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第121話 イカ料理と雨月との再会
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さらに、イカの身にはしょうゆの香ばしい香りがしっかりと染みついていた。これはおいしい。
「うん、美味しくできてる」
アスパラガスも口の中に入れて味わってみる。こちらは繊維状のしゃきっとした歯ごたえがあって、噛めば噛むほど甘さに似た味わいが口の中に広がっていく。
「アスパラガスも合うわね」
と、語る母親の顔は何か新たな発見を得たかのような表情だった。
「沼霧さんは味どう?」
「千恵子さん美味しいですよ。味付けはしょうゆ以外でも塩とこしょうでもいけそうですね」
「ほんと?」
今度作る時は、しおとこしょうの味付けでやってみよう。そう考えながら、麦ごはんと炒め物を口の中にかき込んでいく。
「ごはんおかわり!」
はやくもぬらりひょんは、ごはんを食べ終えおかわりを頼んできた、沼霧さんが彼女のお茶碗を受け取っておかわりをよそってあげた。
「イカ美味しい」
炒め物はぬらりひょんからも好評のようだ。これはよかった。と安堵の気持ちと嬉しさが私の胸の中でじんわりと広がっていったのだった。
「ごちそうさまでした」
昼食を食べ終わって台所で洗い物を済ませてから、自室に戻り小説を読みながら休憩している時だった。
「あれ?」
窓の向こうに見える海を、見覚えのある髪を持つ大きな女性が泳いでいるのが見えた。
「雨月さん?」
間違いなく雨月だ。しかも、桟橋に向かってきている。私は急いで階段を下りて玄関の扉を開けて、桟橋に向かった。桟橋から見える海では、光さんと思わしき背びれが慌てて雨月に道を譲っている様子が見えた。
「千恵子さん! お久しぶりねえ」
「雨月さん? どうしてここに?」
「おい、千恵子! こいつ月館小島にいたやつかあ?!」
「そうそう! 雨月さんて方!」
雨月はよいしょ、と桟橋に這いよるような形で手をかけて桟橋に上がると、その場に腰掛ける。やはり大きさは光さんと同じくらいはあるだろうか。
「雨月さんどうしたの?」
「あの島に兵隊さんの基地ができるんですって。だから、引っ越さなくちゃいけなくなって」
「そうなんですか?!」
「私も他のあやかしから聞いた話だから、詳しくは知らないのだけれど……」
雨月の左手には、風呂敷が握られている。慌てて荷物をまとめて島から離れてきたのだろう。
「どこに行くかは決まってるの?」
「いいえ、全然よぅ。どこかいいとこある?」
「うーーん……光さんは?」
「雨月だっけ?どういうとこがいいんだ?」
「あら、しゃべるシャチさん。そうねえ、海の中か、ああいう人が来ないような沼地かしらね」
「海ならその辺でもいいかもしれねえが、沼地となると……」
光さんは途中で言葉が出なくなったのか、黙り込んでしまった。
「うーーん、悩むわねえ。ねえ、あなた」
「なんだあ?」
「シャチって群れで生活するんでしょ? しばらく居候させてくれない?」
「は?」
突然の提案に、光さんは口を開いて驚きの表情を浮かべる。
「いや、ばあちゃんに確認しねえと……」
そう、群れの長は光さんではなく、彼の祖母だ。光さんはとりあえず祖母をここに連れてくるといって、いったん沖合まで泳いでいったのだった。
「やっぱり、許可はいるわよねえ」
と、雨月は艶のある髪を海風になびかせながらつぶやく。
「おーーい!」
光さんが祖母を連れて戻って来た。光さんの祖母の尾びれはあちこちが古びたお皿のように欠けているのが見える。
「光さん、どうだった?」
「許可は貰ったぞ!」
光さんと彼の祖母が海面から頭を出し、頷くように上下に動かす。
「ありがとう! じゃあ、今日からよろしくね!」
雨月はそう言うと、桟橋から海へ勢いよく飛び降りたのだった。海の飛沫が私まで飛んでくる。
「じゃあね、千恵子さん!」
「雨月さん、お元気で!」
光さんの群れに居候するなら、また遠くない内に会えるだろう。
彼らの小さくなる背中を見送った後は桟橋から別荘に戻り、また少し休憩すると沼霧さんがおやつを用意してくれた。
「良かったら食べます? 今、ヨシさん出かけてて夕食遅くなりそうなので」
頂いたのは小麦粉を水で溶いて生地にして、焼いたおやつだった。味はあまり無いが無性に食べたくなる。
「ありがとう」
「いえいえ」
母親が帰宅したのは夕方17時50分頃。沼霧さんと一緒にイカとニンジンを煮詰めていた時だった。
「遅くなっちゃったぁ。あら、もう作ってるの?」
「うん、お母さん遅くなるかもって、沼霧さんに聞いてたから」
「そう、じゃあ、食卓拭いとくわね」
煮物が完成し、麦ごはんをよそい夕食に入る。
「頂きます」
大皿に盛られたイカの煮物。イカの紫色とニンジンの橙色が鮮やかに目に映る。
ニンジンは柔らかくほろほろに煮込まれている、イカはニンジンとは真逆に柔らかくも歯ごたえのある食感だ。
「うん、美味しい」
しょうゆだけでなく、砂糖とみりんもそれぞれ良い味を出している。
「イカ、美味しい」
ぬらりひょんはイカのゲソをもちもちと噛みながら、何度も美味しいと口に出していた。
「ごちそうさまでした」
今日はあっという間に、時が過ぎ去っていった気がする。
「うん、美味しくできてる」
アスパラガスも口の中に入れて味わってみる。こちらは繊維状のしゃきっとした歯ごたえがあって、噛めば噛むほど甘さに似た味わいが口の中に広がっていく。
「アスパラガスも合うわね」
と、語る母親の顔は何か新たな発見を得たかのような表情だった。
「沼霧さんは味どう?」
「千恵子さん美味しいですよ。味付けはしょうゆ以外でも塩とこしょうでもいけそうですね」
「ほんと?」
今度作る時は、しおとこしょうの味付けでやってみよう。そう考えながら、麦ごはんと炒め物を口の中にかき込んでいく。
「ごはんおかわり!」
はやくもぬらりひょんは、ごはんを食べ終えおかわりを頼んできた、沼霧さんが彼女のお茶碗を受け取っておかわりをよそってあげた。
「イカ美味しい」
炒め物はぬらりひょんからも好評のようだ。これはよかった。と安堵の気持ちと嬉しさが私の胸の中でじんわりと広がっていったのだった。
「ごちそうさまでした」
昼食を食べ終わって台所で洗い物を済ませてから、自室に戻り小説を読みながら休憩している時だった。
「あれ?」
窓の向こうに見える海を、見覚えのある髪を持つ大きな女性が泳いでいるのが見えた。
「雨月さん?」
間違いなく雨月だ。しかも、桟橋に向かってきている。私は急いで階段を下りて玄関の扉を開けて、桟橋に向かった。桟橋から見える海では、光さんと思わしき背びれが慌てて雨月に道を譲っている様子が見えた。
「千恵子さん! お久しぶりねえ」
「雨月さん? どうしてここに?」
「おい、千恵子! こいつ月館小島にいたやつかあ?!」
「そうそう! 雨月さんて方!」
雨月はよいしょ、と桟橋に這いよるような形で手をかけて桟橋に上がると、その場に腰掛ける。やはり大きさは光さんと同じくらいはあるだろうか。
「雨月さんどうしたの?」
「あの島に兵隊さんの基地ができるんですって。だから、引っ越さなくちゃいけなくなって」
「そうなんですか?!」
「私も他のあやかしから聞いた話だから、詳しくは知らないのだけれど……」
雨月の左手には、風呂敷が握られている。慌てて荷物をまとめて島から離れてきたのだろう。
「どこに行くかは決まってるの?」
「いいえ、全然よぅ。どこかいいとこある?」
「うーーん……光さんは?」
「雨月だっけ?どういうとこがいいんだ?」
「あら、しゃべるシャチさん。そうねえ、海の中か、ああいう人が来ないような沼地かしらね」
「海ならその辺でもいいかもしれねえが、沼地となると……」
光さんは途中で言葉が出なくなったのか、黙り込んでしまった。
「うーーん、悩むわねえ。ねえ、あなた」
「なんだあ?」
「シャチって群れで生活するんでしょ? しばらく居候させてくれない?」
「は?」
突然の提案に、光さんは口を開いて驚きの表情を浮かべる。
「いや、ばあちゃんに確認しねえと……」
そう、群れの長は光さんではなく、彼の祖母だ。光さんはとりあえず祖母をここに連れてくるといって、いったん沖合まで泳いでいったのだった。
「やっぱり、許可はいるわよねえ」
と、雨月は艶のある髪を海風になびかせながらつぶやく。
「おーーい!」
光さんが祖母を連れて戻って来た。光さんの祖母の尾びれはあちこちが古びたお皿のように欠けているのが見える。
「光さん、どうだった?」
「許可は貰ったぞ!」
光さんと彼の祖母が海面から頭を出し、頷くように上下に動かす。
「ありがとう! じゃあ、今日からよろしくね!」
雨月はそう言うと、桟橋から海へ勢いよく飛び降りたのだった。海の飛沫が私まで飛んでくる。
「じゃあね、千恵子さん!」
「雨月さん、お元気で!」
光さんの群れに居候するなら、また遠くない内に会えるだろう。
彼らの小さくなる背中を見送った後は桟橋から別荘に戻り、また少し休憩すると沼霧さんがおやつを用意してくれた。
「良かったら食べます? 今、ヨシさん出かけてて夕食遅くなりそうなので」
頂いたのは小麦粉を水で溶いて生地にして、焼いたおやつだった。味はあまり無いが無性に食べたくなる。
「ありがとう」
「いえいえ」
母親が帰宅したのは夕方17時50分頃。沼霧さんと一緒にイカとニンジンを煮詰めていた時だった。
「遅くなっちゃったぁ。あら、もう作ってるの?」
「うん、お母さん遅くなるかもって、沼霧さんに聞いてたから」
「そう、じゃあ、食卓拭いとくわね」
煮物が完成し、麦ごはんをよそい夕食に入る。
「頂きます」
大皿に盛られたイカの煮物。イカの紫色とニンジンの橙色が鮮やかに目に映る。
ニンジンは柔らかくほろほろに煮込まれている、イカはニンジンとは真逆に柔らかくも歯ごたえのある食感だ。
「うん、美味しい」
しょうゆだけでなく、砂糖とみりんもそれぞれ良い味を出している。
「イカ、美味しい」
ぬらりひょんはイカのゲソをもちもちと噛みながら、何度も美味しいと口に出していた。
「ごちそうさまでした」
今日はあっという間に、時が過ぎ去っていった気がする。
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