暮らしましょう」
「ノエル…」
「私がいますから、大丈夫ですっ…!」

 ノエルは息を切らしながらそう全力をかけてローランに伝える。ローランはそんなノエルを見て、彼女の頭を優しくなでた。

「ありがとう。ノエル…」
「ローラン様…私、私は…」
「ふふっ…」
 
 ローランの口元がふっと緩くなった。それまでまとっていた緊張感・不安感がようやく解きほぐされたかのようなそんな表情を見せたのだった。
 ノエルはそんなローランを見てほっと一息ついたのである。
 
 次の日。ローランはノエルらと一緒に朝食を取った。そしてノエルは取って来た貝をローランに見せた。ローランは物珍しそうに貝を見つめ、ノエルからの説明を熱心に聞いていた。

「あの、良かったらいつか貝取りに行きませんか?」
「ああ、ぜひ行きたい」

 ノエルはローランの左腕にそっと抱きついたのだった。

「このまま一緒に、ゆっくりのんびり暮らしたい…ですね」
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

mikan
2024.06.07 mikan
ネタバレ含む
2024.06.07 二位関りをん

閲覧感想ありがとうございます。今後が気になると仰って頂き嬉しいですが、こちら短編なので申し訳ないですけどこれで終わりにはなります。
需要があれば今後長編にリメイクするのも検討中ではあります。

解除

あなたにおすすめの小説

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

乙女ゲームは見守るだけで良かったのに

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。 ゲームにはほとんど出ないモブ。 でもモブだから、純粋に楽しめる。 リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。 ———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?! 全三話。 「小説家になろう」にも投稿しています。

王子様に婚約破棄されましたが、ごめんなさい私知ってたので驚きません。

十条沙良
恋愛
聖女の力をみくびるなよ。

『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜

水都 ミナト
恋愛
 マリリン・モントワール伯爵令嬢。  実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。  地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。 「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」 ※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。 ※カクヨム様、なろう様でも公開しています。

【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。 そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。 毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。 もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。 気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。 果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは? 意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。 とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。 小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。

最後の思い出に、魅了魔法をかけました

ツルカ
恋愛
幼い時からの婚約者が、聖女と婚約を結びなおすことが内定してしまった。 愛も恋もなく政略的な結びつきしかない婚約だったけれど、婚約解消の手続きの前、ほんの短い時間に、クレアは拙い恋心を叶えたいと願ってしまう。 氷の王子と呼ばれる彼から、一度でいいから、燃えるような眼差しで見つめられてみたいと。 「魅了魔法をかけました」 「……は?」 「十分ほどで解けます」 「短すぎるだろう」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。